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クリエーターのしっぽNo.1

「これまでにない新しい味噌汁」開発プロジェクト

2016/09/06

次世代クリエーターが生んだ、味噌汁×若者の長期的な接点

 

2014年9月から始まった「これまでにない新しい味噌汁」開発プロジェクト。マルコメが味噌汁と若者の新たな接点を模索していく中で生まれた同プロジェクトでは、「ロックを聴かせた味噌汁」「カワイイ味噌汁(原宿味)」など、ユニークな商品でファンを獲得し、大きな話題を呼びました。

その成功の秘訣を、プロジェクトを企画した電通の佐藤雄介氏に聞きました。「潜在ユーザーとつながりたい」、そんな課題を持つ全ての企業で生かせる、次世代クリエーターならではの“ファンづくりの鉄則”を垣間見ることができます。

取材・執筆:PR Table 志賀祥子
※この事例に関するエピソードは、PR Tableでもお読みいただけます。
 

「若者」という潜在顧客との接点を生む

――そもそもこの「これまでにない新しい味噌汁」開発プロジェクトでは、どのような取り組みをされたのでしょうか。

佐藤:マルコメは創業160年以上たっている老舗企業なんですけど、実はこの40年間で1人当たりの味噌の消費量って50%ぐらい落ちているんですね。特に若者にとって味噌は関心を持ちにくく、話題にも上りにくい存在です。このままだと味噌が、マルコメという会社が、古いものになってしまう。だからこそ、若者とマルコメの新しい関係性を築かなきゃいけない、というのがきっかけでした。「新しい味噌汁」が生まれるストーリーに、いかに10~20代の若者を巻き込んでいくか。アウトプットは、商品、CM、イベント、ウェブ、グラフィックなど、多岐にわたるプロジェクトです。

――商品もアウトプットとのことですが、これは俗にいう“商品いじり”とはどう異なるのでしょうか?

佐藤:今回は、商品が最大の広告です。このウソみたいな商品がリアルに存在することがコミニュケーションの核になる。いかに言の葉にのるか、それをこだわりました。例えば「ロックを聴かせた味噌汁」は、実際にロックを聴かせた味噌を使用。さらに、ロック音源をダウンロードできるカードをつけたり。カロリーも69(ロック)キロカロリーだったり…(笑)。PRに使えるネタを二重三重に仕込むことで、商品自体に「ひとつでも多くのメディアに取り上げられたい!」という粘りを持たせています。

――テレビCMなどのマス広告中心ではなく、それ以外のメディアをメインに使用したと聞いています。マルコメにとって若者は、いわゆる潜在顧客だと思うのですが、そういった層にマス広告なしで訴求させることは難しくなかったのですか?

佐藤:マルコメの課題は、若者との「関係性」を築くこと。なので、若者とキャッチボールできる場として、SNSやリアルに接するイベントが、まず必要と考えました。野外のロックフェス、青文字系モデルのイベント、原宿の明治通り、パリできゃりーぱみゅぱみゅさんらが出演するイベント…。「なぜそこに味噌汁が!?」というギャップとともに、潜在ユーザー、つまり若者と接していく。ギャップがあるからこそ若者に届くし、新しい体験も生まれる。そこはマスだけでは構築できない領域です。その結果を、商品づくりに集約していく。そして、最終的にはマスのテレビでも取り上げられるように仕込んでいく。順番が逆なんですね。SNSやイベントで温めてから、マスに行く、みたいな。“単発”で終わらない、“長期的”なコミニュケーションを目指しました。

“小さな山”をつくり続けることで常に若者のそばにいる

――第1弾は14年から「ロックを聴かせた味噌汁」、第2弾は15年から「カワイイ味噌汁(原宿味)」と展開されてきました。その二つにはどのような狙いがあったのですか?

佐藤:普遍的な面白さを狙っています。ただ「人気バンドとコラボした味噌汁」だけだとバンドのファンの方しか反応しません。それだとちょっと狭い。「ロック」という普遍の概念までワンランク上げることで、みんなが興味を持つものになります。「カワイイ」もそうです。若者が普遍的に関心を抱くテーマです。この“普遍”に、あり得ない方向から味噌が掛け合わさると化学変化が起こって、一気に“とがる”んです。それと僕はCM出身なので、最終的に映像にしたときに、ハネそうかという直感も大切にしました。

――そもそも味噌汁自体がポピュラーというか、普遍的なものですもんね。そこに新しい一面を示すだけで、とがるイメージは湧きます。

佐藤:そうですね。でも、ただ、とがればいいというものでもない。実際に「ロック」「カワイイ」以外にも結構考えましたが、最後はやっぱり食べ物なので、食べてみたくなる感じがしないとダメだな、と。さらに「味噌と若者の新しい接点をつくる」プロジェクトなので、長期的なつながりが生まれるコンセプトを意識しなければいけない。

