Dentsu Design Talk #81

A→I 人工知能は「アル」から「イル」へ。(後編)

  • Ishikawa yoshiki pr
    石川 善樹
    Campus for H共同創業者
  • Dominick chen pr
    ドミニク チェン
    起業家・研究者
  • Mizuguchi tetsuya pr
    水口 哲也
    レゾネア代表 / 米国法人enhance games CEO
  • Yamakawa hiroshi pr
    山川 宏
    ドワンゴ人工知能研究所 所長
  • Nittou pr
    日塔 史
    株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局 エクスペリエンス・テクノロジー部 シニア・マネージャー

人工知能について「人間が行っている仕事を奪うもの」と悲観的に捉える人もいるが、本来は、人間の生き方を拡張する方向に使われるべきものだ。今回の電通デザイントークは、人工知能がもたらす未来を探る。登壇するのは、医学博士で予防医学×AIの研究をしている石川善樹さん、情報学研究の第一人者でもあるIT起業家のドミニク・チェンさん、常にデジタル技術の最先端を取り込み新しい表現を創出し続けているクリエーターの水口哲也さん、ドワンゴ人工知能研究所所長の山川宏さん。技術の進展をポジティブに捉え、人工知能が「アル」だけでなく、当たり前に「イル」未来を、クリエーティビティーや欲望、心、感情などを軸に語り合った。司会は電通のAIに特化した社内横断組織のリーダー日塔史さん。前編に続き、その後編をお届けする。

(左より)水口氏、石川氏、ドミニク氏、山川氏、日塔氏

 

人間の欲望をよく知れば
AIがもたらす「幸せ」も見えてくる

ドミニク:僕の奥さんは料理が好きなんですけど、仕事が忙し過ぎてなかなか自分で料理をする時間を持てないんです。彼女に石川チームのシェフロボットを与えたら、はたして喜ぶだろうか? と、さっきから考えているんですよね。たぶん労働から解放される点はメリットとして映るかもしれないけれど、新しいものを創造するプロセスは自分でやりたいと言うだろうなと思って。(※ 後日聞いたら、案の定、「料理をするという私の癒やしの時間を奪わないでほしい!」と一喝されました(笑))

水口:何が幸せなのかという議論はありますよね。大金持ちが毎日自分の好きなものばかり食べられたら幸せかというと、そうでもないかもしれない。「おいしいものを食べたい」という欲求を因数分解すると、ただおいしいものを食べられればいいだけではないかもしれない。

ドミニク: AI研究の本をいろいろ読んでいてどうも納得できないなと思うポイントは、人間の欲望がどう設計されているかが見えないところです。例えば、発酵食品は発酵と腐敗が表裏一体となった食べ物ですよね。下手をすると危険な食品だともいえる。でも、そういうリスクテークをした分だけ、人は快感を得ているんじゃないかと思うんです。

水口:たぶん、人が喜ぶシェフロボットって、料理のうまさだけじゃないんですよ。例えば、ロボットが料理のポイントをいろいろ教えてくれて、「あなたにもできますよ」と作るのをサポートしてくれる。そんなロボットだったら人を幸せにするんじゃないかな。

ドミニク:まさに、発酵食品作りに携わっている人たちに「どういう情報技術が欲しいですか」とヒアリングした時に、同じようなことを異口同音におっしゃっていました。行為の主体は人間のままで、技術が人間の学習をさりげなく支援することで、料理上手や「通」な人が増えるのは「幸せ」そうです。

日塔:人工知能のチャットボットみたいなものを開発していくと、AI自身が感情を持っているいないにかかわらず、人間側に強い感情が生まれるということも考えられると思います。恋愛シミュレーションゲームでハマりすぎてしまうのにも似ていますが、こうした問題についてはどう考えますか?

