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Experience Driven ShowcaseNo.50

「物質」がコミュニケーションをつくる、真のマルチメディア世界:落合陽一(前編)

2016/02/01

「会いたい人に、会いに行く!」第2弾は、メディアアーティストとして活躍され、さまざまなテクノロジーを研究する筑波大学助教の落合陽一氏に、電通イベント&スペース・デザイン局の藤田卓也氏が会いました。近著『魔法の世紀』では、人々がメディアの中の現実を共有する「映像の世紀」から、メディアが環境そのものに溶け込んだ「魔法の世紀」がやってくるといいます。現代の魔法使いといわれる落合氏の見る未来のビジョンとは?

取材・編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
(左より)落合氏、藤田氏

 

三次元映像の本質的な意味は、物と映像の垣根がなくなること

藤田:広告やコミュニケーションの世界も過渡期というか、まさに落合さんが本で書いていらっしゃるような「映像の世紀」から「魔法の世紀」へ変化している気がします。なので、今日は落合さんに話を伺い、ヒントを得たいと思ってお時間をいただきました。
最近は主にどんなことを研究されているんですか?

落合:近頃はずっとホログラムの延長ばっかりやっています。僕がやっているホログラムは、正しい意味でのホログラムで位相と強度の記録と再生を用いたものです。一般的なプロジェクターは二次元なので、世の中でいわれているホログラムの大体9割は、実はホログラムではない。そして、僕は“ホログラム警察”もしていまして、「ではない」方の使い方をしている9割の人たちをどう撲滅できるかということをしているんです(笑)。

やっているのは、波をどうやって三次元的に制御して対象に合わせるか。簡単に言うと、普通プロジェクターがあって焦点が合ったら、光の経路上は同じ絵が映るじゃないですか。だけど三次元的に物を結像させるということは、例えば、片方からビームを当てたら普通は同じ映像が出るはずなんですけど、2つのビームを使ってこっちの位相ではこの絵、こっちの位相ではこの絵と決めておくと、三次元的に光を結像させることができるんです。

こういう技術を使うと、例えば音でホログラムをつくったら物質感を持ったものが動かせる。三次元的に力とか光の伝播をどうやって集めるかみたいなことが、近頃の僕のテーマなのです。ホログラムというと、みんな空中映像みたいなイメージばかり想像しますけど。

藤田:そうですね。スター・ウォーズとか。

落合:三次元の映像の本質的な意味は、空中に物を出すことではなくて、物と映像の垣根を低くして三次元的に物と波を結像させることで、そこをずっと追求してやっています。ホログラムも含めてもっと大き な意味で自分のやっていることを説明するなら、メディアアートという言葉ですね。

コンピューターの使い方がいつからこんなふうになったか。マーク・ワイザーという人が1991年に書いた論文に「The Computer for the 21st Century」というのがあります。「将来、高度に発達した無線網と赤外線網があったら、人間はスクリーンを使ったり紙を使ったりタブレットを使ったりして、特にデジタル機器のことを意識することなくデジタル機器を使ってコンピューティングするだろう」というものです。

25年たった今はまさしくその時代になっています。要はコンピューター研究って、何をやるかの矛先が重要で、まず僕が選んだのは、視覚とか聴覚は人間の解像度に規定されていてそこをどうやって突破するかということ。目は60ヘルツ、解像度でいうと4K、8Kあれば足りると思われていて、耳も22.1キロヘルツまでしか聞こえない。

画面というのは二次元だから、本当に三次元的なものを扱うには、ホログラフィックな波面合成が必要だし、もっと強度を上げる必要がある。今はマイクロワットオーダーの出力しかなくて、エネルギー的にはまだすごく弱いけど、もっと強いエネルギーを出して時間や空間の解像度を高くすると、空中に絵が描けたり、物を自由に動かしたりできる。どちらも光と音を使っているので、テレビと出しているものは一緒だけど、より物質的な振る舞いをするというのが面白いと思っています。

藤田:人の生活のレベルが、一段次のステップにいく気がしますね。

落合:コンピューターの向かう先が物質的になるというのはほぼ間違いない。そういうマルチメディアの発展がいつ世の中に出てくるかというと、お金を掛けた分だけ早く出てくる。掛けたら掛けた分だけ早く来ますと言っています。視覚はテレビのような映像インフラが40年ぐらいずっと中心でやってきたので、そうじゃないものをどうやってつくるかは、かなり面白い課題だと思います。

 

音と光で触覚をつくる

落合:最近は「光で触覚をつくる」というのをやっていて。

藤田:ティンカーベルにさわれるものですね。

落合:ティンカーベルは、視覚半分、触覚半分みたいなものなんですけれど、ここ最近は「空中にどう点字をつくるか」をやっています。光でどう固いものや先鋭感をつくるかが面白くて、音と光で触覚をつくっていました。マルチメディアから物質へ。今まで所有という概念と共に語られてきた物質的なものが、計算機によって生成され得るようになってくる。

その点で、19世紀はコミュニケーション消費の時代だった。それは不便だったからだと思う。産業革命以前は、井戸に行かないと洗濯ができなかったから、井戸端会議が存在した。19~20世紀にマスメディアが誕生して、コンテンツを消費したり、どうやって複数の人に同じものを伝えるかという時代になった。今はテクノロジーによりメディアがパーソナライズされ、コンテンツがあり余ったため、コミュニケーションを消費するぐらいしかやることがない状態。ここからはものづくりとマスの接続をどうやっていくのかがキーワードだなと思っています。

落合:コンピューターは大量生産品だったけど、どうやってカスタマイズさせていくのかが今後はキーワードになってくる。アップルウォッチが出たときに、敏感だと思った。最初の広告に「これから製品をつくるプロセスは変わります」と書いてあったから。中の基板は一緒だけど、突然きらびやかで価格とラインアップが40種類ぐらいあるものを出して、全部違うのは面白いなと思った。マスとパーソナライズの中間を頑張ってやろうとしている。昔は良いライフスタイルを一個の製品で表現すればよかったけれど、ライフスタイルが多様化してきたら、製品ラインアップは生産性を下げない範囲で多様化するべきです。

藤田:絶妙なバランスですね。

落合:僕もピクシーダストという自分の会社の技術で製品つくっているけど、基板をつくっているときに思うのは、フラグシップとしてすごくかっこいいモデルをつくって、それ以外は基板提供でいいと思っています。

 

最終出力の解像度が高いと、いわゆる「サイバー」な感じにはならない

藤田:落合さんは、温度感というか、体温のある感じとない感じを表現でうまく使い分けている感じがします。アプローチ自体が、人間の生活や表現の手段をどう広げるかというところにあるからかもしれないですけれど、ものすごくサイバーに走っているのに冷たい感じがしない。

落合:最終出力の解像度が高いとサイバーな感じにならないというのが多分あると思う。
恐竜のベンチャー、知っていますか。恐竜スーツをつくっている会社があって、この中に人間が入っているんだけど、やたらうまいアニマトロニクスなので本物にしか見えない。現場で子どもにかみつくんです。

体長も6メートルぐらいある。中にリンク機構が入っていて、人間の動きが複雑な恐竜の動きに変換されている。CGでつくる以上の興奮が現場に行くとある。現場ではこれが来ると恐ろしく、本当に怖い。すごくいいなと思って。

※後編へつづく