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「スマホと日本人」No.3

「ニュース」「メディア」はどう変わる?

2015/10/02

スマートフォン(スマホ)が日本人の暮らしを大きく変えようとしている。その変化が特徴的に表れているのが、メディアとニュースにまつわる情報行動だ。ビデオリサーチ(VR)と電通総研の調査から浮き彫りになった「イマドキのメディア事情」を担当者たちが語った。


電通・奥:今年はネットニュースが誕生してから20周年という節目といえる年です。そして前回「スマホと日本人」(本紙6月号)でも紹介した通り、スマホが私たちの生活、とりわけメディアやニュースを取り巻く環境を大きく変容させている。われわれはこうした問題意識を持ってビデオリサーチと調査を続けています。

電通・美和:まずネットを活用するニュースメディアの変遷を読み手の動きを含めて概観したのが上の年表です。このようにネットニュースは5年もたてば新しい動きが盛衰している。そして現在の環境を変化させている一要因がスマホであると、私たちは考えています。

VR・渡辺:前回の「スマホと日本人」では、LINEをハブにして、10秒以内に別のアプリ、そしてLINE、また別のアプリといった利用行動をしているという実態をご紹介しました。ティーンや20〜30歳代は、非常に忙しくコミュニケーションしながらニュースなどの情報に触れている。今回実施した調査「キュレーション時代のニュースとメディアのゆくえ」は、どんなメディアが見られ、どんな情報が消費されているかにニュースという切り口から迫りました。

電通・天野:ポイントは、人々が頼りにする情報源のバリエーションを分析し、従来のメディアとのすみ分け関係がいかに更新されたのか、そしてユーザーのメディア行動にまつわる動機や特徴はどんなものなのかを考察していることです。

渡辺:最初に、ここ5年くらいのネットのニュースメディアを中心とした状況を簡単に振り返っておきます。まず2010年前後から、さまざまな分野の出来事に、目利きの能力を持つ個人が自分の解説を加え、ツイッターなどのフォロワーに発信する「キュレーション」と呼ばれる活動が注目され始めました。また、同時期に「まとめサイト」が普及し始めます。さらに続いて、ネットの評判や話題性などの指標で自動判別してパッケージで提供する「キュレーションメディア」が現れます。こうしたものがニュースやメディアを取り巻く環境に、どんな影響を与えているかというのが入り口です。加えて今回は、私も所属するビデオリサーチの「VRわかものラボ」のメンバーである岸本と石倉も加えて、スマートフォン時代のニュースを取り巻く状況をお話ししていきます。

進むニュースのカジュアル化
身近なことがニュースバリューを持つ時代へ

 
渡辺:
今回の調査は、今年3月に、全国で「中学生を除く15〜69歳」を対象に、有効サンプル4367人を得た結果をまとめています。まず各種メディアを71種類に仕分け、それぞれ「何を頼りにするか」を尋ね、その結果から13種類に再分類しました。

美和:その結果、全般的にはテレビや新聞が「頼りにしている情報源」として上位なのですが、2位に入ったYahoo!ニュースなどのポータルのニュースサイトをはじめ多くのネットメディアも上位となりました。さらに再分類した13種類のメディアで年代ごとの傾向を分析すると、30歳代まではネットを、50歳代以上は地上波や新聞・雑誌などを頼りにしていることが分かってきました。

奥:その分水嶺は40歳代。ネットニュースが誕生した20年前に20歳代だった人が、既存メディアも含めてバランス良く接していることが見えてきます。

天野:見方を変えると、今後はネットを頼りにする層が多数派を占めることも見通せます。この他若い世代、例えば20歳代では、4位に「ウィキペディアなどの参加型情報集約サイト」、7位に「まとめサイト」、13位に「ネタ・話題系ニュースサイト」が入るなど、頼りにするメディアが多岐にわたるだけでなく、ニュースという言葉の定義が拡張していることを示唆しています。10歳代や30歳代も似た状況です。

奥:ニュースがニュースではないんですよね。これは私が講演などで4〜5年前から触れているんですが、今の若者は半径3㍍くらいの身の回りのこと、具体的には「かわいい犬の動画を見つけた」「友達に彼氏ができた」といったこともニュースで、われわれがニュースと言っているテレビや新聞で取り上げることは、「世の中で起きてる出来事」として区別している。自分に身近なことがニュースで、それ以外は世の中の出来事。これが裏付けられたような結果です。

VR・岸本:VRわかものラボが今年7月に、若者対象のワークショップで頭の中のメディアのシェアを問うアンケートを行いました。すると、テレビや新聞と並び、LINEやポータルのニュースサイトの名前が挙がってきました。従来この手の調査ではテレビや新聞などのマスメディア以外はインターネットなどといった抽象的な表現になることが多く、サービスやアプリの固有名詞が次々と出てくることはなかったんです。

