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コンテンツマーケティングの現場からNo.17

エピックなブランドストーリーに
向かうために

2015/09/30

前回は、コンテンツマーケティングの評価という視点から、データとクリエーティブの関係について紹介をしました。今回は未来の話も含めて、私たちがこれから目指す方向について語っていきたいと思います。

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左から、佐伯 諭氏、郡司 晶子氏、八木 克全氏
 

郡司:私たちがやろうとしているコンテンツマーケティングって、実は八木さんたちがやろうとしている「マーケティングシステム」の一番表側の表皮みたいなものかなと思ったりしているんですが、いかがですか?

八木:マーケティングシステムは、「顧客と企業をつなぐシステム」と「システムが回ることでたまるデータを中心にマーケティング活用できるデータベース」という2つの要素からできているんですね。

郡司:少し詳しくお話ししていただいていいですか?

八木:これって3つのことを高度化していくことになるんです。
1つ目は「複数の顧客セグメントへの同時対応」です。事前に決めたターゲットに対して準備していた施策を打つのみでなく、複数の顧客ごとに、必要なタイミングで必要なコンテンツを打ち分けることができるようになります。これは、顧客と企業がつながり、顧客の状態をリアルタイムで判断することで実現できます。

2つ目は、「体験の蓄積を記憶した顧客対応」です。顧客ごとに、体験をデータベースに保存しておくことができるので、顧客に何らかの体験を提供したら、次は、その体験を前提にした最適な体験を提供できるようになっています。現在はテクノロジーを活用して、人手では対応しにくい、例えば500パターンといったコンテンツの出し分けを実現していますし、オンライン上でどんなコンテンツを見たかを前提にオフラインでの接客を支援する、といったことも可能になってきます。

3つ目は、「統合化したデータを背景にしたプランニング」です。さまざまなデータを統合化することで、顧客をより精緻に理解できるようになっています。どういうコンテンツを体験した顧客がどういう気持ちになるか、どのような行動をするか、時には統計的な手法が必要ですが、顧客を広く/深く理解できるようになり、顧客全員に、個別対応するコミュニケーション施策を運用することができるようになります。
例えば、成田空港にどこの国の方がどれくらい来るかのオープンデータと、サイトコンテンツ言語別閲覧状況データと、百貨店の国別売り上げデータがあれば、成田空港の国別入国者数データから、6時間後の銀座の百貨店のサイネージと店頭でのプロモーションや外国語対応スタッフの動員計画をコントロールして、売り上げを最適化するといったことが可能になるかもしれません。

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郡司:それが全部実現できたら、ものすごいブランドストーリーになりますよね。

八木:でも重要なのは、マーケティングシステムの導入はあくまで手段ということです。目的は、顧客にどのようなブランド体験をさせるかということ。そして、そのコアには、体験提供としてのコンテンツマーケティングが位置していると、僕は考えています。

郡司:コンテンツマーケティングでも「カスタマーエクスペリエンスに向かう」という話が出ています。ブランドのロイヤルティーをつくっていくのは、コンテンツ体験なのだ、と。確かに私の関わっている仕事でも、一義的には商品体験だけれどそれと同じくらいコンテンツ体験がブランドロイヤルティーの向上に深く関連していることが見えてきています。

八木:コンテンツがどのメディアを経由して顧客に届くかによっても変わりますよね。ある企業の話ですが、コールセンターの方の対応が素晴らしくて、お金を払って買っているユーザーの方がお礼の手紙を送るようなことが起きているそうです。同じやりとりをメールやチャットで実施していたとしたら、こういう結果になるでしょうか。このようにコールセンターの方々との対話も体験だから、体験のためのコンテンツを何にするかと、どのメディアを通して顧客に届けていくかが大きなポイントになっていくと思います。

郡司:会員制のサイトでいろいろ企画していて分かったのですけれど、実は、ユーザーの反応が案外良いのは、企業の姿勢が見えたときなんです。例えば、一人一人のコメントやアイデアを取り上げたり、丁寧に応えているような企画には称賛の声が寄せられることが多いです。
そういう企業の振る舞いのようなものが、ウェブ上のコンテンツとして表現される場合もあれば、コールセンターのように直接伝えられる場合もあるということではないかと思います。

佐伯:企業がどういうふうに商品をつくっているかは、その会社の社員に伝わらなきゃいけないし、さらにその企業のつくり手としての思いを消費者にも伝えることが、今の時代は大事なのだろうなと思います。

郡司:でも、そういう企業の振る舞い方がよくできている、できていない、みたいなことは計測できないですよね?

