Brand Talks #04

ブランドをつくるメディアの未来(後編)

  • Profile imada
    今田 素子
    株式会社インフォバーン/株式会社メディアジーン CEO・ファウンダー
  • Profile hoshino
    星野 裕子
    フィナンシャル・タイムズ コマーシャルディレクター アジアパシフィック/日本代表
  • 33
    小西 圭介
    株式会社電通 マーケティングソリューション局 コンサルティング・ディレクター

前回に続き、積極的なデジタル戦略を加速するデジタルメディア企業のお二人と、ブランドをつくるメディアの未来形について議論していきます。

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左から、小西圭介氏(電通)、今田素子氏(インフォバーン/メディアジーン)、星野裕子氏(フィナンシャル・タイムズ
 

デジタルメディアはブランディングにどのように貢献できるか?

 

小西:さて、続いて広告メディアとしての取り組みや戦略についてお聞かせください。デジタルメディアの課題として、効果を数字で測定できるがゆえにCPM、CTRなどが目的化して、バナー広告は効率ばかりが重視されコスト競争に陥る悪循環にはまってしまった。その結果デジタルではブランディングができなくなった、という問題点に広告主もメディアも気づいてから、ネイティブ広告や動画など、改めてブランディングのための広告のあり方が見直されてきたと思いますが。

星野:FTは広告メディアとしては専門性・ニッチ性を生かしてイノベーションを起こしやすい立場にあると思います。他がやっていないことを独自に始めてもついてきてくれる読者と、ブランド広告主の基盤の強みがあるからです。最近では記事の意味分析(単なるキーワードマッチングではなく、記事の意味を理解して関連した広告を配信する)で広告を出したり、CPM(Cost Per Mill:千回当たり広告表示コスト)ではなくCPH(Cost Per Hour:広告視聴時間ベースの課金)で広告を出すことで効果を挙げたりと、メディア独自の広告価値を高める取り組みをしています。単純なバナー広告だと効果は広告内容に依存してしまうのでCTR(クリック率)保証は難しいですが、意味分析のようなネイティブ広告だと4倍の保証が可能だったりと、自社のマッチング技術などでメディアとしての価値を高められることが分かっています。

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小西:「ビューアビリティ」(広告が実際にきちんと閲覧できる形でどれだけ表示されているか)は、最近デジタルメディアの重要な問題になっています。FTのスタートしたCPH 課金はそれに応えるもので、実際のデータ検証でも、CPHとブランド認知・興味などブランドリフト指標の相関の高さは非常に興味深いですね(図参照)。そもそも、アナログメディアでも広告がどれだけの時間見られているかは実は検証されていないわけです。デジタルメディアは成長過渡期でありながら、新しい指標を生み出している部分もあります。

今田:うちの場合は、ディスプレー広告には正直以前からあまり注力しなくなっていて、3~4年前からコンテンツマーケティングを主眼に置いてきました。特にアドテクの波が来て第三者配信を導入してから、メディアのブランド価値と枠が切り離されてしまい、単なる広告枠の在庫として単価が下落し、メディアのコスト競争に陥ってしまったからです。しかしコンテンツマーケティングにおいては、つくる面倒くささと、KPIの設定が難しいというハードルがありました。アトリビューション分析(メディア接触の直接的な反応・行動だけでなく、すべての接触経路の解析から、間接効果としての貢献度をはかる分析)やブランドリフト測定など、いろいろやってきたのですが、最近コンテンツを開発するだけでなく、自社メディアのスポンサードポストに外部メディアも含むレコメンデーションネットワークをプラスする提案を始めたところ、オンラインに加えて店頭で実際にモノが動くなど、ようやく成功モデルが出てきました。

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小西:なるほど。つくったコンテンツの外部メディア配信まで一貫して提供してリーチと効率を最大化することで、効果が高められたわけですね。その意味では、インフォバーン(オウンドメディアなどのコンテンツ事業)とメディアジーン(メディア事業)を両方展開しているシナジーが効果的に発揮されていますね。