渡辺:これは最近ならではの傾向で、スマホの画面では、全てのサービスがアプリのアイコンでフラットに並んでいます。これが原因かもしれません。

奥:SNSやキュレーションメディアによってあらゆる出来事がニュースとしてフラットに消費されていて、政治経済や社会的事件に関する出来事と、今日はお昼にオムライスを食べたといったことが、若者には等価値の情報に見えているかのようです。

岸本:ただ付け加えておくと、この調査はマインドシェアを示したものなので、テレビを見ていないという話にはなりません。テレビと接触している時間の方が長くても、アプリを使っている方が意識されやすいわけですから。

渡辺:商品の認知経路を聞いても、やはりテレビCMの圧倒的な強さが分かり、意識しているか否かとは分けて考える必要があるのでしょう。

奥:ネットの情報は能動的に取りに行かないと接触できないし、調べたいことがあればキーワードを入力して検索する必要がある。でも知らないことは探せないし、探そうともしない。その意味で、テレビは「お知らせ」ができるメディアとしての役割が重要なんですね。

岸本:芸能人の名前なども、やはりテレビ発ですね。モデルさんのインスタグラム(写真投稿型のSNS)を見るとすぐフォローをする女のコでも、それは本人の周りだけで広がりはない。

美和:似たようなことはネット上でオピニオンや解説をよく発信している「ネット論壇人」の知名度を聞いた調査でも明らかになりました。50人程度の固有名詞を挙げながら認知を聞いたんですが、10%以上が知っていると答える方は、実はテレビに出演している。逆に、鋭いオピニオンを発信している方でも、テレビに出ていないと認知が極端に下がります。

奥:誰が、いつ、どんな情報を出しているかへの関心が薄い傾向があるといえるでしょう。テレビや新聞では普通に行われていた5W1Hで伝えるという作法が崩れ、自分たちの興味関心だけを取捨選択してニュースとしていく。典型的なのは、SNSで定期的に出回る美談。知っている人は、この話が広まるのは何回目?という感じなんですが、初めて接した人からすると、それはニュースだし、その周囲で知られていなければ拡散されていく感じですね。

各クラスターの典型イメージ:1.流行・トレンド情報に敏感な若年男性 2.ネット上の情報インプットが得意な学歴高めの未婚男女 3.情報収集欲旺盛な中高年ホワイトカラー 4.地方に住む安定重視の中年男性 5.生活こだわり重視の地方在住女性 6.ネット時代の新しいフォロワー女性像 7.昔とさほど変わらない普通の家庭風景 8.メディア接触は平均的ながら関心が低い層

情報高関与でも、社会的関心が希薄なクラスターの出現

 
渡辺:
今回の調査では、「頼りにしている情報源」を調べただけでなく、前述の13種類のメディアを利用するパターンの特徴から、似た人たちをグループ化しました。①情報高関与(約5.8%)②ネット情報重視(約3.4%)③デジタル版メディア(約6.6%)④マスメディア親和(約5.6%)⑤ライフスタイル情報(約10.1%)⑥ネット情報ライト利用(約16.6%)⑦地上波テレビ(約22.4%)⑧メディア低関与(約29.4%)という八つです。

美和:この8グループの人々が、どんな傾向があるかも調べています。その一つが「興味関心のある分野のニュースに接する際の動機や理由」です。個人の趣味や生活上の関心からニュースに触れる「個人的動機」、「テレビで言ってた◯◯って、どう?」などと人付き合いを円滑にする動機でニュースに触れる「協調的動機」、公共的・市民的関心を周囲に示そうとしてニュースに接する「社会的動機」を想定して、情報高関与層などが、どんな動機でニュースに触れるかなども見えてきています。

渡辺:情報高関与グループは、個人的動機でニュースに触れ始め、リテラシーが高いためオリジナルソースにたどり着くなどして深く情報を知ることができてしまう。個別情報を掘り下げ過ぎてしまうゆえ、世の中の出来事が抜け落ちるといったことになる。この層は全メディアの中でテレビの関与が唯一平均を下回ります。

VR・石倉:私たちが調査をする中で次のような事例がありました。東京・調布飛行場から飛び立った飛行機が墜落した事故が7月にありました。その数日後、大学生たちへ聞き取り調査をしたときのことです。事前に用意したリストを見せて「最近のニュースで知っているものはある?」と聞くと、その事故を知らなかったんです。そして「それを知らなくてまずいなと思わない?」と聞いても、「友達とそういう話をしないから」と関心がなく、興味があるのは学校や友達などのこと。ネットをアクティブに使っているにもかかわらず、社会的関心が薄いのに驚きました。

