Dentsu Design Talk #80

A→I 人工知能は「アル」から「イル」へ。(前編)

  • Ishikawa yoshiki pr
    石川 善樹
    Campus for H共同創業者
  • Dominick chen pr
    ドミニク チェン
    起業家・研究者
  • Mizuguchi tetsuya pr
    水口 哲也
    レゾネア代表 / 米国法人enhance games CEO
  • Yamakawa hiroshi pr
    山川 宏
    ドワンゴ人工知能研究所 所長
  • Nittou pr
    日塔 史
    株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局 エクスペリエンス・テクノロジー部 シニア・マネージャー
人工知能について「人間が行っている仕事を奪うもの」と悲観的に捉える人もいるが、本来は、人間の生き方を拡張する方向に使われるべきものだ。今回の電通デザイントークは、人工知能がもたらす未来を探る。登壇するのは、医学博士で予防医学×AIの研究をしている石川善樹さん、情報学研究の第一人者でもあるIT起業家のドミニク・チェンさん、常にデジタル技術の最先端を取り込み新しい表現を創出し続けているクリエーターの水口哲也さん、ドワンゴ人工知能研究所所長の山川宏さん。技術の進展をポジティブに捉え、人工知能が「アル」だけでなく、当たり前に「イル」未来を、クリエーティビティーや欲望、心、感情などを軸に語り合った。司会は電通の日塔史さん。その様子を前後編に分けてお届けする。
(左より)水口氏、石川氏、ドミニク氏、山川氏、日塔氏

 

AIは産業革命に匹敵するインパクトを持っている     

日塔:私は、人工知能など加速するテクノロジーを未来志向で産業活用していくことをテーマにしています。AIは現在第3次ブームといわれていますが、かつての数字やテキストのみを扱っていた時代から、今では画像や音声などの非構造化データを扱えるようになりました。画像の認識は人間の精度を超えたといわれています、音声認識も急速に進化しています。AIとは一体どのようなものであって、次のビジネスにどうつながるのか。それを考えるのが本日の趣旨です。最近ではマクロ経済学者が AIに言及するようになりました。駒澤大学の井上智洋先生は、AIは「汎用目的技術」であると言っています。汎用目的技術とは、さまざまな産業に使える技術のことです。過去に産業革命を起こしてきた蒸気や電気もまた、汎用目的技術でした。つまり、「蒸気→電気→IT≒ AI」と歴史は進んでおり、AIは経済を成長させることができるという主張です。

山川:私は22年ほど富士通研究所で人工知能などの研究を行い、2014年からドワンゴ人工知能研究所に移りました。2007年から2010年ころにかけて、将棋のプロ棋士が直観的に次の一手を選択する際の脳の働きについての研究に関わりました。その当時、コンピューターは何億通りもの手が読めるものの、次手の良しあしの判断は劣りました。一方、人間は1、2の手筋しか読みませんが、その手筋を読み取る直観が強力でした。機械対人間は、“読み”対“直観”の勝負だったわけです。しかし、最近はディープラーニングによって AIもある程度の直観を持てるようになりました。その結果パワーバランスが崩れて、人間が勝てなくなってきました。

一方、創造性という側面で考えるとどうか。そもそも、創造性とは何でしょうか? 全体を部品に分けて、それらを組み合わせるのが創造性の基本です。ディープラーニングによって、顔の画像から目、鼻、口などの部品を取り出すことはできるようになりました。そしてAIは組み合わせることは元来得意です。ただし、現在はまだ多くの場合、価値の高い組み合わせの選択は自動化できていない。現状におけるAIは創造性の面では必ずしも人間を超えることができていません。

 

AIが発揮する「クリエーティビティー」とは?

