現地レポート カンヌライオンズ2015 #04

新しい人間社会を開くチャレンジの時

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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

ライオンズヘルスに始まり、9日間にわたって開催されたカンヌ・クリエイティビティ・フェスティバルは、大盛況の中でフィナーレを迎え、クロージングパーティーでの盛大な花火の打ち上げと共に閉幕となりました。

フェスティバルの後半では、元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏のディベート対談や、電通から出品したマツコロイドやソフトバンクのペッパーの登壇などが会場をにぎわせていました。
しかし、外国人のみなさん、おそらくマツコ・デラックスさんを知らないだろうに、よくあれだけマツコロイドを面白がれるなと。

前半戦は、P&Gの生理用品Alwaysが展開した女性の自信を取り戻そうという「#LikeAGirl」、ボルボUKが開発した自転車との接触事故を防止するスプレー「LIFE PAINT」、日本へも波及したALS(筋萎縮性側索硬化症)の理解と募金を呼びかけるムーブメント「The Ice Bucket Challenge」など、人間の生死や、人権、偏見などの課題を発掘し、いかにクリエイティビティで解決していくかというチャレンジが評価されていました。

米国バーガーキングがLGBT支援で発売したレインボーラッピングのハンバーガー、「THE PROUD WHOPPER」も、カンヌの開催中にタイミングよく全米で同性婚が合法化されるというニュースもあって、注目度が上がっていましたね。

後半戦は、伝統のフィルム部門や、最も先鋭的なアイデアに贈られるチタニウム部門などの主要部門の発表に加え、今年はライオンズイノベーションの部門賞もありました。

フィルム部門のグランプリは、アメリカの自動車保険会社GEICOが展開した「UNSKIPPABLE(アンスキッパブル)」というCMシリーズ。

これは、YouTubeへの広告出稿の際、スキップされてもいいように、60秒CMの前半15秒で全部言いたいことを言ってしまうというもの。
そのバカさ加減に会場は大爆笑でしたが、表現の面白さもさることながら、ここにはフィルムというコンテンツが広告枠の制限にどう対抗していくかというチャレンジがあります。そこが評価のポイントなのでしょう。

最も先鋭的で新しい可能性を切り開いたアイデアに贈られるチタニウム部門のグランプリは、アメリカのドミノピザが展開する「Emoji(絵文字) Ordering」という施策が受賞しました。
これは、ツイッターでピザの絵文字をツイートすると、ピザが宅配されてくるというもの。
正直この発表を聞いた時、「これが最も先鋭的なアイデア???」と理解しきれませんでした。審査員長の説明もよく分からず、会場も微妙な空気でした。

でも、おそらくこういうことでしょう。
一説によると、人間は脳の思考のわずか5%しか言語化できていないと言います。
残りの95%は思考を言語化できていない、非言語領域です。
「Emoji Ordering」は、この95%の非言語領域のコミュニケーションを切り開こうとチャレンジしていることが評価されたのではないかと思います。

日本では、ガラケー時代から絵文字を多用し、最近ではLINEのスタンプなど、この領域のコミュニケーション開拓は進んでいますが、世界的にはまだまだこれからなのでしょう。
グローバル化が進んでいくと、ローカル言語の壁を超越し、非言語を非言語のままコミュニケートしていく可能性も追求していかなければならないということなのでしょう。

そして、ライオンズイノベーションのイノベーション部門(ややこしいなあ)のグランプリとなった「3 Words To Address The World」という取り組みにも、とても可能性を感じました。
これは、地球上を3m×3mの57兆個のマス目に分割し、そのひとつひとつに3つの単語の組み合わせで名前をつけることで、全世界共通の住所表記を作ろうというものです。

イノベーション部門というと、何かテクノロジーを駆使したデバイスの開発などをイメージしてしまいますが、こういった先進国から途上国までにある共通課題を串刺しにして新しい枠組みを創出していこうというアイデアは、本当にすごいと思いました。
もし実現するなら、地図はもちろん、世界中の郵送宅配の仕組みや観光客誘致、人との待ち合わせの考え方までガラリと変わるんじゃないでしょうか。

こんなふうに見てみると、前半戦の人間の生死や、人権、偏見などの「課題発掘、解決へのチャレンジ」を引き継いだ後半戦は、それを実現するための「手法や手段拡大のチャレンジ」を評価したと言えるかもしれません。
枠という制限へのチャレンジ、非言語コミュニケーションへのチャレンジ、世界を串刺しにする新しい枠組みを創出するチャレンジなどなど。

今回のカンヌでは、「その手があったか!」というような斬新なアイデアが少なかったという声も聞かれます。

それは上記のように、クリエイティビティで解決していけるであろう領域拡大へのチャレンジをあえて先行して評価し、それを解決していくためのアイデアについては、今後の追随に期待したと言えるのかもしれません。
そういった意味で、今年のカンヌには、何か嵐の前の静けさを感じました。
まあ、無理に意味付けをしなくてもいいのですが、僕自身は今回のカンヌから、「クリエイティビティこそが新しい人間社会を切り開く。そのために、まずはあらゆるチャレンジを試すんだ」というようなメッセージを受け取りました。

ところで、実は僕自身が一番心を動かされたのは、イギリスの百貨店ジョンルイスのクリスマスCM「Monty’s Christmas」です。
これはクリスマスにまつわる少年とペンギンの心温まる物語を描いたもので、フィルムクラフト部門のグランプリでした。
こういうコンテンツに触れると、結局、人間の心に届くものは、古くから変わらないのだろうと改めて思います。
新しいチャレンジを評価する一方で、こういった人間の根源にある感情をゆさぶるものをきちんと評価するのも、やはりカンヌらしいところなんだなと、ちょっとホッとするような受賞劇でした。

カンヌは、この業界の未来を担い、クリエイティブの力で世の中を変えられると考える人々が、世界中から1万人以上も集まり、持ち寄ったアイデアを本気でぶつけ合う場です。
どのアイデアも、そんな人々から絞り出された極上の上澄みで、クリエイティビティの可能性と業界の未来を示唆するものばかりです。
ここでシェアされた数々のアイデアは、世界の各地に持ち帰られ、そこでまた新しい展開を生み出していくことでしょう。
それだけでも、世の中を良い方向に進めているに違いありません。

ということで、現地からのレポートでした。お付き合いいただいたみなさん、本当にありがとうございました。
あふれんばかりの情報の100分の1も伝えられたかどうか分かりませんが、みなさんにとって何かのヒントになったなら、うれしく思います。
次回は、ぜひ現地でお会いしましょう。それでは、このへんで。

プロフィール

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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

    1969年生まれ。大手銀行でのM&Aアドバイザーを経て、2001年電通入社。
    営業局でグローバルブランドや官公庁など多岐にわたるクライアントを担当し、現在はソーシャルメディアやデジタル領域を中心とする戦略プランニング、コミュニケーションデザイン、共創マーケティングを手掛ける。東京都市大非常勤講師。著書に『ロングエンゲージメント』(あさ出版)、『つなげる広告』(アスキー新書)などがある。

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