ドミニク・チェンさんと考えるビジュアルコミュニケーションの未来 #02

若者がよく使うSNSのトレンドは文字からビジュアルへ

  • Dominick chen pr
    ドミニク チェン
    起業家・研究者
  • Miwa
    美和 晃
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 部長
  • Kitahara20028pro5
    北原 利行
    株式会社電通 電通総研・メディアイノベーション研究部 研究主幹
  • 設樂 麻里子
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 副主任研究員
  •        prof
    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

電通総研メディアイノベーション研究部は、メディアや情報通信環境の変化、そしてオーディエンス(視聴者)の動向を探ることをミッションとするシンクタンクです。

このたび、IT起業家で情報学研究者のドミニク・チェンさんをアドバイザリーに招いて、10代後半~20代半ばの男女スマホユーザーの「ビジュアルコミュニケーション」をテーマにした調査プロジェクトを実施しました。

変化し続けるメディア環境の中で、スマホユーザーのコミュニケーションは変化し続けています。若年層が写真や動画アプリを通じたビジュアル中心のコミュニケーションへシフトする理由とは? またそこから考えるべき示唆とは?
調査結果をひもとくディスカッションの第2回です。


【調査概要】
電通総研メディアイノベーション研究部
「ビジュアルコミュニケーションに関するグループインタビュー調査」
■調査対象者
首都圏在住の男女18~25歳(大学生ないし社会人)
N=17(5名×2グループ+7名×1グループ)
■調査方法
グループ単位のインタビュー調査
■調査日時
2015年9月6日(日)

左からドミニク・チェンさん、電通総研メディアイノベーション研究部の美和晃、北原利行、天野彬、設樂麻里子
左からドミニク・チェンさん、電通総研メディアイノベーション研究部の美和晃、北原利行、天野彬、設樂麻里子
 

存在感を増すInstagramと、SNSのビジュアルコミュニケーションシフト

天野:各写真アプリの使い分けの調査で興味深かったのが、「Facebookはもうフォーマルな場だ」という意見が聞かれたことでした。気軽に、なおかつ頻度高くアウトプットする際はInstagramだったりとか、もっとクローズドにやりとりできるメッセンジャーのLINEだったり、Snapchatなどに移行していることが見て取れます。

設樂:Facebookに関しては、本名で登録しているので個人が特定できてしまう。また学校の先生や親、今は連絡をとっていない知人、親しくない人たちともつながってしまうのが原因で、「投稿のハードルが高い」という声がありました。その結果、旅行、入学式、卒業式、誕生日みたいな人生の節目に報告書的に投稿するようになっているようです。

ドミニク:これはアメリカの若いティーンエージャーたちが最初に、親の目から逃れるためにFacebookからSnapchatに「避難」した理由としてよく言われていることですが、日本でも同じ傾向が見られるんですね。

天野:ビジュアルコミュニケーションへのシフトが、今のSNS利用のあり方を少しずつ変え始めているようです。特に若年女性についてはFacebook、Twitterなどユーザー数の多い基底的なSNSももちろんアカウントを所持し使ってはいるんですけど、使う時間や熱意を見ると、どんどんInstagramとかSnapchatなど、ビジュアル的なものにシフトしてきている。

ドミニク:突き詰めれば、言葉さえもコミュニケーションコストの高い「面倒なもの」になってきている。人と人がつながる本質は変わらなくても、ビジュアルコミュニケーションによって文脈に依存しないままコミュニケーションが図れる状況が進展しているということですね。

設樂:存在感を増すInstagramの一側面として、流行や買いたいもの、休日の過ごし方などをサーチするための検索エンジンとして活用されていることが挙げられますね。こうした特徴的な使われ方と利用率の高さとで、ビジュアルコミュニケーションを考える上で代表的なアプリだといえそうです。

美和:Instagramでみんなが行っているお店を見たりとか、「#代官山」で検索して今みんながどこに行っているかを知るという意見も示唆的でした。そして、そういったものの根底にあるのが安心感のある情報源を求めているということです。利害の絡まない知り合いだったりユーザーだったりが実際に言っていることを信頼して取り入れるというようなことが背後にある。

ドミニクチェンさんと美和


ビジュアルコミュニケーション時代により高まるアテンション獲得の視点

天野:ユーザーインタビューでは、YouTubeStarやVinerの魅力はアマチュアだが更新頻度が高くて見飽きないところにある一方で、テレビに出ているようなプロは、同じネタをやっているように見えてしまうんだと述べられていました。