ドミニク:私は人工知能や機械学習のプロパーではないのですが、10年ほど前から、インターネット時代の著作権の在り方に関する活動をしています。改変やリミックスによって創造性を発揮するネット上の状況に、現行の著作権法はそぐわない。そこで、クリエーターが自主的に自分の作品の権利に対し意思表示をするシステムとして、「クリエーティブ・コモンズ」の普及に取り組んできました。

今日自分がここに呼ばれたのは、1月に『シンギュラリティ:人工知能から超知能へ』という本の監訳をしたからだと思います。この本は人間の知性と機械的な知性の相違点について冷静に、淡々と語っています。この本を読んで分かることは、 AIはもう近未来の話ではないということです。機械学習が協調フィルタリングやレコメンデーションエンジンなどに活用されているように、社会全体に溶け込み始めている存在であることが分かります。AIとクリエーティビティーというテーマを考えたとき、人間に残されているのは数値化できない嗜好や感覚、そして苦痛や欲望という生命として所与の行動の動機です。 AIやVRでそれをどういう情報技術として扱うかが、今一番面白いのではないかと思っています。

石川:僕は予防医学を研究しているのですが、ひょんなことから AIの分野も研究することになりました。最初はダイエットの研究をしていたんです。そして、ある事実を発見しました。春から夏にかけてダイエットでやせた人の80%以上が、夏から正月すぎまでに元の体重かそれ以上に戻っている。つまり、ダイエットは実は“確実に太るための手段”だったわけです。つまり、太らないようにするためには、太る前から食事の改善をするしかない。うまくて体にいい料理はどうすればできるのか。研究を進めていくうちに、レシピ、食材の風味、調理法の三つを AIに入力すれば、新しくておいしい料理がつくれるだろうと分かってきました。そこまできた時に、僕と同世代の天才科学者ラヴ・ヴァーシュニーさんが、すでにシェフ・ワトソンを作っていたことを知ったわけです。それで、今は彼と一緒に研究をしています。

相当近い将来、ヘルシーでおいしい料理をつくる AIができて、将来は各家庭にシェフロボットがいる時代になります。シェフロボットは個人の好みをよく把握していて、いつどんな料理が食べたいか本人以上に分かっている。お母さんってそうでしょう?「そろそろカレーよね」って(笑)。それが実現すると、食材も飲み物もドローンで自動調達できるようになる。つまり、健康も、ガスや水道と同じように「インフラ」になるんじゃないかなと。

クリエーティブの研究もしています。クリエーティブの語源は「自然」です。人は問いを立て、さまざまな情報を収集して組み合わせ、アイデアを作ります。でも自然は問いを立てません。しかも、DNAは「A」「T」「G」「C」の4文字だけでやりとりできるから、人間の言語よりも圧倒的にクリエーティブのスピードが速い。確率的にあり得ないものも自然は作る。だから、人間が確率的にあり得ないものを作れたら、それは初めてクリエーティブと呼んでいいのではないか。僕自身、確率的にあり得ないような食材を組み合わせて神の一皿ができたら、料理についてクリエーティブできたのだと思います。そのためにいかに人と機械が協業するかが、21世紀の僕らのチャレンジだと思います。

水口:僕はゲームクリエーターです。昨年12月に雑誌『WIRED』の企画で、アウディの人工知能「ロビー」のレーサープログラムをバルセロナのサーキットで体験してきました。車に乗り込むといきなり「ようこそ、水口さん」と車に話しかけられて、ぐっときましたね。運転席にはエンジニアが座っていますが、彼はボタンを押すだけです。あとは勝手に車が走りだし、直線では250キロを超えるスピードで走るんです。

最初は怖かったけれど、車全体がセンサーの塊なので、2周、3周と回るうちに路面の状態を把握してロスが少ない最速の状態で走ってくれる。コーナリングで滑るようなこともなく、最高のラップをたたき出します。そのうち、「怖い」から「楽しい」に気持ちが変わっていきました。帰りにアウディの人がホテルまで車で送ってくれたんですけど、高速道路で車線変更したときに「ちょっと乱暴じゃない? もっとスムーズに運転してよ」と思う自分がいて(笑)。1回ロビーに乗っただけで、自分の運転の感覚がものすごくアップデートされていたことを実感しました。その感覚は今も残っています。運転するという喜びの代償としてヒューマンエラーの危険性は常にあるんだなと、身をもって感じるようになりました。
車って一体何でしょう?メディアデザインの観点では、あらゆるメディアは人間の身体機能や感覚の延長戦上にあると考えます。車は「足」の延長だったわけですが、自動運転ができる車はそこに「脳」が融合してきているわけです。

