実践 インバウンド最前線 #01

沸騰するインバウンドの正しい攻め方(前) 

~やまとごころ 村山慶輔氏×電通 髙橋邦之~

  • 村山 慶輔
    やまとごころ 代表取締役
  • 髙橋 邦之
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター パブリックプロジェクト室 プランニング・ディレクター

ますます加熱するインバウンドビジネス。本企画では、識者や電通の「インバウンドビジネスチーム」がその現状を多角的に探り、ソリューションへのヒントを紹介していきます。
第一回目は、2007年からインバウンド観光に特化したBtoBサイト「やまとごころ.jp」を運営する、インバウンドビジネス専門家・村山慶輔氏。日本全国での講演活動や国内外メディアへの出演、コンサルティング活動などを精力的に行い、著書「訪日外国人観光ビジネス」が好評発売中の村山氏に、あらためて今日のインバウンドの現状と課題、そして攻略法を聞きました。


「何」をするかの前に「誰」が来ているか

 

高橋:インバウンド関連市場、ますますすごいことになってきていますね。今年になってからさらに圧倒的に伸びている。日経MJヒット商品番付で「インバウンド消費」が東の横綱になるなど、連日メディアでも取り上げられています。

村山:日本政府観光局が発表しているデータでは、この4カ月で前年同期比43%増となる589万人を達成している。このままでいくと1年で1500万人を超える可能性も出てきています。これは、大変なインパクトです。

高橋:われわれも日々、クライアントから相談を受けることが増えています。その中で、インバウンドやらなくては!と思ってるけど、一体何から手を付けたらいいのかわからない、という声もすごく多いです。

村山:何もしなくても売り上げが伸びているところが多い中で、でももう少し戦略的に何かやっていきたいと思い始めているのが、今の段階だと感じています。その中で、真っ先にやるべきことは、ターゲットの明確化です。「何」をするか、という前に「誰」が来ているか分かっていないことが多いんですね。外国人観光客がどんどん増えていく中で、ひとくくりにして見ても分からない。国籍や、あるいは同じ中国でも沿岸部と内陸では違う。所得で見ても、クルーズ船なら5万円程度で来られるようになっていて幅広い。今いったい誰が来ているのか、今後の見込みはどうか、どこにターゲットを定めてどのようなコンセプトを打ち出していくのか。そのあたりを明確にすることで、良質な体験を提供し、さらにはリピートにつなげていくことができます。

村山慶輔氏
村山慶輔氏

高橋:どうやってメッセージを伝えたらいいのかとも、よく聞かれます。例えば中国の方は訪日前にお土産リストを決めてくる傾向が強い。どうしたら商品を知ってもらえて、指名買いされるのか。

村山:難しい問題ですが、きめ細やかなマーケティングが大切です。中国でも13億人いて、それぞれの都市が、日本より人口が多かったりする。そんなマーケットの中で、ターゲットをどうつかむのか。例えば韓国のロッテ百貨店は、中国の各省に拠点を置いて、情報収集と発信を行っているんですね。エリアごとに今何が売れていて、どういう商品が求められているかを調べた上で、プロモーションなど企画を立てている。日本では政府観光局でも、本土ではまだせいぜい上海と北京、後は広州に延ばそうかというあたりで、少し後れを取っています。その上で、情報発信のスピード感が非常に重要です。先ほどの話の通り、現地で用意するお土産リストに入っているかどうかで勝負が決まってしまう。特定の魔法瓶ばかりが売れたりしますが、でも何が売れて何が売れないかは、先に情報発信されて、さらには影響力のある人が拡散したなど、ほんの紙一重の差だったりします。どんなにいいものでも、後から出てきたのではなかなか太刀打ちできない。もちろん、ネーミングやパッケージなどで中国人の好みを押さえることも大事ですので、複合的に見ていく必要があります。

高橋:電通でも訪日観光客の導線や、情報入手経路を国別で調べています。かなり詳細な情報が取れるようになってきていますし、掛け合わせで見ることが大切ですよね。また、効率的に発信するために、現地PR会社、影響力のあるブロガーとのネットワーク構築やメディアの研究など、チームで切磋琢磨しながらやっています。

