ろーかる・ぐるぐる #84

『特殊資料』の正体

オバマ大統領も訪れた広島平和記念資料館の設計は丹下健三さんによるものだそうです。かつて通った学校の校舎や築地の電通旧本社ビルなどを手掛けられたので、ぼくは勝手に親近感を抱いています。あるテレビ番組によれば、そのコンセプトは「平和をつくる工場」。平和は祈ることによって与えられるものではなく、建設されるべきものという思いだそうです。なるほど単なる慰霊のモニュメントではなく、単なる資料館でもなく、気持ちを動かすコミュニケーションの装置として設計されたからこそ、今日もなお世界中の人々の心に響いているのですね。また一つ、コンセプトの傑作と出会うことができました。

アイデアのつくり方

さて拙著『コンセプトのつくり方』を手に取った方からもご指摘を頂くのですが、この本はJ・W・ヤングの名著『アイデアのつくり方』(CCCメディアハウス)を意識しています。序文を入れてわずか50ページ程度にもかかわらず発想のエッセンスが凝縮された歴史的名著には及ぶべくもありませんが、広告業界の後輩として発想法に関する議論を前に進めたいという思いで、このようなタイトル・判型になりました。

『アイデアのつくり方』に書かれた有名な内容の一つに「アイデアをつくるために集めて来なければならない資料は、一般的資料と特殊資料の二つだ」という指摘があります。一般的資料とはまさに人生経験そのものを指します。一方、特殊資料とは、そのプロジェクトに「特殊な」もの。テーマとなる製品とそれを販売したいと想定している人々についての資料だということになっています。なるほどそれはそうなのでしょうが、現代のビジネスに携わる者の立場からすると、プロジェクトのスタート時点に必要な資料はもう少し幅があっても良さそうです。

十字フレーム
十字フレーム

拙著『コンセプトのつくり方』では、発想の全体像を十字のフレームで整理しています。つまり何かアイデアやコンセプトを開発しようというのなら、この六つの箱について思考の材料が必要だということになります。

まず、真ん中にある「課題‐コンセプト」とはつまり、あるモノ・コトについてひとの気持を動かす仕組みです。これがヤングの言う一般的資料でしょう。

となると自動的に残りの箱が特殊資料になります。まず「ビジョン」。これはプロジェクトを社会とどのようにつなげていくかという視点です。テーマとなる商品やサービスを取り巻く「時代・社会」環境に関する資料が必要ということになります。

「ターゲット」は生活者のうち、誰に対してアプローチすればよいのかという考察です。つまり、いま目の前にいるお客さまだけでなく、広く「生活者」に関する資料が必要だということです。

次の「具体策」とはコンセプトの視点で再編集されるべき既存の技術群を指します。いま市場では何が起こっているのか、「競合」に関する資料と考えても良いでしょう。

そして「商品・サービス」です。ここでいう「商品・サービス」とはターゲットとの結びつきをなんとかして創出したい「自社」のものを指します。つまり最後の一つは「(自分の)企業・商品」に関するありとあらゆる資料となります。

特殊資料と一般的資料
特殊資料と一般的資料

以前、このコラムでも書きましたが、コピーライターが商品やサービスのコピーを考えるときには「時代・社会」「ターゲット」「競合」「(自分の)企業・商品」という四つの切り口を意識するように教育されます。この四つの切り口は十字フレームの周辺にある四つの箱と一致するわけです。つまり、この四つこそ「その手があったか!」のイノベーションを起こしたいときに集めなければならない「特殊資料」の正体でした。

ところで一般的資料とは人生経験そのもの。常に関心のアンテナを張り巡らせてなければなりません。薄っぺらな人生しか送ってこなかったぼくも、せめて食の経験は豊かに。きょうは歌舞伎町の奥の方で数十年営業を続けている上海料理屋さんで「冷やしワンタン」に紹興酒です。いったんゆでたワンタンを冷水でキュッと締めることで、さぬきうどんのように独特のコシが生まれるのです。これを肴に街行く人を眺めつつ、夜の新宿をお勉強するのでした。

冷しワンタン

どうぞ、召し上がれ!

プロフィール

  • 4
    山田 壮夫
    株式会社電通 第1CRプランニング局

    1969年生まれ。アイデアを核として広告キャンペーンはもちろん、店舗開発からテレビ番組の製作まで手掛ける。特に最近は全国の地方新聞社厳選お取り寄せサイト「47CLUB」と連携してローカルにおける商品開発作業にチャレンジしている。2009年カンヌ国際広告祭(メディア部門)審査員。慶應義塾大学(メディア・コミュニケーション)、明治学院大学(経営学)非常勤講師。著書に『〈アイデア〉の教科書 電通式ぐるぐる思考』(朝日新聞出版)。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