進化するEC 新しい時代のあり方とは? #03

「地球上でもっともお客様を大切にする企業」を具現化するAmazon

  • Profile ichikawa dentsuho
    市川 智基
    アマゾンジャパン合同会社 プライム・デリバリーエクスペリエンス事業本部 事業本部長
  • Profile kanno dentsuho
    神野 潤一
    株式会社電通 プロモーション・デザイン局 アクティベーションプロデューサー

現在、日本のEコマース市場は13兆円を超える規模に成長。本連載では、日本におけるEコマース市場のキーパーソンを訊ね、今後どのような強みをもって生活者と向き合っていくのかをうかがいます。今回は、プライム会員サービスを着々と充実させ、多くのユーザーの支持を得ているアマゾンジャパンを訪ねました。サービス開発の根底にある思想に迫ります。


 

日本の人口の90%以上が潜在顧客

神野:アマゾンジャパンは2000年に設立してから順調にサービスを伸ばし、日本におけるEコマースの基準を築いたともいえると思います。市川さんは長く御社に勤めているそうですが、まずは経歴と現在の業務について聞かせていただけますか?

市川:2005年に入社したので、もう11年になります。サービス拡大に伴って社員が増えているので、長く在籍している方だと思います。以前は、立ち上げを含めて、配送センターでの業務が長かったですね。香水などの危険物扱いになる商品や、規制が細かい時計などの取扱開始にも携わりました。その後、食品を含む消費材の事業部長を務め、「Amazonファミリー」「定期おトク便」などのサービス開発にも携わりました。

その後プライム事業に携わり、現在は統括をしています。プライム会員にはさまざまな特典があり、各サービスを担う事業部と密接にかかわるので、常に他の部門と連携して動いています。

神野:Amazonといえばプライムといえるほど、ユーザーに魅力的なサービスになっていますよね。

プライム会員についての戦略も後ほどうかがいますが、はじめに現在のEコマース市場をどのように見ているか聞かせてください。Eコマースは多くの人に利用されるようになりはじめ、各事業者も品ぞろえやスピード配送といった効率性をそれぞれ追求してきています。それだけに、今後さらなる支持を得ていくためには、より細かなニーズに対応する多様なサービスが求められていくと思うのですが、いかがでしょうか?

市川:少し前と比べて、たしかにEコマースの裾野が広がってはいると思いますが、それでも日本におけるEコマース化率は、経済産業省の電子商取引に関する市場調査によるとまだ4.75%に過ぎません。言い換えれば、90%以上の潜在顧客が残っているのです。

そのために、「地球上で最も豊富な品揃え」「地球上で最もお客様を大切にする会社」という当社の考えに基づいて、品揃えとサービスの拡張を追求していこうと考えています。それは物品だけでなく、映画や音楽などのデジタルコンテンツも同じで、“ないものがない状態”を目指していくと、まだやれることがたくさんあります。当社は企業理念に「Every day is still Day One」と掲げていますが、まさにその通りですね。

参考:Amazonのビジョン http://amazon-jp-newgrads.com/company

 

Amazonはどのように潜在ニーズを見つけているのか

神野:品ぞろえやサービスは、今度どのように拡充していくのでしょうか?

市川:その点では二つの方向性があると思います。お客様の顕在化したニーズに応えることと、潜在ニーズをつかんで実現することです。

前者はシンプルに、品揃えや価格、またサイトの使い勝手など、もっとこうなればいいなという利便性への期待にできるだけ速く対応していくことです。これを徹底することが、いわば残り9割の非Eコマースユーザーを捉えるカギだと思います。後者の潜在ニーズを捉えるのは、もちろん簡単なことではないと分かっていますが、これはお客様に聞いても出てきません。サイト内の行動データ分析や、世の中の流行などいろいろな観点を加味して、私たちがイノベーションを起こさなければいけない部分です。

神野:確かに、最近のAmazonでいうとクラウドストレージサービスなどは、お客様の側から具体的に必要な形が提示されることはありませんね。こうしたサービスまで扱われるようになったことからも、Eコマースがいかに生活に浸透してきているかがうかがえます。

市川:もはや従来のEコマースではありませんね。実際にAWSの利用は伸びていますし、書籍以外のデジタルコンテンツの購買もーお客様生活の中で当たり前になっています。

神野:サービス拡充については、他の事業者を意識するということはないのでしょうか?

