IoT時代のエクスペリエンス・デザイン #05

「エクスペリエンス指標と事業成果」
お客さまのエクスペリエンスのレベルを
常に把握し、PDCAサイクルを回そう

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    朝岡 崇史
    株式会社電通デジタル エグゼクティブ・コンサルティング・ディレクター
IoT時代のエクペリエンス・デザイン(書影)

 

「IoT時代のエクスペリエンス・デザイン」の連載の最終回。

企業が経営戦略の一環としてエクスペリエンスに取り組むとなると、当然それを正しく測定・評価すること、またPDCAを回していける組織体制を整えること、つまり「エクスペリエンスをマネジメントする」発想が必要になってくる。

お客さまのペインポイント(イライラしたり、がっかりしたりする機会)を解消するためのサービスプランを導入したら、実際に効果が現れているのか、仮に効果が不十分なのであれば、何が問題なのかを究明していくべきである。エクスペリエンスのレベルを常に把握し、PDCAサイクルを回し続けることが不可欠になってくる。

「ネット・プロモーター・スコア」(NPS)が注目されている

では、具体的にどんな評価指標でエクスペリエンスを測定したらよいのだろうか。よく知られているものとして、1993年にフレデリック・ライクヘルド氏が提唱し、2003年にベイン・アンド・カンパニーとサトメトリックス・システムズが発表した「ネット・プロモーター・スコア」(以下NPS)がある。

NPSはお客さまの推奨意向を発展させた指標だ。「企業・製品・サービスをどの程度、周囲の人に勧めたいか」を0点から10点まで11段階で質問し、9〜10点を「推奨者」、7〜8点を「中立者」、6点以下0点までを「批判者」と定義する。NPSは「推奨者」の比率から「批判者」の比率を引き算したものである。

例)「推奨者」が全体の50%、「批判者」が20%の場合、NPSは「50-20」で30点となる。

理論的には最高点は100点、最低点はマイナス100点ということになる。従来のお客さま満足度よりも企業側には厳しい指標なので、例えば、お客さま満足度90%の企業をNPSで測定するとマイナス30点だった、ということは頻繁に起こり得る。

従って、一般にNPSのスコアの高さは経済効果(企業の成長性)に反映されるケースが多いことが知られている。NPSの高い企業は「お客さま1人当たりの売り上げが大きい」「会員型サービスの場合は継続期間が長くなる」などである。このことはマーケティング3.0のステージでソーシャルネットワークの発達を追い風にして、お客さまの「推奨」や「評価」の力をマーケティングで活用することによって事業成果を上げている企業の事例(ナイキやゴープロなど)を考え合せても説得力が高い。

企業を悩ます「あしき売り上げ」の正体

しかしながら、実際、マーケットで起きている現実はそう単純ではないし、今後もその傾向は続くだろうというのが著者の経験から得られた知見である。試しに自社の推奨意向(0〜10までの11段階)のスコアとお客さまの年間の売り上げ(1回当たりの購入金額×購入頻度)のデータをそろえ、単回帰分析により寄与率を計算してみてほしい。その寄与率のスコアが低いことに驚くだろう。

それはなぜか? 確かに相対的に推奨意向の高いお客さま(推奨者、中立者)はブランドのヘビーユーザーであることが確認できる。しかしながら批判者の中でも推奨意向の最も低いレベル(推奨意向のスコアで0〜2の人たち。つまり批判者)でヘビーユーザーが予想外に多いことに同時に気付くはずだ。

これはいわゆる「あしき売り上げ」と呼ばれるお客さまのグループだ。企業が提供するサービスを通じて数多くの失望体験があり、推奨意向のレベルで見るとブランドの批判者という位置付けであるが、ブランドスイッチの障壁が高く、不本意ながらかろうじてブランドに残っているお客さまである。

こういった「あしき売り上げ」の存在を企業はどう判断したらよいのであろうか。「寝た子を起こさない」という消極的な対処の仕方もあるだろう。市場の流動性が低く、代替品の脅威がない場合はそれでもよいかもしれない。しかし、規制緩和などによってマーケットの流動性が急速に高まった瞬間、「あしき売り上げ」のお客さまが、せきを切ったかのようにブランドスイッチの行動を起こすリスクを企業は覚悟しなければならない。

