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アプリの企画制作から事業としてのマネタイズまでNo.4

UX(ユーエックス)ってなんだ?実際に活躍している人たちに聞いてみた(前編)

2016/01/21

ユーザー体験価値設計の重要性

前回からすっかり連載の時間が空いてしまいました(汗)。連載を続けるのって難しいですね。メディアの記者やライターの皆さんとは職業柄普段からお会いしていますが、改めて尊敬した次第です。

今回は、IT業界でもよく使われる用語である、UX(=読み:ユーエックス/ユーザーエクスペリエンスの略)という言葉に迫ってみたいと思っております。

UXとは、語義通りユーザーがあるサービスやプロダクトに接しているときの体験全体を総称する言葉として一般的に使われており、ITのウェブサービスやアプリの世界でも、類似したサービスやたくさん出てくる中で、このUXの考え方が年々重要視されてきています。

ITサービスの場合はデバイスからアプリまたはウェブにアクセスして操作することがほとんどで、その画面UI(ユーザーインターフェース)と併せて考えることが多いので、よく「UI/UX(ユーアイユーエックス)設計」とUIと併せて言うことが多いです。

このUXをどうマネジメントするか・どう設計していくかが、サービスの成否をそのまま分けるくらい重要になっているレッドオーシャンな(=競合がたくさんいるなどで競争性の高いこと)市場セグメントも散見されます。

一方で、最初の連載で取り上げた「グロースハック」と同じく明確な定義がない言葉なので、徐々に理解は進みつつもいくつもの解釈があり、若干曖昧な部分があることも事実です。

そこで今回はより実用的な視座で捉えるため、UXに専業で関わっている様々な立場のデザイナー/ディレクターさんにご協力をいただき、インタビューを実施しながらUXの概念や考え方をまとめていきたいと思います。

協力していただいた皆さん

「実際に活躍している人たち」というタイトルなので、原則、「その方が手がけているサービスを私がユーザーとして使ったことがあること」「担当した部分をお仕事を通して拝見したことがあること」を条件に、下記のUXデザイナー/ディレクターにご協力をいただきました(ご本人はもちろん、ご協力いただいた各社広報の皆さま含め、誠にありがとうございました)。

年代、性別、会社規模、役職や関わっているレイヤー、受託か自社サービスかなども、あえてバラバラにしました。

また、基本的には本連載のテーマであるウェブ/アプリの担当にフォーカスしておりますが、To B向けのシステムサービスやハードの設計、印刷物の制作業務をやっている方も含めてご協力をいただきました。

皆さんには以下の4つの質問をしました。UXという概念や経験、学習などを総論的に整理していくような編成にしております。

■実施した4つの質問

・「(あなたにとって)UXとは何か?」と聞かれたらどのように説明するか
・UXを考える上で大事にしているポイント
・UXを意識した象徴的な出来事(そのような経験がある場合)
・UXについてどうやって学習/インプットをしているか

この4つの設問をメールで送り、UXについての捉え方や設計の考え方をこの前編に、そして、過去のご経験や知見に関するものを後編に分けてご紹介いたします。

*全回答を出すのではなく、回答の中から一部を取り上げます。
*回答の紹介順は順不同です。
*時々、私が回答に個人的に感動/共感し、レビューが長文になってしまっていますがご容赦ください。

質問1:「(あなたにとって)UXとは何か?」と聞かれたらどのように説明する?

まずはUXについてどういう認識をしているのか、について聞いてみました。

ユーザーがサービスの接触の中で感じる体験の総称というのがコアにありつつ、そこに「使いやすさ」「心地よさ」「うれしさ」などを目指していくことの大切さを指摘する回答が多く見られました。

リコー・井内さん

“サービスや製品を使った時に受ける印象や雰囲気。狙いやコンセプトによって抱いてもらいたい印象は変わってくる。水をコップに入れて出すという行為でも、乱暴にガンとカウンターに打ち付けるように出すのと、ほほえみながら出してくれるのでは受ける印象がまったく違うが、これに近いもの。機能や結果は同じだが心地いいか、状況に合っているかどうか。”

搭載されている機能や実際に使用した結果ではなく、狙いやコンセプトに応じて印象のデザインが重要というのが、きっとカメラやプリンターなど、機能やスペックで語れば競合もたくさんある中で、ハードのメーカーとしてUXを考えてきたからこそ出る言葉だと思います。

皆さんの中でも大枠の機能的には同じであるにもかかわらず、「この商品を使いたい」「こちらの方が使い心地がいい」という体験は無いでしょうか。例えば高級ホテルやアパレルブランドのきれいな店舗や丁寧で気が行き届いた接客対応もその要素の1つです。UXによって、優れたブランドイメージやファンの醸成を行っているということでしょう。

