DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~ #42

10年後の世界で、僕たちが生き残るためのヒント

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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

今回は、『10年後世界が壊れても、君が生き残るために今、身につけるべきこと』(山口揚平著、SB Creative)を取り上げましょう。

山口揚平さんは、外資系コンサルティング会社で企業再生に携わった後に独立。クリスピー・クリーム・ドーナツの日本参入や、宇宙開発事業・電気自動車事業などに関わり、現在は事業家・思想家として執筆をされているようです。

競争力を持つために日本を解散する!?

21世紀の社会は価値観の大きな転換期を迎えていますが、10年後はいかなる世界となるのか、それに向けて僕たちは何を学び、どう生きていくべきなのかについて、本書は大きな示唆を与えてくれます。

まず本書では、「日本が競争力を持つためには、日本を解散してブロック化し、個々の地域ごとにブランディングするべき」という考えが提示されています。

例えば、「東京圏・京都・瀬戸内・九州・北陸」の5つのブロックです。東京圏はアジアへ文化を輸出するためにTOKYOブランドのお墨付きを与える市場。京都は古都観光立国。瀬戸内は地中海に面するイタリアのような海の恵み。九州は韓国や中国と向き合う貿易市場。北陸は北欧のように伝統産業やデザインや緻密な先端技術。

このように、それぞれの独自性を持ってコミュニティーを作っていくことを目指すべきで、僕たち個々はどこのコミュニティーに属して「国造り」に貢献していくかを考えていかなければならない、というわけです。

今も「中央集権から地方分権へ」という議論はされていますが、本書の構想は統治からではなく、ニーズに基づく経済圏からという視点が新しいと感じました。

階層を超えたいなら、早く手を打たなければならない

そして、そんなコミュニティ内でも「格差」が生じ、じわじわと階層化が進むと述べられています。

例えば、コミュニティは「地球市民層、都市上位層、都市下位層、地方層、非社会層」と分かれるとされ、「地球市民層は国や地域を選ばずに自由に移動する人物、都市上位層は上場企業の役職者や起業家など、都市下位は伸び悩んでいる中小企業」というような定義がされています。

そしてあと10年で、これら階層化の蓋が閉じると述べています。

僕たちは、自分がどこの層に属することになるのかを認識し、階層を超えたいのであれば、早くに手を打たなければならないわけです。

しかしながら、これらは単純なヒエラルキーとはならないようです。なぜなら社会自体が、「資本主義というタテ社会」から、「ネットワークというヨコ社会」に大きく移行していくからです。

モノを作ることは悪

ネットワーク社会では、必要なものを譲り合う「シェア経済」が発達していくため、モノについては「more and more(多ければ多いほどいい)」から、どんどん「less is more(物事はシンプルなほうがいい)」という価値観になっていくと述べられています。

すでに欧州では「モノを作ることは悪」という考え方があるそうです。

モノはいずれゴミになる。それは廃棄コストにつながり、最終的には、社会損失となる。家具や家電をアジアや東欧で大量生産してタンカーで運んで売りさばくなんてことはとんでもない時代錯誤だ(P.94)

ならばモノとの交換の単位であるお金の価値も変わるでしょう。

本書では、ネットワーク社会では「数字としてのお金」ではなく、「個人の信頼残高」に価値がシフトするとあります。そして、そんなネットワークを維持構築していくための「コミュニケーションの能力」がますます重要になるとも述べられています。

では、そんな来るべき世界に向けて、僕たちは何を学んでいけばいいのでしょうか?

21世紀の人間の仕事は、アートとデザインしかない

本書には「情報ではなく本質を捉える」「教育の再考」「旅(移動)をして新たな問題意識を入手する」など、いくつかのアドバイスが提示されます。

例えば、本質を捉える例として、PayPal、テスラモーター、スペースXと次々と起業を成功させているイーロン・マスク氏を挙げています。成功のカギは、「起業家の役割は、全体構想とモジュール分解(モジュール分解とは構想を実現するためにパーツ分けすること)」という本質を捉えていることだというのです。

今の時代は、最高の技術に関する知見には誰もがアクセスできます。そのため、自身はひたすら構想とそのための知識に集中し、構想化された方程式が現実世界で機能するかをひたすら検証し続ける(P.204)

ということが事業の本質だというわけです。

でも、究極として「21世紀の人間の仕事は、アートとデザインしかない」と言い切ります。なぜなら「言語化されるあらゆる事柄が機械によって最適化されるから」です。

アートとは、個人の意思に基づく本質の表層だ。つまり、私たちが知覚した本質を言葉以外で具体化したものがアート
(中略)
デザインとは、de-sign、つまりノイズアウトすることによる人々の認知コストの低減だ。余計な情報をなくして、みんなに同じように伝わるようにする(P.214)

これらは受け手の立場を思う気持ち、つまり「愛」がないとできないものです。つまり、「愛」を行動の源泉にするものは、いかなる機械にも代替できない人間だけの仕事であるというわけです。

結局、「人間愛=社会、コミュニティへの貢献」を追究し続けることが、もし10年後に世界が壊れても僕たちが生きていくために必要なことだという結論です。

自分が、社会に、コミュニティに、貢献できることって何だろう?

そんな問いを背負いながら、これからも学び続けていくしかないのかな、と思うのでした。

プロフィール

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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

    1969年生まれ。大手銀行でのM&Aアドバイザーを経て、2001年電通入社。
    営業局でグローバルブランドや官公庁など多岐にわたるクライアントを担当し、現在はソーシャルメディアやデジタル領域を中心とする戦略プランニング、コミュニケーションデザイン、共創マーケティングを手掛ける。東京都市大非常勤講師。著書に『ロングエンゲージメント』(あさ出版)、『つなげる広告』(アスキー新書)などがある。

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