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Dentsu Design TalkNo.79

あなたはeスポーツのポテンシャルを知っているか? 世界が熱狂するeスポーツの全て、教えます!(前編)

2016/10/07

「eスポーツ」とは、エレクトロニック・スポーツの略。個人やチームで行われるコンピューターゲームの対戦競技のことで、海外ではサッカーや野球を観戦するように、多くのファンが上級者のプレーに熱狂しています。近年では、賞金総額が22億円を超える大会が開催され、テレビ中継も行われるなどポピュラーな存在になり、その波は日本にも押し寄せつつあります。今回のデザイントークは、デジタルゲーム研究の第一人者で東京大学大学院元教授の馬場章さん、プロゲーミングチーム「デトネーションゲーミング」代表の梅崎伸幸さん、eスポーツ分野を扱う弁護士の藥師神豪祐さん、人気格闘技ゲーム「鉄拳」世界王者でプロゲーマーの中山大地さんをお迎えし、進行を日本eスポーツ協会の筧誠一郎さんが担当します。世界でスポーツマーケティングの一角を占め始めたeスポーツの現況と未来像を前・後編の2回にわたってお伝えします。

 

「eスポーツ」の規模はとてつもなく大きい

筧:「エレクトロニック・スポーツ」(eスポーツ)に私が出合った10年前、その存在は世の中でほとんど知られていませんでした。私はこのeスポーツを普及させるために6年前に電通を退職し、専門の協会や会社をつくってきたのですが、ようやく最近になって、さまざまな場で話題に上るようになってきました。

日本では「スポーツ」といえば、体育や運動をイメージしますが、海外では「競技」や「楽しむ」という意味合いが強く、チェスやビリヤードもスポーツの範囲に入ります。ですから、コンピューター上で行われる対戦型の競技が、eスポーツということになります。ドラゴンクエストのように1人でプレーするゲームはeスポーツには入りません。

いま世界で最も流行しているeスポーツは、チームを組んで相手の陣地を攻め落とすタイプのゲームです。中にはプレーヤー人口が7500万人にもおよぶゲームもあります。これはサッカーや野球も含めた全スポーツ種目の中で4番目または5番目の競技人口になり、世界のeスポーツのプレーヤーは推定で1億人以上いるともいわれています。

最近は、人気サッカーゲーム「FIFA」がJリーグのマーケティング権を購入したり、プロサッカーチームの「マンチェスター・ユナイテッド」がeスポーツのチームを買収しようとしたり、ということも起きています。教育面では、スウェーデンやノルウエーの公立高校でeスポーツが授業に採用されています。馬場先生は、こうした流れをどのようにお考えですか。

馬場:そうですね。10年前に私がゲームに関する授業を初めて行ったときは、本当に大変でした。授業開始10分前に学部長室に呼ばれて、「東大でゲームの授業を行っていいのか」と責められました。そこで「もちろん」と答えて、まず授業を見てもらったところ、「来週からも続けてよい」ということになり、今に至ります(笑)。

学術的にいうと、スポーツは、サッカーや野球のように実際に全身を使ってプレーする「フィジカルスポーツ」と、囲碁やチェスのように頭脳を使う「マインドスポーツ」の二つに分類されます。

しかし、eスポーツにはフィジカルとマインドの両方の要素が含まれます。当然、サッカーや野球でも頭は使いますが、eスポーツにも集中力や向上力、瞬発力といったさまざまな身体能力が求められます。eスポーツはこの二つの要素を合わせ持つ全く新しいスポーツであり、大げさにいえば、コンピューターを使いこなす最先端のスポーツでしょう。

馬場氏
 

筧:日本でも今年4月から東京アニメ・声優専門学校が、「eスポーツプロフェッショナルゲーマーワールドコース」を開設しました。そうしたところ、ものすごい勢いで生徒が集まったそうです。その様子を見て、私が把握しているだけでも2校の専門学校が来年eスポーツ科を開設します。

梅崎さんは専門学校で講師をされていますが、授業ではどのようなことを教えていらっしゃるのでしょうか。

 

梅崎:東京アニメ・声優専門学校で週1回、「プロゲーマー実習」という授業をしています。まさに、プロゲーマーとしての技を教えていて、生徒はプロを目指す18歳、19歳くらいの若者が多いです。

