「よりよく生きる」プランニング #11

大屋洋子×小幡道子 対談後編
「がんばる活力は、
“プチ贅沢”と“ちょっとハッピー”に紐付いてる」

  • Ohya 20140619  01
    大屋 洋子
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 電通総研 研究主幹/部長
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    小幡 道子
    株式会社電通 マーケティングソリューション局

前回に続き、食生活ラボの大屋洋子とチームウェルネスの小幡道子の対談をお送りします。今回は食とSNSや、“100円なのに美味しい”などの「なのに文脈」について語ります。

 

腹落ちしないと心を満たせないし、納得しないと続けられない

 

大屋: ただ栄養を摂るって割り切るならサプリでオッケーで、そうじゃなくて食べるという行為をする以上はやっぱり美味しいほうがいいし、できれば五感を使いたいって思うようになっています。

小幡: なんか分かります。

大屋: 秋にサンマを食べたくなるのは、DHAとかエイコサペンタエン酸を摂りたいってことじゃなくて、「食べることで季節を感じたい」から。最近香りのいいものが売れている傾向があるけれど、それも「香りで気持ちが満たされる」からじゃないかな。。なんでも簡単にできてしまう時代だからこそ、食べるという人間の本来的な欲求は、ちゃんと五感を使いたいっていう気持ちもまた出てきているんでしょうね。

小幡: あと、最近アスレチックに行く人やマラソン大会に出る人が増えています。身体を動かした感じとか、動かしてみないと味わえないようなリアリティーを求めて、コンスタントに運動していなくても、そういうのに参加したい人が増えている。大人が使えるアスレチック施設も増えているし。

大屋: 食も生っぽさとかリアリティーが重要視されている気がします。グリーンスムージ-が流行っていますけど、結構作るのが面倒くさい。野菜サラダのほうが楽なんだけど、あえてスムージーにすることで、生感というかリアルが感じられる。お手軽な時代だからこそリアリティーが求められています。

小幡: 体験ですよね。スムージーを作る体験自体が身体に良さそうとか、なんかいいことしているっていう。そういうことが、食べるとか栄養を摂ることにも求められてきているかなと。

大屋: 最初の話とつながるんですけど、だから腑に落ちるんだと思います。いろいろ言われて分かった気にはなるけど、腹落ちしないと心を満たせないし、納得してないと続けられない。多分スムージーを飲んでいる人も、その生っぽさとか緑の香りとかを体感することで、これはいいに違いないみたいになる。腹落ちしたときに続けられるっていうか。

小幡: 次の行動につながりますよね。またやってみようって。

大屋: これだけ情報があると、選んでいるだけで面倒くさいし疲れちゃうから、結果として腑に落ちるものを選ぶ。そこが選択基準になっているんじゃないかなと思います。CMを見ていても、例えば何とか製法で、こんな特許も取っていて、こういう成分も入っていてというよりは、ただひたすら誰かが美味しそうに食べているほうが心に響く。根拠は大事だけど、その美味しさをちゃんと心に訴えているCMのほうが、今は届く感じがします。

機能や成分を語るよりシズル感が必要

 

小幡: あと、専門家じゃなくて、この料理人が言っているからいいんじゃないかとか、そういう雰囲気みたいなことが納得につながっている。

大屋: そうそう。単なるお墨付きというよりは、なるほどって思える何かが欲しい感じ。

小幡: やっぱり失敗したくない意識が強いんですよね。だからランキングとか評判を見て、絶対大丈夫だろうと確認する。

大屋: そう思います。特に若い層は失敗したくないという意識が強いと言われますけど、若い人じゃなくてもお金を掛ける以上はだれだって失敗したくない。納得要素があるとか、CMで美味しそうだったからとか、そういう自分の落とし所を持ちたい。

小幡: 機能や成分を語るよりシズル感が必要ですよね。

大屋: 今はそれが一番分かりやすい納得につながっていると思う。あと、説明をされなくてもみんなが「それは健康にいい」と信じているものがあるじゃないですか。例えば野菜を食べることって、多くの人は無条件に身体にいいと思っている。漬物とか納豆は、昔から日本人が食べているから、悪いわけがないとか。そこは理屈じゃない。

小幡: 確かにそうですね。あとは、以前の健康ブームのときに情報が行き渡っているというのもあると思います。ただ身体にいいだけではなくて、その上で「心がアガる感覚的な何かいいところがある」っていうのが今のウェルネスですよね。

大屋: そう思います。だって日本人って、すごく健康教育されてきたと思うんですよ。イソフラボンとかポリフェノールって言葉をこれだけの人が知っている国民ってすごいですよ。

