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Experience Driven ShowcaseNo.22

【ミラノ万博】「ジャパンサローネ」での食文化の発信(前編)

2015/09/15

5月1日から10月31日まで、ミラノ国際博覧会(ミラノ万博)が開催されています。ミラノ市内でも6月25日から7月13日までの19日間、日本政府とともに日本館への協賛企業や団体などが参画し、「ジャパンサローネ」が行われました。
この取り組みを企画した農林水産省の山口靖氏、プロデューサーの福井昌平氏、電通の作田賢一氏、矢野高行氏がその成果について語り合いました。

取材・編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
(左から)矢野氏、福井氏、山口氏、作田氏
 
 

 

官民連携、オールジャパンを目指して

矢野:本日は、ミラノ万博日本館の協賛メリットの一つ、ジャパンサローネについてお伺いします。2012年にミラノ万博日本館総合プロデュース業務、展示設計・施工監理業務の公示がジェトロからあり、その時点でどのようにこの発想が生まれたか、福井総合プロデューサーからまずお話しいただければと思います。

福井:2005年の愛知万博(愛・地球博)が、「地球的課題に対するソリューションを持って集まろう」という新しい21世紀型万博像を提示しました。
このことによって、これまでの国威発揚型の表現や技術・サービスの見本市的な訴求に代わって、地球的課題に対するソリューションを提示する新しい万博ムーブメントが起こりました。

しかし、万博には、次の時代を創造する技術革新や新しい産業システムの提案の場であるというDNAは、依然として生きていますね。ミラノはもともと世界的なビジネス・サロン(サローネ)の街なんです。

例えば、毎年開かれる国際的なインテリアのビジネスショーである「ミラノサローネ」の見本市会場では統一テーマに基づいたデザインコンセプトのプレゼンテーションを行いますが、実際のお客さまとのビジネス交渉はミラノの中心街で独自に展開しています。
このBtoB のミラノスタイルを踏まえれば、「食と農」に関するB to B の場となる「ジャパンサローネ」をミラノ市内にセットすることは、理にかなっていたと思います。

山口:ミラノ万博の総合プロデュースの提案以外で電通だけが協賛社のビジネス展開までも提案をしていた。

福井:国際社会と協働で、万博のテーマに応える日本のイニシアティブを日本館から発信する一方で、ミラノの中心街でBtoB 方式のビジネスサロンを行うことで、多様性と厚みを持ったジャパンプレゼンテーションが展開できると考えていました。

矢野:そうすると、昨年ブラジルでのFIFAワールドカップでもトライしましたが、今後はオリンピックやワールドカップなど、それぞれの協賛社の権利関係もあるかもしれませんが、国際的なイベントの場において必ずサロン的なものもセットして、ジャパンプレゼンテーションを展開していくという形が普通になっていきそうですね。

福井:そうですね。国際博覧会の場だけでなく、国連や国際機関が推進するビッグイベントの場や、オリンピックのような国際的なNGOが推進するイベントの場を活用できますね。

作田:今回はまず、いろいろな与件、例えば企業がやりたい、あるいはやるべきプレゼンテーションを考えたときに、どういうスキームがいいのかなとか、誰がターゲットだろうという話を整理しないといけないなと。そうでないと、何人来たとかのKPIの議論になってしまう。

まず、今回のスキームでは、キープレゼンテーションのスタイルをいくつか、シミュレーションしてみました。

例えば、シンポジウムみたいに大人数に対し広報活動ができるところも欲しいし、食の企業が多かったので、厨房やサーブできる体制の準備も要りますし、商談ができるクローズドなスペースも欲しかったです。

あとは、イタリアサイドでのビジネスマッチング、商工会議所のようなプレーヤーとのコネクトをどうアレンジしていくかというところを、スキームの中に最初から組み込んでつくっていったので、ミラノに足掛かりのない日本企業の方々にもビジネストークができる環境を、少しは用意できたかなと思います。

福井:電通の最大の貢献は、会場となったステッリーネ宮殿を探し当てたということですね。レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた「最後の晩餐」がある教会の前という非常に優れた場所で、最終的にはジャパンデーのレセプションパーティーまでやれたわけですから。

僕は、イベントの場所というのは極めて大事だなと、あらためて確認しました。

作田:最初は小さいところから探したのですが、山口室長が「大は小を兼ねるんだ!」と決断してくださった。

山口:清水の舞台から飛び降りた感じですよね。場所は難しいですよ、本当に。人気のある場所は手狭で、手狭な場所だとスケール感が出なくて、かといって実力以上の広さ、郊外の展示場みたいなところでやっても違うし。なかなか難しいですね、場所は。

福井:ジャパンサローネにやって来たミラノの人たちが、「ステッリーネ宮殿って、こんなことができるんだ」驚いていましたね。もしかしたら、来年以降のミラノサローネで、重要なBtoB の場として活用されていく予感がしますね。

 

農業は世界的には「成長産業」

福井:ジャパンサローネの目的は、日本の食と農の本当の魅力と価値をPRすることでした。政府と産業界が一体となって、日本の食と農の価値を体験していただく総合的な場をセットする。その協働の舞台の上で、JAならJAのやり方、味の素やキッコーマンのやり方、日本商工会連合会のやり方、NHKのやり方、観光庁のやり方など、それぞれの方法で展示や実演を頑張っていました。
試行錯誤があったと思いますが、この経験は大きな財産になると思います。

作田:例えば肉では農水省を中心に官民一体でテーマ化するというような、戦略的な形がとれたのは重要で、日本として打ち出すのはこれだ、というダイナミックな見え方になったのが醍醐味だと思います。

