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待っていても、はじまらない。―潔く前に進めNo.4

ダサいからやらない。ダサくてもやる。若手がチャンスを掴むのは

2016/09/23

コピーライター阿部広太郎の書籍『待っていても、はじまらない。―潔く前に進め』(弘文堂)が刊行されました。本書では、各業界で活躍する同世代の6人に、「自分の道の見つけ方」を聞いています。

四六判、208ページ、定価:1600円+税、ISBN:978-4-335-55181-9
書籍の詳細はこちら

 

今回紹介するのは、その中の一人である映画監督の松居大悟さん。松居さんはどうやって自分の道を切り開いたのでしょうか―。 仕事で迷ったり、もやもやしたりもする。それでも自分らしく働いていきたいと願う全ての人に、潔く前に進むためのヒントをお伝えします。

(左から)映画監督の松居大悟さん、著者・阿部広太郎

松居さんは、劇団「ゴジゲン」の主宰。2012年に商業映画「アフロ田中」で監督デビューしました。2016年12月には映画「アズミ・ハルコは行方不明」が公開予定。また、クリープハイプ、大森靖子、ドレスコーズ、石崎ひゅーいのMVを手掛けられています。松居さんから話を伺って見えてきた潔く前に進むための3カ条はこちらです。

松居大悟監督の潔く前へ進むための3カ条
※※書籍『待っていても、はじまらない。―潔く前に進め』第4章「はみ出す仕事×映画監督 松居大悟」をもとに作成

 

憧れの人に何が何でも食い込んでいく。

誰にでも人生を揺さぶられるくらいに、影響を受ける人はいると思います。「とてつもない!いつか自分もあんな仕事をしたい!」はるか遠くを進む、先輩の背中を見て憧れの気持ちを抱いた時に、どうするか? その思いを大切にしながら、日々の仕事に励むのが普通だと思います。ただ、いても立ってもいられない時は、直接教えを請いに行くというのもありかもしれません。

自分がすごいと思う人に連絡をとり、たくさんのことを学び、今の仕事につなげているのが松居さんです。京都の劇団「ヨーロッパ企画」に衝撃を受けた松居さんは、主宰の上田誠さんに会いたくて、公式サイトにメールを送る。返信がなくてまた送る。何とかお会いして、質問をぶつける。その熱意が伝わって上田さんから「京都で本公演があるから手伝いに来てほしい」と言われたときには、大学に休学届を出し、泊まり込みで行く。そしてその時に自分の劇団名を「ゴジゲン」と名付けてもらったのです。

すごいと思うその先輩が、何に悩み、何を考え、何を決断し、仕事をしているのか。その姿を間近で見られることは、これから先、自分が同じ立場になった時の糧になります。さらには、ただ受け身で終わらせるのではなく、先輩に何かを残そうと思うこと。誰に対しても、自分のできることをプレゼントしようと心掛けることで、自分を伸ばしていくことができる。

僕自身も、会社に入ってから、すごいと思う先輩が選抜制の研修を開催するとなれば、すぐに申し込み、その上で、何としても受けたい思いをつづった手紙まで添えたことがありました。憧れの人に何が何でも食い込んでいく。そして、一人の後輩として、先輩に全力の思いをぶつけていく。憧れという思いの強さを、自分のガソリンに。自分を走らせるエネルギーにすれば、距離も、関係も、越えていくのだと感じます。

ノーギャラでも、まず実現させる。

前提として強くお伝えたいしたいのは、ノーギャラで何かを実現することを美化しようということでは一切ありません。ギャラは大切です。何かの発注に対して、自分の仕事をし、そこに適切な評価を受け、その分のギャラを頂くこと。それは、気後れすることなく、主張していくべきです。

ひとつだけ例外があるとすれば、相手の力になりたくて、自分がどうしてもやりたいと思った時。いわば、「これはやるぞ!」と、自分が自分に発注するような時。自分がやりたいから、自腹でもやる。そういう腹のくくり方ができる時であれば、それはぜひともやるべきだと思います。当然、身銭を切るとなれば、生半可な気持ちでは取り組まなくなるでしょう。

松居さんも、ロックバンド「クリープハイプ」のメジャーデビューのタイミングで、ミュージックビデオ1本分の予算で、短編映画をつくったといいます。なぜ自主映画みたいにつくろうと思ったのかという質問に対して、答えはシンプルでした。「好きだから、どうしても映像化したいと思った」

その仕事を自腹でもやりたいと思うか? それくらい実現したいと思うか? 迷った時にその問いを頭の中に思い浮かべると、仕事に向かう気持ちがクリアになってくると思います。そして、未来へとつながる時間軸で考えれば、いつかあの人にお願いしようと思う信頼関係が築ける可能性があります。

 

ダサいと思った上でそれをやればいい。

必死になることはダサいでしょうか? 松居さんとの話で僕がいちばん心に残っているのはこのテーマでした。ここで書いてきたように、松居さんがいきなりメールで思いを伝えることも、僕がこれまでしてきたような、まだあまり面識もない人に対して、ありったけの思いでつくった企画書を届けにいくことも、考えようによってはダサい。何をそんなに必死になっているの? と思う人もいるかもしれません。ただ、何か一つでも形になるんだったら、ダサいと思った上でそれをやった方がいいと思います。

松居さんから伺った話を引用します。
「『なんかすごいことしたいんですよ!』って口だけの人も多くて、そういう人をみると、まず、行動したのか? 一つでも作品をつくったのか? 自分の好きな人、憧れている人に少しでも認識してもらえるようなことをしたのか? て言わないけど、そういう気持ちになります」

今、情報はあふれていて、その情報をああ思う、こう思うと、みんながみんな言いたいことを発信できる批評の時代です。批評家の人であればそれでいいんです。ただ、何かをつくりたいと思っていた人であれば、口だけで終わっていいのでしょうか。口に出したり、SNSなどに書いたりすることで、自分の中にあった熱が逃げてはいないでしょうか。たとえダサくても、行動に移さないといけないのではないでしょうか。

自分が良いと思うものを形にしていく。その結果、自分の好きな人、憧れている人に少しでも認識してもらえるようなことをできているかどうか。その道筋が、必死なのはむしろ当然で、恥ずかしかったり、ダサかったりするのは仕方がない。その気持ちを乗り越えた先に、まだ見たことのない何かを形にできるのではないかと松居さんとの話を通じて思いました。

いかがでしたでしょうか? 松居さんはまず動くこと、そして形にすることの大切さを教えてくださいました。たとえ小さくても、その積み重ねが、キャリアになっていく。みなさんも、自分の目の前の仕事への思いを再確認することで、新たに気付くことがあるかもしれません。

松居さんご本人の言葉による思いは、ぜひ本書で感じてもらえたらと思います。次回は、芸人の芦沢ムネトさんとの対談から見えてきた潔く前に進むための3カ条です。