ろーかる・ぐるぐる #55

ぼくのフェイク・コンセプト

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手前でタコ踊りをしているのがぼく。奥で爽やかなのが磯島さん。
 

前回お話ししたように、コピーライターの磯島拓矢さんは大学のサークル「スターダスト」の先輩。なので会社でお目にかかるとなんとなく恥ずかしく、お仕事をする機会もありませんでした。入社後10年以上がたってようやく、とある教育産業の競合プレゼン作業でご一緒することができました。

当時のぼくは戦略(広告会社でいう「マーケティング」)担当としてある程度自信を持っていました。そしてクライアントのやりたいことを「ひとこと」でまとめることこそが自分の役割だと信じていました。そこでその教育産業が提供しているサービスの本質を探るべく、担当者はもちろん、役員、アルバイト、そのほか多くの関係者の話を聞いて回りました。そうしてまとめた「コンセプト」が「考えるチカラを、考える」でした。

関係者の言葉を最大公約数的にまとめたこの「コンセプト」はクライアントからの評価も高く、あとはこれを「広告表現」にさえすれば、競合も勝てそうな雰囲気でした。

内心「山田も、こんな芸当ができるようになりましたよ!」と自信満々、この「コンセプト」を磯島さんに見せたのですが、しばしの沈黙の後に戻ってきたのは「で、たとえばどうすればこれが伝わるの?」という反応でした。たくさん議論をしたのですが、結局この「戦略」に基づいた広告表現が開発されることもなく、競合プレゼンにも負けてしまいました。最初は「磯島さんが頑固だから負けたんだ!」と思ったのですが、考えるうちにそれが間違いであることに気がついたのです。

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ヒトとモノ・コトのつながり
 

ぼくが「戦略」であり「コンセプト」だと信じていた「考えるチカラを、考える」は戦略でもコンセプトでもなかったのです。なぜなら、何の「たとえば」という事実も照らし出さないから。そしてそうなってしまった原因は、企業が提供する「モノ・コト」にばかり注目してしまって、それを「ヒト」がどのように受け取るのか考えなかったから。ヒトとモノ・コトの新しい関係を発見するのが仕事なのに、それをしなかったから、です。以前、『“フェイク・コンセプト”が多すぎる』なんてエラソーなコラムを書きましたが、まさにこのぼくが、そのフェイク・コンセプトの生みの親だったわけです。

恥ずかしくて。悲しくて。この経験はぼくにとって一大転機となりました。コピーは必ずしもコンセプトではないけれど、優れたコピーの背景には必ず「ヒトとモノ・コトの新しい関係を照らし出すサーチライト」があることに気がつきました。そして、コピーを考える柔らかい(必ずしもロジカルではない)頭の使い方の中にも「戦略」を生み出す方法論があることを知りました。

コピーライターというと、とかく言葉を整える技術にばかり注目が集まりがちですが、ターゲットとの間にいい関係をつくる技術こそ、多くのビジネスマンの参考になるはずです。改めて『言葉の技術(朝日新聞出版)、ご一読をお勧めします。

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書影
 

同じサークル「スターダスト」からは、磯島さんとぼくと、あともう一人、後輩の矢野孝典くんも電通にいて、ダイレクトビジネスで頑張っています。大学の近所にあった彼の下宿先はいつでも鍵を開けっ放し。仲間が彼の外出中にイタズラで大幅な模様替えしてもしばらく気がつかなかった大物です。

久々に会社帰り、矢野くんと四谷で一杯やりました。ラーメン屋として有名なこの店は、実は居酒屋としても最高。ポテトサラダ、イカの老酒漬け、皿ワンタンで紹興酒を飲めば、もうニコニコです。その時「磯島さんの本、どうだった?」と聞いたら、満面の笑みで「読んでません!ガハハハハ」と笑い飛ばしていました。彼ももう入社10年目のようですが、おおらかな性格は相変わらずです。

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矢野くん

さて、次回は前々回、いろいろと反響をいただいた「広告会社とマーケティング」というテーマについてもう一度、考えたいと思います。

どうぞ、召し上がれ!

プロフィール

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    山田 壮夫
    株式会社電通 第1CRプランニング局

    1969年生まれ。アイデアを核として広告キャンペーンはもちろん、店舗開発からテレビ番組の製作まで手掛ける。特に最近は全国の地方新聞社厳選お取り寄せサイト「47CLUB」と連携してローカルにおける商品開発作業にチャレンジしている。2009年カンヌ国際広告祭(メディア部門)審査員。慶應義塾大学(メディア・コミュニケーション)、明治学院大学(経営学)非常勤講師。著書に『〈アイデア〉の教科書 電通式ぐるぐる思考』(朝日新聞出版)。

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