――短期的なプロモーションで終えるのではなくて、長期的なファンになってもらわなければならない、と。

佐藤:とがらせて興味を引きつつ、なるべく多く接点をつくるようにしています。若者は、本当に何に反応するかは分からないので、反応次第で、次に用意しているものを臨機応変に変えていく。キャンペーンへの“扉”はたくさん用意してあげて、若者がどこからでも入ってこられるように設計しています。加えて“小さな山”といえるニュースや情報発信を断続的に行って、「最近、マルコメが面白いことをやっているぞ!」という感覚を若者に持ってもらうように仕掛けていったんです。

――商品発売に至るまでのストーリーを、断続的に発信していったということでしょうか。「ロック」も「カワイイ」も約半年かけて、発売まで情報発信を続けられましたね。

佐藤:はい、先ほどは“小さい山”と言ったのですが、商品発売は“大きい山”です。店頭で、手に取れる形でコミュニケーションをできるのは、やはり大きいです。テレビに取り上げられやすいタイミングも、ここですし。ムービーのローンチもここでしました。長い期間ソーシャルでやりとりを行うことで、発売タイミングはファンの方が自然に盛り上がってくれたというか、バズを後押ししてくれました。

「30代チーム」だからできた、今の時代に求められるコミュニケーション企画

――企業とのコラボレーションは、ファンからすると少なからず “ビジネス臭”が出てしまって嫌われる可能性もありますよね。そういった恐れはなかったのでしょうか?

佐藤:そこは、すごく気をつけました。結果、「ロックを聴かせた~」ではロックバンドの味噌汁’sに味噌に演奏してもらったのですが、ファンからは「マルコメのプロモーションが斜め上で面白い」など、かなり好意的に受け入れてもらえたんです。そういったファンのみんなのポジティブな声がSNSで拡散し、初動を大いに助けてくれました。それに最初から「ファンに嫌われることだけは絶対にやめよう」と決めていたんです。だから最初は、「ファンがいる場所」で味噌汁の試飲から始めました。目に見えない誰かに好かれるのではなくて、目の前にいるファンにちゃんと好いてもらう。今回は、そこが発信元になって、うまく拡散につながっていった良い例ですね。

――「潜在顧客にリーチしたい」という企業は多いと思います。そういったとき、やみくもにマス広告に出稿するのではなく、今回の事例のようにファンがいるところに企業側から出向く、というやり方は参考にできそうですね。

佐藤:参考にしてもらえたらうれしいです。でも今回は、大前提としてマルコメの懐の深さと、僕ら世代、つまり30代のメンバーだからこそ功を奏したというのもあると思ってるんです。

――それは、どういうことなのでしょうか?

佐藤:「ソーシャルメディア」と「マスメディア」を両軸から、使っていく感覚です。テレビCMもウェブ施策も、同じ頭で考えます。もちろん、細かいタスクというか、やらなきゃいけないことは本当に多くて大変です。Twitterの投稿ひとつにしても、コピーのように考えます。ABテストを行って、どちらが拡散されやすいか検証したり…。加えて、最終的にはマスでも伝えていきたいので、広告出稿だけではなく、PRやテレビパブリシティでの露出も最大化させないといけません。そこから逆算して、同世代のアートディレクターの平野奈央(電通)やPRプランナーの根本陽平(電通PR)・松尾雄介(電通PR)と一緒に、チームみんなで企画して、細かくネタをプロットしていきました。

僕らより若い世代はソーシャルメディアが得意といわれ、逆に僕らの先輩はマスメディアが得意と言われてます。僕らはその中間というか、どちらの良いとこも知っていて、そこはフラットに行き来できるんです。どっちが得意とかではなく、どっちも使うのが得意。というか好きなんですね。テレビCMの活用や企画実現に関しては、先輩から鍛えられたのが、やっぱり生きてますね。

――「ロック」「カワイイ」と続けて、“味噌と若者の接点”を生むことはできたのですか?

佐藤:目標は、ソーシャル上の「マルコメの話題量」の最大化。そして、最終的にはマルコメのリクルーティング活動に寄与することだったのですが、採用サイトに訪問する若者が増え、このプロジェクトがきっかけになってマルコメに入社を決めたという話も聞きました。うれしいですね。マルコメ社内でも反響があって、若手社員が中心になって新しい味噌汁の開発も始まってるみたいなんです。このプロジェクトも今後の実施も決まっていて、今、新しい企画を練っているところです。

――それはうれしいですね。プロジェクトの継続が決定するということは、これまでの活動がマルコメの資産になっている証しじゃないですか。

佐藤:マルコメが継続してできることを、というのは当初から思い描いていたことなので、やり切ってよかったなと思うところです。僕らが「面白い」「理想だ」と思うことは全て詰め込んできたつもりですが、これからまた新しい何かを生み出さなければいけない。大変ではありますが、自分自身とチームとマルコメさんと楽しみながらやっていきたいですね。