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WMS2015 特別インタビューNo.2

「営業の新たなカタチ・使命を考える」
アンディー・ゾルツナーズ×広瀬哲治

2015/12/02

イノベーションと組織
―マーケティング第一人者が見た、デジタル時代を勝ち抜く法

後編:アンディー・ゾルツナーズ × 広瀬哲治 「営業の新たなカタチ・使命を考える」


日本最大規模のマーケティング国際会議「ワールド・マーケティング・サミット(WMS)・ジャパン2015」特別インタビューの後編は、アンディー・ゾルツナーズ氏。米ノースウエスタン大ケロッグ経営大学院名誉教授で、営業組織マネジメントを専門に研究する。インタビュアーは、同経営大学院で同氏にも師事した、電通のマーケティングソリューション局 局長兼電通コンサルティング社長の広瀬哲治氏。目まぐるしいデジタル化やテクノロジーの進化の中で、米国の営業組織に何が起きているのか、営業組織を強化する上で必要な視点は何か―かつての教え子が師に問うた。


米国で進む、営業組織の小規模化とインサイド営業へのシフト

広瀬:実は私、1991年にケロッグ経営大学院で先生のクラスを受講していました。

ゾルツナーズ:覚えてますよ! 当時、あなたはもっと痩せていましたよね(笑)。

広瀬:早速ですが、米国の「営業組織」の最近の潮流をお教えいただけますか。

ゾルツナーズ:業種にもよりますが、米国では営業組織が小規模化する傾向があります。例えば米国の製薬業界には、2005年に10万2000人の営業がいましたが、10年後の2015年には6万3000人になり、38%も減少しました。営業を介さずとも、医師が独自にさまざまな情報を入手できるようになってしまったからです。これは、他の業界でも起きている現象として、大きな関心が寄せられています。

ここで米国の興味深いデータをお示ししましょう。B to B企業のバイヤーの94%は、購入前にオンラインでしっかりとリサーチをしています。そして、57%の顧客は営業マンに会う前に、既に購入の意思決定を済ませています。これは非常に大きな変化だといえます。

広瀬:顧客の情報入手経路が多様化し、情報量が飛躍的に増加する中で、営業の存在意義や役割そのものが変革を迫られている、ということなのでしょうか。

ゾルツナーズ:そういうことです。製薬業界では、医師にコンタクトするチャネルとして、DMやテレビ・雑誌広告、そして大きな営業組織が重視されてきました。ところが、ネット上のバナー広告やEメール、スピーカープログラムといった新たなチャネルが活用され、大きな変化が起きています。

また、電話セールスが急速に拡大していることも大きなトレンドの一つです。統計によれば、小売業を除いた米国の営業の42%はインサイドセールス(非訪問による営業活動)になっています。クライアントを訪問することなく、電話、メール、ウェブ、DMなどだけでセールスを行っている営業が42%もいるというのは、とても大きな変化だといえます。

もう一つのトレンドとして、メジャーアカウントを重視することが挙げられます。89%の企業はKAM(Key Account Management)の重要性が今後ますます高まると考えています。戦略クライアントが他のクライアントの1.5倍成長すると見込み、キーとなる顧客を識別して、そこに平均以上の優遇策を提供し強い関係を構築しようとするのです。

ただしその一方で、KAMプログラムがしっかり機能していると答えた企業は14%しかなく、KAMが非常に重要であると認識していながら、うまく機能させる方法を皆が模索しているという段階です。

広瀬:米国における「インサイドセールスへのシフト」の背景を教えてください。

ゾルツナーズ:かつてインサイドセールスは、それほど効果的だと認識されていませんでした。しかし、Eメールやモバイル通信機器の急速な普及によりデジタルコミュニケーションが劇的に進化した現在では、インサイドセールスの増加は起きるべくして起きた現象だといえます。

もし私が営業だとして、あなたが製品について知りたいと私に言えば、私はEメールで製品情報を送るだけで、自分自身が直接訪問をする必要はないと考えます。ただし、取り扱う商品やサービスが非常に高度で複雑なものの場合は、営業マンの知識そのものが価値となりますので、インサイドセールスが効果を発揮しにくい業種もあります。

変わる営業。マルチチャネル・マネジメントが新たな使命

広瀬:デジタル化や、マーケティングオートメーションなどに代表されるテクノロジーの進化が、営業活動や組織の在り方に及ぼす影響を、どのようにお考えでしょうか。

ゾルツナーズ:本当にいろいろな影響や変化が起こっています。顧客はより多くの情報を自ら得られるようになっており、主導権は完全に顧客側にシフトしています。そのような中、重要になるのが「営業として、どのような価値=Valueを提供できるのか」という観点です。インターネット経由で顧客が直接購入に至ってしまうこともあるため、営業としての価値を提供することが難しくなっているかもしれません。だから、自分がどのように役立ち、どのような価値を提供できるのかを、常に模索しなければなりません。

広瀬:私たちも、単純にモノを売るのではなく、課題解決を提供する「ソリューション営業」であることを大切にしてきました。最近では、顧客自身もまだ気づいていない未知の課題に踏み込んでいく「チャレンジャー営業」を推進すべきだ、という議論もありますね。