山口:私は、次の産業づくりのための万博にしたいという気持ちがあって。
例えば外食の海外展開元年だとか、そういうような形にしたいと。農水省でいうと本当は農産物の輸出が大事ということかもしれないけれど、実は農業システム自 体の輸出が重要。日本は確かに人口も減っていくから農業や食料の市場は小さくなってくるけれど、世界的には人口が増えて経済規模が大きくなってくる。

農業は間違いなく成長産業です。温暖化、気候変動もある中、それに対応するビジネス基盤を新しくつくっていかなきゃいけない、農業政策基盤を。

そのインフラを構成するような、例えばリモートセンシング技術などを、このサローネの場で「新しい農業」として紹介して、世界のビジネスに打って出るような形がつくれるとよかったなという思いがあります。そこは時間がちょっと足りなかったですが。

福井:ただ、日本の優れた食料や農産物の本格的な輸出工作では、おそらくヨーロッパというステージで初めてのチャレンジでしたね。これまでも個別の企業は大変な苦労を重ねてきたのですが、万博やサローネの場で政府と民間が協力してプレゼンテーションを行ったというのは、次に確実に生きる財産になりますね。

 

ミラノ市中でも行われた、様々な楽しい「ジャパンサローネ」企画

福井:私は、ミラノ市内での二つの出前イベントに立ち会いました。
一つはJAの輸出和牛肉の試食会。ヨーロッパの著名な食文化ジャーナリスト30人ぐらいに集まっていただき、今ヨーロッパで食べられている外国産の「ナンチャッテ和牛」と本格的なJA輸出和牛のどこが違うかのエビデンス・プレゼンテーションをやった後に、シェフが登場し、すき焼き、しゃぶしゃぶ、ステーキを振る舞うイベントでした。食文化ジャーナリストの質問も結構真剣でしたし、試食会も盛り上がりましたね。

もう一つは、日本商工会連合会がやった日本酒の試飲会ですね。若者が大勢集まる運河地区のバーでの挑戦で、イタ飯に合うカクテルを日本酒でオリジナルで作りお客さまに試していただくイベントです。日本酒をただ飲むだけの試飲会ではなく、日常の生活の場に持ち込むユニークな試みで、バーテンダーとお客さまのやりとりが見られてこちらも楽しかったですよ。

矢野:万博会場からジャパンサローネが飛び出して発展させていったわけですけれど、更に市内の身近な飲食店などで各社・団体がいろんな独自展開をしたということですね。

福井:一方、日本館のフードコートでも日本フードサービス協会と出店社の皆さんが、食のバリューチェーン構築に日々汗を流していますね。
今流行している名前だけの「ナンチャッテ和食」ではなく、本格的な日本食の魅力を体験していただくためには、食料の輸出過程、流通過程、保存プロセス、調理加工手法、注文や配膳のホスピタリティー、お金の管理全てに最適なバリューチェーンを構築する必要があります。日々の改善の努力が、この半年間の万博の後にもヨーロッパの中で生き続ける可能性をとても強く感じています。

山口:昨年のジャパンプレゼンテーション事業では、電通もご苦労されていたように、企業を入れなきゃいけないんですけれど、企業を引き入れていくためには国が本当にきちんと入らなきゃだめだなとあらためて分かり、今回は内閣府、総務省、観光庁、経産省からそれぞれ相当のお金も投入いただいて、事業として成立させた。

そういう意味で価値共創といいますか、企業と国が一体となって価値を新しく創造していくような取り組みをしていかないと、実際の国際ビジネスにはつながらないし、本当のブランドづくりにはならない。ちゃんと上手に反省もしながら、大きな国際イベントのたびごとにやっていくことが大事ですね。

福井:オールジャパンの体制で、日本の優れた食と農の魅力を、ある全体性として表現することに初挑戦して手応えを感じているでしょう。それを政府と民間企業とNGOが連携して、価値共創的なプロジェクトに仕上げることができた。

もともと国際博覧会が持っているビジネスブレークスルーというDNAをわれわれは忘れてはいけないですね。日本政府の日本館出展事業への協賛協力は、おそらく表示するロゴの大きさがどうこうとか、優先入場の機会や人数がどうのこうのではない、新しい官民連携の仕組みづくりの地平に入ったと僕は思います。

矢野:また、日本酒に関しても今回力を入れましたよね。

山口:やはりヨーロッパの人に日本酒を飲んでいただくためには、ヨーロッパの人で日本酒をちゃんとわかっている人が、ヨーロッパの人の味覚に合うようなものを出さなきゃいけない。
そのとき1種類のお酒だけでやっても「なに、それ」だけど、そこに20ぐらいお酒があれば「これにはこうで、でもこの味はこうだから、こうなのね」となります。比較があると全然深みが違ってくる。

作田:大きい酒蔵は少ないですから、ミラノまで行くのは相当な投資になるわけです。その投資を生かすためにも国と一緒にやっている安心感は必要ですね。

あと、日本酒というある種のカテゴリーの打ち出し方、楽しみ方。ワインが日本の食卓に入ってきた歴史を考えると、バリエーションや味の違い、そのタイプ別につまみや食事などとの相性があることなどをプレゼンテーションすることが大事ですね。

矢野:イタリアの地元の食材と合わせての見せ方だったり。

福井:これから日本は少子高齢化社会がますます進んでいく。日本の優れた農産物と食料品を海外に売っていき、逆に海外から訪れる多くの人々に日本の優れた食文化を味わい楽しんでいただくという、アウトバウンド&インバウンド戦略が必須ですよね。