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共創2015No.5

未来をハックする、逸脱と贈与と名前の話。(前編)

2015/05/13

「コ・クリエーション(Co-Creation)」とは、多様な立場の人たち、ステークホルダーと対話しながら新しい価値を生み出していく考え方のこと。「共に」「創る」の意味から「共創」とも呼ばれます。電通とインフォバーンが運営する共創のポータルサイト“cotas(コタス)”では、3回目となる、優れた共創の事例を顕彰する「日本のコ・クリエーション アワード2014」を開催しました。当連載では、受賞事例や審査員の視点を通じて、共創のトレンドやムーブメントを読み解きます。

今回は、アワードの審査員でKIRO(知識イノベーション研究所)代表の紺野登さん、『IDEA HACKS!』をはじめとするハックシリーズが多くのビジネスパーソンに支持されている小山龍介さん、電通の田中宏和の3名が、ワークショップのあり方、シナリオプランニング、デザイン思考などをテーマに、ときにヒッピームーブメントや禅の思想にも触れながら、幅広く話し合いました。

ワークショップで未来のシナリオが描けるか?

田中:今日は「共創2015」シリーズの最終回ということもあり、コ・クリエーションが生み出す「未来」をテーマにしたいと思います。今の時代の企業経営、ビジネス、マーケティングにおいて、未来を見通すことの重要性がますます高まっていますが、その一方で、未来を予測することはますます難しくなっています。コ・クリエーションはその解決策となるのでしょうか。

紺野:コ・クリエーションは価値を生み出す手段であり、目的ではありません。これまでなかった価値を生み出すような活動をどう推進できるかがポイントです。そのためには持続的な変革の「場」を設けることが重要です。「ワークショップを開催して、その時は大変盛り上がったけど、でもあとは…」という話をよく聞きます。私たちは数年前に「フューチャーセンター研究会」というのを立ち上げたのですが、それはまさにこの問題意識でした。コ・クリエーションとは、「未来」について語るワークショップを行うことではなく、実際に未来を共創することです。

たとえば従来の「シナリオプランニング」も、どちらかというと「何か起こったときのために備えておく」というきわめて受動的な発想かアイデア発想のツールでしたが、今は現場で当事者と賛否両論を戦わせながら複雑な状況を変えていく、能動的で実践的なシナリオプランニングが求められています。

田中:未来予測には、「環境変化にどう対応するのか」という観点と、「自ら、環境変化をどう作っていくのか」という観点があります。かつてある外資系企業の案件で、未来予測の競合プレゼンがありました。クライアントはベースシナリオを自分たちでしっかり作っていて、我々に求められたのは、そこから逸脱する仮説を考えること。つまり「クライアントが考えつかないような逸脱したアイデアをたくさん出すこと」が趣旨でしたが、結果的に電通も含め、どこも採用されませんでした。そのときは、クライアントが環境変化にどう対応するのかを真剣に考えていることに、非常に感動したことを覚えています。

紺野:「どこも採用されなかった」のはおそらく各社の提案が同じような内容だったのだろうと思います。非常に興味深いですね。与えられた情報をベースに考えていくと、誰が考えても結果はほぼ同じになってしまう。じつはシナリオプランニング手法は未来予測が不可能だという前提に立っています。その上で状況を変化させるには、「何をやりたいか」という目的、主観性が大切です。単に「◯◯の未来を語ろう」という漠然としたものではなく、目的を持ってシナリオを作ると、一般的、客観的なものではなくて、その状況からしか生まれない創造的なシナリオが出てきます。

田中:意図を持った逸脱が大切ということですね。

紺野:ワークショップだけでシナリオを作るとほぼ同じものができあがる。けれど実際に現場に行って、「こういうことをいついつまでにやらなきゃいけないんだけど、どうですか?」と、課題をもとに関係性の深い対話をすると面白いシナリオが出てきます。

田中:環境変化にどう対応するかは大切ですが、今、ビジネスを切り開いているのは「環境変化をどう作るか」を考えているビジョナリーな人たちです。しかも、この人たちって70年代にヒッピーの影響を受けている人がとても多い。ここに大きな時代の流れ、ヒントがあるような気がしています。小山さんも元々ハッカーの知見をお持ちで、ヒッピーを含めてサブカルチャーに深い造詣をお持ちです。

