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若者が分かれば未来が見える ~「若者離れ」発売記念連載~No.1

今起こっている“大人の若者離れ”って?

2016/08/03

「若者の○○離れ」と聞いて、皆さんはいくつ○○が思い浮かびますか? クルマ、お酒、たばこから、恋愛なんかも当てはめられて久しいですよね。とにかく「若者は世の中のありとあらゆることから離れまくっている」、そういうふうに思えるほど、このよくできた言葉のフレームはここ数年使われ尽くされてきました。一方で、当の若者に聞いてみると、

「離れたっていうか、自分たち向けのものだってそもそも思えない」

そんな声がとても多い気がします。もちろんモノにもよるのですが、「若者が大好きなはずのものから、彼らが遠ざかっていく!」という大人側の危機感あふれる認識と、なんだかギャップが大きいような…。
どうも世代間対話がうまくいっていないように思えるこの現象に、わたくし吉田将英が代表を務める電通若者研究部(電通ワカモン)がこれまでの研究成果に考察を加え執筆したのが、新著「若者離れ」です。この連載では書籍の内容を一部抜粋しながら、世代間対話が今より少しスムーズになる「未来のためのコミュケーション術」について、ちょっとだけ紹介したいと思います。
初回は、「若者の○○離れ」という現象の正体について。

書籍「若者離れ」
四六判、256ページ、1500円+税、ISBN978-4-8443-6600-3
書籍の詳細はこちら

 

「離れているのは、そっちでしょ!?」

日本は今、少子高齢化社会真っただ中なのは皆さんご存じの通りです【図1】。

国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(1)
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(2)
【図1】日本における高齢者と若者の割合推移

社会における若者の比率が高ければ高いほど、当然のことながら、社会や世の中の仕組み、成り立ちに対しての彼らの影響力も高くなります。若者が「量の影響力」をそれなりに強く有している状態です。逆に、少子高齢化社会になればなるほど、若者の「量の影響力」は下がっていきます。

「若者向けにコンテンツ作っても、数字が取れないからやめとけ」
「若者たちは取り込めても数が少ないから、ファミリー層向けの商品開発優先で」

こんな会話、皆さんの組織やチームで交わされたこと、ありませんか?
まさに、若者の持つ「量の影響力」が少なくなりつつあることで、組織や経営の判断が、若者を念頭に置いたそれではなくなっている状態です。こうやってみると、「若者の○○離れ」の正体は、社会や大人たち、あるいは組織や経営側が、若者から離れていくような判断を積み重ねてきた結果かもしれない。それが、書籍のタイトルにもなっている「(大人の)若者離れ」という、「若者の○○離れ」の正体についてのワカモンの考察です。

若者の持つ、「量の影響力」と「質の影響力」

「“大人の若者離れ”が正体だとして、それが何か問題でも?」

もしかしたらこういう意見を抱いた方もいるかもしれません。より多数派の人たちに最適化された判断で社会や経済がシフトしていく。それ自体は悪いことではありません。若者にモノやサービスが受容されなくても、それよりたくさん、別のところで経済が回っていれば問題ない気もします。では、「若者たちがかわいそう」という感情論以外の、大人たちや組織が「若者離れ」することの不利益って、なんなのでしょう?

「大人が若者離れしている組織」。このように文字にしてみると急に、なんだか問題を抱えている組織のような印象をじわりと感じるかもしれません。
さらにくっきりと、その問題が何なのか可視化するために【図2】を作ってみました。

【図2】若者多数社会と若者少数社会の、世代間パワーバランス比較

日本の組織には根強く、年功序列という思想が根底にあります。これ自体の賛否や良し悪しについてはここでは触れませんが、そこにはもう一つ、「年長者になるにつれ、人数が少しずつ少なく構成されている組織」が前提にあるように思います。年長者の方が権限が大きい代わりに数が少なく、翻って若手は権限は少なくとも数は多い。この均衡が、組織の血流を保っていたのではないでしょうか。

それが、若者たちの「量の影響力」が下がったせいで組織の多様性も低くなり、前例や慣習にとらわれない新しい意思決定を下すチャンスを失っている状態に、組織そのものが構造的に陥ってしまっているかもしれません。言い換えると、もう一つの若者の持つ影響力である「質の影響力」を、還元できない状態になっているかもしれないわけです。

「若者を狙っても数が取れないからやめておこう」と、若者離れをした判断に偏り続けたがために、自分たちの組織の中での若者たちや、彼らから出てくる新しいアイデアを還元できなくなってしまう。こんな現象がさまざまな組織で起こっているのかもしれません。

「近頃の若者たちは…」という言葉は、大昔から誰もが年長者から言われる洗礼のような言葉でもあります。今の大人世代も、かつて若者だった時に言われており、今の時代の若者だけが特別なわけではないと感じるはずです。ただ、日本がいまだかつてなかったほどの少子高齢化社会に突入し、「近頃の若者たちは…」と言ってくる大人の比率が膨らむ一方だという見方をすると、必ずしも昔と一緒、と一概には言えないのではないでしょうか。

「質の影響力」にどうやって耳を澄ます?

私たちは決して、「若者は悪くない」「大人が変わるべき」などのように、善悪や二元論で決着させたいわけではありません。大切なのは、それぞれが育った背景や置かれている境遇・状況を一度冷静に把握すること。そして、その違いや多様性に対してどのように向き合うのがベストか、おのおのが考えることだと思っています。

そしてもう一つ、「若者の○○離れ」という言葉が量産される裏側には、組織や経営が陥りがちな、「大人の若者離れ」という見えないバイアスが存在しているという事実を知った上で対話をした方が、お互いもったいないことにならずに済む確率が上がるのではないかと思います。

書籍「若者離れ」の中では、より詳しく「若者の○○離れの正体」について、原因や、その結果起こり得る現象について触れています。若者の持つ「質の影響力」が、大人や社会にとってどのような価値を持つのかについても。次回は若者の質の影響力とは何なのかに迫ります。