また、他の視点で特に印象的だったのは、多くのUXについての回答の中に「サービスの実施主体から見た位置づけの視点」があったことです。

シロク・石山さん

“僕の場合、UXを一言で言うなれば、「製品やサービスに価値を感じてハマる仕組み」を指します。広義にとらえると、人とサービスの媒介であるウェブメディア、スマートフォンアプリケーション、IoTなどに含まれるハードウエアプロダクトなどいずれもそうですが、利用者がリアル・ネット問わず起こした行動を通じて得られる体験、シンプルに例えば「楽しい」「分かりやすい」「使いやすい」...など様々ありますが、利用者が製品/サービスに価値を感じること。つまり、製品やサービスを生み出す企業にとってUXは、競合優位性ともなり得ます。”

サービス主体となる企業にとっても、UXが競合優位性になる存在というご意見です。
グロースハック関連サービスを提供する会社の経営者らしいお考えともいえるでしょう。

インターネットサービスが中心の会社ですが、「リアル/ネット問わない」というのもUXを包括的に捉えていく上で重要な気がします。

NTTアイティ・濱口さん

“サービスがユーザーにもたらす体験です。UXという単語自体には、ポジティブな意味もネガティブな意味も含まれていません。デザイン次第で、ユーザーに良い体験も悪い体験もさせることができるのです。良いUXをもたらすようデザインされたサービスは、ユーザーのやりたいことを間違いなく実現させるのはもちろん、その過程で何かしらの感動を与えることができます。

ただし、実際にサービスをつくるときは、実はUXを考慮するだけでは良いサービスになりません。サービス提供者側の思いや事情もくみ取らなければ、サービスとして成り立たないケースもあります。

UXは、良いサービスをデザインするためのひとつの軸であって、全てではないと思っています。”

UXという言葉自体はフラットにとらえ、良いUXがユーザーへの感動までを与えることができるというデザインの重要性に言及しつつ、外側として、サービス提供者の想いの汲取りも重要というお考えです。

電通・鈴木

“底なし沼。私が取り扱うUXは、クライアントの目標達成のための体験です。その目標とは、多くの場合、売り上げと利益の向上です。それを達成するためのユーザー体験は単にUI設計や見た目のデザインにとどまる話ではなく、どういったきっかけでそのサービスを知り、何を期待してユーザーがそれに触れるのか?というPRやメディアプランニングに近い話にまで至ります。つまり、考えるほどに範囲が広く、同時に、リアルに体感をイメージする深い考察が必要なものだと考えています。”

電通のデジタルマーケティングセンターでクライアントのUX設計を担当している鈴木は、見た目のUI/UXのデザインだけではなく、メディアプランニングによる広告/PRの体験も含めてUXを更に広くとらえています。ある意味、広告会社らしい回答かもしれません。

確かにユーザーがブランドに接触し、購買を経てファンになるという一連の製品接触の流れを指すことはもちろん、サービスや広告・キャンペーンの体験全体をデザインする際によく使うカスタマージャーニーマップや、クロスメディアでのコンタクトポイントマネジメントの概念も広義的にはUXになるでしょう。

また、会社の利益を生み出す、正しいものを目指すという部分までもユーザー体験と両立させることをUXの意味として掲げています。

(改めて)UXとは何か

いただいた回答をまとめて図にしました。

まず最初に、「UX」の語義自体が示すような、ユーザーがサービス接触するポイントでの体験を表す総称的な意味合い(狭義のUX)があり、加えてUXの良いデザインや設計のゴールとして、ユーザーとそのサービス主体となる企業の双方のサービスへの満足を目指すことまで含めるということなのでしょう(広義のUX)。

次に、この設計を行っていく上で重要な観点を整理していきます。

質問2:UXを考える上で大事にしているポイントは?

続いてUXの設計の上でのポイントをお聞きしました。
顧客/ユーザーの視点を大切にしつつ、仮説に対する検証を大事にしている部分が印象的です。

リクルートマーケティングパートナーズ・若月さん

“時間軸でユーザー(のニーズ)を把握することです。例えば、結婚シーンにおける指輪は「婚約指輪」と「結婚指輪」に大別され、一般的には婚約指輪を買った後に結婚指輪を買います。ゼクシィ内で指輪を探す画面にしても、検討フェーズの違うユーザーが訪れ、それぞれ欲している情報は違います。もちろん婚約指輪を探していたユーザーでも、時間がたてば結婚指輪を探すユーザーに変化します。このような時間によってユーザー(のニーズ)が変化することも加味して、“1つ”ずつ画面を設計しています。”

