コンテンツマーケティングの現場から #22

本当のところ、みんな、どんな行動をしている?

  • Aoki keigo pr
    青木 圭吾
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター
  • Gunji akiko pr
    郡司 晶子
    株式会社電通デジタル 執行役員
  • Alex
    内藤 敦之
    電通デジタル・ホールディングス シンガポール リージョナルダイレクター

これまで広告では、AIDMAやAISASが購買行動のモデルとして使われてきました。けれど、ソーシャルメディアで情報が広がり、生活者がコンテンツからコンテンツへ移動していく時代には、別の捉え方があるはずです。そのヒントがなんとシンガポールから届きました。今回は現場で作業する中で新しい仮説を作った電通デジタル・ホールディングス(DDH)シンガポール支社の内藤さんと、東京に紹介してくれたBCC青木さんとの鼎談(前編)をお送りします。

(左から)青木さん、郡司さん、内藤さん
(左から)青木さん、郡司さん、内藤さん

DECAXというアイデア

郡司:まずは、内藤さんが、どういう経緯でコンテンツマーケティングにかかわり始めたのか、教えていただけますか?

内藤:私は、DDHシンガポールで、主に東南アジアにおけるサプライサイドの事業開発を担当しています。具体的には、SSPやAdExchangeなどを使ったディスプレイ在庫の開発です。

ある日、郡司部長の電通報に、僕の同期の青木君が出ている記事を見て、「何やっているんだろう、彼」と思って読んだところ、コンテンツマーケティングをやっていることを知り、媒体社の持つ良質なコンテンツやそれを生み出す力を収益化するにはぴったりだと思ったのが発端です。

郡司:意外と近いところにきっかけがあったのですね(笑)。

内藤:以前、DDHファンドの出資候補先としてコンテンツディスカバリープラットフォームを提供している企業を検討したことがあり、そのときの情報と、郡司部長の電通報と東南アジアにいる先進的なグローバルクライアントとの会話を通じて、ようやくコンテンツマーケティングの新しい可能性に気付いたという感じです。実は2周くらい遅れてますね(笑)。

郡司:でも、シンガポールは先端的なクライアントのアジア拠点だから、コンテンツマーケティングのチャレンジも進んでいていろいろな提案ができるのではないですか?

内藤:いや、そんなに簡単には…(笑)。実際にOutbrainを提案に盛り込んでみると、単なるCPC型商品という見え方になってしまう。そして、ブランデッドコンテンツの制作提案からしていかなくてはならない。

具体的なタスクに落とし込んでみると、先立って感じたコンテンツマーケティングの可能性が失われてしまっているような気がするなどの試行錯誤があり、まだきっちり定義されていないコンテンツマーケティングについて、AISASのようなモデルを作る必要があると感じました。

郡司:そこでDECAXというアイデアに至ったわけですね。

(左から)郡司さんと内藤さん

内藤:そうです。もちろん国によってメディア事情は全く異なりますし、デジタルの世界で画一的なモデルを構築することのナンセンスさは十分承知していますが、テクノロジーの進化による生活者の情報行動の変化、そしてクライアントへの説明力という視点から作り上げました。それが発見(Discovery)→関係作り(Engage)(理性的態度による)確認や注意(Check)行動(Action)→体験と、それの共有(eXperience)からとった「DECAX(デキャックス)」というものです。

これは既に始まっている生活者の情報行動の変化と、その延長線上にある将来像に関する仮説であり、実証的なものではありません。

青木:確かに仮説にすぎないんですが、提案上のフレームワークとしては説明力もあるし、各プロセスでどういう要素が必要になるのか、またどういうパートナーが必要になるかということが上手く整理できていると思います。では、早速それぞれを詳しく説明してもらいましょう。

発見:Discover

内藤:これは、一生活者としての体験談になりますが、最近私の中である自動車会社のパーセプションが大きく変わりました。たまに日本に帰国した際に、接触したテレビCMも大きな要因なのですが、一番私のパーセプションを変えたのは、まさにリコメンデーションされたブランデッドコンテンツでした。好奇心や情報受容感度が最大化している状態で、能動的にクリックしたコンテンツなので、わずか一回の接触で、根こそぎエンゲージされてしまいました。

なぜそこまで自分が感化されたのかを改めて振り返ってみると、実は自分で発見して自分で能動的に取りに行った情報だったからだと気づいたんです。

郡司さんも青木さんも、振り返ってみて頭の中に残っている情報って意外に自分で能動的にディスカバーした情報だったりしませんか?

