新明解「戦略PR」 #04

手法から見る2013カンヌライオンズ受賞作。

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

年末の「ヒット商品ランキング」への情報提供はお早めに!

みなさん、こんにちは。早いもので、今年も約1ヶ月を残すのみとなりました。そろそろいい加減、大掃除やお正月の過ごし方、そして年末年始のPRを考えようかな、なんて思っているあなた、それじゃあダメですよ~。PRは情報発信の先取りが重要! 例えばクリスマスネタは、月刊誌で考えれば11月売りに載せていかねばなりません。ってことは? 編集期間を考えて雑誌発売の2ヶ月前、できれば8月にはクリスマス関連の情報を構築して編集部にアプローチをしておきたいところ。

さらに、ご承知の通りメディアが季節ネタを取り上げる時期も、どんどん早まっています。「一足早いクリスマスツリー点灯」なんて、今年は11月1日にやってますもんね。さらに10月には「今年は高級おせち料理デリバリーが人気」とか、クリスマスの準備中に来年のバレンタインデーのトレンドが出てきたり。ひー、もう追いつきませんわー、なんて悲鳴をあげてるようじゃ負け組ですよ(古い?)。いつ、いかなるときも自社の製品やサービスについての情報が出せるように準備しておくのが、PRのプロというものです(えっへん!)。そのためのツールとして、私たちは年間のPRカレンダーを独自に作って常に参考にしています。どの時期に定番イベントが社会的なニュースとして取り上げられるか、来年はどんな新しいイベントが発生するか、あるいは雑誌でどんな特集が組まれているのかを傾向的に把握し、ベストなタイミングで発表できるよう情報加工の準備を進めておくのです。これ結構便利なんですよねー、機会があればお見せしましょう、有料ですが(笑)。

で、かくいう私は、年末にネットやテレビなど様々なメディアが発表する「2013年ヒット商品ランキング」への情報提供を、10月には済ませました。11月も中旬を過ぎて、年末だからもうそろそろヒット商品ランキングとかに情報提供しないとなー、なんて思っていたら大間違い。早いところでは11月初頭にこのランキングが出てしまうので、10月には情報をまとめて「これってこんなに流行ったんですよ-。ちょっと思い出してみてくださいよ」みたいなアプローチをする。メディアのほうも、年初めのこととかだと、意外と忘れていることもあるわけで、これに気づいてもらう、というのがポイント。押しも押されもしない大大ヒット商品なら放っておいてもいいんでしょうが、そうでないものはまずランキングを検討するテーブルに載せてもらうことが重要。何事も神頼みではいけません。動けるところは動く、それがPRパーソンというものです(えっへん!)。

 

伝えるだけじゃ生活者は動かない

なんて季節ネタでちょっと文字数使っちゃいましたが、今回は「カンヌアワードに見る戦略PRエッセンス」の最終回です。第1回「ストーリーが重要」、第2回「コーポレート・メッセージを継続して伝える」と続きましたが、今回はちょっと『手法』について考えてみます。とはいえ、「超オサレな、めちゃんこ新しいメソッド」をカンヌから探そうというわけではありません。提示したいのは、ソリューション選択における心得というか、意志みたいなところで、「情報発信は、ニュートラル・ウェイで(=中立の視点から見て、適切な正しい手法で)」というやつです。これ重要だと思うんですよね。

思えば、長らく日本の広告業界は、情報のリーチに重きを置くスタンスでした。「とにかく伝えるんじゃ、ニッポンの全国民に!」という感じで、そのためには金もかかるんじゃー、と。しかし、伝えるだけじゃ生活者は動かない、ってか、結局伝わってないんじゃね? ってことに気づいて、ふりだしに戻る。←イマココ、みたいな。PR業界では当たり前のことですが、最近は海外の広告アワードの各部門でも「最終的な成果」について、審査の最初の段階で確認するようになってきました。かつては「これは刺激的だ!」とか「この映像、おっもしれー!」的な、ある種の勢いでも評価されていましたよね。いやいや、いいと思うんですよ、それも。それで人が振り向いてくれたし、面白がってくれたんだし。でも、今は実質的な効果に結びつかないとクライアントに怒られる時代になっちゃいました。

 

何をしたら一番成果に近づけるのか

そこで留意したいのがゴール。というか、成果。最初の課題から、目指すゴールはなんなのかを、クライアントときっちり握り、それを達成するための一番「効果的・効率的」な手法を客観的に選択するということが、とても大切なわけです。つまり自分の得意領域だけで思考を止めず、より俯瞰した柔軟な視点で全体プランを考える、ということです。

これ、実はけっこう勇気のいることだと思います。広告代理店であれば「新聞広告入れないと!」とか「この枠、優先でなんとか売ってきてよ」なんてこともあったり、「心配だからCMだけはこのくらい打っておこうよ」「フェイスブックで『いいね!』獲らないとマズイよね。とりあえず面白アプリ作っとく?」となるわけですよ。でもね、クライアントの成果を考えたら1円もムダにできないじゃないですか。だから「広告代理店として、まあ失敗しない無難なプラン」じゃなくて、広告代理店だろうが、PR会社だろうが、そういうことは取っ払って「何をしたら一番成果に近づけるのか」という視点で考え抜いた手法を提案することが責務だと思うのです。