佐伯:それこそ消費者調査の原点であるグループインタビューだとか、NPSみたいな仕掛けでできるんじゃないですか。今、あるグローバルテクノロジー会社は社員にリストバンドを配って、社員の幸福度を生体情報でとることに挑戦しているそうです。「あいつ、楽しんでプログラムしているなあ」とか、「あいつ、忙しく動き回ってセールスして成績いいなあ」といったことを、リストバンドだけでとれるのではないかと。

郡司:じゃあユーザーにそれを着ける(笑)。でもそれができたら、行動とマインドの変化を同時に取れそうですごいですね。

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佐伯:その人がどういうコンテンツを見ているか。それこそ一人の人のコンテンツ閲読履歴を追い掛けていくと、その人の潜在的な関心のポイントが分かってきます。

八木:広告会社の仕事って、潜在的なニーズを発見して、心が動くアイデアで顕在化させていくということだと、改めて思いますし、データで人が見える時代だからこそ、こういうことが改めて重要であるのでしょうね。

郡司:コピーライターのトレーニングではいちばん最初に「そのコピーに発見があるかどうか」をたたき込まれます。それってつまりユーザーの中でボヤッとしている潜在的なニーズや価値を言葉によって可視化するということ。昔のコピーライターは上手でしたよね。「旅に出る服は、写真に残る服だ。」とか「時は流れない。それは積み重なる。」とか。

佐伯:でも、デジタルマーケティングが流行するようになってから、どうしても顕在層へのアプローチが優先されるように思えますよね。

八木:そう。ある業界の話なのですが、ずっと市場が成長していて、売り上げが上がり続けてきたのに、半年前ぐらいに急に頭を打ったんです。そうしたらそこから立て直せなくなった。たぶん、新しいものを積極的に採用するユーザーは獲得できたのだけれど、違うポイントで購買意思決定する、比較的慎重なユーザーや懐疑的なユーザーへ裾野を拡大することができなかったのではないかと思います。

郡司:次の顧客を育てていなかったのですよね。

佐伯:デジタルを活用するときでも、ニーズの顕在層と潜在層とは分けて考える必要があると思うんです。顕在層に対してのマーケティングは、かなり突き詰められてきた感じはあるのですけれど、潜在層を掘り起こしていくところは、市場が成熟する中でやはりブランディングなどの中・長期的な戦略が改めて重要視され始めていると思います。

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郡司:コンテンツマーケティングって、需要をつくっていくときにこそ必要といわれているのですけれど、顕在層だけでなく潜在層にも目を向けていかなきゃ、というデジタルマーケティングサイドの課題ともちょうど合致したということなのですね。きっと。

八木:もうひとつ。“商品のサービス化”という大きなトレンドの中で、モノを買う前だけではなくて買った後も体験を提供し続けたい、と企業が思い始めていることとも関係があると思います。特にスマートフォンやインターネットサービスなどの分野では、そのプラットフォームでコンテンツを提供したり、新サービスを投入するといったことが普通になっています。

郡司:それはIT分野にとどまらず、他の分野にも広がっていくということですよね。

八木:さまざまなモノがインターネットにつながっていくといわれている、モノのインターネット(IoT)化の世界がひとつの例ですよね。実際、家電や自動車などは既にインターネットにつながっていろいろなサービスを提供し始めています。そうすると、その商品を使って体験していることが情報として蓄積され、資産化されていくことになるのです。

郡司:そのデータをどうためて、どう使っていくかが「マーケティングシステム」ということなのですよね?

八木:そうなんです。コンテンツマーケティングの時代だなと思うのは、リアル世界の行動がどんどんデジタルで捕捉できるようになってきており、どのユーザーが、どのコンテンツを体験して、どう購買につながったかということが、結構分かるようになってきていているんですね。その時に、気持ちも行動も変えることができるコンテンツの重要度が間違いなく増していると思います。

佐伯:お二人の話を聞いていたら、企業が好きとかブランドが好きとか、好意度みたいなものが一番根底にあって、それが今後の普遍的なKPIになっていくんだろうなとちょっと思いました。これだけ市場が飽和状態になってくると、モノ自体での差別化が難しくなり、むしろブランドへの好意度が売れ行きに影響してくる時代に一部ではなっていくんでしょうね。今現在でも、多変量解析などの統計手法を使うと、売り上げに対し、好意度や純粋想起などのブランド要因が一定以上の貢献度で重要である、という答えになります。たとえダイレクトクライアントでも。この「好意度」について、デジタルマーケティングやデータにどっぷりはまっている人間ももっと真剣に取り組まなければならない時代になるのだと思います。

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【Gunji's eye】

コンテンツマーケティングという言葉を、単なるオウンドメディアを核とした企業からの情報発信という側面だけではなく、もっと大きな視野から捉えてみたときに何が見えるのか。どんなことが可能になっていくのか。八木さん、佐伯さんとここ数カ月、現場で一緒に作業をやりながら議論してきたことの一部をご紹介いたしました。
壮大なブランドストーリーは、クリエーティビティーだけでは実現しません。ビッグデータやマーケティングテクノロジーの支えのもと、生活者が欲しいコンテンツを欲しいタイミングで提供しながらブランド体験を蓄積していく。それをどんなチームで、どんな段取りで、どんなやり方で進めたら絶え間なく続けていけるのか。理想のカタチを目指して、マーケティングシステムチーム、データチーム、コンテンツチームはこれからもますます連携して動いていきたいと思っています。