青木:うん、いま頭に浮かぶ情報はまさに自分が興味を感じて発見したという印象が強いですね。

郡司:確かに。

内藤:そこで、Discoverと名付けました。具体的には、生活者が自身の好奇心や関心に基づいてコンテンツを発見すること、マーケターの立場で言うと生活者が自分自身で発見したと思わせるテクノロジー・仕組みを指しています。

上記の私の体験はわずか一例にすぎませんが、近い将来、データの質と規模が向上し、テクノロジーが進化すれば、ささいなセレンディピティーとして納得してしまいそうなこの出来事を、高い確率で再生できるようになると考えています。そして、これはネット系専業エージェンシーが取り組んでいる顕在ニーズの効率的な刈り取りに加え、潜在ニーズの掘り起こしという電通が取り組むべき広告の本質に近いと考えています。また、最近日本にもサブスクリプションベースのテレビサービスが増えていると聞きますが、Addressable TVという皮をかぶったコンテンツマーケティングがリビングにやって来る日も遠くない雰囲気があります。

このDiscover領域のテクノロジーとしては、インタレストグラフや、動画上でのエモーショナルターゲティングなどが既にありますが、潜在ニーズの掘り起こしという視点から考えると、個人的には強調フィルタリングや強化学習系のアルゴリズムに加え、GA(Genetic Algorithm/遺伝的アルゴリズム)のような確率的ゆらぎを踏まえた探索的なアプローチの登場を期待しています。

内藤さん

関係作り:Engage

内藤:能動的にDiscoverしたがゆえに、そのコンテンツへのEngageはほぼ同時に起きます。Discoverがコンテンツとの出合いを実現するテクノロジーを指しているのに対し、Engageはそのコンテンツ自体の引きつける力を意味しています。偶然見つけた(それが見つけさせたものだとしても)コンテンツがどれだけ人の心を捉えられる優れたものなのかという議論です。デジタルのフォーマットフリーな環境下で、いかに、驚きと納得性のあるコンテンツを作り込めるかが勝負です。

ネイティブ記事に関する様々な賛否・議論はあろうかと思いますが、ポイントは、いかにオーディエンスを引きつけて、パーセプションに影響を与えることができたのかという点につきると思います。フォーマットや、コンテンツの主語が企業名であるべきなのか、媒体社名であるべきなのかという議論は大きな問題ではないと個人的には思います。

このEngage領域は本来電通が得意する領域なので、YouTubeが提唱しているHHH(Hero/Hub/Help)戦略の特にHeroコンテンツに関しては、アド作りの能力というよりアイデア発想力を活用して取り組むべきだと考えています。一方で、ソーシャル上で話題を獲得したいという目的が明確化されている場合は、コミュニティーが面白いと思うコンテンツをコミュニティー自身に考えさせるという手もあると思うので、コミュニティソーシングのクリエーティブプラットフォームなども検討の余地があると思います。

(理性的態度による)確認や注意:Check

内藤:コンテンツマーケティングの時代になって良い面と、悪い面があると思っています。良い面は、より説得力の高い新しいコミュニケーションチャネルが誕生したこと、そして悪いことはコンテンツに対する社会的信頼性が低下したことです。

ステルスマーケティングなどの影響もあり、最近の生活者は当たり前のように、情報の真偽、出自、裏の意図を瞬時のうちに見極め、無意識のうちにフィルタリングしています。これのプロセスをCheckと名づけました。ウイルスのように拡散したコンテンツに対して、免疫が上がり、ワクチンが効きにくくなってきている状況です。

