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Experience Driven ShowcaseNo.7

「ミラノ万博」日本館のクリエーティブワーク(後編)

2015/05/26

5月1日、ミラノ国際博覧会(ミラノ万博)が開幕しました。
「地球に食料を、生命にエネルギーを」をテーマに、140以上の国と地域が参加しています。開幕2日目のミラノで、日本館をプロデュースした電通の内藤純氏が、チームラボの猪子寿之氏、ライゾマティクスの齋藤精一氏と、日本館のそれぞれの制作意図について語り合いました。前編に引き続き、後編をお届けします。

取材編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局

 

 

「ミラノ万博」という場に、表現でどうアプローチするか

内藤:今回の万博は開催場所がイタリアですが、ミラノというと、ファッションの街、デザインやアートの街。そんな目の肥えたミラノっ子に「こんなところを見せてやるぞ」みたいな感覚、特別意識したことはありましたか。

齋藤:僕たちは、いつもは硬派なので。爆音流れて、ぴかぴか光って終了みたいな(笑)。
ふだんはライゾマティクスはいわゆる理系男子のつくる作品ばかりです。今回はそれを一回やめようと。
テクノロジーはセカンドで、ファーストはコンテンツだというのを、まず社内で話した。最終的にああいう大団円、いわゆる分かりやすいコンテンツにあえてしたのですが、初日で反応を見ていても、ヨーロッパ人は好きですよね、ああいう巻き込まれ系のやつ。
40分いっぱいコンテンツ見て、情報がパンパンに入って最後に「ああ、楽しかった」で物語が終わるようにしたいなと思ったんですね。

【LIVE  PERFORMANCE  THEATER:ライゾマティクス齋藤精一】
食卓から生まれるコミュニケーション。世界を笑顔でつなぐフューチャーレストラン。

 

内藤:確かにいつものライゾマティクスは違うなと。それは齋藤さんの優しさなんですかね?

齋藤:優しさなのかな(笑)。見る順番として、うちの作品が日本館を最後に出ていくときの総括になるというのもあるし。

内藤:読後感は大事だしね。猪子さんは、イタリア、ミラノという場についてはどうですか。

猪子:いや、見せる場所については基本、意識しないないですね、僕は。
世界中の多くの人が、ちゃんと自分たちの何かのヒントになるみたいな知まで抽象化できたらいいなと、それはいつも思っているけれど。

内藤:その抽象化するのって、日本的な考え方ですよね。
根底には日本の美意識があるような気がする。西洋の宗教画とかはすごく具象的じゃないですか。

猪子:はい。西洋にないような文化的知を抽象化して、ほかの人たちにもヒントになるようなもの。西洋のバックグラウンドでかっこいいものというのは、西洋の人に負けちゃう。
でも、僕らが日本の文化を抽象化できて、それをみんながレファレンスしてくれたら、日本が勝つと思うんですね、そういう部分では。

内藤:愛国心話・・・? (笑)。

猪子:いや、愛国心じゃないですよ。例えば、アップル製品の美しさは僕らにとってもすごいヒントになるし、参考になるし。実際、日本人は使っていると思うんですね。アップルが生んだ美しさというのを、使いまくっていると思うんです。
でも、アップルのような西洋的な美しさはどれだけ日本人が真似ても世界一にはなれない。だから、僕らもみんなが使えるくらいまで、抽象化して、海外の人に持って帰ってもらいたいものを作りたいんですよ!

齋藤:日本のクリエーションは、主語にはならなくて、どちらかというと形容詞とかのような扱い。どんどん最適化をし続ける感じがある。君に合わせてどんどんカスタマイズしていくよ、という感じ。僕がつくったこれが100%だと思うから、みんな合わせて使いなさいではなく、相手に合わせていく文化が日本の国、ものづくりの根源にあるような気がして。
日本のクリエーティブというのは、農業も製造業もあれだけこだわって、最終的に人を驚かすとか、感動させるとか、笑顔にさせるのはどこもまねができない。
だけど、ものすごいビッグアイデアを、ゲームチェンジをバンとやるのは日本人ではないのが悔しいですね。