コンテンツの中身の問題というより、それが届けられるスピードや選択肢の話にフォーカスされていて、いかに今のユーザーのアテンションが高速で遷移するかを物語っていると感じています。消費の仕方の変化として象徴的です。

ドミニク:確かに、コンテンツの生成スピードの話は興味深いですね。自分自身がNHKの「NEWS WEB」に出演していて感じるのが、テレビのコンテンツ生成スピードはインターネットユーザーにかなわないのかもしれないということです。

この番組ではTwitterで視聴者から意見を拾うことでライブ性を担保しようとしていますが、良くも悪くも編集サイドの恣意性というか作りこまれてる感が際立って見えてしまうとネット側の反応も弱くなる。その半面、アクシデントや思わぬ感情の発露があると、ネットも即応する。

当然テレビのコンテンツもコミュニケーションのネタとして使われているわけですが、その上でポジティブで面白い変革が起こっているとしたら、プロフェッショナルがクオリティー高く作っている情報の上に乗っかるコミュニケーション自体が目的化していて、その形態に一番沿っている更新頻度の高いコンテンツこそがユーザーの情報活動に深くロックインしているということですよね。

設樂:コンテンツの生成スピードでいうと、スマホでのビジュアルコミュニケーションがテレビや雑誌などオフィシャルなメディアの機能を侵食することも懸念されますか。

ドミニク:そこは上手に二分化するのではないでしょうか。テレビや雑誌がネットをマネしようと思っても難易度が高い。NHKスペシャルとかブルータスの永久保存版号などはネットでは得られないような俯瞰性や一覧性があって、深掘り感がある情報だと思うんですけど、そもそもネットでビジュアルコミュニケーションが主流になるということは、そういうふうに深く情報を検索していないのではとも思いますが。


美和:ビジュアルのコミュニケーションは文字よりも一気に消費できるので、見比べるという行為が常になされる。どれが一番面白いか、つまらないかで一瞬でアテンションが移行してしまう性質がある中で、注目されるのは、「スタイルがあるもの」だと言われます。

例えば、写真加工のフレームが統一されていたり、写真のトーン&マナーがそろっていたり、構図が定まっていたり、良い具合にスタンプで盛られていたり…。みんな自分の写真へのアテンションを増すために、スタンプを買ったり課金したりするのもこうした背景がありそうです。

Picseeの使い方から見えてくるもの

北原:ドミニクさんは、プライベートなフォトメッセンジャーアプリPicseeをリリースし、運営されていますよね。ビジュアルコミュニケーションのためのアプリであり、写真の交換・共有というよりは、「自分がいま見ているものを他人に見せる」という意味で視点の交換・共有を体験できるアプリだと位置づけられています。Appleの「App Store Best of 2015 今年のベスト」のApp部門に選出されていたのも記憶に新しいですね。

今回の調査ファインディングスなどに照らして、感じられた点はありましたか。

Picseeロゴマークとアプリの説明
Picseeロゴマークとアプリの説明

ドミニク:Picseeでは「わざわざ話さないこと」がコミュニケーションされるし、できるんです。
Picseeユーザーの知り合いの中学生の子は、週に1回1枚写真を仲良しの子のグループにアップして500~600コメントとか、ひたすらその写真の上でやりとりしている。そこで話が尽きたと思うと、次の写真をどちらともなくアップしてそこで会話を継続する。

当初はまったく想定していなかった使い方ですが、写真を見ながら写真によってリテラルコミュニケーション(文字によるコミュニケーション)が連鎖するということが頻繁に起こっている。壁紙をアップするみたいな形で気軽にリテラルコミュニケーションの場をセットアップできるんだと。

私たちもPicseeを開発している過程で、コメント機能は切ってビジュアルコミュニケーションに振り切っちゃおうという議論もあったんですけど、ビジュアルから始まってリテラルが続くのは自然な流れなんだなということに途中で気付きました。

これがLINEやテキストメッセンジャーだと、用事がある時に使うというパターンが多いのは、アーキテクチャーの設計上、まず文字を打つために最適化されているタイムラインがあるからだと思います。
Picseeでは、ビジュアルありきのリテラルコミュニケーションのかたちがあるんだという点が発見でしたね。