残念ながら、ここに対する明確な解決策は私も見つけきれていないのですが、安易にトラフィックを集めることだけを考えたメッセージングに走るのではなく、クライアント、生活者にとって何が価値のある情報なのかをちゃんと考え、良質なコンテンツを生み出す努力をし続けるしかないと考えています。言い方を変えると、生活者が理性的態度で商品情報に臨んでも価値があると判断される良質なコンテンツを作るということでしょう。

行動:Action

内藤:Actionはもちろん購買行動を指すので説明の必要はないと思いますが、それがオフラインなのかオンラインなのかに関係なく、それ以前のDECのプロセスできっちりニーズを固めきれているのか、エンゲージメントを高めきれているのかということが重要だと思います。マーケティングにおけるコミュニケーションの役割は、「選ばれるための必然性を創ること」だと考えているので、ファネリングプロセスを経ず、指名される状況を作り出せていれば理想的だと思います。

体験と、それの共有:eXperience

内藤:最近、商品やサービスを購入した後もオンライン上で、たとえばHow-toやTipsコンテンツに接触して、商品の新しい使い方や魅力を発見することが増えてきている気がします。また、今後IoTの普及により、商品やサービスのオブジェクト指向が進むと、ユーザーの手によるHackコンテンツも増加し、このトレンドは更に加速すると考えられます。このプロセスをコンテンツのeXperienceと名づけました。

マーケターの立場から捉え直すと、今までのCRMではクロスセルやアップセルなどプロモーションの効率性を追求してきたことに対し、コンテンツマーケティングの概念を導入することで、ユーザーとの関係作り・深化も守備範囲に入ってくることになります。確かに、業種によっては今までも既存顧客のボンディングのために、会員誌やムック本を出版することはありましたが、今や全てのマーケターがこの機会を得たという事でしょうか。ここで求められるコンテンツは、既出のHHH戦略におけるHub/Helpコンテンツに相当するわけですが、この制作にはボリューム、スピード、コスト的に従来の代理店が鍛えてきた筋肉とは全く違うものが求められます。

これらのコンテンツニーズの高まりを受け、例えばシンガポールのある会社は、とあるスーパーマーケット向けに、そのオリジナルブランドの調味料や食材をつかった短編料理番組を毎日制作・配信するなど、このエリアでも新しいプレーヤが続々登場しているので、引き続きウォッチしていく必要があると考えています。

そして、このスーパーマーケットの例で話を続けると、彼等は単に既存顧客のためにこの料理コンテンツを制作しているわけではなく、コンテンツ配信を行うことで、新たなDiscover、つまり潜在ニーズの掘り起こしも行っています。これが、図に示したフィードバック・ループに当たります。

なぜDECAXが必要になったのか

青木:ざっと内藤に説明してもらったんですが、改めて「DECAX」が必要になった背景を教えてください。

内藤:ひとことで言うと、コンテンツマーケティングというものがこれだけ欧米で盛り上がってきているのですが、東南アジアで理解してもらえなかった。

郡司:私たちのようなマーケティングコミュニケーションの直接的な課題解決、という作業ではなく、サプライサイドの事業開発やパートナーシップ開拓の作業という中においても、必要に迫られたわけですね。

(左から)青木さん、郡司さん、内藤さん

内藤:そうですね。確かに東南アジアの人々の生活を見ているとAIDMAやAISASと違う形で動いているのに、それを説明するモデルがない。そこでコンテンツマーケティングがどう新しいのかを説明する、言い方を変えると過去との断絶感が必要だった。それが率直なところでしょうか。

郡司:どんなふうに発見していったのですか?