市川:もちろん情報としては入ってきますが、それはお客様がどのような環境に接しているかを把握するためという感じですね。他社のサービスを意識的に追従するといったことはありません。あくまでお客様がもっと便利になるために、あるいは非Eコマースユーザーの利用を促すために、私たちが何を提供すべきかを突き詰めています。

プライム会員の戦略は「フリクションをなくすこと」

神野:では、Amazonの特徴的なサービスのひとつであるプライム会員について、詳しくうかがいたいと思います。改めてサービスの概要を教えていただけますか?

市川:プライム会員は日本では年3900円の会費で、Amazonのよりよいサービスを体験いただくプログラムです。元々は翌日または当日に届けるという配送を特典としてスタートし、今では映画やテレビ番組が見放題の「プライム・ビデオ」や、対象のKindle本が毎月1冊無料で楽しめる「Kindleオーナーライブラリー」など、8つの特典があります。

私たちの部署は、これらの特典を円滑に運営しながら、同時にお客様の顕在・潜在ニーズの両方に応えられる戦略的なサービスを考えていくことを担っています。

神野:期待の一歩先を行くサービス、といったイメージでしょうか?

市川:それもありますが、お客様の「フリクション(摩擦、不都合)をなくす」という考えを大事にしているんです。不満やストレスを極力減らして、より気楽に使っていただけるような仕組みですね。まさに当日・翌日配送はその観点から生まれています。

店舗と違ってEコマースはその場で商品が手に入りませんが、できれば速く届けてほしいですよね。そのときに、お急ぎ便が1件ごとに有料だと注文内容によって悩んでしまうので、プライム会員になると常に最速で届きます、と。それなら気楽にお急ぎ便を使えます。実際に、この速配サービスは当初からずっと高い評価を得ています。同じように映画も音楽も、1本ごとの価格を気にせず存分に楽しめるほうが使い勝手がいい。

そういう気楽さを重視して、その積み重ねでショッピングと“観る・聴く・読む”などのエンターテインメントを日常的にどんどん使っていただきたいと思っています。実際、プライム会員の各特典の利用率は上がっているので、全ての特典がますます日常に密接になっていると実感しています。

神野:「フリクションをなくす」というのは、非常に分かりやすいですし、日々の積み重ねの凄みを感じます。一度、フリクションがなくなった状態に慣れてしまうと元に戻れないと思います。アマゾンのプライムサービスが、ある意味でひとつのスタンダードをつくっているようにも感じます。米では会費を上げたにもかかわらず、さらに利用率が上がったという報道も聞きましたが、短期よりも中長期での顧客サービスを重視されているのでしょうか?

市川:はい、それはジェフ・ベソス(米アマゾンCEO)が何年も前から徹底して社内外に発信しています。昨年から年1回開催している会員向けの大セール「プライムデー」も継続して実施しており、基本的に私たちが志向しているのは中長期的なお客様への貢献であり、結果としてキャッシュフローが最大化することです。

神野:ちなみに、何をもってサービスの良し悪しを測っているのでしょうか?

市川:詳しくは申し上げられないのですが、売上や利用率など直接的な数値はもちろん、お客様の行動データの分析やアンケートなど、一般的な調査は随時行っています。お客様に受け入れられているかどうかがいちばんの指標なので、これらの調査を総合的に判断して、改善すべきところは改善しています。

ただ、当社の姿勢として、β版を出してお客様の声を加味しながら直していく…ということはありません。基本的にどのサービスも、十分に満足いただけるという段階まで構築してからリリースしているので、場合によってはそのためにローンチを延期するということもあります。

効率化の裏にある“中の人”の思い

神野:AmazonはサイトのUIをはじめ、包装にいたるまで整然としていて、効率を重視しているイメージが強いです。語弊があるかもしれませんが、あまり企業の顔が見えない印象がありました。

市川:Amazonのサイトは全世界共通で1商品1ページ制となっているので、その印象はある意味では意図通りなのかもしれませんね。実際は常にすべての社員がお客様にとって最高の体験とは何かをすみずみまで考えています。

神野:冒頭で、プライム事業部は他の各サービスを担う事業部と密接に連携している、という話がありました。ビデオやストレージなどのサービス部分のほかにも、仕入れや配送の部門とも横断的なやり取りが発生すると思いますが、具体的にどのようにサービス開発や改善が進んでいるのでしょうか?

