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未来を創るイノベーターたちNo.3

社内ドン引きの中、全自動洗濯物折り畳み機はどのようにして生まれたか

2016/07/15

日本発のイノベーティブな事業を展開するベンチャー企業を訪ね、事業にかける思いや、未来の社会について考える連続インタビュー企画。第3回はカーボンゴルフシャフト、いびきのない快眠をサポートする鼻腔挿入デバイス「ナステント」、全自動洗濯物折り畳み機「ランドロイド」など、ジャンルを問わず「世の中にないモノを創り出す技術集団」、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ(以下、セブン・ドリーマーズ)。同社代表の阪根信一氏を、世の中にないコトをつくり出すクリエーティブシンクタンク「電通総研Bチーム」代表の倉成英俊氏が訪ねました。

米国留学で培われたイノベーション魂

倉成:セブン・ドリーマーズは実に多様なプロダクトを生み出していますね。僕も小学生のころから発明家になるのが夢だったので、御社の開発スタイルにはすごく興味があります。阪根さんはどのような経緯で事業を始めたのですか?

阪根:まさに私の父はもともと発明家で、小さい頃から一緒にいろいろな工作をしていました。私が中学1年のとき、当時研究職だった父が脱サラして、発明というか、研究開発の会社を立ち上げました。

私はそれを横目に育ち、理工系の大学に進んで、最終的には米国で博士課程を修了したんですが、そこでの研究が現在にも大きな影響を与えています。

倉成:実は僕も、今でこそクリエーティブディレクターという肩書の仕事をしていますが、大学は理系の専攻でした。日米どちらも経験しているという観点で、違いはどんなところだったんですか?

阪根:米国では人の派生研究なんて誰も興味がなくて、前人未到の本当に新しいものを生み出すということを地でいきますし、そこにチャレンジするからこそ評価される風土なんです。だからこの国ではイノベーションが起こるんだな、と強く感じました。そのノウハウを教えてもらっているうちに研究がすごく楽しくなり、ゆくゆくは教授になって世界一を目指したいと思って頑張っていたら、少しずつ結果が出てきて。

それでレベルの高い学会でも発表させてもらえるようになったのですが、そこには良くも悪くもオタクみたいな本当にすごいやつがたくさんいたんです。同い年や年下の天才たちを目の当たりにして「こいつらには勝てんな」と…。

倉成:そこでビジネスの道というか、お父さんの会社を一時期継ぐことになるんですね。

阪根:はい。継げと言われていたのをいやだと言って日本を飛び出したので、帰国して頭を下げましてですね、「その節は大変失礼いたしました、会社に入れてもらえませんか」と(笑)。

B to BビジネスからB to Cに転換

倉成:セブン・ドリーマーズは現在、従来から手掛けていたカーボン、医療などのB to B事業に加えてB to C事業を展開されていますが、やはり最近だと今年のCEATECで発表された全自動洗濯物折り畳み機「ランドロイド」で一気に知名度が上がりましたよね。コンシューマー向けの製品開発を始めたのはいつからなんですか?

阪根:私が最初に開発したB to Bの医療系の製品がいきなり当たり、高収益ビジネスになりました。それがあって、入社して3年くらいたったときに、父が「おまえ、もうできるなあ。そしたら俺、違うことやるから」と言って会社からいなくなっちゃったんです。

倉成:え…(笑)。

阪根:それでCEOに就任することになるのですが、最初にやったものがいきなり当たったので、これはビギナーズラックに違いないと思いました。なので、そこで得た利益は次のフェーズのために研究開発費に投じることにしました。そこから手がけ始めたのが「ナステント」と「ランドロイド」です。

倉成:そうだったんですね。B to Cにシフトしたのはどのような背景があったんですか?

阪根:会社に入ったときに、ビジネスは30年間だけやろうと決めていたんです。具体的には、会社を年商3500億円、経常利益率20%にして、30年目の誕生日に引退するという目標を立てました。ただ入社当時はまだ60億円くらいの売り上げだったので、相当先が長いなといろいろ思案していたのですが、ある時にB to BでM&Aを繰り返しても3500億円なんていかないぞ、と気が付いたんです。

B to Bで部品を売るよりB to Cで完成品を売る方が価格が上がるので、その方が早く目標に到達するだろうということと、もう一つは、私たちはこれだけ技術力があって新しい製品をどんどん生み出しているのに、世の中に全く知られていないし、直接貢献していないと感じたことも大きいです。

倉成:生活者にとってはちょっと見えにくい、と。

阪根:そうなんです。アップルやソニーのように、直接そのイノベーションを生活者に届ける仕事の方がずっと魅力的だと思い、B to Cの開発をスタートさせることにしました。

快眠をサポートする鼻腔挿入デバイス「ナステント」。挿入時の痛みや違和感が限りなくゼロになるよう設計されたチューブが、いびきの原因となる気道の閉塞や睡眠中の頻繁な覚醒を予防する。「自身も睡眠時無呼吸症候群で、機械の持ち運びやマスク装着が必要なCPAP治療の不便さを解消したかった」阪根氏が、患者の視点に立って開発した。
セブン・ドリーマーズが10年の歳月を費やして開発した、全自動洗濯物折り畳み機「ランドロイド」(写真はモック)。2020年までに段階的に洗濯乾燥機能の追加や、協業する大和ハウスとともに、ビルトイン型で家族の各部屋などに衣類を自動仕分け・運搬することまで構想を描いている。

これだけは譲れない、三つのクライテリア

倉成:製品の開発テーマを選ぶときには、クライテリアのようなものはあるんですか?