村山:ワンクッションはさんでのコミュニケーションが効く場合もあります。例えば、中国の観光客に比べると台湾人はリピーターが多く、細かな違いを理解して比較検討した上で、深い情報を発信しているんですね。中国人がそれを、意思決定の参考にしたりします。

高橋:「メード・イン・ジャパン」であるという事実と日本で支持されている商品であることもインバウンド需要には重要ですよね。

村山:そうですね、全体の傾向としてはやはりそこは強いと思います。ただ、例外もあって、例えば今イッセイミヤケの「BAO BAO」が非常に売れているのですが、日本人よりも特にタイと中国の人に支持されています。なぜかというと、やはり有名人が使っていて火が付いたんですね。またある百貨店のデータでは、タイ、台湾、香港、韓国から来た人はメード・イン・ジャパンかどうかを重視するけど、中国人が購入したブランドのトップ10は全てハイブランドで日本製かどうかは関係ない。ニーズが多様化する中で、一くくりにすることは難しくなっています。

高橋:細分化しているからこそ、きめ細やかなマーケティングが大切なんですね。

図表

相手を知らないでおもてなしはできない

 

村山:今2020年に向けて、いったい日本の「おもてなし」とは何か、という議論が活発になってきています。東京や観光地の飲食店や宿泊施設で、外国人観光客がいきなり増え始めて、逆に日本人の客から「ここは外国人のお店になったのか」というようなクレームが出てきている。そこは今、日本が大きな過渡期にあると感じています。20年に向けてこれからも間違いなく外国人客が増え続ける中で、日本人客とのバランスをどう取るか議論していては、確実に行き詰まってしまう。「ユニバーサル」、つまりどの国の客が来ても、同じように共通のサービスを提供する、というスタンスが重要になってきます。
イタリアの某高級ブランドのCEOと話をしたのですが、ちょうど今の日本は20年前のイタリアを見ているようだと言っていました。その頃日本人が爆買いしていて、店員は日本人やアジア人ばかりを見て、現地の客を無視してきた。その結果、ブームが去ったときには地元の人にもそっぽ向かれていた。彼は、今それが日本で起きつつあるのでは、と懸念していました。
地元の人にきちんと支持されなければ、絶対に商売は安定しないし、そもそも成り立っていかない。今は確かに中国人がたくさん買っているかもしれませんが、日本や他の国に対しても共通に、同じレベルのサービスを心掛けることが大切です。

高橋:それにしても、中国人、アメリカ人、ロシア人などさまざまな観光客に対して、これが日本のサービスだ、という一種のデファクトスタンダードって何なんだろう、ということをずっと考えさせられています。

髙橋邦之氏
髙橋邦之氏

村山:日本人がいいと思うおもてなしが、彼らにとって必ずしもいいおもてなしであるとは限らなかったりしますよね。受け入れ側としてはつい、日本のものを押し付けがちですが、まず相手の文化や生活習慣など、ある程度の興味関心を持って理解するのが、お互いを知る意味で必要です。その上で絶対重要なのが、日本のルールをきちんと伝えていく、ということです。外国人はいいものはいい、悪いものは悪い、と意見がはっきりしている。トリップアドバイザーなどの口コミサイトでも、日本人は5段評価で真ん中をつけがちですが、外国人は白黒はっきりしている。まずは一歩踏み出して相手を知り、日本のルールをきちんと伝える。そうすれば、分かれば分かったと言うし、嫌なら嫌と言うだろうし、そこからコミュニケーションがまた広がります。

高橋:相手を知らずに本当のおもてなしはできないですものね。でも相手が外国人ともなると距離感もあって、ついあいまいなまま進んでしまったりしていそうです。

村山:実際、インバウンドの責任者なのに中国に一度も行ったことがないとか、あるいは商業施設の現場で客と全く会話をしたことがないということも多いですね。データだけで考えていると机上の空論になりがちです。実際に外国人を肌で感じることで、「あ、これそういうことだったんだ」みたいなことが分かって、違う世界が見えてきます。

