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NRF2024 ~リテール・コマース領域の最新&最前線レポートNo.4

流通小売業だけにとどまらない、マーケティングの祭典へ

2024/03/18

今年で113年の歴史を誇る全米小売業協会(NRF)主催の世界最大の流通小売分野における大型コンベンション「NRF2024: Retail’s Big Show」。2024年のキーワードは、「Begin with Brands」「Start with Stores」「Play with People」の3つ。これまでの流通小売業やマーケティングが、どう変わるのか。現地に赴いたからこそわかる最新トピックスや潮流を、電通で流通小売業のBX・DX支援を行う木村 仁昭氏がレポート形式でお送りします。

※この記事はAdverTimes.(アドタイ)の記事をもとに作成しています。
<目次>
NRF2024、3つ目のキーワードは「Play with People」

ブランドグロースのためには、人との関係性から生まれるクリエイティビティを楽しむこと

ドリュー・バリモアのキーノートに見る、Play with Peopleの本質

NRFは、マーケティング・プロモーションの世界祭典へ進化する 
 

NRF2024、3つ目のキーワードは「Play with People」

ここまで、「NRF2024: Retail’s Big Show」のキーワードである「Begin with Brands」「Start with Stores」を、キーノートを振り返るかたちで読み解いてきました。

コロナ禍が明けた現在はまさに、流通小売業のパラダイムシフトが起こっているタイミングです。時代に応じたコンテクストを正確に捉えることと、そのようなレジリエンス能力が高いブランドとして認知されるためのコミュニケーションを展開することが求められています。

そんな潮流が巻き起こっていることを踏まえ、今回お話しするのは、NRF2024から見えた3つ目のキーワードである「Play with People」。いわゆる人と人との関係性が、小売のブランド力の向上に大きく寄与するということです。旧来的なバリューチェーンの枠組みのもとではなく、個の力でブランドビルディングが成立する時。そこに必要なのは、パーパスと共感できる仲間なのです。どういうことなのか、本記事でもキーノートを振り返りながらひもといていきます。

ブランドグロースのためには、人との関係性から生まれるクリエイティビティを楽しむこと

定番となった、2日目のMLK day(※) 祭日に合わせたキーノートには、元NBAのスーパースター、マジック・ジョンソン。そして、最終3日目の締めとなるクロージング・キーノートでは、ハリウッド女優のドリュー・バリモア(この他にもマーサ・スチュワートなど)が登壇。著名人の登壇も例年以上に充実していたのが2024年のNRFでした。

※MLK day : Martin Luther King Jr. dayの略、アメリカ公民権運動において多大な貢献を果たした故キング牧師をたたえる国民祝祭日。NRF会期の中日をその日にぶつけ、黒人の登壇者を招聘(しょうへい)するのが定番となっている。
 
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NRF2024の多彩な登壇者の顔ぶれ。左から、マーサ・スチュワート/マジック・ジョンソン/ドリュー・バリモア&シェイ・ホン。

マジック・ジョンソンはNBA引退後、1993年にJohnson Development Corporation(JDC)を設立。同社のCEOに就任するとともに、シネマコンプレックスのMagic Johnson Theaterを展開しつつ、スターバックスと共同出資でUrban Coffee Opportunitiesというコーヒーチェーンも運営しています。大谷翔平選手が移籍したドジャーズ他、スポーツチームの共同オーナーでもある、れっきとしたアントレプレナーです。

その彼は、NBAレイカーズ在籍時代の“バスケット・コネクション”が年齢とともに“ビジネス・コネクション”へと変化していく中で、自身があまり慣れないコート外において、頼るべき年長者・メンター(ビジネスにおける師匠)の必要性を説きました。そして、年下となる現場サイドでは、そこでもたらされるさまざまなアドバイスや金言に傾聴すべきである、と説いたのです。

スーパーアスリートだった彼が、わざわざ壇上から降りてその場に腰をかけ、職場における上司と部下・経営と現場といった組織における人間関係の在り方を、フランクに聴衆へ語り掛けていたのは印象的でした。アスリートとしてではなくビジネスパーソンとして、まさにDEIそのものを体現するフラットな目線や語り口。それらは彼の生まれ持ったリーダーシップと心温まるパーソナリティの何よりの証左であると感じます。

そもそも、今回のマジック・ジョンソンに限らず、米国のいわゆるセレブリティは、アスリートに限らず芸能人や俳優も自身の活動からピボットし、個人としてブランドや事業を立ち上げるケースが多く、本会期の最後に登壇したドリュー・バリモアもまさにその1人です。女優として華やかな一面を持ちながら、実業家としての顔も兼ね備える彼女は、さまざまな逆境を乗り越え、マーケター兼プロデューサーとして示唆に富んだインサイトとファクトを惜しみなく披露していました。

