「スマホと日本人」 #04

「SNS映え」の分析から見えてくる若者の情報行動「シミュラークルモデル」 

  • スマホと日本人

一億総スマホ時代といわれるが、利用者が実際に何をしているかまで踏み込むまなざしを持った調査は決して多くない。ビデオリサーチ(VR)と電通総研の共同チームでは、昨年から積極的にスマートフォン(スマホ)に関する報告を行っている。今回の「スマホと日本人」のテーマは、若者に広がるビジュアルコミュニケーション。スマホのカメラで撮った写真や動画で行うビジュアルコミュニケーションが、若者の消費活動にも影響を与え始めている実態を紹介する。

調査チーム:(左から)ビデオリサーチ マーケティング事業推進局 渡辺庸人氏、ビデオリサーチ マーケティング事業推進局 寺本花菜子氏、電通総研 メディアイノベーション研究部 設樂麻里子氏、電通総研 メディアイノベーション研究部 天野彬氏、電通 マーケティングソリューション局 小泉健二氏
 

スマホの普及が後押ししたビジュアルコミュニケーション

 「スマホ中心の生活が主流になっている現代の若者の情報行動を探る中、特徴的だったのは、写真や動画といった“ビジュアル”をコミュニケーションに使っていることでした。かつて写真や動画は特別なイベントの記録といった意味合いが大きかったのですが、今では感情や状況を人と共有するツールとして使われるようになりました。
その結果、これまではブログや文字中心のSNSが盛んでしたが、今はインスタグラムやツイッター、フェイスブックなど言葉の比重が少ないSNSに変化しています。現役女子大生のオピニオンリーダー組織『ハレ女委員会』では、よく使うSNSを継続的に調べていますが、2012年から13年にかけて文字中心のサービスの利用者がガクッと下がり、ビジュアル中心のサービス(コラム①参照)が主流になっていることが分かっています。
この時期は総務省の調べでもスマホの普及率が6割を超えるなど、分岐点だったと捉えられます。こうした実態を調査することは、若年層はもちろん、今後のスマホユーザーのトレンドを占う上で不可欠な視点と考えています」(電通)

 今回取り上げるビジュアルコミュニケーションが台頭してきた背景には、スマホの普及と、それに伴うカメラ機能の強化、アプリ・サービスの進化が大きく影響している。こうした情報テクノロジー側の発展に伴い、手軽で簡単に共有できる表現力豊かな写真や動画で感情や状況を表すことができるようになってきたことで、文字の重要性が低下していったことが大きい。
このように情報テクノロジーとユーザーニーズとが相関的に共進化する中で、ビジュアルコミュニケーションというトレンドは不可逆的に進展している。そして、それは若い世代を中心としながらも、幅広い年齢層におけるスマホユーザー全般の傾向になっていることを示す調査結果もある。

 「『ビデオリサーチ ひと研究所』のシニアを対象にした調査では、世の中の動きに敏感で積極的に消費生活を楽しむセグメント“ラブ・マイライフ”で、スマホのカメラ・写真アプリや、SNSアプリをアクティブに使う傾向が出ています。若者の場合は目立つ形で表れていますが、シニアの世代でもビジュアルコミュニケーションは静かに浸透し始めていることがうかがえます」(VR)

首都圏大学に通う現役女子大生100人で構成される組織「ハレ女委員会」に 対するSNS利用調査結果から。同委員会は電通がクライアントのプロモー ション支援やメディアのコンテンツ開発を目的として2010年から設立・運営。

SNS映えは若者の行動指標

 ビジュアルコミュニケーションの担い手は、感覚優位な10〜20代の女性ユーザー。スマホや写真アプリ/画像加工アプリを使いこなし、日々のコミュニケーションを感性的でリッチなものにしている。
以前から存在した、プリクラでの写真を加工して見栄え良く「盛る」文化や、写メールを代表とするデジタルで写真をシェアする文化なども背景にある。こうしたビジュアルコミュニケーションにおいてポイントとなるのは「SNS映え」すること。SNS映えは、被写体としてフォトジェニックなモノやコトと、「リア充」ぶりをアピールできるモノやコトという二つの要素に分解できる。
ここで読み取るべき重要なことは、いずれの場合も若者が写真・動画を通じて表現したいことが、そこに写されたモノ自体ではなく、「こんなおしゃれな生活している」「こんなすてきな体験している」というコトの共有である点。こうした体験のシェアが、ユーザー同士互いに「自分もこうありたい」「こんなことがしたい」という憧れ、興味関心、消費意欲を喚起させ合っており、購買や行動のトリガーとして機能している

 「ビジュアルコミュニケーションは、憧れの対象がモノの所有よりもコトの共有であることがポイントです。例えば昨今のハロウィンの盛り上がり(2015年の市場規模は1220億円)は、間違いなく活発なビジュアルコミュニケーションに支えられたもので、盛ることとシェアすることの楽しさがイベントをドライブさせました」(電通)

 スマホ上でのコミュニケーションの中心が文字からビジュアルに移行したことで変化した、若者の情報発信スタイルにも注目したい。数年前まで、日々のログはブログなど言葉で思いをつづる「日記型」が主流であったが、今は写真・動画がメーンの「アルバム型」に変化してきている。ここで特徴的なことは、投稿時に写真に添えられる言葉には、真の感情(特に負の感情)は語られず、端的な事実のみが記されており、「空気を読む」時代に生まれ育った若者ならではの受け手を配慮する側面とも捉えられる。そうした一面が反映されている象徴的な事例が、インスタグラム上で最近よく見られる「言い訳ハッシュタグ」(コラム②参照)
総じて、ブログなどの投稿者からの一方的な発信型コミュニケーションから、双方向に体験のシェアができる共感型コミュニケーションをもたらすビジュアルコミュニケーションが存在感を強めていることの影響が垣間見れる。