阪根:はい。①世の中にないものであること、②生活に密着した製品であること、③技術的ハードルが極めて高いこと、この三つです。

倉成:それは、他社が追い付けないように、ということですか。

阪根:そうですね。この三つのクライテリアをクリアするのであれば、分野を問わず挑戦しようと。そうしたら、結果として現在発表している三つの製品がバラバラの分野になってしまったというわけです。

倉成:なるほど。実際にその判断をされるのは阪根さんなんですか?

阪根:はい。最初に「こんなものがあったらいいんじゃないか、ぜひやろう」というんですけど、だいたい社員はその案にドン引きします(笑)。

一番強烈だったのがランドロイドのときです。2005年に開発に着手し始めたときには社員がもう「この会社ヤバいんじゃない?」「社長、頭おかしくなったぞ」ぐらいの感じでしたね。

倉成:エンジニアにとっては、急に未知の分野の研究開発だから抵抗感があるということもあるんじゃないでしょうか。スタッフィングはどのようにしているんですか?

阪根:私は、仲間の経歴やバックグラウンドはそんなに気にしていません。ランドロイドのときも、製品に搭載している画像認識技術やAIに全く知見がなくても、パッションや粘り強さがありそうなメンバーを選んでゼロから開発しました。

倉成:スタッフィング以外で、イノベーションを起こすためにどのような工夫をしているんですか?

阪根:私たちのような研究開発型のメーカーでよくあるのが、例えばランドロイドでは画像認識もロボティクスもAIも全部作ってきたので、これらを会社のシーズとして財産のように感じてしまうことです。でも、シーズありきだとついつい「この技術を何か応用・発展したものができるんじゃないか?」という“派生”の発想になってしまうんです。

だから社内の保有技術については、全くではないけれどほとんど見ない。周りで起こっていることも、そんなに見ない。「これがあったら生活がきっとラクになるよね」「これがあったら絶対楽しい」というニーズだけを見るようにしています。

倉成:つまり、他社の新製品を研究したりはしていないんですか?

阪根:誰かが頑張ってつくり出したものはやっぱり気になりますが、知ってしまうと自分たちのアイデアがそっちに寄ってしまうので、あまりリサーチはしません。「これいいな。もっとこうしたらいいんじゃないか」みたいな話になると、もう僕らの考えるイノベーションではありませんから。

また、開発テーマを決めたら、まずは本当に世界中で誰もやっていないかどうかを確認することから始めています。誰かがやっていると分かった瞬間、もう手を付けません。

人が反対すればするほど、絶対いい

倉成:ここまでお話しいただいたクライテリアの①世の中にないものであること、②生活に密着した製品であることももちろんですが、三つめの「技術的なハードルが極めて高いこと」というのが特に面白いと感じます。

阪根:世の中になくて、あったらいいなと思うものでも、簡単過ぎるものは着手しません。技術的に「これはなかなか難しいぞ」というものだけをやります。

倉成:他社が追い付けなくするということや、高いハードルの方が開発メンバーのモチベーションも違ってくるということでしょうか。

阪根:そうですね。技術的なハードルの高低にかかわらず、同じことを思い付いている人なんかいっぱいいると思うんです。いろいろな理由でやっていないだけなんです。その中で、ハードルが高いものの方が手を付ける人の数も少なくなり、オンリーワンになれますよね。

あと、これは表向きにはあまり言っていませんが、他人が反対すれば反対するほど、そのテーマは絶対いい。反対が多いことにあえて取り組んでいくと、自分の中で「これいいな」が「このテーマ、間違いないな」という確信に変わってくるんですよ。最初から「社長、それいいですね」みたいなものはだいたいダメです。

倉成:それはどうしてですか?

阪根:いいと言われれば言われるほど、やっぱり、よくよく調べてみたら誰かが既に先行していたという可能性が高いからです。あるいは、出来上がったときにはもうイノベーションじゃなくなっています。

倉成:なるほど。確かにプロダクトが出てから初めてニーズが顕在化するものでないと、真の意味で世の中を驚かすことはできないですよね。

阪根:そうなんです。例えば100人いて99人とか、反対されればされるほど、絶対に前例がないし、仮に同じ時期にどこかでやろうとした人が現れたとしても、絶対他人につぶされるんですよ。そんなに反対されたら最後まで行けないじゃないですか。だから私の開発の歴史は、反対意見と戦う歴史です。

先ほども話しましたが、ランドロイドのときも、社内には反対しかありませんでした。2、3年やっても全然できないので、実は担当者の半分ぐらいが辞めてしまいました。

倉成:ネガティブな意見を乗り越えて実現するためのコツって、あるんですか?

阪根:それはもう「洗脳」しかないです(笑)。毎日「絶対できるから」「できたら売れるから」って言い続けるだけです、メンバーには。でも不思議なことに、それが言霊になって、ある日本当にできてしまうんです。

倉成:ちなみに、最近はどんな“反対”と戦っているんですか?

阪根:ビジネスモデルでしょうか…。例えば、投資家の方たちと会う機会が多いのですが「そもそも、御社はどんな事業ポートフォリオを組んでいるんですか」「他の製品の販売をやめて、この商品だけに注力するなら投資したい」といったようなことを言われています。

でも、これも、反対が多いほどいいと思っています。私たちにとっては違和感ないんですけど、他の人にとってこれだけ違和感がある製品群・開発スタイルだということは、たぶん他社はやらないビジネスモデルだし、やろうと思ってもつぶされていくでしょう。ということは、唯一無二のビジネスモデルだし、ユニークな会社になる可能性があるわけじゃないですか。

倉成:歴史に風穴をあけられるわけですものね。

阪根:このビジネスモデルで走りだしたところなので、違和感が強いかもしれませんが、これが5年、10年たって本当に認められるブランドになれば、「あの会社超カッコいい、次は何するんだ?」と、人々にワクワク感を与えられる会社になるんじゃないかなと思っています。