DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~ #57

クリエイティブコンサルタントは人材不足?~水野学さんの講義から

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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

今回は『「売る」から、「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義』(誠文堂新光社)を取り上げましょう。

水野学さんはグッドデザインカンパニー代表として、企業のロゴ制作、商品企画、パッケージデザイン、インテリアデザイン、コンサルティングまでをトータルに担うクリエイティブディレクター。熊本県のキャラクター「くまモン」をはじめ数々のプロジェクトを手掛けています。

本書は、そんな水野さんが慶応大学で実施している人気講義を書籍化したものです。

『「売る」から、「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義』

ブランドとは、見え方のコントロールである

タイトルにあるように、企業の商品やサービスが「売る」から「売れる」へ転換するためには、「ブランドを作る」ことが必要です。

本書では、この「ブランドを作る」ために、水野さんがデザインを武器にして実践しているノウハウが公開されています。

では、ここでいう「ブランド」とは何を指すのでしょう?

水野さんは「ブランドとは、見え方のコントロールである」(P.32)と定義されています。そしてそれを作るイメージは、世の中を驚かすような奇をてらったことをするのではなく、河原で石を積み上げていくような感じであるといいます。

石のひとつひとつはなにかというと、商品そのものであったり、パッケージデザインであったり、広告であったり、その店舗の空間デザインであったりといった、その企業のアウトプットです。企業が発信するアウトプットが、ブランドをかたちづくっているんです。(P.31)

たとえば、アップルというブランドは、見え方すべてがカッコいいと例に挙げられています。商品がカッコいいのはもちろん、ニューヨークや銀座にあるアップルストアやウェブサイト、広告から商品の梱包に至るまで、すべての見え方がコントロールされていて、そのおかげで「美意識の高さ」や「クリエイティブへのこだわり」が顧客にちゃんと伝わっているわけです。

見え方をコントロールできる人、それは…

こういった「見え方のコントロール」が「売れる」ために必要になのであれば、当然「見え方をコントロールできる人」が必要になってきます。

今、ビジネスの世界ではこの人材がすごく求められているのです。具体的にいうと、企業のトップと直接話し、そのやりとりの中で、コンセプトの方向性、商品のデザイン、広告の表現を依頼するパートナーの選定などを請け負う人です。

これは、ビジュアル管理やデザインの視点を持ち合わせつつ、クリエイティブ全般を判断するという広義のクリエイティブディレクション領域です。

ブランドをつくることが目的でのクリエイティブディレクションなので、広告表現だけでなく、「社会的な視野に立った戦略を構築できる」という意味でのクリエイティブディレクション、もっといえばクリエイティブコンサルティングともいえます。

そして、このポジションは求められているにもかかわらず、かなり人材不足のようなのです。

じつをいうと、ここでいっている意味でのクリエイティブディレクターという役職の席、クリエイティブコンサルタントといい換えてもいいかもしれませんが、この席が、いまずいぶんと空いているんです。ぼくの肌感覚でいうと、全部の席のうちのまだ1パーセントくらいしか埋まっていないんじゃないかと思いますね。いろんなところで、いろんな企業が、こんなにも必要としているのにもかかわらず、です。(P.40~41)

水野さんは、このポジションを担うクリエイティブディレクターであり、クリエイティブコンサルタントというわけです。

手掛けた事例として、奈良の老舗生活雑貨「中川政七商店」や福岡の久原本家のだしのブランド「茅乃舎」などが紹介されています。

これらのプロジェクトでは、ブランドロゴをはじめ、商品タグ、紙袋、社用封筒から段ボール、あげくには新社屋のデザインまで、全方位の見え方をコントロールしているのです。

また、これらの見え方コントロールは、社員のモチベーションも上げる効果もあったといいます。当然、社員もカッコいいブランドで働いている方が誇らしく、やりがいを感じるでしょう。

クリエイティブディレクター、クリエイティブコンサルタントに必要なもの

このような見え方のコントロールを担うには、カッコいい見え方かどうか(狭義のカッコよさではなく社会や人々に受け入れられるの意)を判断できるセンスが必要になってくるでしょう。水野さんのようなデザイナー出身でなくとも、その役割を担えるのでしょうか?

本書には、このような説明がありました。

センスとは、集積した知識をもとに最適化する能力である。(P.53)
最適化は、知識があればできる。知識は努力すれば集められる。(P.217)

たとえば、ゾウの絵を描くというのは、ゾウの特徴を知っているという知識を元に自分なりに最適化する作業です。もっと詳しくゾウの特徴を知れば、描く絵もまた変わってくるはず。

要するに、センスは努力で知識を蓄えることによって身につくということです。デザイナーでなくても見え方のコントロールは担えるわけです。

実は数年前から、僕自身もこの領域の仕事がすごく増えてきています。

インターネットとソーシャルネットワークの浸透が企業ブランドに透明化をもたらしたため、広告は表面的な「お化粧」では機能しなくなりました。

広告はブランドの一端を担うコミュニケーションになり、そのブランドを作るには、企業の人格というものを、商品やサービスの検討前の段階から購買体験、アフター領域まで、すべての顧客接点で統一する必要が出てきました。

これは、水野さんの言う「見え方のコントロール」と同義で、まさに「河原で石を積み上げていくような」作業です。

水野さんはこのポジションが人材不足だと言っています。

ならば今後、このポジションを担うクリエイティブディレクター、クリエイティブコンサルタントがたくさん出てくれば、世のブランドはもっともっと活気づくんだろうなと思います。

なんだかワクワクしますね。

プロフィール

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    京井 良彦
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター  プランニング・ディレクター

    1969年生まれ。大手銀行でのM&Aアドバイザーを経て、2001年電通入社。
    営業局でグローバルブランドや官公庁など多岐にわたるクライアントを担当し、現在はソーシャルメディアやデジタル領域を中心とする戦略プランニング、コミュニケーションデザイン、共創マーケティングを手掛ける。東京都市大非常勤講師。著書に『ロングエンゲージメント』(あさ出版)、『つなげる広告』(アスキー新書)などがある。

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