そのためには、プロジェクトに関わるすべてのメンバーがワンテーブルで議論を交わし、大本の戦略を共有することが重要! その戦略を基に、思考をニュートラルにして、成果に近づくためのコミュニケーションプランを策定する、というわけです。手法優先で考えるのは卒業! そうすることで、以前述べた「伝えるストーリーの重要性」のみならず、「どういう場で(メディアで)伝えるか」も客観的に選択していくことができ、本来目指すべき「自分ゴト化」が深く達成されるはずです。カンヌを見ていると、その手があったか、という発見とともに、ニュートラル・ウェイの重要さを改めて考えさせられるわけです。

 

カンヌライオンズ受賞作のなかから、「ニュートラル・ウェイ」視点の事例をご紹介

 

■「The Ant Rally」(ドイツ)

WWF50周年を記念した森林保護のキャンペーン。森林伐採で「誰が一番困っているのか」を考え抜いてから発信主体を選定することで、メッセージの強化に成功した好事例。森林がなくなっていちばん困るのは森林に棲む生物たちなので、熱帯雨林に棲み、葉っぱを運ぶ習性のあるハキリアリに、「Save Trees」などのメッセージを切り抜いた葉っぱを運ばせ、動物園(ケルン動物園)の目玉イベントにすることで話題化、森林保護のメッセージを波及させた。役者は人とは限りませんよね。

カンヌライオンズ2013のGrand prix for GOODでグランプリ、プロモ&アクティベーション部門でゴールドなどを受賞。

 

■「Toxic Tours」(メキシコ)

現在メキシコでは70%の河川が化学物質で汚染されており、こちらは、その事実を社会に知らしめねばと考えたグリーンピースのキャンペーン。世界観光デーにTOXIC TOURS(有毒ツアー旅行代理店)を立ち上げ、国内のセレブリティを招待。多くの有名人に「オイルまみれの川でシュノーケリング」「死んでいる魚を釣る」などの“有毒アクティビティ”を体験してもらった。併せて一般人を対象に、汚染された河川のエデュケーショナルツアーを実施。この体験をしたセレブリティやツアー参加者が、サイン入りの「腐敗臭のするポストカード」を国会議員やメディアに対して送付することで気づきを与え、環境に関する議論を国中で巻き起こした。強烈な体験談を、象徴的な人物から発信する仕組み自体を作り上げたことが、企画のキモと言えるのではないでしょうか。見るだけで吐きそうなビジュアルが秀逸です。

カンヌライオンズ2013のPR部門でゴールド、プロモ&アクティベーション部門でブロンズを受賞。

 

■「Make The Politicians Work」(ロシア)

ロシア第4の都市エカテリンブルグは、道路の状態がとても悪く、市民たちは頭を悩ませていた。そこでエカテリンブルグのURA.RUというローカルニュースサイトが、同サイトへのアクセスを高めつつ町を良くしたいという思いから、政治家を動かす一大キャンペーンを計画。URA.RUは道路にできた穴を使って、皆が知っている知事、市長、副市長の3人の似顔絵を落書きし、その横に「いつまでにこの道路の穴を補修します」というメッセージを勝手に記した。政治家たちは躍起になってその道路の似顔絵を消そうとするが、その様子を隠しカメラで撮影し、URA.RUで中継。市民からのアクセスは殺到し、メディアでも報道され、政治家は一夜にして道路を補修せざるを得なくなった。

さらに特別プロジェクト「URA.RU道路」がスタートし、市民は誰でも問題のある道路についてその修理を求める要求書を出せることになった。それまでは1ヶ月で1.4kmしか道路の補修は行われなかったが、キャンペーン後は1ヶ月で7.6kmの道路が補修されるようになったとさ。政治家らしいやり方の一歩先を予想しつつ、世論を高めて周辺からがんじがらめにしたわけですね。少数の嘆願ということではどうにもならなかったことを、社会問題にまで顕在化する手法が見事です。

カンヌライオンズ2013のPR部門でゴールド、メディア部門でゴールド、プロモ&アクティベーション部門でゴールド他を受賞。

プロフィール

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年株式会社電通PRセンター(現株式会社電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手がけるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD2014」を日本で初めて受賞。
    その他、受賞歴に、Asia Pacific PR Award、日本PR協会「PRアワード グランプリ」、国際PR協会「ゴールデンワールドアワーズ」、SABRE AWARDS ASIA PACIFIC、PR WEEK アワード・アジア、Asia Pacific SABREアワード、Spikes Asia 2014、Global SABRE アワードなど。
    実務のみならず、大学やトレードショー、PR協会での講義による若手育成にも従事。「Cannes Lions 2012」「Spikes Asia 2012」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC 2014」「PRWeek Awards Asia 2015」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。「New York Festivals パブリック&メディア・リレーションズ部門」Grand Jury。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」を上梓。

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