ドリュー・バリモアのキーノートに見る、Play with Peopleの本質

ドリュー・バリモアは、自身のブランド「Beautiful」を、“手の届きやすいプレミアム(accesible premium)”というコンセプトを掲げ、プロデュース・運営しています。若手起業家のシェイ・ホンが率いるプロダクトデザインファームMade By Gatherとの協業のもと、19カ国の市場、1万500以上の店舗やD2Cを通じて、スタイリッシュかつチャーミングなキッチン商品群をリーズナブルな価格で展開しているのです。

本キーノートでは、ドリュー・バリモアによる「Beautiful」とMade By Gatherがコラボレーションするきっかけとなった商品設計思想や開発秘話といった後日談が語られたのですが、その内容は、流通小売業の成長にもつなげることができそうなポテンシャルを秘めた話も多く、大変興味深いものでした。

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クロージング・キーノートのタイトルは、「From Wild Inspiration to Beautiful Creation」。

大きなポイントとしては、「①差別化を前提としたカテゴリー創造を行うこと」「②他社(者)とのパートナーシップをオープンに最大活用すること」「③ブランドが本来持つポテンシャルをクリエイティブなやり方で引き出す」の3つです。セッション中に紹介された下記の写真をご覧ください。

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「Beautiful」~ドリュー・バリモア×シェイ・ホン コラボ・デザインキッチン用品

 キーノートセッション中に投影されたこれらの写真からわかるのは、先ほど述べた3つのポイントです。プロダクトを見てみると、キッチンにはあまりないカラーを用いてシックで高級なイメージのカテゴリーを創造しているのがうかがえます(ポイント①)。さらに、若手起業家シェイ・ホンと誠実なパートナーシップを築き、互いの異なる専門性を相互補完し合っている様子も(ポイント②)。さらには、ブランドの持つポテンシャルを引き出すべく、キッチン用品とはサイズも機能も価格帯も異なる家具市場にまで領域を拡張して商品をプロデュースしています(ポイント③)。

聴衆の1人として筆者は、人と人とのつながりをその基盤におき、しなやかにマーケットを創造する、“Beautiful”なブランドグロース戦略は、十分にクリエイティブであるし、彼女自身がそのプロセスそのものを心から楽しんでいるように聞こえました。

最後に彼女はこう結んでいます。

“Our ideal is to be a partner where you have your dreams, you make them and you continue to move forward — and you don’t let each other down, also, an ideal partnership is one that’s honest.”

~私たちの理想は、夢を持ち、それを絶えず膨らませ実現しようとする意志のある人たちのそばに寄り添える存在であること。もしお互いがそう意識すればお互いを失望させることもありません。つまり理想的なパートナーシップとはそもそもHonestであるべきだと認識しています。

ドリュー・バリモアのセカンドキャリアは、マーケターとしてのインスピレーションに富み大きな成功を遂げました。しかし、それは決して彼女だけで実現したものではなく、人との交わりの中で創造してきたものであると言えます。

ポストコロナ時代のこれからに強いブランドとは、先の原稿で述べた3つのチェーンでいうところの旧来的なバリューチェーンの枠組みからではなく、「個」の内面的動機から生まれた「パーパス」が起点となっていると考えます。そして、そのパーパスに共感できる「仲間・チーム」のクリエイティビティが伴ってこそ、強くなっていくのではないでしょうか。

彼女が楽しそうに語る姿から、われわれが学ぶべきことは、ブランドクリエーション・ブランドビルディングというものが本来持つ根源的な楽しさであり、これが「Play with People」という言葉の本質だと、改めて気づかされたのです。

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NRFは、マーケティング・プロモーションの世界祭典へ進化する

NRFは長い間、参画者を流通小売業に絞ってきた歴史があります。しかし、コロナ前、2020年以前から顕著になってきたデータ/テクノロジードリブンのリテールDXの潮流もあり、その全貌は昨今変わりつつあります。コロナ禍でのここ数年は、ECの急速な進展とともに参画企業の裾野が広がり、その間口は広がる一方で、GAMS(Google/Amazon/Microsoft/Salesforce)といったプラットフォーマーがその勢力を大幅に拡大したことは周知の事実です。

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リテールDXをけん引する4大プラットフォーマー、“GAMS”のブース展示(左上から時計回りに、Google/Amazon/ Salesforce/Microsoft)。

実質的なポスト・コロナ・イヤーの開催となった今回のNRF2024は、そこにメーカー、ブランドサイドからも参画者が加わり、延べ4万人を超える来場者数となりました。もはや、流通小売業に限らない、マーケティング・プロモーションの世界祭典へと、トランスフォーメーションを遂げた印象さえ感じます。

2024年は、6月にアジア初開催となる「NRF APAC 2024」も行われます。流通小売業を取り巻く展開は、当該業界だけではなく、ブランドやメーカーのマーケターにとっても目が離せないものになっていくでしょう。

https://twitter.com/dentsuho