天野:今回は意識的にリテラルコミュニケーションとビジュアルコミュニケーションとを対比し考えていますが、実は両者は相互に補完し合う関係性のものですよね。

天野

ドミニク:はい、それが最も自然な形だと思います。LINEでもスタンプが言語コミュニケーションの圧力を下げていますよね。他方で、全く文脈情報のない純粋なビジュアルコミュニケーションというのもエキストリームなわけで。

だから、一定の文脈が暗黙知化してるPicseeのようなビジュアルコミュニケーションはとにかく「楽」だというのが個人的にも感じるところです。シャッターボタンを押すだけで届くので、シャッターボタンによってコミュニケーションが発動する感覚があります。リテラルコミュニケーション的にいうと、シャッターを押すことでテキストを書くと同時に送るようなイメージなんですよね。

どんどん使っていくと、本当に意識しなくなるというか構図もいちいち考えなくなる。たとえば僕がプライベートで入っている、友達同士が「麺」や「カレー」の写真を送り合うグループがありますが、これのおかげで普段は連絡を取らない人とも緩やかにつながっていられるのもビジュアルコミュニケーションの効能なのかなと思わされています。

北原:負荷のなさということも関わりますね。

ドミニク:とにかく負荷がないですね。アプリやサービス設計の分野では、「ステップ数」という言葉がありますが、よく言われることは、ステップ数を半減させることができればその分野で革命が起きるということ。

たとえばEコマースでも、それまでは毎回クレジットカード情報を入れて買ってたのが、安全でセキュアな状況でワンクリックで買えちゃうみたいなことが達成できればステップ数が半減し、みんなの購買が増えることになる。

Snapchatも写真が消えることで心理的な負荷を下げてるし、Picseeの場合は撮ったら送れることで、親しい人同士での不要なステップが除かれ、これまでしてこなかったコミュニケーションが生まれる。

その点で考えると、Twitterのようなテキスト主体のサービスも文字入力の部分は古典的なキーボード入力なので、別の入力方法によってリテラルコミュニケーションのコスト(ステップ数)が下がれば別のコミュニケーション文化が生まれるということも考えられるかもしれないですね。

たとえば東京で歩いていると、中国人の観光客が歩きながらWeChatに向かってワーッとしゃべってボイスチャットで送っている人もいますが、あれも文字入力をうまく省略している例のように思えます。もちろん、公の場で大声を出しても恥ずかしくないという文化性も関係していますが(笑)。

ドミニクチェンさん


ビジュアルコミュニケーションが示唆する「絵文一致」の新たなコミュニケーション

天野:今のスマホユーザーは、画像を送ってコミュニケーションを図ることも増えていて、言葉ではなくビジュアルによって現在の状況、その場の雰囲気、自分の気持ちなどを伝えていますね。

Instagramでみんなに見せるものは加工したりもするが、メッセンジャーなどで身近な人に自分の気持ちを共有したいときは未加工のまま送るという声もあって、非常に興味深いなと思いました。

それに関連して、『メディア表象』(石田・吉見編 2015年、東京大学出版会)の中で、ボアシエというアーティストが「携帯電話はシフター(Shifter)である」と指摘していたのを思い出します。発話者の「いま・ここ・わたし」をシフトするものとして、携帯電話/スマートフォンが機能しているんだと。

まさに万年筆で書かれた文章を手渡すかのようにして、現代のユーザーは画像や映像などのビジュアルを他者に手渡していると述べています。ここまで議論してきたように、リテラルコミュニケーションとビジュアルコミュニケーションの境界線はどんどん近づいているのではないでしょうか。

設樂:情報発信や日々のログの残し方も、とてもシンプルなものになってきています。文字で記述せずに、写真で記録するような、日記型ではないアルバム型に変化してきています。

今の若者は周りからの見られ方を極端に意識して真の感情を語らないことが特徴の一つですが、その日何を感じたなどの自分の内面を記述することはせず、行動のログをビジュアルで示して、自分らしさを表現するというかたちが目立ってきている。

天野と設樂

天野:調査結果を踏まえながらいくつかトピックスを横断してきましたが、手軽に写真や動画を送ったり受け取ったりできる情報テクノロジーと、ユーザー側の心理の変化が絡み合い、若年層スマホユーザーを中心に確実にリテラルコミュニケーションからビジュアルコミュニケーションへのシフトが起こっていると思います。

