コンテンツマーケティングの現場から #03

コンテンツマーケティングの正解は
生活者が決める

郡司です。現場視点でコンテンツマーケティングについて考えを深めていく本コーナー。いきなり重要なポイントの話になってまいりました。前回お伝えした通り、コンテンツマーケティングの世界では、ごまかしが効きません。大きな環境の現場で起きている具体的な葛藤や悩み、それを乗り越えていく方法について、引き続きネクステッジ電通の杉浦さんと語り合いました。

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郡司:前回は、生活者と本音で向き合わないといけないという話をしました。今回は、さらに踏み込んだ話をしたいと思います。

   

杉浦:まず、なぜ本音で向き合わないといけないかはシンプルな話で、自分たちが行った施策の成果がすべてデータで可視化され、結果をつきつけられてしまうからです。
たとえば優秀と評価されているコピーライターが渾身のコピーをインターネット上の広告で展開しても、全然反応がないなんてことは当たり前に起こりえます。リスティング広告のコンサルタントが作ったものに比べて、5倍、10倍もクリック率が低かったなんてことが平気で起こるわけです。一方、ベテランのコピーライターが、バナー広告やリスティング広告のPDCAに実地で携わり、データを元に学習していったときのコピーは、ネットしか経験したことがない人が作るよりも、2倍も、3倍もよくなることもある。
この経験から言えることは、当たり前の話ですが、(業界内の)内輪受けや、思い込みだけで作るのではなく、改めて生活者のことを考えて、反応を見極めながらクリエーティブ作業を進める必要があること。一方で、ユーザーのインサイトを捉える力や、訴求の切り口を生み出す力はデジタル広告も(従来の)マス広告も関係なく、普遍的なクリエーティブ力であり、そこは過去にクリエーティブを「考え抜いた」経験が豊富な総合代理店のクリエーターの力が十分に活きるフィールドであると思っています。

郡司:私もこのデジタル領域の仕事をやってみてわかったのですが、コピーライターの技術や作法など基本的なものは確かに必要だけれど、従来から培われた技術だけで勝負をしようとすると、あれっ?っていうことも起こるのですよね。私は以前、事業をこんな風に成長させたい、こんな世界を目指したいということを、ウェブも活用して世の中に伝えていくという作業をしたことがあります。この種のテーマは抽象度が高くて難しい話になりがちなので、徹底的に取材し、読みやすい文章にしていくということを若手のコピーライターにディレクションしました。
つまり、結果的に「How」のところにすごく力をかけたんです。でも、これがもうほとんど反応がなかったんですね(涙)。私たちが技術としてきたものが、それだけで勝負しようとすると全然届かないという事実をこのとき身をもって体験しました。

杉浦:渾身のキャンペーンサイトを作り、いろいろ仕掛けをしていっても来た人の7割は最初のページだけ見て帰るようなことは普通に起こりますからね。ただ、そういうことが起こり得るとわかっていると、検証して、次の手立てを考えられるようになる。そして、その経験の積み重ねが重要になると思います。
その意味で、前回でも触れた通りクリエーティブだけを考えるだけでなく、どう流通させるかも必要になる。さらに踏み込むと、アウトプットした後、リアクション、さらにそのリアクションと、PDCAサイクルを回すところまでがワンパッケージなんです。そうした発想の転換ができないと、いろいろな意味で生き残れないでしょう。

郡司:そうなんですよね。流通させる時点で既にターゲットを巻き込めているくらいでないと難しい。企画力でバズらせてください、と言われることが結構あるんですけれど、それって実態としてはギャンブルに必ず勝ってきてくださいって言われているのに近いんですよ…。

杉浦:少し表現を変えるなら、すべての打席でホームラン(=バズる)っていうコマンドのようなもの。可能性としてゼロではないんでしょうけれど、普通ではないですよね。世の中で、バズだけでマスオーディエンスに届いた事例って、過去10年ぐらいさかのぼっても、数えるほどしかないと思うわけです。

