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「言葉にできる」は武器になる。No.3

「内なる言葉」の解像度を高める。

2016/09/23

四六判、256ページ、定価:1500円+税、
ISBN:978-4-532-32075-1

「内なる言葉」で意見を育て、「外に向かう言葉」に変換する。

物事を考えたり、感じたりする時に、無意識のうちに頭の中で発している言葉。それが「内なる言葉」であることは、前回のコラムで書かせていただきました。あらゆる感情が頭に浮かぶ時には、必ずこの内なる言葉を伴っています。

内なる言葉は外に向かう言葉の核になるのですが、意識しなければ、その関係性に気が付くことは難しいと言えます。

「外に向かう言葉」については、既に可視化されているものであり、普段から用いている言葉でもあるため、理解しやすいと思います。その一方で、「内なる言葉」は表に現れることがないため、つい見過ごしてしまいがちです。

しかしながら、内なる言葉は、確実に頭の中に存在しています。そのため、内なる言葉を「1つの言葉」として強く認識することこそが重要なのです。

人々が相手の言葉に対して感じる、言葉が「重い、軽い」「深い、浅い」という印象は、内なる言葉と向き合うことによって、自らの思考をどれだけ広げ、掘り下げられたかに起因します。外に向かう言葉をどんなに鍛えたとしても、言葉の巧みさを得られるかもしれませんが、言葉の重さや深さを得ることはできません。

この構造を分解してみると、言葉を生み出す過程には、➀内なる言葉で意見を育てる、②外に向かう言葉に変換する、という2段階が存在していることが分かります。本気で言葉を磨きたいと考えるのであれば、外に向かう言葉から手をつけるのではなく、意見としての内なる言葉を育てることが先決なのです。

内なる言葉の解像度を高める。

では、実際にどのようにすれば、内なる言葉で思いを育てることができるのでしょうか。
最も基本的かつ重要なことは、一人の時間を確保し、自分自身の中から湧き出る内なる言葉と向き合うことです。そして、ある出来事が起きた際に、どのような内なる言葉が生まれ、どのように物事を捉え、考えが進んでいくのかを、自分自身が把握することに他ありません。

悲しいことが起きた時、何を感じているのか。
楽しいことが起きた時、何を感じているのか。

過去を振り返る時、何を感じているのか。
未来を思う時、何を感じているのか。

困難に直面した時、何を感じているのか。
成功を収めた時、何を感じているのか。

仲間が困っている時、何を感じているのか。
仲間が成功を収めた時、何を感じているのか。

こうしたあらゆる局面で湧き上がってくる感情を「うれしい」「悲しい」「楽しい」といった漠然としたくくりで受け流すことなく、頭の中に浮かぶ複雑な思いと向き合うこと。自分の感情と丁寧に向きあいながら、その感情一つ一つを言葉で認識し、把握しようと努めること。この繰り返しによって、内なる言葉は幅と奥行きを持つようになります。このプロセスこそが、内なる言葉の解像度を高めることにつながるのです。

解像度とは、画像や写真などの精度を数値化したもので、画像を表現する格子の細かさや、画像の密度を指す指標です。パソコンやスマートフォン、タブレットのモニターなどの性能表示にも使われているため、なじみ深い人もいると思います。

解像度を図解すると上のようになります。左が解像度の低い状態であり、右が解像度の高い状態です。同じAが表記されていることに変わりありませんが、解像度が低いと文字がガタガタとしており、かろうじてAという文字を認識できるレベルです。その一方、解像度が高ければ、Aの文字の形状は鮮明になり、誰がどう見ても、Aと答えられるものになります。

では、解像度を内なる言葉に当てはめて考えてみましょう。

内なる言葉の解像度が低い場合、思考や感情は漠然としており、自分自身が今何を感じているのか、考えているのかを正確に把握できていない状態と言えます。つまり、話す、書く、打つなどして発信しようとしている内容そのものを把握できていない状態です。頭の中がもやもやしている時も、その原因は、実は、内なる言葉の解像度が低いことによることが多くあります。

一方、内なる言葉の解像度が高いほど、何を考えているか、何をしたいかが鮮明になっていきます。内なる言葉の解像度とは、自分の頭の中をどれだけ把握できているかという指標でもあるのです。

近年で言えば「かわいい」や「ヤバい」といった、多くの感情を省略して伝えられる言葉がよく使われるようになりました。こうした言葉は本当に便利なのですが、便利だからといって多用していると、自分の心の琴線を鈍らせることにもつながるので注意が必要と言えます。

これからは、できるだけ「かわいい」「ヤバい」でとどめることなく、内なる言葉を手がかりに、感情の根源へと踏み込み、内なる言葉の解像度を高めることを習慣化していただきたいと思います。その結果、外に向かう言葉は自然と強化されていくからです。

次回のコラムでは、内なる言葉の解像度を高めていく具体的な方法の幾つかをご紹介させていただきます。言葉そのものを磨く段階は、その後に存在するのです。常に意識すべきは、「内なる言葉」で意見を育て、「外に向かう言葉」に変換する、という流れなのです。