ニーズを時間軸で捉え、そこに合った画面を情報設計していくことは、基本と言ってしまえばそうなのかもしれませんが、日本最大級の結婚情報サービス「ゼクシィ」でユーザー調査から要件定義、リリース後のABテストの結果まで一貫して手掛けているからこそ大事にしたい視点といえると思います。

NTTアイティ・濱口さん

“ユーザーの行動や気持ちを徹底的に理解することです。ユーザーになりきって、ユーザーがサービスと接する一連の物語を最初から最後までトレースしながら、サービスがどのようなUXをもたらすのか、想像をめぐらせます。ユーザーが本当にやりたいことは何か。それを実現させ、感動を与えているか。そうでないなら、どうすれば満たせるのか。このようにUXをありありと想像するためには、ユーザーの行動や気持ちを十分に理解している必要があるのです。”

ユーザーの行動や気持ちを理解をするための想像力が重要というご意見です。
濱口さんは普段からお仕事の中でユーザーリサーチをされているのですが、左脳的な結果の処理だけではなく、右脳的な観点も重要視されているのが感じられます。

実際に以前、濱口さんがデザインをご担当された画面は、ユーザーの次の動きや得たい情報がとても分かりやすく配置されていました。

シロク・石山さん

“僕が取り組んでいる、実践的なUXデザインとインタラクションデザインの考え方のUXデザインプロセスの話でも触れていますが、近年は機能開発による差を生みづらいため、体験価値を主眼に置いたサービスが増えています。利用者たちは企業が提供するサービスをより好みできる時代でもあるので、ニーズを満たす的確なソリューションが求められます。その上で大事にしていることは、顧客の問題を適切に知ること。顧客ニーズが実在するか検証すること。提供するものは一過性ではなく継続性があること。つまり、僕がデザインするのはユーザーにとって「忘れられない体験」ということです。”

一過性ではなく継続性のある体験デザインをユーザーのニーズや問題の理解からつくり出すのが大事ということですね。

忘れられない体験価値をつくっていくというのは決して簡単なことではないと思いますが、それくらいの高い視座でやっていくことが重要なのだと思います。

リコー・井内さん

“感覚的なものが多いので、そのUXがどのような価値になるのか?を説明できるように努力する。実現しようとしている世界の裏側にどんな技術が必要なのか?どのようにこのUXの価値を理解してもらうか?ということ。仕様書の通りに作るよりも工数が増えてしまうので、開発者をうまく説得するためにプロトタイプで体験してもらうなど。”

実装コストに関しては設計の中で社内の開発者の説得を、という観点をいただきました。
その明文化のために説明をしっかりできるようにするというのも実務の上では重要なことだといえるでしょう。

マナボ・佐野さん

“どのような形でもいいので、独善的にならないこと、仮説に固執しないこと、知見を積み重ねること、それが会社として文化になるように継続していくこと。”

スマートフォン家庭教師サービス「mana.bo」のデザインを担当される佐野さんも、継続的な積み重なりを大事にしています。

特に「会社としての文化にする」という思い入れは、スタートアップのサービスデザインをしているからこその視点なのかもしれません。

UX設計のポイント

今回の議論をまとめました。

設計の上でも、まずユーザーへの課題やニーズ理解が基盤にあり、その上でユーザーへの感動や継続したくなるデザインを大事にしているということが印象的でした。

クライアント業務の場合でも自社サービスである場合でも、ユーザー体験価値を最大化するためにUXの設計をしていく中で、そのサービス運営主体が持つ開発アセットへの配慮や目的達成も業務の上で担うべきだという考えが共通しているのも特徴的です。

一方で、サービス主体となる企業の事業フェーズや規模、課題によって「利益向上」や「会社の文化」など、UXで標榜していく目的やゴール自体には多様性があります。そのことがそれぞれのUXに対する意味付けや、設計の上でのテーマにもなっています。

私もサービスのターゲットや価値定義、CRM体制整備といった戦略やチーム体制から、ユーザー調査の実施、ワイヤーフレーム(サービスのUIにおける画面要素や機能、流れを図示した設計図)の作成、アクセス解析による課金導線の最適化といった現場レベルまで、様々なレイヤーを通してUXに向き合って奮闘しています。

その中で経営メンバーと現場のデザイナーでUXへの視座や標榜が違ったりします。時にはワイヤーを描いているうちに、気が付いたら事業戦略自体を一緒に練り直していたという経験もあります。

皆さまからの回答も含めて、UXの設計活動が事業テーマの達成の上でも重要であることの1つの証しといえるのではないでしょうか。

後編では、UXを意識する出来事やUXに関する学習方法など、よりフォーカスした議論を展開します。