ゾルツナーズ:それがまさに顧客に価値を提供するということです。今や、顧客への営業コンタクトも、マーケティングのマルチチャネルの一部にすぎません。コールセンター、デジタルメディアやさまざまなテクノロジーと、自らの営業活動を有機的に相互連携させながらマネジメントしていく役割が、営業に求められています。

広瀬:例えば、顧客ごとにカスタマイズしたサービスを提供するコンサルティング会社の場合はいかがでしょうか。先生はコンサルティング会社「ZSアソシエイツ」を創立されましたね。

ゾルツナーズ:コンサルタントそのものが「製品」であり、優秀なコンサルタントは「製品=自分自身」を売るのが大変上手です。また、インサイドセールスであるコールセンターは、コンサルティングビジネスにおいても、見込み顧客の判定という重要な役割を担うことができます。問い合わせしてきた顧客にいくつかの質問を投げかけることで、営業部隊が持っている情報と掛け合わせて、精度の高い見込み顧客のポートフォリオを効率的に作成することができます。

広瀬:ということは、B to B企業でも、ウェブや電話で問い合わせをしてきた顧客に対して、有益な情報を集約した資料を準備するなど、効率的にセールスを展開していくことが必要ですね。こうした背景が、営業組織の小規模化という大きな流れをつくっているのでしょうか。

ゾルツナーズ:まさにそういうことです。顧客がウェブからさまざまな情報を容易に得られる時代に、価値を提供してくれない営業と会うのは時間の無駄です。

「効果」と「効率」のバランスが営業組織を強くする

広瀬:強い営業組織を構築するには、どのような点に留意すべきでしょうか。

ゾルツナーズ:営業組織の構造を考えるには、「効果=Effectiveness」と「効率=Efficiency」という二つの視点が重要です。高い効果を発揮する営業組織というのは、売り上げを上げる組織を意味します。そして、高い営業効果は、営業マンごとの専門性を高めることで実現します。限られた顧客に、自分が専門である限られた製品/サービスを提供することで、高い営業効果がもたらされるのです。

一方で、営業組織に効率をもたらすのは、ゼネラリストです。ゼネラリストは、さまざまな顧客に幅広い製品/サービスを提供し、活動範囲も広いからです。そして、一人の営業があらゆるサービスに対応する小さな営業組織こそが、高い効率を実現するのです。

個々の営業が、特定の製品/サービスに関する専門性を過度に追求すると、営業の活動領域は重なり合い、同じ顧客に複数の人間からアプローチが行われるため、組織としての効率は落ちます。「効果」と「効率」はトレードオフの関係にあるため、どの企業もベストバランスを模索しているのです。

組織改革の敗因は知見喪失。イノベーター発掘プラス人材流出にも配慮を

広瀬:多くの日本企業は、職務経験のない新卒者の採用を起点とする終身雇用制度を維持しています。欧米に比べて転職市場の流動性が乏しい日本の企業は、急速な変化に対応していく上で難しい部分があるように思いますが、いかがでしょうか。

ゾルツナーズ:その「変化」のスピードというのは、とてつもなく早いです。40年という長期に及ぶ終身雇用制度が存在し、必要な人材を機動的に確保したり、入れ替えたりすることが求められる状況の中で、日本企業は難しい挑戦を強いられることになると思います。

ただ、日本企業でも、成功したいと願う多くの既存の社員に対して、デジタルトランスフォーメーションが急速に進む新しい現実をきちんと理解させていくことが、重要だと思います。そして、求められる価値を持つ人材を新たに雇用した場合は、その人材が持つ競争力の源泉となる「価値」や、進化し続けようとする姿勢や考え方を、周りの社員に感じ取らせることも大事です。

時には、若い社員が上の世代をけん引していくこともあるでしょう。私は、自分自身の研さんの意味でも、若い社員と好んで仕事をしたりしています。

広瀬:激変するビジネス環境に対応しようと、組織の変革を試みている企業に対して、アドバイスを頂けますか。

ゾルツナーズ:しばしば起きることですが、企業は組織変革を行なった2年後に、また組織変革を行います。過去にうまくいかなかったことを忘れ、なぜだか今回はうまくいくと考えてしまうようです。その背景には、組織改革した結果を評価する仕組みが導入されていない、という構造的な不備もありますが、最も大きな要因は人材の流動性にある、と私は見ています。

欧米では、過去の知見を持った重要なポストの人材が転職してしまうことで、組織として重大な「知見の喪失」が起きています。その点では、終身雇用制度を採用している日本企業は逆に有利と言えるかもしれません。

広瀬:イノベーションを推し進めていくには、多様な人材を採用することも重要です。人材獲得を進めていく上で、どのような点に留意したらよいでしょうか。

ゾルツナーズ:その人材の誠実さ、モチベーション、志、勤勉性などが大事ですが、ある人物の将来性を見極めるのは、過去の行いに注目するのが最も有効です。私は、学生時代の成績を重視しています。その点、広瀬さんは私の授業で「A」評価を得ていますから、問題ありませんね(笑)。

広瀬:はい、ありがとうございます!