内藤:やってるじゃないですか、お二人はゲームチェンジを!
ところで、懐石について、料亭・菊乃井の村田吉弘さんとの料理のコラボレーションはどうでしたか。

齋藤:よかったです。すごくいい人でしたね。見た目はすごく怖いですけれど(笑)、僕が「あ、この器、きれいですね」と言ったら、「齋藤さん、これで家2個ぐらい買えます」って(笑)。魯山人のお皿。

内藤:映像に出てくるお弁当箱も、江戸時代の国宝みたいな重箱でしたね。斎藤さん達エンターテイメント界のトップの人と、村田さん達、食の世界のトップの人がとてもうまくつながったんですね。

齋藤:そ うですね。衣装もきゃりーぱみゅぱみゅの衣装を手掛ける飯嶋さんにつくってもらったり、音楽もピチカートの小西さんにつくってもらったり、どうせやるなら 最高の人と、と思ってたので、村田さんに参画いただいて、それが最高の形になりました。シアター終了後に、お客さんが笑顔で「腹へった~!」って口にしながら出ていくのはよかったなと思います。
観客の多くの人達に、お腹すかせたいし、興味持ってもらって日本に行かせたいし、日本食をもっと知らせたい。

 
きゃりーぱみゅぱみゅの衣装を手掛ける飯嶋久美子氏がデザインした役者衣装
メディアテーブルに「サーブ」される懐石料理の数々

 

テクノロジーを使った表現の予測不能な難しさ

齋藤:チームラボの「HARMONY」は、パースで見たときに、これどうやってつくるんだろうと思った。

猪子:自分でも体験したことないから。言ったものの、つくれるのかなとか(笑)。

内藤:最初は稲穂がブロッコリーみたいになっていたりしましたもんね、枝分かれして、四角もあり丸もあり、大きさもいろいろで(笑)。
僕の思いとしては、子どものころに感じた日本の原風景を表現したくて、田舎へ行ってちょっと田んぼの中や麦畑に入っていく感じがあればいいなと思っていた。猪子さんに話したら、稲穂にぶわーっと分け入って行くイメージがまさにぴったりだという話になって。
とは言っても、稲穂が生えているだけで、そのデバイスに映像が映らなかったらどうしようかと思ったりもしました。初日の昨日は、稲穂が38本壊れたって(笑)。
でも、みんな想定の範囲内だと言ってますよ。

【HARMONY:チームラボ】
日本の食の産地を紹介。ミラーに囲われた映像空間と腰まで生い茂る“稲穂スクリーン”により、来館者を日本の美しい農村風景に没入させる。

 

猪子:自分も知らないから体験したい、みたいな。作品づくりって究極はそういう話ですよ。こんな案が通ることがあるんだな(笑)。
内藤さん最高だし、電通のプロデュースってハンパないな!すごいなと思って。

内藤:いろいろな関係者への途中報告、チェックをどうやって切り抜けたか、もう忘れちゃいました(笑)。

万博はそれぞれの国、地域の文化の鑑であり、戦いでもある

内藤:今日は2日目、まだこれから長いんですけど、ミラノ万博を見て、周りも含めて何か感じることはありますか。

齋藤:地元のイタリア人が今後増えてくると思うので、楽しみですね。7月ごろジャパンデーに来たら、どんな感じになっているのかな。

内藤:ライゾマティクスのフューチャーレストランのお箸も今のところあまりなくなってないですしね。

齋藤:お箸、全然なくなってないよ!よかった。箸袋付ければ、売れるくらいのクオリティだけど。

内藤:皆さんマナー良くきれいに置いていってくれます。猪子さんは、万博楽しい楽しいと、すごい勢いで興奮して万博会場を歩き回っているようで(笑)。

猪子:万博にちゃんと来たのは初めてなので。大人の遊園地みたいな感じで楽しくて!万博って文化の檻、戦いなんじゃない?内容で勝てば非常に大きな文化的かつ経済的効果をそれぞれの国や地域にもたらすけれど、負ければただの無駄遣いだった、みたいな。勝たなきゃ意味ないと思う。

齋藤:確かにそうだ!

内藤:頼もしいですね!今日はオープニング早々の忙しいときに、取材の時間を取ってくれてありがとうございました。半年間、一緒に走っていきましょう!

<了>