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鍛えよ、危機管理力。No.1

不測の事態、あなたの会社の対応は?
メディアが求めることは?

2015/07/16

もしあなたの会社が事故や事件、自然災害など不測の事態に直面したら…。危機管理の巧拙が、企業の存続さえ左右します。
電通パブリックリレーションズの企業広報戦略研究所では、企業の危機管理の実態を調べるため、今年2月から3月にかけて、東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センターと共同で「企業の危機管理に関する調査」を実施し、392社のデータを集めました。

本連載では、この調査結果をもとに企業の危機管理力を分析し、企業のキーパーソンや危機管理関係者に向けて問題提起と情報提供を行っていきます。

■メディアは社会性を重視、企業はコンプライアンスを重視

今回の調査の大きな特徴のひとつは、主に企業(外資系含む有効回答計392社)を対象にした調査と、ウェブメディア、新聞、テレビ、雑誌などの報道関係者(177人)を対象にした調査の2種類を行い、危機に直面する側の企業と、それを取材する側のメディアとの間にある意識のギャップについて定量的なデータが把握できたことです。

企業に発生し得る28項目の危機について、企業が感じる「社会からの批判の強い項目」、メディアによる「関心度が高い項目」として、同じ項目を回答してもらった結果、両者の危機の位置づけにかなり違いがあることが浮き彫りになりました。

そのギャップの中で、企業よりもメディアの関心が顕著に高かったのは、「従業員が重大感染症に罹患」(22.0%、18.4ポイント差)、「国内での大規模災害発生時の事業停止/顧客への危機発生」(27.5%、14.2ポイント差)、「海外でのテロ・暴動発生時の事業停止/顧客への危機発生」(21.9%、13.1ポイント差)などの項目です。これらは、企業の個別の事象というよりも、社会全体に影響を及ぼす問題であり、危機の捉え方について両者の視点のギャップが明確になりました。

実際に、新型インフルエンザ、東日本大震災、中東や北アフリカの紛争などをめぐっては、個別の企業への影響のほか、企業が講じた対策について数多く報道されています。このような社会問題に関しては、企業は前向きな姿勢で情報開示について検討し、準備をしておく必要があると思われます。

その一方で、メディアより企業の関心が高かったのは、「反社会勢力との癒着」(35.7%、16.1ポイント差)、 「不適切な決算・財務報告」(32.7%、13.5ポイント差)、「談合・独占禁止法違反」(27.8%、13.5ポイント差) などの項目でした。いずれもコンプライアンス(法令順守)に関わるもので、企業が社会的責任を問われる重大な問題です。

■迅速性と正確性の二律背反が要求される

それでは、危機に際して、各メディアの記者が企業に求めることは何でしょう。これまで広報パーソンの間で経験則で語られていたことが、改めてデータで裏付けられた形になりました。

挙げられた項目では「迅速な対応」(89.8%)がトップとなり、これに「情報開示の正確さ」(71.8%)が続きました。二律背反して両立が難しいと思われる項目が1位、2位を占めたことは、危機発生時には、厳しいメディア対応が要求されるということです。そうしたメディアの要求に応じるためには、平常時から、危機管理体制の構築は言うまでもなく、広報マニュアル整備やシミュレーショントレーニングなどが不可欠だと言えるでしょう。

■記者会見を開くべきか

危機発生時に記者会見を開くかどうか、その判断は、企業にとっては非常に難しい問題ですが、上位の「人的被害がある」(88.7%)、「多発・拡大する可能性がある」(85.9%)、「違法性がある」(74.0%)の3つのポイントが、今後の判断基準の参考となりそうです。さらに、4位には「社会的インパクトがある」(68.4%)が続き、その時々に社会的に関心が高まっている問題の場合は、記者会見の実施を要請される可能性もあり、メディアや世論の動向を踏まえた判断が求められることも分かりました。

このように、今回の調査でメディアと企業の認識のギャップが定量化されたことで、企業は危機の際の情報開示について、再検討する材料となったと考えています。


 
企業広報戦略研究所(Corporate communication Strategic studies Institute : 略称CSI)とは、企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者など)と連携して、企業の広報戦略・体制等について調査・分析・研究を行う電通パブリックリレーション内の研究組織です。