また、スマホユーザーにとってはリテラルコミュニケーションやビジュアルコミュニケーションが区別されなくなっている面もあり、リテラルコミュニケーション活性化のためにビジュアルコミュニケーションを使うとか、場の雰囲気など説明できないものを説明するためにビジュアルをリテラル的に使うことも見られます。先ほど言及したシフターの作用が若年ユーザーにとって一般化し始めていて、リテラルコミュニケーションとビジュアルコミュニケーションが等価になりつつあることを示しているのかもしれない。

明治時代に、しゃべり言葉と書き言葉を一致させた「言文一致」の動きがあり、新たな文化的ムーブメントを形成していきましたが、それにならえば今起こっているのは絵と文字とが一致していくという意味で「絵文一致」と呼べるような、新しいコミュニケーションの統合の形ではないでしょうか。

 
【動画】ビジュアルコミュニケーション・7つのポイント 

プロフィール

  • Dominick chen pr
    ドミニク チェン
    起業家・研究者

    1981年、東京生まれ、フランス国籍。博士(学際情報学)。2008年度IPA未踏IT人材発掘・育成事業でスーパークリエータ認定。NPO法人コモンスフィア理事として、新しい著作権の仕組みクリエーティブ・コモンズの普及に努めてきた他、2008年に創業した株式会社ディヴィデュアルでは「いきるためのメディア」をモットーに「リグレト」(ウェブ)や「Picsee」(iPhone)、「シンクル」(iPhone/Android)などさまざまなソフトウエアやアプリの企画・開発を行っている。
    2015年度NHK NEWSWEB 第4期ネットナビゲーター。2016年度グッドデザイン賞「情報と技術」フォーカスイシューディレクターを努める。監訳書にマレー・シャナハン著『シンギュラリティ:人工知能から超知能へ』、単著に『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック』などがある。

  • Miwa
    美和 晃
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 部長

    入社以来、電通総研にて主に情報通信やデジタル機器・コンテンツ領域の調査研究や官・民のクライアント向け事業ビジョン構築作業とコンサルティングを実施。カメラ、ロボットから電子書籍まで幅広い分野を担当。2012年7月よりメディアイノベーション研究部にて情報メディア全般に関するプロジェクトに従事。2015年11月より現職。

  • Kitahara20028pro5
    北原 利行
    株式会社電通 電通総研・メディアイノベーション研究部 研究主幹

    情報システム部門、経営計画部門を経て研究開発部門に所属。2011年より現職。

    マスメディアやコミュニケーションの研究、メディア企業のコンサルティング、組織人事制度コンサルティング、広告および関連市場・業界動向調査などの業務に従事。「日本の広告費」および「情報メディア白書」の担当。
    『情報イノベーター~共創社会のリーダーたち~』(共著、1999年 講談社)等、著書論文多数。東京工業大学大学院非常勤講師、立教大学大学院兼任講師、総務省研究会専門委員、経済産業省研究会専門委員、(財)知的財産研究所専門委員等を歴任、JASRAC寄付講座講師、JICA研修講師など講師・講演多数。

    地方紙を中心とした新聞社に関わるさまざまな調査、プロジェクトに従事。新聞社での講演も多数。

  • 設樂 麻里子
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 副主任研究員

    2007年電通入社。
    現役女子大生で構成されたオピニオンリーダー組織「ハレ女委員会」共同創設者。
    「電通ギャルラボ」研究員。
    コミュニケーションプランナーとして、主にファッション、ビューティーなど若者女性向け商品を中心としたキャンペーンやイベントの企画プランニング、企業・ブランドのコミュニケーション戦略立案、アーティストのプロモーションなどを手掛ける。
    2015年から現職。スマートフォンのユーザーリサーチや、女性や若者を切り口としたインサイトの分析を専門とする。
    過去の主な受賞歴に、カンヌ金賞、ACCグランプリ、アドフェスト金賞など。

  •        prof
    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

    1986年生まれ。東京都出身。東京大学大学院・学際情報学府修士課程修了。
    2012年電通入社後、マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、2014年から現職。
    スマートフォンのユーザーリサーチを中心に、現在のメディア環境やオーディエンスインサイトを分析している。
    著書に『二十年先の未来はいま作られている』(2012年、日本経済新聞出版社、共著)、『情報メディア白書2016』(2016年、ダイヤモンド社、共著)。その他レポート執筆やセミナー講師など経験多数。

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