市川:ご指摘のように連携する部門も多岐にわたるので、決まった形があるわけではないんです。強いて言えば、お客様目線でどういうサービスが理想的なのかを一人ひとりが常に考えているので、誰かが何かに気付いたり思いついたりした際は、必要なメンバーを集めてテーマを設定して自発的に模索していく…という感じでしょうか。大きなアイデアもありますが、多くが小さなアイデアです。でもその積み重ねがお客様の満足度につながっていると思います。新サービスや改善の提案は、誰でもできますし、良いアイデアは定期的に社内で表彰したりもしています。

神野:サービス改善の基本ではありながら、忠実にそれを推進し続けることが会員数を伸ばし続ける秘訣ですね。

市川:多くのお客様にプライム会員になっていただくことも重要なのですが、その満足度を高めることがもっとも大切でありそれは私たちだけでは到底実現できません。会社全体に無数のネットワークを張り巡らせて、いくつもの取り組みを動かして相乗効果を高めているイメージです。その点では全社員がプライム会員のお客様を意識しているといえますね。より多くのお客様にいろいろな新しい特典を使っていただくような切り口での取り組みも、いろいろと展開しています。

神野:それにしても、これだけ特典があって年会費3900円というのは、安すぎる気もします。実際に米では現在99ドルですし。

市川:3900円を高いと思われるか、安いと思ってもらえるかは、特典の価値をどう受け止められ方に尽きますね。また、プライム会員はたしかにAmazonの主力サービスであり注力していますが、冒頭でお話したように、まだEコマースを使ったことのない人に一度Amazonを使っていただくことも大事にしています。まずはエントリーしていただいて、その上で「Amazonを使うならプライムだよね」と思われるようなサービスにしていくのが目標です。

非ECユーザーを開拓しながらプライム会員を拡充

神野:今年2月、日本での2015年の売上高は前期比4.4%増の82億6400万ドル、日本円で約1兆円と発表されました。市川さんが入社された11年前と比較すれば、市場での存在感や影響度合いもかなり強くなっていると思います。やりやすくなった、あるいは逆に難しくなった部分などはありますか?

市川:両方あると思いますね。今の規模感だからできることも当然ありますが、一方で全体の整合性を考えるのは複雑になっています。メンバーも増えましたし。ただ、人の数だけ多角的な角度から物事を考えられるようになりましたし、人材の厚みや豊かさが力になっているのも確かです。

先ほど話に挙がったように、私たちはユーザーの前にあまり出ないようにしていますが、社内には「Make History」という、一人ひとりがヒストリーを残していこうとうことが浸透しています。海外勤務も含めて、本人の意向を組んだ異動も活発です。

また、今は日本でもワークライフバランスという言葉が浸透しましたが、当社は以前から「Work Hard, Have Fun, Make History!」というワークポリシーを掲げているんです。サッカーからボルダリング、着物といった部活動も充実していますし、子育て層などが働きやすいように在宅勤務の仕組みなどにも力を入れています。

神野:そうなんですね! Eコマース自体はコモディティー化が進む中、企業の人格やイメージで買う先を選ぶ人も増えてくるのではないかと思います。アマゾンのそうした企業姿勢をうかがえたのは貴重です。

市川:効率化や機械化できる面もありますが、やはりユーザーに本当に喜ばれるサービスを考えるのは、同じ人間である社員一人ひとりだと思っています。社内のさまざまな制度もまだ完璧に整っているとはいえませんが、その点はユーザーへのサービスと同じように、今後も改善を重ねていきたいですね。

プロフィール

  • Profile ichikawa dentsuho
    市川 智基
    アマゾンジャパン合同会社 プライム・デリバリーエクスペリエンス事業本部 事業本部長

    大学卒業後、大手輸送機器メーカー勤務。海外留学(修士)、コンサルティング会社を経て2005年にアマゾンジャパン入社、サプライチェーン配属。2006年にフルフィルメントセンター、2009年に消費財事業部(事業部長)に異動後、2014年より現職にて日本におけるアマゾンプライムの推進に従事。

  • Profile kanno dentsuho
    神野 潤一
    株式会社電通 プロモーション・デザイン局 アクティベーションプロデューサー

    大手IT企業におけるEコマース事業運営経験から、顧客接点としての売場の価値の多様化を確信し、電通復帰。
    コンサルティングファームにおける事業価値評価等の経験をも総合的に活かし、現在、購買起点での逆算プランニングを行うプロモーション・デザイン局において、数多くの販促施策開発、実施に従事。ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士

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