水口:映画「ブレードランナー」で人造人間と人間の区別がつかなくなる世界が描かれたように、AIの未来は悲観的な見方をされることが多いと思います。けれど、実際の未来はそうでもない。 AIが人を幸せにしたり豊かにしたりするパターンはまだ語られていないけれど、ポジティブ版「ブレードランナー」はあると思います。

石川:感情の研究でホワイトヘッドという鳥を使うんですが、さえずりをリアルなお師匠さんの鳥から直接習った場合と、録音した声で聞かせた場合を比べると、伝わっている情報は同じでも、生で教わった方が学習効果は高いそうです。デジタルにした瞬間に何かが抜け落ちている。それが感情を考えるヒントになるのではないかといわれています。

山川:保育園でロボットと子どもにゲームをさせる実験でも、ロボットを素人が操作するのと、保育士さんが操作するのでは子どもの没頭度合が違うそうです。保育士さんは、子どもの様子を見ながら細かく問題の難度を調整したりできるんでしょうね。

水口:ゲームやVR、AIの開発って、人間の内面的なものを「量子化」して再構築するような作業なんじゃないかと、皆さんの話を聞いて思えてきました。後の時代から振り返ると、インターネットは物事を量子化したといわれるのかもしれませんね。

 

心を持つAIはありえるか?
「感情」と「心」の関係とは

日塔:もう少し深く、「心」の領域に話を進めていきます。この図(下記)は、人工知能を4象限にポジショニングしてみたものです。縦軸に、心や意識を持つ「強い AI」と持たない「弱い AI」を、横軸に「特化型」と「汎用型」をマッピングします。今は心を持たなくて目的が明確な「弱い特化型」のものしかないといわれていますが、ディープマインドの研究者やシンギュラリティーを支持する方々は心があって、かつ目的も自分で見つけられるような「強い汎用型」を目指しているのでしょうか。そして、心のあるなしは定量化できるのでしょうか。…そもそも、心があるけど特化型とか、心はないけど汎用型のAIってあり得るんですか?

山川:歴史的には特化型から始まっています。例えば囲碁用に開発されたAIは囲碁しかできないけれど、プロ棋士は囲碁もできれば、買い物や掃除もできる、汎用的な知能なわけです。昔は特化したものを人間が作る以外にはなかったのだけれども、現在のAIは機械が自分で学習することで、データがあればさまざまな分野で知識を獲得していけるようになりました。

ある一つのシステムとしてのAIが本当の意味での汎用性を持つには、人間が鳥を見て飛行機を作ったように、他の分野から知識を持ってこられるような類推の能力を高める必要があります。一方で,日塔さんが指摘された「強いAI」の面からの研究は比較的限られます。強いAIという言葉は「心や意識」に関わりますが、そうしたものは研究目標に設定しづらいからです。心や意識という難しい軸で考えるよりも、感情という軸で考える方が現実的ではないかと思います。心がなくても、人に共感するような感情表現を実装したインターフェースにして、人間に近い AIに見せることはできますから。

日塔:AIが心を持っているかどうかは分からないけれど、それがあるような振る舞いを演出して、意識や心があるように見せることはできるわけですね。

 

AIによる「創造と模倣」と「著作権」の関係性を考える

日塔:次に「創造と模倣」についてもお伺いします。例えばテキストを AIに読み込ませて、ある種の法則に基づいて自動生成させると、時にはオリジナルを超えるような面白いものが出てくることがあります。こういったとき、著作権はどうなっていくのでしょうか。

ドミニク:元々、クリエーティビティーを個人に帰属させるという発想自体が非常に西洋的な「貧しさ」だと思うんです。日本や東洋はもっと集合知的な考え方になじんでますし、匿名カルチャーをめでる慣習も、アメリカよりも日本の方が強い。ただ、われわれがグローバルな経済社会で生きている以上、何かを社会に還元しなければいけない。クリエーティブ・コモンズの考え方は、ネット上に置かれているオープンなコンテンツについて、その作者のした行為を受け継いでいく、という考え方です。これはネット以前の大昔からされてきたことで特別なことではありませんが、インターネットによって速く低コストでできるようになった。AIによって、僕らのたわいないひと言や身振りの背景に、どれだけ膨大な情報や人の活動があるのか、その気付きをうまく可視化し、新しい経済につなぐことができるかもしれない。