内藤:何度かクライアントやDANのローカルチームにコンテンツマーケティングを説明する機会があったのですが、最初に前振りとして、雑談をするじゃないですか。そこで「最近、どんなコンテンツを見た?(覚えている?)」という質問から始め、「どこで見た?どうやってたどり着いた?」と深掘りしていく。ほとんどの方が「スマホで時間つぶししている間に興味があったので思わず見た」と答える。それが、Facebookであれ、ポータルサイトのリコメンデーションであれ、「もし、それがあなたのその瞬間の興味・関心を分かった上で、意図的にそこに置かれていたとしたらどう思いますか?」と。

もちろん、これは純コンテンツと、ブランデッドコンテンツを十把一からげにして語っているため、完全に誘導質問なのですが、コンテンツマーケティングの意味や可能性を理解してもらうには一番手っ取り早いつかみでした。こんな経験的な蓄積で「DECAX」を考えていきました。

DECAX

郡司:なるほど

内藤:そうした作業の中でコンテンツマーケティングは、大手クライアントのデジタル施策上なくてはならない存在じゃないかと思い至るようになりました。もちろん、ダイレクト系クライアントにとって、デジタルは必要不可欠な存在ですが、非ダイレクトの大手クライアントにとって、絶対にデジタルをしなくてはならない決定的理由はリーチコスト以外に見当たらない。

とはいえ、大手と呼ばれる広告主は既に十分な認知を持っており、リーチはなかなかキャンペーンの目的になりにくい。そこでキャンペーンサイトを作り、トラフィックを買うもしくは運用していくという構造になっていましたが、コンテンツマーケティングは、このやや味気ないプロセスに、広告的な意味や意義をもたらしてくれるような気がします。

青木:つまり、コンテンツに出会うことでパーセプションが変わってしまうような、そういう体験を届けることができる、ということですよね。


【Gunji's eye】

本文でも触れている通り、DECAXは、あくまでも現場の作業のなかから生まれた捉え方にすぎません。この先新たなメディアが生まれたり、新しい機能が付加されたコンテンツなどが出てきたりすれば、どんどん変わっていくものだと思います。

ただ、コンテンツマーケティングが、「新しいキャンペーンの作り方」ではなく、「新しいマーケティングコミュニケーションの作り方」であること。その視点から捉え直すためには、これまでには無かった新しいモデルで考える必要があると思います。では、シンガポールで発見されたモデルは日本で生かしていくことができるのかどうか。後編ではそのあたりの議論をお伝えする予定です。お楽しみに。

プロフィール

  • Aoki keigo pr
    青木 圭吾
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

    1998年電通入社。中部支社、新聞局中央部、地方部を経て、プラットフォーム・ビジネス局、ビジネス・クリエーション・センターで主にデジタル領域の事業開発に携わる。現在は、デジタルコンテンツ流通事業の推進とアプリ開発支援、メディアのデジタル事業コンサルティングなどに加えて、国内外の有望な新興企業との新領域開発を主な業務とする。

  • Gunji akiko pr
    郡司 晶子
    株式会社電通デジタル 執行役員

    1992年電通入社。クリエーティブ局で、広告・キャンペーンの企画作業に従事した後、コンテンツマーケティングの領域に携わる。現在は、日用品・ファッション・自動車・レジャー・住宅などの業種で、ブランドエンゲージメント、CRM・ロイヤルティ向上の支援、コンテンツを起点とした顧客獲得支援などを目的に、コンテンツ戦略・企画・制作・運用のディレクションを行っている。
    2014年「コンテンツマーケティング27の極意」(翔泳社)、「エピック・コンテンツマーケティング」(日本経済新聞出版社)の2冊を共訳。講演歴は、2013年、2014年のWOMマーケティングサミット、Outbrainパブリッシャーズセミナー、Web&モバイルマーケティングExpo2014秋、2015 ad tech TOKYO internasionalなど。

  • Alex
    内藤 敦之
    電通デジタル・ホールディングス シンガポール リージョナルダイレクター

    1998年電通入社。プラットフォーム事業を志して入社するも、新卒配属された関西支社で家電メーカーを担当し、ブランディング戦略立案・コミュニケーションプランニングにどっぷりハマる。その後、一念発起してグローバルに路線変更。現在は、シンガポールでデジタル領域の事業開発・パートナーシップ開発を担当。

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