郡司:ホームランは狙っても必ず出るわけではない。点を取るためにプレーをするならばデッドボールでもフォアボールでもいいから、とにかく塁に出る、といったことをコツコツとやっていくことが大事ということでしょう。

杉浦:そしてヒットをちゃんと打てる体質にしていく。ヒットを打てるようにしていく中でホームランを打つコツも見えてくることは、私の経験では絶対にあると思っています。
話を戻すと、バズらせることを目的化しちゃうのは厳しいだろうと思っています。

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郡司:それと、この話の前提として、生活者が情報を選ぶ時代になっていることも踏まえておく必要がありますよね。マスメディアや企業など情報発信側に主導権があるという考え方では難しい。バズらせるっていう言い方そのものが、実は送り手が操作するっていう視点に立っていますよね。

杉浦:いま私たちネクステッジ電通が向き合っているクライアントは、主にEコマースやウェブ上での資料請求等、明確な「成果」を求めるようなダイレクトマーケティング型のお客様なので、生活者の反応に対する感度が研ぎ澄まされていて、広告の費用対効果に対しても厳しい目をお持ちです。それは生活者と直接向き合っているからこそだと思いますし、そのPDCAのプロセスを一緒に走ることによって、われわれとの関係も、パートナー同士の信頼関係になっています。

郡司:共通の目標やゴールに向かって進んでいけるわけですね。

杉浦:事業目標があり、今月の売り上げ目標が何億円だ、それを達成できるか否かとはっきりしていますから。それに向けて毎日広告効果をレポートして、日々施策をチューニングしたり、毎週定例会で方針を確認したり。一緒に山を登ったり、フルマラソンを走っていくイメージです。

郡司:そうすると、生活者との関係も良い関係になっていきますよね。

   

杉浦:結局、生活者の反応を日々細かく受け止めることが、ニーズに応えることとイコールと思っています。つまり、どうにかこちらのことを上手く伝えよう、ではない。本当に良いと感じていただいて行動してもらうには何をするべきか、と素直に考える。商品のどの側面を押し出せば売り上げが上がるのかなどは、結局は生活者が決めることで、その行動に立脚するということです。生活者をハッとさせるような需要喚起の効果を狙うのは、いわゆるマスマーケティング的な広告の醍醐味ですが、ウェブ動画広告等も台頭してきている中、そのメッセージすらもトライ&エラーして、精度を高めていくことができるのがデジタル時代の広告の在り方だと思うのです。

郡司:もう、情報を発信するときの精神構造から変えていかなきゃならないくらいの話ですよね。

杉浦:ごまかしが効かないから、ピュアになっていく。ピュアになるということは、生活者とガチで向き合うことになりますし、クライアントとの関係もそうなっていくなぁ、と感じています。

郡司:私たちの日々の業務では、Eコマースサイトのように具体的なセールスまで守備範囲にすることはまだ少ないのですが、会員がどれだけ増えたか、ユーザーがどれだけ頻繁に来てくれるか、そのきっかけはどのコンテンツなのか? など常に受け手の様子を見ながら、次はどんなコンテンツがよいのか。アイデアを出していきます。コンテンツには「感想を送ってください」という窓口を設けているのでコメントが送られてくるんですけれど、「商品の宣伝がしたいのはわかるけど、結局それだけって感じがしました」などというものが来ると、そういうつもりじゃないのに、とへこんだりしますね。でも「いい話を聞いて、とても元気が出ました」なんていうものもある。そのほかたとえばコミュニティーの中の会話などだと、どういう話だと受け入れられるのか、心が動くのかが見えるので、そういうことも参考にしながらコンテンツに反映しています。
やはり生活者が持っている知恵やアイデアを取り入れた企画は反応がいいですね。そういうことは経験的に見えてくるし、手触りでわかってくるようになります。

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杉浦:「マーケティングのリアルタイム化」が、デジタルの世界ではキーワードのひとつになっています。渾身で大作品を一つ考えて、3カ月のキャンペーンで展開するよりも、最初から当たるかもしれないことと、そうでないことを同時進行で想定して作業を進める。雰囲気としては赤点にならないレベルから始めて、それをどうやって80点、90点のレベルに持っていくかのプロセスが大事でしょう。