高橋:インバウンドの責任者が短期で代わってしまうことで、ノウハウが蓄積されないということもありますよね。大企業では2、3年で変わっていく方が多いように感じます。

村山:そこは本当にありますね。インバウンドはエリアでの取り組みが大切で、それは1社ではできない。旅行会社や宿泊施設、地域の行政あるいはメディアなど、プレーヤー同士の連携が必要で、人脈が重要になってきます。それが、人事異動で消滅してゼロになってしまうのは、本当にもったいない。ネットワークの継続性やノウハウの蓄積は、日本全体の課題だと感じています。
ノウハウを、複数の会社で切磋琢磨してつくり上げていく。成果が出たら、成功事例として還元していく。そのサイクルが重要です。似たような課題に直面している企業は多いので、マーケットのパイを奪い合うのではなく、互い連携しながら一緒に広げていく発想が重要です。

図表

地方こそ世界70億人にビジネスチャンスがある

 

高橋:電通も、北は北海道から南は沖縄まで拠点があります。電通のインバウンド施策は、拠点を点ではなく面で捉え、グループ間で情報共有しながら、知見とスキルの平準化並びに地域や企業との間で必要なコラボレーションをプロデュースし、国内消費や地方送客を促進させるよう努力しています。

村山:それはすごく重要ですね。エリアでの取り組みが大切と言いましたが、つまり外国人観光客は、あるひとつの施設に行きたいのではなく、まずエリアを訪れるのです。エリアのさまざまなプレーヤーをコーディネートしてインバウンドビジネスのスキームをつくり上げる、そのプロデューサー的な人材こそ、今日本のインバウンドマーケットで最も必要とされている人材かもしれません。地域ごとに拠点を持っている電通が、その地域のプロデューサー的な役割を担い、利害関係を一致させながらうまくスキームをつくっていければ、絶対にインバウンドがもっと盛り上がっていくと思います。

高橋:日本はコンテンツの宝庫ですよね。余談ですが、私は生まれも育ちも東京なので、初めて妻の実家がある山形の庄内地方を訪れたとき、神が宿る山として信仰されてきた出羽三山などを目の当たりにして本当に感動しました。四季折々の変化があって、同じ時期に北から南まで全く異なる魅力がある。こんなに面白い国はないと思ってるんです。

村山:ある実験結果があります。台湾で約30万人が来場するITFという国際旅行博があるのですが、そこでブースに日本地図を用意して、行ったことがあるところに青いシール、これから行きたいところに黄色いシールを貼ってもらったんです。結果、青いシールもたくさん貼られていたのですが、黄色いシールが47都道府県全てに、うわーっと満遍なく貼られていたのです。

高橋:それはある意味、感動しますね。

村山:東北はもちろん、ちょっと知名度が低いと思われていた北陸から全て。リピーターが増えれば増えるほど、今まで行っていないところに行きたい、もっと深い日本を体験したい、というニーズは確実に出てきます。夏に訪れた人に冬の魅力を伝えたり、外国人観光客に日本の奥深さを伝えて、いかに次につなげるインプットができるかどうかが、とても大切です。

高橋:黄色いシールを貼ったところについて、知識はあるのですか?

村山:はい。私もその場にいて絶対適当だろう(笑)、と思って確認したのですが、地名などがパッと口から出てきて、結構ちゃんと分かっているんです。台湾だと、ネットやテレビ、ガイドブック、さらにはリピーターが多いので友達からの情報など、日本人より知っているのでは、というくらい。瀬戸内海の小島にもたくさん黄色いシールが貼られていたのですが、日本人に聞くとたいてい「小豆島じゃないですか」と答える。直島、なんですね。ベネッセが美術館をつくっていて海外のメディアによく取り上げられていて有名ですが、日本人の方がむしろ知らなかったりします。

高橋:少しずつですが、インバウンドの視点で地域プロモートに成功したケースも出てきていますね。

村山:はい。例えば、和歌山県田辺市は非常にうまくやっていると思います。世界遺産の熊野古道があるのですが、「世界に開かれた持続可能な観光地」としてインバウンド、中でも個人旅行者にターゲットを絞りました。「田辺市熊野ツーリズムビューロー」を設置し、カナダ人のブラッド・トゥルさんという方を海外から招請して市の職員になってもらって、彼を中心に外国人目線でツアールートなどを開拓しています。さらには、田辺市では旅行会社をつくってしまった。DMC(Destination Management Company)といって、目的地をオーガナイズして売っていくものですが、年商が1億を超えるくらいになっています。

