DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~ #44

時代はロングテールからブロックバスターへ。ハーバードで教えているメガヒットの法則

1本の映画に、制作費300億円。
1人のサッカー選手に、移籍金120億円。
1枚のCDアルバムが、前代未聞の全米2万店舗に出荷。

近年、こうした巨額投資からのメガヒットが多発しています。
その波は、映画や音楽、テレビといったエンタメ業界はもちろん、スポーツビジネスやIT業界にまで広がっているのです。

デジタル時代の定番戦略と言われてきた「ロングテールモデル」の真逆とも言えるこの流れ。はたして一体何が起こっているのか…その秘密をひもとくのが、アニータ・エルバース著『ブロックバスター戦略 ハーバードで教えているメガヒットの法則』(東洋経済新報社)です。

ブロックバスター戦略― ハーバードで教えているメガヒットの法則

筋金入りのファンでさえ、週に1本しか映画を観ない時代

1999年、映画スタジオのワーナー・ブラザーズで社長に就任したアラン・ホーンは、ある大胆な戦略をとりました。年間製作映画約25本から看板映画を4〜5本だけ選出。その映画の製作とマーケティングに、予算を集中的に割り当てることにしたのです。

なんと、2010年に制作した22本のうち、たったの3本で総予算の3分の1を独占!

その背景にあるのは、筋金入りの映画ファンでさえ週に1本しか映画を観なくなってしまっているマーケット事情があります。市場がなかなか拡大しない中、映画スタジオはそういったファンに必ず選んでもらえる作品をつくることに注力したわけです。

結果はどうだったか。ワーナー・ブラザーズは前代未聞の連勝を収め、全米興行成績が11年連続で10億ドルを超えた史上初の映画スタジオとなったのです。

製作費をかけた上位3タイトルが、興行収入の5割以上を占める

要は、映画館に足を運んでもらうためなんだ。多額の製作費をかけた映画のほうが、映画館に足を運んでくれそうなファンの気持ちに訴えるはずだ。(P.2)
本文中でホーン氏は著者にそう語っています。

事実、2010年のワーナー・ブラザーズの業績は、製作費をかけた上位3タイトルが、同年の興業収入(全世界)の50%以上を占めているほど。きっと、みなさんも一度は見たことのあるタイトルがずらりと並びます。

こうした波は、たとえば下着業界にも広がっています。ヴィクトリアズ・シークレットは、毎年開催するファッションショーに信じられないほど高額のトップモデルを大勢キャスティングし、メディア向けのショーに変えることで世間の注目を集めています。

とはいえ、上位2割のタイトルだけを映画会社が大切にしているというわけではありません。超低予算の映画も、相変わらず製作されているのです。ホーン氏はそうした低予算映画のメリットをこう語っています。

バンパイア映画からオーディション番組まで、商品の新たな形式を試せる点だ。(P.63)

メガヒットで収益を安定させながらも、こうした実験的な取り組みもきっちり行うことで次のメガヒットの芽を育てていく。ブロックバスター戦略とは、一極集中による博打型投資ではないのです。

ちなみにこの本の著者であるアニータ・エルバース教授は、「Strategic Marketing in Creative Industries」(クリエーティブ産業における戦略的マーケティング)という、ハーバードでも異色の授業を担当していらっしゃる人気教授。こうしたCEOクラスとの会話内容がふんだんに盛り込まれているあたりさすがハーバード。

さらに注目は、監訳・解説を務めていらっしゃる鳩山玲人氏です。「ハーバード・ビジネス・スクールの最も成功した卒業生31人」(そんなランキングあるんですね)にも選ばれた、サンリオの常務。キャラクターのグローバル展開を推し進めた方で、随所に盛り込まれる鳩山氏の解説コラムが実に読み応えありなのです。

ビッグデータが可能にした、集中投資モデル

普通に考えれば、映画や音楽は「出してみないとヒットするかどうかわからない」商品の代表例のはず。リスクを抑えるためにも、いろんな商品に分散投資するのが賢い…それが常識でした。
ところが、このブロックバスター戦略では、「ヒットする!」と見込んだ商品にとことんお金をつぎ込みます。ハイリスクハイリターン。怖すぎる。

実はこの戦略を支えるのは、ビッグデータ解析とアルゴリズム。
たとえばつい最近日本上陸を果たしたネットフリックス。4400万人の会員の視聴傾向を、検索ワードや視聴時間帯、さらには「作品のどこで一時停止ボタンを押し、早送り・巻き戻しはいつ行ったか」レベルまでつぶさに分析することで、ヒット予測を常に試みているそうです。

多様な価値観を育てたデジタル時代の「反動」

この本が面白いのは、ネット社会の「反動」みたいなものを言い当てていることです。
これまで、ネットが充実してアマゾンや楽天といったEコマースサイトやSNSが浸透するとロングテールの時代となる、そう言われてきました。だれしもが小規模コミュニティーに属することができるし、価値観の多様化が当たり前になる。これは確かに実感することがあります。

一方で、この本で語られているのは真逆なんです。ネットが進化した結果、多くの人々は結局、大衆が選んだ無難な人気タイトルに依存するようになる。それは単に、ネットを使って細かい情報収集やものの良し悪しを判断するのが面倒くさくなってくるからです。

「みんながいいと言っているものが、私にとってもいいもの」
そんな時代の空気をこの本は豊富なデータや事例とともにひもといていきます。

超高額投資の事例が並んでしまいましたが、平たく言えば「圧倒的多数の人々に、商品が選ばれる理由をつくる」のがブロックバスター戦略です。これはまさにモノが飽和し、売れない時代のヒット戦略と言えるのかもしれません。

プロフィール

  • Fujita profile r
    藤田 卓也
    株式会社電通 第3CRプランニング局

    東京大学大学院 工学系研究科を修了後、2012年電通入社。3年目のコピーライターとして、コピーやCM制作だけでなく、デジタル領域の企画なども手がける。

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