郡司:偏差値ビリの女の子が有名私大の受験に成功したという本が映画化されますが、ああいう感じですかね。そういう成功体験って、関わる人たちの実感として染み込むまではすごく大変なことですよね。いま杉浦さんたちは、そうした共通認識を持っている方とのやりとりがあると思うのですが、コンテンツマーケティングが、ウェブ出身者だけでなく多様な出自の人たちの間で実践されていく過程では、私たちが慣れてきた「渾身の大作を用意して一定期間回していく」やり方そのものから変えていく必要があります。私たちは、「最初は赤点を下回らないレベルでスタートして、段階的に80点、90点にしていきましょう」と言っても、「そこをなんとか80点、90点くらいからスタートするのがプロの仕事でしょ」なんて感じのやりとりから始めないといけないこともある。初対面で口説き落として相手を思い通りにするって、普通の人間関係でもなかなか難しいことだと思うのですが…。

杉浦:そこのギャップは大きいですね。まぁ、われわれも経験を積んでいるので赤点セーフのレベルとは言わず、50点くらいから始められるノウハウもありますし、過去に経験のある分野や、チームとならば70点から始められるようになっています。そこは経験や試行錯誤の過程の部分が、ブロックで積み上げた基礎部分としてあるかないかの違いで、きちんとやっておくと結構堅固なものができる。そこは地道な努力が必要ですね。僕は、童話の「三匹の子ブタ」の話が好きで、やはりオオカミに吹き飛ばされないように、レンガの家を作る三男坊になりましょうと提案することにしています。


【Gunji's eye】

生活者と向き合いながら、生活者に主導権があることを理解しながらコミュニケーションをしていく、というのが実際にどういうことなのか。私たちがいま大きな岐路に立たされていることが、改めて浮き彫りになったやりとりでした。こうした状況を背景として生まれてきたコンテンツマーケティングは、これまでとは違う戦略や評価が求められていきます。こうした現象はソーシャルメディアなどデジタルでのコミュニケーションのインパクトがマーケティングの世界に本格的に波及し始めている第一歩であり、私たちは今後いやが応でもこれと向き合う必要に迫られていくといえるでしょう。

プロフィール

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    杉浦 友彦
    株式会社電通デジタル 執行役員

    1998年電通入社。2009年コロンビア大ビジネススクール通信情報研究所(CITI)客員研究員。電通フューズ、電通イーマーケティングワンなどの立ち上げに参画し、ウェブコンサルティング、オンライン広告のROIマネジメント業務を担当。主に金融・保険、Eコマース企業の顧客獲得支援や、IT、自動車業界向けのeマーケティング戦略立案・PDCA運用業務に携わる。併せて、マス広告×ウェブ統合分析のメソッド開発や、オンライン広告プランニング最適化、アトリビューション分析など、独自のデジタルマーケティング最適化ツール開発を主導。13年ネクステッジ電通代表取締役社長。

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    郡司 晶子
    株式会社電通デジタル 執行役員

    1992年電通入社。クリエーティブ局で、広告・キャンペーンの企画作業に従事した後、コンテンツマーケティングの領域に携わる。現在は、日用品・ファッション・自動車・レジャー・住宅などの業種で、ブランドエンゲージメント、CRM・ロイヤルティ向上の支援、コンテンツを起点とした顧客獲得支援などを目的に、コンテンツ戦略・企画・制作・運用のディレクションを行っている。
    2014年「コンテンツマーケティング27の極意」(翔泳社)、「エピック・コンテンツマーケティング」(日本経済新聞出版社)の2冊を共訳。講演歴は、2013年、2014年のWOMマーケティングサミット、Outbrainパブリッシャーズセミナー、Web&モバイルマーケティングExpo2014秋、2015 ad tech TOKYO internasionalなど。

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