SNS映えを重視する若者にとっては、検索エンジンよりも写真アプリのハッ シュタグで検索する方が自分の感性と気分にジャストマッチした情報を直感 的に探せるため便利。また限られた友人や趣味嗜好の合ったユーザーからの 情報のため、利害が絡まない信頼のある情報源にもなっている。

写真アプリはトレンド情報の検索窓

 こうして写真・動画によって蓄積されたユーザーの体験ログは、若者にとっての重要な情報ソースとなり、今や写真アプリは、若者がトレンドを知ったり、消費行動を決める際の情報の検索窓となっている。

例えばインスタグラムやツイッターなどでは、「#」 (ハッシュタグ)で目的の情報を探すことができる。今日の服のコーディネートを考えるときには「#ootd」 (Outfit Of The Dayの頭文字)、代官山の旬なスポットなら「#代官山」と入力し、そこで現れるビジュアルに引かれて態度変容や実際の行動を起こすことが増えている。
「インスタグラムなどで情報を探すトレンドの影響もあり、昨年4月から6月にかけて東京50㌔圏内を対象にした調査では、10代の男女は、大手のポータルサイトや検索エンジンを他世代に比べて使わなくなってきている傾向も見られました。サーチは依然として重要ですが、ソーシャルメディア上でのシェアがこれらの層にとって存在感を増しているのです」(VR)

 このようにビジュアルコミュニケーションは、若者の情報行動の変化を考える上で説明力のある切り口となっている。さらにソーシャルメディア上でのやりとりも、繊細なニュアンスで(それぞれのメディアごとのトーンとマナーを踏まえて)目的に応じた使い分けを日々行っている。
例えばインスタグラムはおしゃれな投稿が集まるハイセンスな場、ツイッターは多種多様な人々や文化が混在するカジュアルな場、フェイスブックは親も先生も見ているフォーマルな場といったすみ分けがなされる。瞬時に情報処理が可能なビジュアルは、膨大な量を見られるため、興味をそそらない、目にとまらないものはスルーされる。そのアプリの世界観やそこにいるユーザーの気分とマッチしたスタイルが表現されていなければ、受け手側のアテンションは得られないことも重要なポイントである。
また、ビジュアルコミュニケーションのメリットは、文字では伝わりにくかったり、わざわざ言わないことを表現できること。例えば、芸能人などの場合は意外なプライベートの一面や友人のひそかな一面などが写真・動画を通じて表現され、親近感を生むきっかけとなる。
また、これが企業や商品の場合は、その世界観を伝え、商品の魅力を深く共有することを通じたブランディングやエンゲージメントに資することが期待されており、その実例も現れ始めている。

女性ファッション誌『JJ』(光文社)のインスタグラム連動型タイアップ広告。 誌面では商品訴求、インスタグラム上ではブランドの世界観を動画を通じ て紹介する企画。これまで一方向の紙メディアであった雑誌がコンテンツ のかたちを動画に変えて各メディアの特性を生かし発信したことで、紙媒 体の可能性を大いに広げ、好感度の高いコメントも寄せられるなどブランド と生活者とのエンゲージメント構築にも貢献した。

ビジュアルコミュニケーション時代の新たな情報伝達モデル

 「誰が始めたのか分からないけれど、みんながまねたい写真のスタイルがパターン化し、それへの憧れや興味関心が消費行動に表れてくる傾向が増加しています(コラム④参照)。従来の“マス型”や“インフルエンサー型”のように、ある起点から情報が発信・拡散されてヒト・モノ・コトが動くのではなく、オリジナルの情報源が不明のまま、いつの間にか多くの人が共感を抱き体験をコピーしていく“シミュラークル型 ”という新たな情報伝達のモデルが誕生しました。重要なことは、この三つのモデルは単線的に移行するわけではなく、共存するということです。これらが並行して起こるという意味で、生活者の欲望が喚起されるポイントはより多様化し高頻度化しているのです」(電通)

シミュラークルの原義は「オリジナルなきコピー」。ここでは、オリジナルな情 報の起点が不明なまま、どこからか発信された情報がコピーされ生活者の 憧れを促す共通的なイメージ(誰もがどこかで見たことあるようなもの)が 創発され、トレンドとして伝播していく状態を指す。誰もがビジュアルで体験 を可視化し、発信する時代ならではの現象。

 シミュラークル型で現れるビジュアルは若者のインタレストの表明でもあり、ユーザー自らが発信したビジュアルで嗜好性をセルフフィードバック的に発見できるようになったという情報行動も観察されている。つまり、ビジュアルコミュニケーションの場は若者の可視化されたインサイトの集積とも捉えられる。それを情報ソースに人々がサーチし合う時代では、今後コマース機能との統合など直接購買行動が行われる場に進展していくことを見越した上で、こうしたモデルでオーディエンスの情報拡散やそれによって起こるトレンド伝播をつかむことが今後ますます重要性を増してくる。

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    スマートフォン(スマホ)が日本人の暮らしを大きく変えようとしています。連載「スマホと日本人」では、ビデオリサーチと電通総研の共同チームが、その実態をリサーチしていきます。

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