今田:インフォバーンとメディアジーンはもともと独立して事業を行ってきましたが、近年、コンテンツを軸にしたトリプルメディア(オウンド・アーンド・ペイド・メディア)戦略のニーズが高まってきたことで、開発したコンテンツのメディア展開やレコメンドなどの連携がより重要になってきました。最近ホールディングス化したのも、こうしたシナジーを強化する目的があるからです。

スマホ広告が安いのは旧来の広告「枠」発想の悪弊

 

小西:最近のデジタルメディアの課題として、ユーザーのスマホシフトでメディアや広告フォーマットも変化を求められ、また広告単価が下がる傾向がありますが、その対応についてはいかがですか。

今田:その点では、コンテンツマーケティングはスマホでも値段が変わらないからいいわけです。メディア枠ではなくコンテンツ自体の価値を強化する。今後アドブロック(広告を遮断する技術)が広まるリスク対策も考えていく上でもコンテンツがより重要になってくると思います。
一方、メディアのレスポンシブデザイン(スクリーンに合わせて表示を最適化するデザイン)についてもいろいろ考え方があります。グーグルの検索対応などではサイトを一本化した方がいいわけですが、メディアのユーザー体験としては分けた方がいい場合もあると思います。

星野:FTのスマホメディア戦略という点では、今度モバイルとデスクトップの各スクリーンでの広告単価を統一する予定です。すなわちメディアにかかわらず、Cクラスのオーディンスデータを活用して視聴時間を何時間買う、といった発想で提供していくわけです。オーディエンスデータの価値はイコールですから、広告表示サイズではなくデータクオリティーなんだと。同時にフラッシュをやめて完全HTML対応になることで、スマホとパソコンを統一した形で配信できるようにしていきます。

hoshino
 

小西:確かに、スマホの広告が表示サイズの小ささという理由で安くなっているのは、旧来の広告「枠」的なメディア発想の悪弊ですね。オーディエンスデータの活用は、デジタルメディアにおいて必須の戦略視点だと思います。
さて、メディア企業の持つ強み・資産にはブランド、流通プラットフォーム、顧客基盤、コンテンツなどがあると思いますが、今後どこを伸ばしていけば成長ポテンシャルがあると思いますか。

DMPを活用しないメディアに未来はない

 

星野:FTの場合、顧客のデータが最も価値が高いと思います。アドテクをメディア主導でコントロールするために、自社内にDSPデスクも持っています。FTの顧客データでレイヤーをかけて、他のウェブサイトにいるFTユーザーに拡張しています。広告主にはセグメントを選んでデータフィーを支払ってもらって、他のウェブサイトにいるターゲットを選んでもらって配信コストを効率化できるわけです。コスト効率も良くて、ロストインネットワーク(広告を誰に配信しているか分からない状態)にならない。

今田:私もそう思います。これからのメディアは自社でDMPを入れないと生き残るのは難しい。残念ながら既存のパブリッシャーで導入しているところは数少ないのですが、今後メディアは、自社のオーディエンスデータを活用しないと単なる枠売りになってしまい、メディア価値を高めていけないと思います。
結局アドテクを使うにも、使われてしまうのではなく、メディア主導でアドテクを使って、メディアのブランド価値向上に結びつけていくべきだと考えます。

小西:顧客資産・マーケティングデータを握ることがこれからのメディアの価値を高める生命線ということですね。
顧客資産の生み出す価値をどう高めるかという点では、もっといろいろなアプローチがあるように思います。例えばNewsPicksなどは、読者コミュニティーを形成してレビュアーを活用した情報の二次波及効果を生み出すなど、ユーザーを巻き込みながら新しいメディアの価値をつくる取り組みをしていると思います。

星野:あれは面白いですね。記事より先にレビューが表示されて、それを読むことでニュース記事自体を読みたくなる。FTの場合は、著名コラムニストなどの個人の書き手の情報波及効果も差別化要素になっているわけですが。

「ステマ」を超えて:ブランドとメディアのパートナーシップのかたち

 