鈴木健さんは著書『なめらかな世界とその敵』の中で、仮想通貨「PICSY」を提案しました。例えば僕が石川さんにラーメンをおごる。そしたら石川さんはすごく元気が出て、いい論文が書けた。それが本になって1億円が入ってきた。でも今の貨幣システムでは僕には1円も入らない。石川さんがラーメンをおごり返してくれるかもしれないけど。ソフトウエアのGit、電子貨幣のblockchainなどは制作過程や決済の歴史を扱う技術ですが、もっと簡単に森羅万象の歴史を取り扱えるようになれば、システマチックに不可視の継承関係を還元する方法を作れる可能性があると思いますし、法律や文化もそういう技術に対応するようになるでしょう。

水口:会社や組織の仕組みを量子化したらどうなるだろう?とそのお話を聞いて思いました。今は人事の担当者が仕事に対する対価を評価しているけど、日々の仕事が分解されて、どれだけの時間を使い、どういう貢献をしたか量子化して判断できるようになったら、たぶんマネージャーはいらなくなるでしょうね。創造的にいろいろな人と活動をしていくと、その活動を反映した対価が口座に自動で振り込まれていている。時代はそういう方向に流れていくんじゃないかな。「量子民主主義」的な発想が、必ず出てくるでしょうね。

石川:今、SanSanという名刺のクラウド管理の会社と、名刺交換のデータベースを使った名刺交換の研究をしているんです。名刺交換というのは、アイデアを交換していることではないかと思ったんですよ。名刺交換のデータベースを使えば、日本社会で今どのくらいの速さでアイデアが流れているのか、その中で自分はどんな位置づけなのか分かると思って。実際に分析をしたら、ものすごく面白いことが分かりました。この分析結果を使うと、自分の知人のうち今誰と会うと最も面白いか、誰と誰をつなげると最もいいかが分かりそうなんです。ただ、論文を書いているんですけど、これって著作権上どうなんだろうって。会社名や個人名は全然知りませんし、企業にも一応許可を取っているけれど、勝手に研究に使って問題になった過去のケースもあるので…。

ドミニク:ビッグデータを匿名化する技術も出てきていますし、サンプルを合成する技術もあります。権利にあまり萎縮せずに、進められる環境は整ってきていますね。それにしても石川さんや山川さんを見ていると、研究と社会がどんどん地続きになってきているのを感じます。

山川:確かに現在のAIの急速な進展は、インターネットを介してアイデアの交換が高速で行われるようになったことが大きな原因になっています。さまざまな研究レポートが、早い段階でオープンにされることも頻繁に起こることから、いわゆる、“巨人の肩に乗る”というサイクルが加速されているわけですね。

 

AIの議論をブラックボックスにするべきではない

ドミニク: AIについて議論すると、必ず「AIが悪用されたらどうするのか」という話が出てきます。僕がいつも思うのは、こういうことを語るときの思考のモードみたいなものが、まだ獲得できていないということ。「この人はポジティブな人だから」「ネガティブな人だから」という先入観が入ってしまって、フリーハンドで建設的な合意形成や議論がしづらいと感じます。

今、僕が AIで希望を感じるのは、人工知能技術と前線で対峙している人たちが、 AIの倫理の議論をしている点です。技術が民生に下りてきてブラックボックスでなくなってくれば、そういう議論ももっとオープンになっていくはず。善悪といった価値観に終始してしまうのではなく、とにかくオープンな状況が生まれて、それをチェックできる人が増えて、アイデアの確率を増やすことに集中する。僕はそれが一番いいことだと思っています。

