AI革命の「大分岐」で広告業界が動く~人を動かす次世代エージェント #03

「Desire」再び!広告業界はどのようにAIを活用したらよいか?

  • Nittou pr
    日塔 史
    株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局 エクスペリエンス・テクノロジー部 シニア・マネージャー

前回は一番大きな枠組みである「マクロ経済」からのAIの捉え方を述べました。今回は「広告産業におけるAIの活用方法」について提言します。広告業界がマクロ経済動向に合わせて飛躍するにはどうしたらよいでしょうか?

広告業界が進むべき方向~今のアドテクの穴を攻めろ

それでは広告業界はAIを開発・運用する技術者集団になればよいのだろうか。本稿ではそのように考えていない。やみくもにIT業界や金融業界と同じ土俵に上がれば、そこには桁違いの投資を伴う過酷な競争が待っているだけだからだ。AIを導入するためにはまず「現在のIT企業が進めるAIドリブンのアドテクの穴」を見つけ出し、その穴を「現在の広告業界がもつ強み」で埋めて強化する方向でAIを活用する戦略を考える必要がある。

今までのアドテクのトレンドは大きくいえば「ターゲティング」と「オプティマイゼーション」に集約されるだろう。アルゴリズムによって適切な人に、適切なものを、適切なだけマッチングするという「無駄をなくして効率を向上させる」という方向である(もちろんそれだけではないが、ここはあくまで方向性の議論に限定します)。この方向は一見効率的にみえるが、ターゲティングのカテゴリーを絞れば絞るほどユーザーが少なくなり、広告の現場からも「広告予算に比べて広告在庫(指定されたターゲット)が足りないので予算が消化できない」という声を聞く。それに対しては「たとえ個別のカテゴリーは小さくとも、それが大量に集まればマスより大きくなる(ちりも積もれば山となる)」という「ロングテール理論」による反論が予想され、現在の運用型広告の伸長をみると少なくとも現時点ではロングテール理論には妥当性があるといえる。しかし、果たしてこの方向で経済成長を続けることができるのだろうか。

現在のターゲティングとオプティマイゼーションは、「過去にあった需要」と「現在ある需要」に対して効率を向上させることはできるだろう。数年前に欲しかったものを買い物かごに入れっぱなしにしたら延々と現在までその商品に追いかけられるのは「過去にあった需要」、今欲しいものを検索したらそれに関連した商品をレコメンドされるのは「現在ある需要」の例である。今回のAIブームはビッグデータ解析によって支えられており、そのデータは過去と(当たり前だが)現在までのデータしか取得できないからだ。このように人間が自分の欲求を内在的に保有してそれを自覚しおり、「過去と現在の需要」に基づいて今市場で供給されているものとマッチングする方向性を「欲求内在型の供給最適モデル」と呼ぶことにする。しかし、過去(現在はすぐに過去になるので過去と同様と考える)だけを最適化して行った結果は縮小均衡・縮小再生産になるだけではないだろうか。そもそも人間は自分が欲しいものを自分でわかっているのだろうか?

羊たちの沈黙

レクター「われわれの欲求はどのようにして生まれるんだい、クラリス?われわれは欲求の対象になるものを意識的に探し求めるのかね?よく考えてから答えたまえ」

クラリス「ちがいますね。わたしたちはただ――」

レクター「まさしくちがう。そのとおりだ。われわれは日頃目にするものを欲求する。それがはじまりなのさ」  

新潮社『羊たちの沈黙』(トマス・ハリス著、高見浩訳)より

羊たちの沈黙BD

 

欲求外在型の需要創出モデル~マクロ経済動向にあわせた仕組みの創造

話を戻すと、AI革命で実現可能な「AK型生産経済」は、「供給」が労働なしに生み出され、理論上はモノやサービスはいくらでも作りあげられる豊かな世界だが、それに見合った「需要」がなければ経済は成長しない。供給が希少だった世界(供給<需要)では、供給を増やせばその分だけ需要もそれに応じて増えるので、供給を増やして最適化すれば経済は成長できる。しかし、AK型生産経済(供給>需要)では、供給はほぼ無限に増やせるので、供給の最適化という概念自体が意味をなさなくなる。需要を増やさない限りは機械によって創出される富の行く先がなくなり、技術進化の恩恵を社会が受けることができなくなるのだ。

自分の身を振り返ってみても、なぜ今欲しいものが欲しいのか、なぜ今とった行動をとったのか自覚していないケースが多い。そのような場合は、論理的帰結によって純粋に自分の内部から欲望や行動が発生したとは考えにくく、人間は外部的環境に影響されやすく外部との相互作用をもつことで欲望や行動が発生する。このような外部環境からの働きかけによって欲求を喚起して需要そのものを創出する方向を、ここでは「欲求外在型の需要創出モデル」と呼ぶ。そしてそのような潜在的な欲求を顕在化させたり、もしくは刺激を与えることで全く新しく欲求喚起して「未来の需要」を創出するのは、テレビCMの例を出すまでもなく、われわれ広告業界が長い歴史の中で最も得意としてきたことだ。広告理論では消費者の行動モデルとして1920年代に提唱された「AIDMA」(Attention→Interest→Desire→Memory→Action)が良く知られているが、その後2004年頃に「AISAS」(Attention→Interest→Search→Action→Share)が提唱された。文字通り、インターネット時代のマーケティングになって「Desire(欲求)」が抜け落ちてしまったわけであるが、広告業界が新しく作り出す新しい世界ではDesireに回帰し、「欲求外在型の需要創出モデル」で欲望自体を創出する方向でAIを活用するべきではないかと考えている。

プロフィール

  • Nittou pr
    日塔 史
    株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局 エクスペリエンス・テクノロジー部 シニア・マネージャー

    「体験価値マーケティング」をテーマにしたソリューション開発を行う。
    日本広告業協会懸賞論文「論文の部」金賞連続受賞(2014年度、2015年度)。

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