小山:ヒッピーって、遡っていくと東洋思想に行き当たります。環境と自分を分けて考えない主客非分離の考え方です。こうした思想の潮流はずっと続いていて、例えば今だとマインドフルネス(瞑想)が新しいキーワードになっています。アイデアを発想したり、イノベーションを起こしたりするときに、こうした環境との関係性が重要になっているわけです。そして環境と一体化したときに出てくるのが、「未来はこういう風になっていく」という直観です。そしてその未来に対する自分の関わりを自覚するんですね。

故スティーブ・ジョブズ氏の思考や行動はまさにそれです。シナリオプランニングのプロセスをやっていくときも、未来の直観的なイメージが立ち現れるかどうかが大切なんです。分析的に出てきた結論ではなくて、「こういう未来だから、自分はこうコミットしたい」という主体性を含んだものじゃないといけない。ところが、いわゆるワークショップ型の取り組みは「じゃあ、あなたは何をするのですか?」という問いを隠しています。そんなことを言われたら誰もワークショップに参加しなくなりますからね。

田中:日本人としては気恥ずかしいところがありますよね。

小山:未来を直観したうえで、その未来に自分はこう関わっていくという自覚と、それに伴う決断がセットになっているべきなんです。今のシナリオプランニングで本当に重要なのは、実は未来の予測じゃなくて、こういう未来があるときに「今、あなたは何を決断するのか」という切実な問いです。そこには未来環境を変えるのではなく、自己変革が伴います。未来に対して持っている思い込みを手放し、新しい未来と自分の決断を受け入れる必要があるんですね。ヒッピーたちがやったことも、瞑想などで未来を体感することで自分の決断を変えていくこと、自己を変革していくことです。自分が変わる、自社が変わるためにやるのが、本当のシナリオプランニングなんです。

さらに、このヒッピー文化にテクノロジーがつながって生まれたのがハッカー文化ですが、ハッキングは決してコンセプチュアルな取り組みではなくて、部分的でアドホックなもの。「こういうグランドデザインがあるから、みんなでこうしましょう!」ではなくて、もともと愉快犯だし、一部分をテクノロジーで変えていこうというもの。でもそこには、1人の個人がなし得る決断と行動があって、環境に主体的に関わっていることが非常に興味深い。しかもそれが、無視できない大きなインパクトを世界にもたらすわけです。

田中:なるほど。僕がやっている同姓同名を探して、これまで103人の田中宏和さんに会ってきた「田中宏和運動」も名前ハックと言えますね。名前をハックするとこうなるという遊びです。

小山:ライフハックの本を書いているのも、一つには個人が世の中に関わっていくときに無力感にとらわれることがあるからです。でも、周りとの関わり方をちょっと変えだけで自分も変わるし、世の中も少しずつ変わっていく。決してトータルなソリューションではないけれど、一人一人が少しずつ変わることが全体を変えていくというイメージがあって、それを伝えていきたい。ルールに従うだけではなく、そこから逸脱して新しい未来を垣間見せるようなハッキングのイメージです。

意図的に逸脱を生み出していく

田中:先日、日本未来館でやっていたチームラボ展に7歳になる娘と行きました。デジタルアートで日本画の世界を再現して、インタラクティブアートに落とし込んでいるのですが、その時に取り上げていたのが世界認識の問題です。日本のふすま絵が平板なのは、「実は日本人にはそう見えていたのだ」と。西洋的な遠近法ではなくて、実際に主体と場が一体に見えるような空間を平面に描いたアートだと主張していました。

もう一つは、インタラクティブアートで「新しい遊園地」を提案していて、子どもがたくさん遊んでいた。それはまさに環境に働きかけていて、どんどん絵を変えていったり、自分が書いた魚が巨大な水槽の中を泳ぎ出したりする。あの形はまさに、小山さんがおっしゃった、新しい日本ならではの世界認識と世界との関わりを表現していた。とても今日的な展覧会だと思いました。

小山:観客という立場にとどまらず制作者の領域へと足を踏み入れるさまは、まさにハック的ですよね。面白いのが、子どもたちの作るものが逸脱を目指している点です。魚を描くにしても、魚らしいけれど魚でない何かを描きます。魚はこうであるというルールを、子どもたちは逸脱する。子どもたちがこの逸脱に乗っかるのは、遊びがまさに逸脱の連続だからですね。その逸脱から環境が変化し、さらに新しい逸脱を生んでいく。