小幡: ビタミンC強化、ビタミンE強化とか書いてある食品が結構あるけれども、知らなかったら価値を感じない。そう書くと売れるってことは知識があるからですよね。だから、すごく不健康な食生活の人でもミルクティーを飲んで「カルシウム摂っています」と言っていたり、自分基準の何かは持っているんですよ。

「適当に買ったのに美味しかった」とか「安いのに美味しい」

 

大屋: 食や健康には誰もが興味があって、万人受けするから、ネタにもなりやすくてSNSで広がりやすいよね。あとは、今日これだけ走ったとか加圧トレーニングしたとか、コーンポタージュ味のアイスを食べたとかは、SNSのネタにしやすい。そのために走るとか食べる人もいると思いますけど。

小幡: 絶対いる。で、やっているうちに「何となくいいかも」みたいになる可能性もありますね。

大屋: 行列が嫌いだった人も、今だと、たとえばパンケーキ屋さんに並んで写真をアップして、「美味しそう」とか「私も食べてみたかったんだよね」という反応があると、それだけで並んだかいがあったという感じにはなる。

小幡: 食がコミュニケーションにつながるんですね。

大屋: 最近私は、ヒットするキーワードの一つに「なのに」があると思っています。コンビニなのに本格ドリップコーヒーが飲めるとか、缶詰なのに美味しいタイカレーとか、立ち飲みなのに本格フレンチとか。食ラボの調査をしていて「最近心が上がった食事は?」と聞くと、「適当に買ったのに美味しかった」とか「安いのに美味しい」とか、いわゆる‘嬉しい誤算’のようなことが目につくような。

小幡: そういうお得感があると、気持ちがアガりますね。

大屋: しかも「ちょっと聞いて。○○なのに△△△なんだよ」っていう話はネタにしやすいですからね。もちろんこういうことって昔からあることだけど、今はそういう傾向が顕著な気がします。

小幡: 前だったら健康にいいものは、見た目も全部健康に良くなきゃいけなかったけど、今は「なのに文脈」で認められてしまう。

大屋: それくらいのハッピーが求められていると思うんですよね。超豪華なフレンチをフルコースで食べたいっていうんじゃなくて、日常のささやかなことで少しずつハッピーを感じられるような。食は少し気持ちをアゲるのにちょうどいいサイズ感なんですよ。「100円のコーヒーなのに、すごい香りがいい」っていうハッピー感が求められていて、そのさじ加減が大事な気がするんですよね。

小幡: プチ贅沢みたいなことですよね。

大屋: そう。自分へのご褒美っていうよりは、プチ贅沢に近いかな。

小幡: ウェルネスを達成するには食と運動と休養が必要なんですけど、休養の「養」が足りてないと思うんです。休むと養うことって別で、例えば明日への希望を養うとか、やる気を養うとかが重要な気がして。明日に向かってがんばる活力は、プチ贅沢とか、ちょっとハッピーみたいなことに紐付いていると思っています。

大屋: すごく贅沢すると、罪悪感を持っちゃうんですよね。

小幡: それだと前向きになれないですもんね。

大屋: ウェルネスって健康のことだと思われがちですけど、もともと「How are you?」と言われたときに「I’m well」って言う、そういう感じのwellなんですよ。だから健康というよりは、心身ともにいい感じという感覚。だから食べることだけじゃなくて、やっぱり気持ちをアゲることにつながっているんだと思う。

小幡: そうですよね。今日はためになるお話ありがとうございました。

大屋: こちらこそ、ありがとうございました。

プロフィール

  • Ohya 20140619  01
    大屋 洋子
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 電通総研 研究主幹/部長

    1992年電通入社。マーケティング・プランニング部門で、食品、飲料、製薬を中心とした企業のコミュニケーション戦略立案などを担当。2004年から消費者研究センター、08年から電通総研で、ウェルネス、食育プロジェクトのリーダーとして従事。11年から「食生活ラボ」を設立・主宰。2013年から「電通こころラボ」のアナリストも務める。著書に『いま20代女性はなぜ40代男性に惹かれるのか』(講談社)。

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    小幡 道子
    株式会社電通 マーケティングソリューション局

    電通チームウェルネスの戦略プランナー。オリジナル調査や有識者ネットワークなどから収集・分析した情報と知見を用いて、食品、飲料、医薬品、化粧品、トイレタリーなどの幅広いカテゴリーでヘルスケアのトレンドや生活者インサイト視点を盛り込んだ商品開発サポート、販促戦略コンサル、コミュニケーション開発などを行う。

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