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Experience Driven ShowcaseNo.6

「ミラノ万博」日本館のクリエーティブワーク(前編)

2015/05/25

5月1日、ミラノ国際博覧会(ミラノ万博)が開幕しました。
「地球に食料を、生命にエネルギーを」をテーマに、140以上の国と地域が参加しています。
開幕2日目のミラノで、日本館をプロデュースした電通の内藤純氏が、チームラボの猪子寿之氏、ライゾマティクスの齋藤精一氏と、日本館におけるそれぞれの制作意図について語り合いました。その前編をお届けします。

取材編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局

 

 

日本代表としてのクリエーティブ魂

内藤:今日は万博が始まって2日目。まだスタートですが、猪子さん、齋藤さん、本当にどうもありがとうございました。

私が日本館の全体の展示プロデュースを受けて、それぞれチームラボ、ライゾマティクスさんへご相談に伺いましたが、まず日本館の話を受けて一番初めに思ったことをお話しいただければと思います。

齋藤:EXPOというのは、日本でモノをつくっている人間からすると、日本代表じゃないですか。いつか自分もできたらなと思っていました。僕は親父から大阪万博で初めて外国人に会ったとか、あの時初めて何かを見たとか、あそこで日本の文化が変わったと聞いた印象が強くて。強烈に印象深いやつをつくれたらいいなとまず思いました。

「LIVE PERFORMANCE THEATER」というシアター型のフューチャーレストランをつくったのですが、普通シアターって、いわゆるスクリーンがあって人が座るだけです。依頼があってすぐに漠然と思いついたのは、会場を変形させて体験型で、しかもシアターなのに「うるさい」。「食」がテーマだったのでコミュニケーションや会話ができるようなもの。その考えを曲げずここまで来ました。

内藤:猪子さんは、当時EXPOって何だか知っていましたか。

猪子:知っていますよ、EXPOぐらい(笑)。
上海万博のときは、イギリス館をネットで見て、半端なくかっこええなと。あと中国館が中国の古い絵巻をぶわーっと、すごく大きくしてを見せていて。チームラボは2000年初頭の創業期、初期の作品が絵巻だったんです。横長の絵巻の鳥獣戯画をデジタル表現にしたものだったから、悔しいな、日本館でやれたらいいなと思いました。

 

 

内藤:中国絵巻、巨大でしたよね!

猪子:ねえ。すごい話題になって「何だよ。悔しいな」と思った。万博ってすげえおもしろそうだなと思っていたので、話が来たときは、めちゃくちゃテンション上がりました。


日本の「食」と「農」をどう表現するか

内藤:今回はテーマが「食」。こういう方向性の内容に取り組むのは初めてで、万博のテーマというと今までは「テクノロジー」「エネルギー」「環境」とかなので、ミラノ万博の「食」は、今までとは違った テーマで新鮮に思ったし、また幸運なことに、日本食がユネスコ無形文化遺産になった時期と重なったんですよね。
テーマに対し、日本食をこう見せてやろうという思いはありましたか。

齋藤:日本食というと「和魂洋才」。
寿司だ、懐石だ、料亭だ!さらに焼きそばもあるし、天ぷらもあるし、屋台の料理もあるし、パスタも食うし、インドのカレーがカレーライスになるとか。そういう意味で食の多様化が非常にある人たちじゃないですか、日本人は。
そのリアルをちゃんと伝えるのがいいなとは思っていましたね。

内藤:フォーマルな懐石もあれば、手軽でファストフード的な食もある。

齋藤:そうそう。それをまとめて、日本独自の文化的食遺産なのだと。

内藤:そういう意味でいうと、世界に対しての日本の食の発信の仕方としては、もしかしたら初めてかもしれないですね。今まではそれぞれのカテゴリーで発信していたけれども、日本の食文化を全部載せで、多様性というコンセプトで楽しく見せられた。

