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人もペットもうれしい社会を。No.25

ペットと長生きするための「理学療法」って?(後編)

2015/05/27

前回に引き続き、理学療法士として動物のリハビリに従事する下神納木加枝さんと、Think Pet Projectメンバーの奈木れいさんが対談。
人とペットの共生社会を築くために、理学療法にできることを語り合いました。

 

医療従事者として発信すべきこと

奈木:人間の場合、医師の診断のもとにリハビリを行うと思うんですけど、動物の場合は手術後のリハビリならまだしも、認知症に対するリハビリを判断するのって難しそうですね。そもそも老いや認知症を見極めるのが難しいじゃないですか。ちょっと足を滑らせても「かわいいなぁ」と思ってしまいがちだし、ほえたときもそれが認知症なのか機嫌が悪いだけなのかオーナーにはなかなかわからないですよね。

下神納木:そうなんです。獣医療でももちろん獣医師の診断のもとリハビリを行います。人間だと認知症を簡易的に調べるテストがありますが、動物にはそのような基準がないので。そこは獣医療で研究を重ねて、わかりやすい基準を提供する必要があると思います。

奈木:そういった知識を、オーナーが知る機会が少ないのも問題のひとつです。私自身、Think Pet Projectに携わらなかったら、ペットの高齢化や理学療法の現状についてまったく知らないまま生きていたと思います。

下神納木:情報との接点があまりないですよね。動物病院ではたくさんの情報を提供していますが、1年に1度くらいしか行かないオーナーさんも多い。
ドッグカフェやドッグランにも情報を得るチャンスはありますが、そういった場に行く人たちはペットにお金も時間もかけていて、もともと情報収集にも積極的。そうじゃない人たちが気軽に情報を得る機会がほとんどないですよね。

奈木:以前Think Pet Projectで実施したペットオーナー調査でも、積極的に情報を自分から収集してアクションを起こすオーナーというのは全6クラスター中、2クラスター程度という結果でした。(クラスターについてはこちら

特に積極的だったのは、自ら食べ物・病気・しつけなど多様な情報を収集し、自身の中に知識を貯めることができるタイプで、発信力も高い人たちです。

次に情報感度が高かったのはオシャレやレジャーに対する意識が高い人たちという結果となっていました。決してその他のオーナーが情報に対して意識が無い、というわけではないのですが、何か問題が起きないと情報収集をしないオーナーが多いように感じます。
恥ずかしながら、以前は私自身もあまり自分から積極的に情報収集ができているタイプのオーナーではありませんでした。

今回、お話しして思ったのは、しつけに関する情報は増えているけど、動物の介護という発想はまだ定着していないので、もっと啓発していかないとですね。

下神納木:高齢犬が増えていること自体もあまり知られていません。年をとったら棒に当たるのは仕方ないというような感覚ですよね。
でも、少しの気遣いで大切なペットともっと長く一緒にいられるかもしれない。寝たきりにさせてしまうのではなく、最後まで散歩に行けるかもしれない。そういったことを、私たち医療従事者の立場から伝えていくべきです。

 

リハビリはチーム医療

奈木:今年の4月に、リハビリ対応の専門医療施設を開院したんですよね?

(上段)リハビリ対応の専門医療施設「アイ動物医療センター」(下段)リハビリ用プール

下神納木:はい。MRIやCTなど人間と同じ検査機器も導入して、獣医師と連携をとりながらリハビリを行う施設です。

奈木:獣医師さんとの距離が近いというか、ヒトと同じように治療とリハビリが一体になっている点が素晴らしいです。

下神納木:人間の理学療法士の場合は医師から指示書が出て、「歩けるように歩行練習してください」といった依頼に基づいてリハビリを行います。専門医から患者の情報を提供してもらって、今の身体機能やバックグラウンド、退院後の生活などを検証しますし、退院前に患者の自宅に行って転倒リスクがないかを見ることもあります。
本来、リハビリはチーム医療です。それぞれの専門家と情報共有して、最適なリハビリを施す。それを動物病院でもやるべきだというのが、アイ動物医療センターの考え方です。

リハビリ中の様子
 
 

奈木:ヒトの理学療法を学んだからこそ、チーム医療の大切さを実感されているのですね。

下神納木:そうですね。それから、まだ計画段階なのですが、ドッグランやドッグカフェの設置もしたいと思っていて。診療に関係なくペットを連れて来られたり、ペットを飼っていない人でも足を運べるような場所にしたいです。

奈木:それはとても大事なことだと思います。

下神納木:気軽に立ち寄れて、ペットと楽しいこともできる場所だったら、自然とペットも慣れてきます。地域に密着した施設になれば、街全体がペットを飼いやすくなると思うので、それを目指していきたいと思います。

奈木:そういう取り組みが人とペットの共生社会につながるのだと思うし、それを病院としてやられるのはとても面白いですね。
私たちのチームとしてはもちろんですが、今ペット業界でもペットと人の共生がもたらす様々な効果に期待が持たれている状況だと思います。

しかし、ただペットを飼う人が増えるのではなく、ちゃんと知識と知恵を持ってもらうことが非常に重要ですよね。例えば病院に行くとき、悲しい・痛い経験だけをさせるとトラウマのようになるから、何か楽しいことも一緒にして、嫌がらないようにする。小さい時から短い時間でも車に乗せる習慣をつくって、いきなり長距離を乗せて体調を悪くしないようにする。

ペットを飼い始めるのはとても簡単なことに思われてしまいますが、このような小さな習慣をたくさん知ってもらって、双方にとって幸せな生活を送れるような環境づくりが私たちのすべきことだと思っています。

 

<了>