「推奨意向と収益の9セル分析」で見えてくること

それでは、このような状況を踏まえ、エクスペリエンス4.0の時代に突入した現在、お客さまのエクスペリエンスをどうマネジメントしたらよいのだろうか。

著者は、2015年6月の日本マーケティング協会主催のエクスペリエンスセミナー「エクスペリエンス・ドリブン・マーケティング〜エクスペリエンス・デザインの導入から効果検証まで」で「推奨意向と収益の9セル分析」【図】を発表した。

 

推奨意向と収益の9セル分析

 

縦軸に経済効果としてお客さま一人当たりの収益(売り上げ)、横軸に推奨意向をプロットし、縦軸の収益と横軸の推奨意向をそれぞれ3×3=9個のセルに分割する。そして、ブランド全体でお客さまが各セルに何%ずつ入るのかを見ていくことで、企業が提供するブランドの状態が分かる。

もちろん、収益と推奨意向の両方のレベルが高い、一番右上のセルに収まる人の比率が多いのが、最も好ましい状態といえる。

また、各セルに「ブランド親衛隊」「やる気のないセールスマン」「ドナドナショッパー」「テロリスト予備軍」などとペルソナをキャッチフレーズ化したコピーをつけることで人物像の理解が進むような工夫をしている。ペルソナを表すキャッチフレーズが原案の考え方で本当に的確かどうかは企業の提供するサービスとお客さまとの関係性を検証しながらチェックが必要であるように思う。

縦軸の収益については、現在のところ、航空会社や携帯電話のような会員型サービスであっても、お客さまの行動データ(売り上げや継続会員期間など)とアスキングのデータ(推奨意向)の付き合わせが必要だが、エクスペリエンス×IoTのサービスが前提となるエクスペリエンス4.0のステージであれば、より簡易に両者のスコアの関係をひも付けることができるはずだ。

9セルにおけるお客さま比率の時系列変化を見ていこう。豊かなエクスペリエンスの提供により、お客さまのロイヤルティーが高まって、それが事業成果に表れれば、相対的に右上のセルのお客さまの比率が高まっていく。

また競合ブランド自社ブランドとで各セルのお客さまの分布の比較を行うことで自社ブランドの強み・弱みも透けて見えてくるだろう。少なくとも年に2回程度は9セルを詳しく分析して、そこから得られる知見をエクスペリエンス・デザインの戦略見直しに反映すべきである。

推奨意向が発生する要因を分析し、さらに推奨意向が何%上がればどのセルの人がどのくらい好転するか、そして売り上げにどの程度つながるかといったところまで分析すれば、それをベースに経営目標や事業の数値目標の設定もできるはずだ。

そうすることにより、事業戦略とマーケティング戦略の整合性が非常に高くなり、また透明性も高くなるだろう。必然的に、エクスペリエンス・ドリブン・マーケティングが感性からサイエンスへと昇華することになるに違いない。

プロフィール

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    朝岡 崇史
    株式会社電通デジタル エグゼクティブ・コンサルティング・ディレクター

    エクスペリエンス・デザインを専門とするコンサルタント。
    大学生時代は東大野球部で選手・主務として活躍。
    1985年、電通入社。クライアント企業の経営層と向き合い、電通らしい右脳型のアイデアを武器に事業やブランドのコンサルティングを提供するソリューション型サービスを実践。ブランドコンサルティングを行うコンサルティング室長を経て現職。日本マーケティング協会(JMA)のマーケティング・マスターコース・マイスター(2011年~)。
    著書に「拝啓 総理大臣殿 これが日本を元気にする処方箋です」(東洋経済新報社 共著 2008年)「エクスペリエンス・ドリブン・マーケティング」(ファーストプレス 2014年)、「IoT時代のエクスペリエンス・デザイン」(ファーストプレス 2016年)がある。

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