小西:最近、記事広告にスポンサー表示をしない「ステマ」(ステルスマーケティング)が問題になっていますが、業界ルールの順守は最低限のことです。その上で、アウトプットが広告であろうが、記事コンテンツであろうが、ブランドがいかに当該カテゴリの専門性を生かし、顧客にインフォマティブ(有益な情報を提供してくれる)な価値を高められるかが重要になっていると思います。今まではプロダクトやサービスを中心にその価値を提供していたものが、顧客と直接つながり、コンテンツを通じてユーザーに価値を提供していく可能性が大きく拡大してきた。このようにオウンドメディアへの注目が拡大していますが、こうした戦略視点からも、メディアの持っている力を借りることがより重要になっているのではないでしょうか。

今田:ブランドとメディアはかつてないほど距離が近づいていると思います。オウンドメディア戦略を強化するためにメディアを買えばいい、という話ではなく、むしろ読者とのエンゲージメントを持った客観的で専門性の高いメディアとしてのコンテンツパブリッシャーの存在意義や役割は高まっているように思います。近年、メディア業界ではネイティブ広告が熱くなっていますが、それが自分たちの強みを伸ばして生きる道だから。パブリッシャーとしてはコンテンツビジネスを伸ばしていきたいと思います。

imada
 

小西:ブランドとメディアのパートナーシップのチャンスが広がっているという認識ですね。メディアの専門性・権威性を生かした広告やコンテンツを通じて、企業のブランド価値を高めるシナジーを生み出す。デジタルメディアがもっとブランディングに貢献するために、ブランド広告主もメディアを育てる支援をしてほしいと思います。

星野:そうですね。FTは自らメディア価値を高めるイノベーションをリードすることで、ブランドとともに価値を生み出す取り組みをさらに拡大していきたいと思います。個人的には、日本のブランド広告主がもっと新しい取り組みに躊躇しないで、ぜひチャレンジしてほしいと思います。

小西:本日は非常に有意義なお話、ありがとうございました。

プロフィール

  • Profile imada
    今田 素子
    株式会社インフォバーン/株式会社メディアジーン CEO・ファウンダー

    インフォバーン代表取締役CEO・ファウンダー、株式会社メディアジーン代表取締役CEO・ファウンダー。
    出版業界で書籍・雑誌の編集発行・海外版権交渉などに関わった後、ワイアード日本版の立ち上げおよびビジネス・マネージャーを務める。その後独立し、1998年インフォバーンを設立し、企業のコンテンツマーケティング戦略をサポート。戦略立案、オウンドメディア構築・制作・運営を行う。2008年メディアジーンを設立。GIZMODO JAPAN、lifehacker日本版などのブログメディアや、cafeglobe、MYLOHAS、GLITTYなど女性メディアを含む8つのメディアを運営するメディア企業として、ネイティブアドをはじめとしたコンテンツデリバリーの施策を提供。インフォバーングループとして、コンテンツマーケティングにフォーカスしたデジタルコミュニケーション全般に対し、戦略立案、コンテンツ企画制作、メディア運営からディストリビューションのためのメディアプランニングまでを一気通貫で提供している。

  • Profile hoshino
    星野 裕子
    フィナンシャル・タイムズ コマーシャルディレクター アジアパシフィック/日本代表

    2000年フィナンシャル・タイムズ(FT)に入社。2006年からFTのアジア地域のデジタルコマーシャルディレクターを務める。2007年1月から日本代表を兼任。現在、東京で日本支社の陣頭指揮をとるとともに、FT.comの広告販売とアジア全域におけるインターネット業務を統括する。

  • 33
    小西 圭介
    株式会社電通 マーケティングソリューション局 コンサルティング・ディレクター

    1993年入社。2002年米国プロフェット社に出向し、デービッド・アーカー氏らとグローバル企業のブランド戦略構築に携わる。現在はコンサルティング・ディレクターとして、数多くのクライアントのブランド・マーケティング戦略サポートを行うとともに、多数の講演、執筆などで、デジタル時代の新しいブランドおよびマーケティング戦略モデルを提唱している。著書「ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略」、訳書に「顧客生涯価値のデータベースマーケティング」(いずれもダイヤモンド社)他。

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