齋藤:もっと入れたかったですけどね。缶詰とかも。

内藤:はじめに農水省さんから、展示でメッセージするのは、料理に代表される「食」だけじゃないと。産地の話も必要だと言われた。
そこで初めて「農」という言葉が出てきて、それは食物がつくられる初めの場所、日本でいえば「水田」ですよね。農水省の方は水田大好きな人々が多いんですよ(笑)。
日本の水田はとても美しいですから。猪子さんは、私が水田や日本の四季という話をしたときに、何か考えたことはありますか。

猪子:もともと日本の水田って、今でこそ平野っぽいですけど、近代までは川の中流だとか上流、いわゆる高低差があるような場所で発達して、具体的に言うと山の中ですね。
だから、本当に自然の一部。自然を利用して農業が成り立ってきた。
すごく立体的な複雑な地形の中で水田を中心に発達してきたこと、たぶん複雑な空間の中で世界を捉えたことが、日本の美意識とすごく関係しているような気がして。そういうことを踏まえて、後ろ側にはいろんなメッセージがいっぱいあるけれど、普通1~3日とかしか万博に滞在しない中で、世界中のパビリオンもあってすごい情報量だから、ちゃんと抽象化してワンメッセージ、一つの日本館の万博体験として、世界中の人が体験したことのないような体験をつくれたらいいなと思いました。

日本の食、もちろんかつては農業が中心だったので、そこから生まれる独自な何か、普通の世界のメインストリームの農から見ればあまり発達してこなかった、日本人ならではの美意識みたいなものを抽象化して体験させることができたらいいなと思ったのです。

内藤:「農」というのは、普通に考えちゃうと、パビリオンの中にリアルな畑をつくるとか、で毎日農作業している人達の笑顔やしわの深さを実写で撮って見せるとか、アナログな表現手法になりがちだけど、今回、猪子さんが手掛けた映像空間というのは、テクノロジーを駆使した新しい手法ですよね。
それはすごくお客さんにとって新鮮だろうし、ほかのパビリオンに対しても際立っていますね。

猪子:自分たちの文化は、もちろん自分たちは詳しいからすごくおもろいし、それを見せてもおもしろいと思うけれど、それは単純に、見たことないものを見たで終わっちゃうと思う。自分たちが知らない国の民族的な文化を見て「おもろい」で終わっちゃって。そうではなく、世界共通での何らかのヒント、未来のヒントを見たい。
未来は世界中のみんなが共通して興味があるから。

上海万博の中国のパビリオンの絵巻も、もちろん宋の時代の絵巻自体がすごいのだけれど、イタリアでいうとダヴィンチの「最後の晩餐」もすごいし、どこの国もすごいものがあるわけですね。
でもそれが上海万博では、現代や未来の表現形態をしていたから、世界中がそれをレファレンスしたわけです。レファレンスになると、やはり話題になったり後々ずっと語られたりしますよね。そこまでできたらいいなと思いました。

内藤:「農」をやらなきゃいけないと言われて、どうしようかなと思って、まずはテーマの「Harmonious Diversity」(共存する多様性)という言葉をつくった。
ただ、「人と自然の共生」を見せるといっても、よくある話になってしまいそうで…。そんな時、チームラボのシンガポールの作品が目に飛び込んできて、「あっ、これだ!」と思ったんです。
それは今、日本館の「Harmony」のゾーンの最後の「祭り」のシーンになっているんだけど。様々な人々と一緒に、鳥獣戯画っぽいウサギやカエルも登場して、皆が一緒になって、祭囃子と共に踊っている、そんな作品です。すごく日本的だし、未来的だなと思ったから「そうだ、猪子さんだ。」と。日本の「農」の雰囲気にベタピンだなと確信しました。

 

 

 

齋藤:僕の友達が見に来て面白いことを言っていたのは、彼はフランス人ですが、おやじさんがワイナリーをやっていて、ワイナリーをやっている人の精神というのは、寿命の数だけしか本番がない人生だと言う。ワインは1年に1種類、40年だったら40回の収穫しかできない。その話をして、だから祭りをするんだよと。人間だけでは全て解決できないから神に祈るんだと。世界中、絶対「農」と「祭り」は対になっているじゃないですか。だから共通点みたいなものが見つかるのでしょうね。

 

※後編は5/26(火)掲載予定