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Experience Driven ShowcaseNo.12

世界最大の駅前に遊園地を作ってみた。

2015/07/13

“舞台は2015年。マーティ・マクフライが広場で振り返ると、ホログラフィックのジョーズが襲いかかってくる。頭を抱えるマーティをガブッと一かみしたところで突然消える”。
これは、1989年に公開された映画「バック・トゥー・ザ・フューチャーPART2」の1シーン。タイムマシンで未来を訪れた主人公が最初に遭遇した広告は、ジョーズ19の擬似体験型のアウトドア広告です。

そして、今年は2015年。様々な技術の発達によって、30年前に空想の世界だった擬似体験コンテンツが比較的容易に作れる時代になってきています。
今回は、新宿で実施した日本中央競馬会(以下JRA)による疑似体験コンテンツ満載の街頭イベントについて、レポートします。

編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局

 

レースの迫力を疑似体験させる

18頭のサラブレッドが2.5キロを時速70メートルで疾走し、ゴール前で数センチの差を競う。
約13万人にのぼる観客の地響きのような歓声、想像以上に筋肉質なサラブレッド。
実際に競馬場に行って真近でレースを観戦すると、その迫力に多くの人たちは驚き、興奮し、ファンになってしまいます。

しかし、「実際に競馬場でレースを見るとすごいから!」と、競馬体験のない人に言葉で言っても伝わりません。百聞は一見にしかず。ということで、競馬に接したことのない人たちに競馬コンテンツを体験する場を作ろうと、JRAは主要レースに合わせて年に数回街頭イベントを実施しています。
一昨年末には有楽町駅前に光の競馬場を作るイルミネーションイベントを、昨年末には秋葉原でウルトラマンがサラブレッドに騎乗するイベントを開催しました。

この5月の街頭イベントで着目したのは、テクノロジーを使った体感型のアトラクション。前述のとおり、近年のセンシングデバイスやVR技術の発達によって、体感型のインタラクティブなアトラクションの開発が比較的容易になっています。そこで今回は世界最大の乗降客のいる新宿駅前で「競馬レースの迫力」の疑似体験を提供することにしました。

 

仮想空間ならではの、斜め上な体験を

ドイツの思想家ヴァルター・ベンヤミンが言ったように、1回きりのリアルな体験を単に複製しても、それはアウラを喪失した矮小な体験にしかなりません。本当の競馬レース体験の単なるトレースではなく、仮想空間ならではの、現実ではありえないエンターテインメント要素を満載した体験イベントを目指しました。
コンセプトは競馬の遊園地「Derby Go-Round」。新宿駅前を舞台に競馬の疑似体験を楽しめる様々なアトラクションを展開しました。期間は日本ダービーの開催前の1週間。

今回はその中でも斜め上な体験ができると話題になった2つの競馬アトラクションを紹介します。

 

STREET DERBY 360

ヘッドマウントディスプレー(Oculus)をかぶり乗馬フィットネス機器(JOBA)にまたがって、4人で参加するレース体験アトラクションです。ディスプレー上の映像やプレーヤーの動きに合わせてJOBAも動くため、本当に競走馬に乗っているかのような気分になります。

レースの舞台はまさかの新宿。ディスプレーをかぶったその場所がスタート地点です。3Dの地図データと写真データで作った仮想空間の新宿を舞台に、駅前を駆けぬけた後に、途中建物の壁を登り、ビルの屋上から飛び降り、トンネルを抜けた先にある競馬場にあるゴールを目指すレース。
ちょっとしたジェットコースターをはるかに超える迫力のあるアトラクションとして人気を博しました。

JOBAに乗りながらヘッドマウントディスプレーを装着すると、超リアルな乗馬疑似体験が可能に!
3DCGで360度再現された新宿の街を舞台にレースが繰り広げられる。
コース内には途中新宿高島屋のビルの壁面を登り屋上を走り抜けるシーンも。かなり怖いです。
新宿御苑近くのトンネルへ。トンネルをくぐりぬけると、そこはなんと東京競馬場。
東京競馬場の最後の直線。ゴール目指して猛ダッシュ。

 

AIR DERBY

AIRギターならぬAIR騎乗。プレーヤーは何も持たず、指示通りに体を動かすだけで参加できるレース体験アトラクション。
手綱さばきやむちさばき、そして顔の表情や声まで、大画面の前にいるプレーヤーの動きをモーションセンサー(Kinect)に感知させて、ゴールまでのスピードを競うレースゲーム。手軽な気持ちでレースに参加をしたら、最後は全身をばたつかせながら大声で絶叫してゴールというプレーヤーが続出。老若男女問わず、誰でも簡単にレース体験を楽しめるということで人気を博しました。

表情・声・体の全てを使って楽しむアトラクション。盛り上がるプレーヤーたちの絶叫がイベント会場に響き渡ります。
表情や体の動きをセンサリングし、スピードアップします。

 

最後に

テクノロジーは日々進化していきます。最新の技術を使った体感型のアトラクションは、疑似体験をフックに実体験へ興味を持ってもらうコンテンツとして強力です。
今回のように駅前の比較的スペースが取れない場所でもインパクトのある体験を提供できるので、このようなイベントは今後ますます増えていくでしょう。

一方で、実際の制作過程では、想像以上に人の感覚が繊細なことがわかりました。ちょっとしたタイミングのズレで良い体験が微妙な体験になってしまうことも。良い体験やカタルシス感を提供するには、直感的な感覚にフィットさせる「微調整」を繰り返すトライアンドエラーが必須です。
こういったインタラクティブな体験アトラクションをブランディグにつなげるには、テクノロジー以上に、人の感覚を理解することが重要なのだと思います。