水口:もうひとつ、僕がゲームクリエーターになるきっかけになった『ソサエティ・オブ・マインド』(心の社会)という本があります。人間を客観的に観察し、葛藤とは何か、人間の感情はどう生まれるのかということが書かれています。2011年にその著者で人工知能の研究者のマービン・ミンスキーにインタビューする機会があったのですが、彼が最初に言った言葉に衝撃を受けました。「人間って、暇でしょ?だから何かしたいじゃない」って。僕らがしていたいろいろな作業が AIに置き換わっていくと、人間はもっと暇になる。その時に暇をどういう楽しいことに変えていくのか。それが今クリエーティブに突き付けられていることなんだと思いました。

<後編につづく>
こちらアドタイでも対談を読めます!
企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀

 

プロフィール

  • Ishikawa yoshiki pr
    石川 善樹
    Campus for H共同創業者

    1981年広島県生まれ。東京大学医学部健康科学卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程を経て、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとした学際的研究に従事。専門分野は、予防医学、行動科学、マーケティング、計算創造学、計算社会科学など。講演や雑誌、テレビへの出演も多数。著書に『疲れない脳をつくる生活習慣』(プレジデント社)『最後のダイエット』(マガジンハウス)、『友だちの数で寿命はきまる』(マガジンハウス)など。

  • Dominick chen pr
    ドミニク チェン
    起業家・研究者

    1981年、東京生まれ、フランス国籍。博士(学際情報学)。2008年度IPA未踏IT人材発掘・育成事業でスーパークリエータ認定。NPO法人コモンスフィア理事として、新しい著作権の仕組みクリエーティブ・コモンズの普及に努めてきた他、2008年に創業した株式会社ディヴィデュアルでは「いきるためのメディア」をモットーに「リグレト」(ウェブ)や「Picsee」(iPhone)、「シンクル」(iPhone/Android)などさまざまなソフトウエアやアプリの企画・開発を行っている。
    2015年度NHK NEWSWEB 第4期ネットナビゲーター。2016年度グッドデザイン賞「情報と技術」フォーカスイシューディレクターを努める。監訳書にマレー・シャナハン著『シンギュラリティ:人工知能から超知能へ』、単著に『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック』などがある。

  • Mizuguchi tetsuya pr
    水口 哲也
    レゾネア代表 / 米国法人enhance games CEO

    慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特任教授。ビデオゲーム、音楽、映像、アプリケーション設計など、共感覚的アプローチで創作活動を続けている。2001年「Rez」を発表。その後、音楽の演奏感を持ったパズルゲーム「ルミネス」(2004)、キネクトを用い指揮者のように操作しながら共感覚体験を可能にした「Child of Eden」(2010)、RezのVR拡張版である「Rez Infinite」(2016)など、独創性の高いゲーム作品を制作し続けている。Rezで2002年文化庁メディア芸術祭特別賞、Ars Electoronicaインタラクティブアート部門名誉賞などを受賞。2006年には全米プロデューサー協会(PGA)とHollywood Reporter誌が合同で選ぶ「Digital 50」(世界のデジタル・イノベーター50人)の1人に選出される。2007年文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査主査、2009年日本賞審査員、2010年芸術選奨選考審査員などを歴任。

  • Yamakawa hiroshi pr
    山川 宏
    ドワンゴ人工知能研究所 所長

    1987年東京理科大学理学部物理学科卒業。1989年東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻 修士課程修了。1992年東京大学大学院 工学系研究科 電子工学専攻 博士課程修了。1992年富士通研究所入社。1994年同社から通産省RWCプロジェクトに参加。2014年ドワンゴ 人工知能研究所 所長。2015年産総研人工知能研究センター客員研究員就任。2015年特定非営利活動法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブ 代表就任。2015年電気通信大学大学院 情報システム学研究科客員教授就任。工学博士。専門は人工知能、特に認知アーキテクチャー、概念獲得、ニューロコンピューティング、意見集約技術など。

  • Nittou pr
    日塔 史
    株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局 エクスペリエンス・テクノロジー部 シニア・マネージャー

    「体験価値マーケティング」をテーマにしたソリューション開発を行う。
    日本広告業協会懸賞論文「論文の部」金賞連続受賞(2014年度、2015年度)。

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