山川:人工知能がわれわれの生活の中に非常にシームレスに溶け込んでくることは間違いないと思います。一方で、今この時に生きている人の幸せも大事ですが、この次の世代に僕らは何を残していきたいのかを問うことも同時に重要と思っています。少し考えを広げて地球史をひもとくならば、確かに私たち生物は命をつないできたのですが、個々の生物種を見れば99%以上が絶滅しています。ですから50万年後に私たち人類が現在の形で存続し続けるとは考えにくいでしょう。人工知能が大きく発達した今、私たち大きな力を持つともに、私たち自身のことをより深く知るようになりつつあります。今、私たちは未来に向けて、人工知能と共にどのように歩み、いったい何を託し託さないのか、といったことも含め、この先の世界について考えざるを得ない時代に差し掛かってきたのではと感じています。

<了>
こちらアドタイでも対談を読めます!
企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀

 

プロフィール

  • Ishikawa yoshiki pr
    石川 善樹
    Campus for H共同創業者

    1981年広島県生まれ。東京大学医学部健康科学卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程を経て、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとした学際的研究に従事。専門分野は、予防医学、行動科学、マーケティング、計算創造学、計算社会科学など。講演や雑誌、テレビへの出演も多数。著書に『疲れない脳をつくる生活習慣』(プレジデント社)『最後のダイエット』(マガジンハウス)、『友だちの数で寿命はきまる』(マガジンハウス)など。

  • Dominick chen pr
    ドミニク チェン
    起業家・研究者

    1981年、東京生まれ、フランス国籍。博士(学際情報学)。2008年度IPA未踏IT人材発掘・育成事業でスーパークリエータ認定。NPO法人コモンスフィア理事として、新しい著作権の仕組みクリエーティブ・コモンズの普及に努めてきた他、2008年に創業した株式会社ディヴィデュアルでは「いきるためのメディア」をモットーに「リグレト」(ウェブ)や「Picsee」(iPhone)、「シンクル」(iPhone/Android)などさまざまなソフトウエアやアプリの企画・開発を行っている。
    2015年度NHK NEWSWEB 第4期ネットナビゲーター。2016年度グッドデザイン賞「情報と技術」フォーカスイシューディレクターを努める。監訳書にマレー・シャナハン著『シンギュラリティ:人工知能から超知能へ』、単著に『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック』などがある。

  • Mizuguchi tetsuya pr
    水口 哲也
    レゾネア代表 / 米国法人enhance games CEO

    慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特任教授。ビデオゲーム、音楽、映像、アプリケーション設計など、共感覚的アプローチで創作活動を続けている。2001年「Rez」を発表。その後、音楽の演奏感を持ったパズルゲーム「ルミネス」(2004)、キネクトを用い指揮者のように操作しながら共感覚体験を可能にした「Child of Eden」(2010)、RezのVR拡張版である「Rez Infinite」(2016)など、独創性の高いゲーム作品を制作し続けている。Rezで2002年文化庁メディア芸術祭特別賞、Ars Electoronicaインタラクティブアート部門名誉賞などを受賞。2006年には全米プロデューサー協会(PGA)とHollywood Reporter誌が合同で選ぶ「Digital 50」(世界のデジタル・イノベーター50人)の1人に選出される。2007年文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査主査、2009年日本賞審査員、2010年芸術選奨選考審査員などを歴任。

  • Yamakawa hiroshi pr
    山川 宏
    ドワンゴ人工知能研究所 所長

    1987年東京理科大学理学部物理学科卒業。1989年東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻 修士課程修了。1992年東京大学大学院 工学系研究科 電子工学専攻 博士課程修了。1992年富士通研究所入社。1994年同社から通産省RWCプロジェクトに参加。2014年ドワンゴ 人工知能研究所 所長。2015年産総研人工知能研究センター客員研究員就任。2015年特定非営利活動法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブ 代表就任。2015年電気通信大学大学院 情報システム学研究科客員教授就任。工学博士。専門は人工知能、特に認知アーキテクチャー、概念獲得、ニューロコンピューティング、意見集約技術など。

  • Nittou pr
    日塔 史
    株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局 エクスペリエンス・テクノロジー部 シニア・マネージャー

    「体験価値マーケティング」をテーマにしたソリューション開発を行う。
    日本広告業協会懸賞論文「論文の部」金賞連続受賞(2014年度、2015年度)。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