感動テクノロジーの世界 #07

伝統芸術×最新テクノロジー

  • Yoneyama keita pr
    米山 敬太
    株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局 エクスペリエンス・テクノロジー部 シニア・プランニング・マネージャー

「なぜ、テクノロジーを使うのか」
これまで本コラム「感動テクノロジーの世界」では、最新のテクノロジーとその事例を取り上げてきましたが、今回はまず、200年前のローマを舞台にしたオペラ「トスカ」のステージを紹介したいと思います。

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新国立劇場の壮大な舞台(新国立劇場オペラ公演「トスカ」 撮影:三枝近志)
動画はこちら: http://www.nntt.jac.go.jp/opera/performance/150109_006147.html#ancmovie
 

上の写真のシーンは、ローマの教会をリアルに再現しており、観客がまさに教会の中にいるような錯覚を受ける豪華絢爛なステージは、オペラファン以外でも引きつけるものがあります。オペラのステージでは木工などを使ったストレートでトラディショナルな舞台美術が多かったのですが、最近では、オペラのような伝統芸術の世界でも、最新のテクノロジーが使われ始めています。次の写真と動画をご覧ください。

英国ロイヤルオペラのプロジェクションマッピングによる演出(photo: ROH/Bill Cooper,2014 for Don G.)
 

2014年に英国ロイヤルオペラで上演され、この9月に日本公演が行われるモーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」の舞台です(http://www.roh2015.jp/don.html)。このステージでは、プロジェクションマッピングが全幕にわたって使われています。なぜ、オペラの舞台にプロジェクションマッピングなのでしょうか。この演出を担当したカスパー・ホルテン氏(英国ロイヤルオペラ・オペラディレクター)は、その理由をこう語ります。

「主人公のドン・ジョヴァンニは、豊かなイマジネーションの持ち主で、ストーリーは彼が創り出した幻想の世界で進んでいきます。こうした世界を描くのには、プロジェクションマッピングを用いるのがぴったりだと考えました」。
確かに、この演出を見ていると、主人公の心情や思いがスピーディーに表現されており、あっという間に舞台設定が変わっていきます。木工などによる固定された舞台とは一味違う、細やかな心情の動きが美しく描かれていたと思います。長い伝統のあるオペラの世界で、プロジェクションマッピングを活用するのは画期的なことに思えますが、この点をドイツと日本で活躍する新進気鋭の演出家・菅尾友氏に聞いてみました。

「オペラは最新テクノロジーに敏感です。400年以上前の誕生以来、常に新しい仕掛けで観客をエンターテインしてきました。舞台での映像の使用は珍しいことではなくなり、今春のベルリンではロボットと人間が共演する新作が話題になりました。私も最新テクノロジーの可能性には積極的でいたいと思いますし、演出意図に合えば積極的に利用したいとも思います。新たな技術の登場は、数百年前に作られた作品にも新たな魅力を発見させてくれるでしょう。しかし、オペラの舞台は最新技術の発表会ではありません。人間の豊かな“物語り”の可能性を今後も探究していきたいと思います」。
一見保守的なイメージのオペラの世界でも、最新テクノロジーの動向には敏感なようです。

ドイツや日本で活躍する新進気鋭のオペラ演出家 菅尾氏(photo: Matthias Baus)
日本の歌舞伎の場合は、どうでしょうか。歌舞伎の舞台では、古くからテクノロジーを活用するのに積極的です。例えば、一人が何役も「早替り」したり、役者が劇場中を「宙乗り」する演出は、江戸時代から行われています。そんな歌舞伎の世界で、今年の8月にラスベガスで驚きの公演が行われました。
©2015 Shochiku・teamLab
 
「Panasonic presents Kabuki Spectacle at FOUNTAINS OF BELLAGIO Koi-Tsukami “Fight with a Carp”」
(2015年8月14~16日・ラスベガス/ベラージオ ©松竹株式会社)
 

この作品は、松竹が歌舞伎をテーマとした新しいエンターテインメント・プロジェクトの第1弾として、ラスベガスの「ベラージオの噴水」で行われました。ベラージオの巨大な噴水を使ったウォータースクリーンに巨大な鯉のホログラム映像(チームラボ制作)で映し出した、かつてない歌舞伎エンターテインメントになっています。制作を統括した松竹の岡崎哲也常務はメディアに対して次のように語っています。「歌舞伎は412年の歴史がある日本の伝統演劇ですが、オペラと同様、その時代時代を反映して新作を創造してきました。今では代表的な古典のレパートリーとなっている作品も、初演された時代には最先端をいく新作であり、人気俳優の着た衣装のデザインはファッションとなり、演奏される音楽は、アマチュア愛好家によっても演奏されブームになったりしました。さらに、回り舞台(revolving stage)を発明するなど、技術、テクノロジーにも積極的な舞台芸術です」。

「Panasonic presents Kabuki Spectacle at FOUNTAINS OF BELLAGIO Koi-Tsukami “Fight with a Carp”」
(2015年8月14~16日・ラスベガス/ベラージオ ©松竹株式会社)
 

今回は、伝統芸術にテクノロジーが活用されている最新事例を見てきました。今はやりのテクノロジーではありますが、なんでもよいからテクノロジーを活用すればよいとは思えません。2つの事例のように、鑑賞者(受け手)の感性を意識しながら、意味のあるテクノロジー活用であるべきです。テクノロジーは日々進化していますが、鑑賞者の感性は昔から変わらない部分があるはずです。テクノロジーを融合することで、より優れたエンターテインメントになっているかがポイントになります。

舞台演出におけるデジタルテクノロジーの効果としては、

①最新テクノロジーならではの美しい演出効果
②デジタルで舞台・シーンの設定を容易に変えることが可能
③スマホ世代などの新しい客層の獲得
④ソフトを変えるだけで、新たな作品制作ができること

などが挙げられるでしょう。今後は、スマホなどを使ったインタラクティブな演出が増え、鑑賞者の参加性が高まる作品が増えていくと思います。
テクノロジーの進化は世の中のルールを変えるといわれていますが、演出の世界におけるルールも変わっていきそうです。


 
 

電通エクスペリエンス・テクノロジー部は、デジタルもアナログも、さまざまなテクノロジーを掛け合わせて、今までにない感動体験(エクスペリエンス)を作り出すテクノロジー集団として活動中。
実現不可能と思われるアイデアも、テクノロジーによって実現の糸口が見つかるかもしれません。
ご意見・お問い合わせ・ご相談なんでも構いませんので、et-info@dentsu.co.jp(米山・村上宛)までお気軽にお問い合わせください。

 

プロフィール

  • Yoneyama keita pr
    米山 敬太
    株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局 エクスペリエンス・テクノロジー部 シニア・プランニング・マネージャー

    2000年電通入社。プロモーション2年間、営業2年間の経験を経て、イベント&スペースの作業を中心に担当。エクスペリエンス・テクノロジー部の発足以来、テクノロジー関連イベントを多くプロデュースしている。

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