IoT時代のエクスペリエンス・デザイン #02

「エクスペリエンス4.0」
エクスペリエンスとビッグデータの融合

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    朝岡 崇史
    株式会社電通デジタル エグゼクティブ・コンサルティング・ディレクター

今回はエクスペリエンス・デザインの変遷を、特にデジタルとエクスペリエンスの関係性を軸にひもといていきたい。

連載第1回では、IoTが企業のビジネスに本格的に導入されるようになると、企業とお客さまはデータを媒介にして長い時間つながり続けるようになること、そして、その行動データはAI(人工知能)を駆使して解析(アナリティクス)されて「近未来のエクスペリエンスの予測と改善提案」を継続的に行うことが企業の提供するサービスの主な要素になることをお伝えした。

エクスペリエンスとデジタルとの出合いは「新しい価値や習慣」を生んできた

ここで重要なことは、IoTやAIは実は「ツール」(道具立て)にすぎず、企業が本当に立ち向かうべき対象は、IoTやAIの活用を前提にして、お客さまが企業(ブランド)に愛着を感じ続けるような豊かなエクスペリエンス(ブランド体験)をいかにデザインしていくか、ということなのである。同質化・成熟化のわなから逃れる最良の方法は、今もこれからも、提供するエクスペリエンスを磨き続けることなのだから。

さて、IoTもAIも共に現在進行形のデジタルテクノロジーだが、デジタルはエクスペリエンスと出合うことで「新しい価値や習慣」を生み出し、従来のアナログ的な体験を破壊し、焼け野原にしてきたことを忘れてはならないだろう。

手紙×デジタルが電子メールに、CDショップ×デジタルがiTunesやスポティファイへ、井戸端会議×デジタルがTwitterやFacebookへ、巨大ショッピングモール×デジタルがAmazonへ…など枚挙にいとまがない。

そして、この変化の歴史を注意深く観察し、時系列で変化の本質を整理していくと、デジタルとエクスペリエンスが最初に出合った約20年前から現在まで、「4つの大きなステージ」があることに気付く。古い方から新しい方へエクスペリエンス1.0、2.0…とナンバリングしていくと、以下のように整理できるはずだ。

  • エクスペリエンス1.0 1988年〜 デザインの領域をビジネスに拡大
  • エクスペリエンス2.0 2000年〜 経験は企業間競争の差別化ドライバー
  • エクスペリエンス3.0 2006年〜 推奨や評価の力をマーケティングに活用
  • エクスペリエンス4.0 2014年〜 エクスペリエンスとビッグデータの統合

各ステージのコンセプト、代表的な成功企業、各ステージで生まれた考え方やマーケティング理論をまとめたのが以下の図である。エクスペリエンスが企業の事業経営に与えるインパクトがエクスペリエンスのステージが進むにつれて「フォルテシモ」の状態(徐々に関与が深くなる状態)になってきていることが一目瞭然とはいえないだろうか。

エクスペリエンス4.0で「場」から「時間」軸へ移行

図をさらに丁寧に見ていくと、さらに重要な気付きが3点ある。

1点目は、エクスペリエンス1.0から3.0まではエクスペリエンスは限定された「場」で起きていたが、エクスペリエンス4.0では長い「時間」軸の中で起きるということである。これは拙著『IoT時代のエクスペリエンス・デザイン』の中の主要な論点の一つと重なる。

エクスペリエンス2.0以降の成功企業であるスターバックスの「The Third Place」(オフィスでも家でもない第3の場所を提供)、ディズニーの「Where Dreams Come True」(夢がかなう場所)というブランドスローガンを思い起こしてほしい。

エクスペリエンス4.0では企業(ブランド)がコミットメントする体験的な価値は「◯◯の時間」や「◯◯という人生」という形に変わっていくはずである。

2点目はそれぞれのステージで生まれた考え方やマーケティング理論がマーケティング4.0のステージでも色あせていないだけでなく、新たなデジタル技術と結び付くことで、次々に画期的なエクスペリエンスを創出する原動力になっていることだろう。

「UX/UI」という考え方はパソコンだけでなく、例えばスマホやゲームの世界でも広く活用されている。さらに、理論としての「サービス・ドミナント・ロジック」は現在のカーシェアリングやウーバー(Uber:自家用車相乗りサービス)、エアビーアンドビー(Airbnb:民泊サービス)のサービスに代表される「シェアエコノミー」の出現をすでに10年以上も前に看破していたともいえるだろう。

3点目は企業の事業経営に直接的に関わることだ。エクスペリエンス3.0がスタートしてからすでに10年もたっているにもかかわらず、多くの伝統的な大企業はこの流れに十分に乗り切れていないばかりか、見切り発車的にエクスペリエンス4.0にも対応せざるを得ないという状況に置かれていることは厳然とした事実である。

このことは多くの大企業にとって、企業主語からお客さま主語に転換してマーケティングプロセス全般を刷新するという活動と、IoT導入を前提にお客さまの近未来の予測や改善提案にコミットするという活動(エクスペリエンスのデザイン)を同時並行(複眼)で行うことを余儀なくされる状況を示唆する。

リソースの配分や社員の理解度・成熟度のレベル感など企業の経営者から見れば頭の痛い問題になるかもしれないが、生き残りのために「待ったなし」での取り組みが求められることになるだろう。

IoT時代の競争優位は「学習能力の速さ」

変化の激しい時代、企業間競争においては、ゲームのルールを変えたものだけが勝つ。そこでのアプローチはスピード重視。「リーン・スタートアップ」がこれからの導入戦略の基本になることはウェブ電通報でも繰り返し述べてきた。ぜひ併せてご参照いただければと思う。

エクスペリエンスが企業の事業経営の基軸になる時代、企業間の競争優位は他ならぬ「学習能力の速さ」なのである。

プロフィール

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    朝岡 崇史
    株式会社電通デジタル エグゼクティブ・コンサルティング・ディレクター

    エクスペリエンス・デザインを専門とするコンサルタント。
    大学生時代は東大野球部で選手・主務として活躍。
    1985年、電通入社。クライアント企業の経営層と向き合い、電通らしい右脳型のアイデアを武器に事業やブランドのコンサルティングを提供するソリューション型サービスを実践。ブランドコンサルティングを行うコンサルティング室長を経て現職。日本マーケティング協会(JMA)のマーケティング・マスターコース・マイスター(2011年~)。
    著書に「拝啓 総理大臣殿 これが日本を元気にする処方箋です」(東洋経済新報社 共著 2008年)「エクスペリエンス・ドリブン・マーケティング」(ファーストプレス 2014年)、「IoT時代のエクスペリエンス・デザイン」(ファーストプレス 2016年)がある。

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