紺野:今注目されている「デザイン思考」にも似たようなところがあります。最初から演繹的に全部を計算したり、分析したりするのではなく、まず現状の小さな変化や洞察から仮説を立ててプロトタイピングをしていく。とくに不確実性が高い状況下では、もう計画主義は破綻していて、まず誰かがやってみることで、状況が変わる。状況が変わると視点も変わってくる。そうしてさらに洞察を深めて、またプロトタイピングを行う。ヒッピーから始まり、ハッカー世代が出てきてというここ50年くらいの時代の変化のなかで、世界認識のフレームが変わってきているのだと思います。それがビジネスの世界にもようやく入ってきた感じです。

小山:歴史だって1人の人物の出現という偶然によって大きく変わりますからね。いろんな事柄を全部包括してプランニングすることなんてできません。100%外れるプランなら作れますけど(笑)。

紺野:今日の対談場所である「NADoffice」(http://www.nikken.co.jp/ja/nad/)は、日建設計の新しい取り組みです。都市計画の場面でも、いわゆる計画主義が疑問視されてきていて、市民やユーザーと一緒に作ること、まさにコ・クリエーションしようという流れになっています。我々も設計事務所の世界から、逸脱しなきゃいけないというのがNADofficeを作った背景です。

田中:去年『理不尽な進化』という人文書が話題になりました。面白かったのは、生物の99.9%は絶滅していること。私たちはあたかも目的があるかのように進化を見るけれど、意図した進化は自然界には存在しない。偶発的に起こり、結果的に適者生存の現象が残る。偶有性をはらんだものが進化であるということを非常に面白いと思って読みました。変化という話があると、我々はつい合理的な目的があると考えてしまうのですけど、自然は決してそうなっていない。

紺野:99.9%は生き残れないが0.1%の種は生き残る。これが進化だとすると、イノベーションとか戦略を一生懸命考えるのではなくて、いろいろやってみることのほうが強いわけですよね。だからシリコンバレーは強い。シリコンバレーはアイデアの墓場と言われていて、アイデアの99.9%は消えていく。たくさんのアイデアが消える環境であると同時に、生き返ることができる環境でもある。そんな場所があれば進化できるということかもしれないですね。

田中:豊かさというか、多様性をしっかり受け止められる場所があって、そこに人が集まっていること自体がすごいことなのだなと改めて思いますね。

紺野:自社のロジックだけでは絶対に新しいものは見えません。いろいろな人たちと議論することで新しい視点が得られる。意図的に「逸脱をデザインする」ことがますます重要になっています。

田中:現状維持だと、縮小再生産になっていくばかりで、付加価値の生まれようがないというのが、今の状況かもしれませんね。

小山:そういう場を作ろうとしたとき、一番難しいのが「これをやっていくらもうかるのか?」という直接的な因果関係を問われてしまうことです。いわゆる因果関係には、直接認識できる「因果」と、間接的に関わる、仏教でいうところの「縁起」の二種類があります。「縁起が悪い」とかいうときの縁起ですね。直接は関係しないけれど、どこかつながっている感覚です。

この「縁起」というのは、例えば、種が芽吹くときに、「種」があるから「芽が出る」というのは直接の因果関係だけど、そのためには適度に暖かくないといけないし、水も無いといけないし、もちろん土壌が無いといけない。これらがないと種は芽吹かない。いろいろな条件、複雑な関係性が「縁」です。

その意味でこのNADofficeのような場所は、縁を起こす縁起のいい場所です。会社にあっても芽吹かなかった種が、ここなら芽吹くかもしれない。「インキュベーター」とか「孵化」とか、生物的な比喩が使われていることも象徴的ですね。イノベーションは、まさに縁が無ければ芽吹かない生命的なものを扱っているからなのだと思います。

田中:今、ビジネスのいろいろな場面で、「縁」をどうやって作り上げていくかが求められていますね。

小山:その意味で広告会社は「因果」は扱っていない。広告会社がマネジメントしているのは「縁起」のマネジメント。お客さまと商品の「縁」です。縁を生み出す土壌を作っているとも言えます。

田中:以前、テレビ局の方が「我々はムード産業だ」とおっしゃったのを聞いたことがあるんです。まさに広告が取り扱うのもムードのマネジメントの世界だと思います。