高橋:中国人の爆買いばかりに目が行きがちですが、地方創生ともつながりますね。

村山:あと、観光ではないですが、地域の連携で成功している例として、原宿・表参道のけやき街商店街が一体となって展開しているショッピングキャンペーンが功を奏しているようです。福岡市でも似たような事例があります。

高橋:「飛騨里山サイクリング」も話題ですね。

村山:あれも本当に人気がありますね。ありのままの風景が楽しめて地元の人と触れ合えるようなサイクリングルートが整備されているのですが、7000円ほどのサイクリングツアーチケットが平日は外国人観光客でほとんど満員のようです。オーストラリア、アメリカ、シンガポール、最近では東南アジアからの観光客も増えています。これは、自転車以外、ほとんどハードの投資が掛かっていない。外国人目線でのコンテンツ開発がいかに大切か、ということです。
外国人にとって、東京にはテクノロジーやロボットなど最先端があるけど、ちょっと郊外へ行くと手つかずの田舎が存在したりしているのがまたすごく魅力なんですね。日本人1億3000万人を見ていても成り立たない商売が、世界の70億人を見れば響く人が出てくる。地方こそ、世界を相手に直接情報発信していくことで、ビジネスチャンスを広げていけると思います。

村山慶輔氏

高橋:僕も、ある県の観光課と仕事をしたことがあるのですが、県立のとても立派な博物館があって、世界で3本の指に入る規模なんです。もう、膨大な標本があって、展示物の全ての歴史がわかって、世界中の学者が集まって勉強会をしたりする。何でもっとアピールしないのって聞くと、新幹線も通ってないしインフラがないし、と謙遜気味に言う。

村山:その優先順位がもったいない。インフラがないからというのは理由にならないと思います。まず発信して、客が来て、流れができればインフラは整う。いいものがあれば、交通の手段は行きたい人が考える。
集客が先か、受け入れが先かよく議論されますが、まず集客から始めることが重要です。多くのところが、まずは足回りやWi-Fi、免税対応など環境を整えなくては始まらないと考えて、結局1年たっても何もできていなかったりします。大手流通チェーンの本部から全国でインバウンドを底上げするにはどうしたらいいか、と相談されたことがありますが、支店に火を付けるために効果的なのは、客が来ることです。来たら、スイッチが入る。必死になって考えて、しっかり対応して、手に負えなければ本部に助けを求める。うまくいっているところは集客から先に始めて、徐々に加速させながら対応しています。

(後編に続く)

プロフィール

  • 村山 慶輔
    やまとごころ 代表取締役

    米国ウィスコンシン大学マディソン校卒。2007年にインバウンド観光に特化したBtoBサイト「やまとごころ.JP」を立ち上げ、ホテル・小売・飲食・自治体向けに情報発信、教育・研修、コンサルティングサービスなどを提供。インバウンドビジネスの専門家として、ワールドビジネスサテライト、NHKワールドをはじめ、国内外各種メディアへ出演多数。最近は、金融機関、投資家、経営者等へインバウンド動向に関する情報提供を精力的に行うほか、日本全国での講演活動を通してインバウンドビジネスの啓発に力を注いでいる。
    インバウンド関連諸団体の理事を多数兼任。 AERA「アジアに勝つ日本人100人」に選出。日経ビジネスオンラインでのコラム連載のほか、著書に「訪日外国人観光ビジネス 沸騰するインバウンド市場攻略ガイド(翔泳社)」がある。

  • 髙橋 邦之
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター パブリックプロジェクト室 プランニング・ディレクター

    1994年電通入社。営業として化粧品、金融、大手ファッションブランド、自動車メーカーなどを担当。インキュベーション部門で電通初のCRMサービスを起案(ビジネスモデル特許取得)、その推進を図る。プロモーション部門ではメディアとプロモーションの融合をテーマに、コラボレーション企画を多々手掛ける。現在、電通ならではの観光インバウンドビジネスを目指し、ソリューションを開発する社内横断チームのプロジェクトリーダーを務める。

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