美和:従来のマスメディアを山々が連なるアルプスのふもとに例えると、各種キュレーションメディアは、そのふもとから分かれた一つ一つの山といえるかもしれません。情報高関与グループは、ネットのリテラシーが高いので尾根を伝って興味関心のあることに到達できる半面、ふもとの方でやりとりされているニュースは自分の周囲で話題になっていない限りは接触しない。情報高関与グループの実態は、こんなイメージだと思います。これがネット情報重視グループになると、バランス良くメディアを選び、社会的動機でニュースに触れている。繰り返しになりますが、リテラシーが高く、情報への接触頻度が高いからといって社会的関心が高いとは言い難い。ネットの普及が必ずしも社会的関心を高めているとはいえず、注意深く観察する必要があるでしょう。

天野:キュレーションメディアを頼りにする若者層には三つの特徴が見られました。一つは政治経済などの時事情報よりもコミックやアニメなどへの関心が高く、興味関心領域がカジュアルであること。次にニュースや情報への接し方や動機は、個人的興味の満足、そして仲間との話題共有の要因が強いこと。最後に、それに関連して、情報行動や消費意識はこだわりよりもトレンドによるところが大きく、仲間や世間の空気を読むことに敏感であるという点を挙げられます。

渡辺:各種メディアの利用目的や利用場面を聞いた調査では、キュレーションメディアとSNSが近い関係だったんですけれど、実は雑誌も近い存在なんです。これは面白い傾向かなと思いました。

美和:06年あたりから「ミドルメディア」と呼ばれる、既存メディアから独立した中規模のテーマサイトが注目されました。ファッション系ニュースサイトなどは独立して成立するといわれ、この頃に趣味情報や雑誌が扱っていた情報がニュース性を帯びてくるといった議論がありましたが、現在はそれがスマホの普及によって加速したという言い方ができるでしょう。見方を変えるなら、人々によって異なる多様な関心に応えられるメディア社会が到来していて、マーケティングに新しい可能性をもたらしている。これは歓迎すべきことのように思います。例えばアニメ発で聖地巡礼ブームが起こったり、マンガに取り上げられたことで特定の地域や職業にスポットが当たるなど、従来のニュースのコンテクストからは出てこないブームが生まれてきている。

ふたこぶラクダのように二極化が進む情報の流通と消費

 
奥:
最後に、調査結果をどう受け止めるかを話していきましょう。

天野:今回の調査では、約20%のメディア高関与層と、それ以外の80%の層がきれいに分かれました。つまり、情報の流通と消費においてもパレートの法則(20:80の法則)が成立し、20%の高関与層に情報が集中的に集まっていく構造が析出されました。

奥:言い換えると、ひとこぶラクダのように中央にボリュームがあるのではなく、ふたこぶラクダのように二極化が進んでいる。よってとりあえず最大公約数であろう中庸を狙って企業のマーケティング戦略を立てていくと、とんでもない結果になってしまう。だから、二極それぞれを別々にターゲティングしていくこと、波及ではなく分断を前提としたコミュニケーション戦略を実施することによって、逆説的に思わぬ結果が生まれるのかもしれません。

渡辺:少し補足をすると、ふたこぶラクダの山にもっと近づいてみると、興味関心ごとの小さな群れがいくつもあって山なりになっている。この揮発性の高い群れをどう捉えるかが核になる。そのキーワードはネットの外部、つまりリアルからのアプローチです。

石倉:これはツイッターの"あるある"みたいなところで言われているんですが、男性は彼女ができるとツイートが少なくなり、女性は彼氏ができるとツイートが増える。リアルでの出来事がネットの行動に変化を与える面がありそうです。

岸本:昔は暇な時にテレビを見るのが習慣でしたが、今はそれがスマホの画面に変わっている。ただ、そこで交わされている話題は、テレビのネタが多い。リアルタイム視聴か否かは別として、テレビがネットの外部の存在として大きいことは変わりませんね。

美和:今回の調査結果はあくまでも今現在の状況で、5年ぐらいたてば間違いなく状況が変わる。この変化している状態を、どう捉え、どうアクションするのか。それには、従来の方法論の見直しも迫られることは強調しておきたいですね。

奥:そこが昭和のマーケティングと、平成のマーケティングの違いで、チャレンジやイノベーションの領域といえるでしょうね。


まとめ!!

座談会でも触れているが、ポイントは変化の過程にあること。まず現状をしっかりと認識し、その上でプランニングし、常にチェックを繰り返し、既成の経験や観念にとらわれないことが肝心だろう。こうした状況が生まれたのは、24時間365日インターネットにつながり続け、いつでもどこでも持ち歩けるスマホでニュースに触れるようになったため。スマホの動向を抜きにしたメディア論は、今後成り立たないのかもしれない。