梅崎氏
 

筧:藥師神さんも教えていらっしゃいますよね。

藥師神:はい、私は「マナー・契約概論」を担当し、マナー研修や倫理研修を行っています。プロゲーマーは基本的には個人事業主ですから、確定申告などの税の知識も必須ですし、著作権を含む基本的な法律知識についても教えています。普段、プロのサッカー選手やテニス選手とも仕事をしていますので、プロ選手に求められる知識についてのパッケージを持っています。そういった知識を、ゲームでプロを目指す子たちにも伝えることには意義があると考えています。

藥師神氏
 

筧:個人事業主になるのですね。梅崎さん率いるプロチーム「デトネーションゲーミング」には雇用している選手もいますか?

梅崎:はい、私たちが雇用している選手もいますし、他のプロスポーツのような契約体系を取っている選手もいます。

筧:中山さんは個人事業主として、鉄拳のプロゲーマーとして、またインストラクターとしても活躍されていますね。

中山:今はそうですが、20歳から23歳までの3年間、ナムコ巣鴨店で「鉄拳」に特化したインストラクターとして、個人レッスンやグループ講習などを行っていました。今はフリーになり、各地のゲームセンターでイベントや講習会に出たり、大会の運営や実況解説などをしたりしています。

中山氏

 

eスポーツの日本普及を阻んでいたものは何か?

筧:海外では何万人もの観客を集め、賞金額が数十億円にも上る大会もあるeスポーツですが、なぜ日本ではそれほど流行していなかったのでしょうか。

馬場:日本ではゲームは、“子どものおもちゃ”と思われがちですが、海外では違います。統計によって幅がありますが、アメリカのゲームプレーヤーの平均年齢は34歳から37歳で、フランスでは41歳です。欧米ではゲームは大人のレジャーとして、多様で豊かな文化を形成しています。

さらに、ゲーム機の世界3大プラットフォームのうち二つが日本発であることから分かるように、日本のゲームはゲーム専用機を中心に発達してきました。その結果、パソコンで行うオンラインゲームの普及が遅れ、ガラパゴス化してしまったのです。

筧:最近は、その状況にも変化が起きているということですね。

筧氏
 

馬場:はい、例えば「ニコニコ動画」などにアップされた上級プレーヤーのスゴ技動画を見て、驚き感激する人たちが増えています。さらに、「同人ゲーム」として自分たちでゲームをつくる人たちも出てきました。ガラパゴスだった日本は、少しずつ世界標準に近づきつつあるという印象を持っています。

筧:法律の観点から、eスポーツ普及の阻害要因になっていることはありますか。

藥師神:プロゲーマーには欠かせない「賞金付きゲーム大会」を開催するためには、いくつかの法律を乗り越える必要があります。

まず一つ目は刑法の「賭博(とばく)罪」です。参加者から徴収した参加費が賞金の原資となると、賭博罪に当たる可能性があります。二つ目は、「風営法」です。例えば、風営法が適用される事業者であるゲームセンターが大会を開く場合、ゲームセンターが賞金などの「賞品」を出すことは明確に禁止されています。そして三つ目は「景品表示法」です。例えば、ゲーム会社が、賞金付きゲーム大会を開くに当たり、ゲームの購入者のみに参加資格を与えるような場合には、賞金でゲームの購入を誘引する形になり得ますので、景表法に抵触する可能性があります。最後の四つ目が「著作権法」です。賞金付きの大会に限りませんが、ゲーム会社からライセンスを受けずに勝手に営利目的でゲーム大会を開くと、著作権侵害になり得ます。ゲーム大会を開く場合には、使用するタイトルを保有するゲーム会社と連携することが求められます。

筧:どのように乗り越えていけばいいのでしょうか。

藥師神:風営法は警察庁、景表法は消費者庁が所管していますが、企画段階できちんと法的論点と適用され得る法令の条項を整理した上で問い合わせれば、通常は規制対象か否かにつき見解を示してもらえます。

著作権にしても、大会が行われれば宣伝にもなり、コミュニティーも育ちますので、無料でライセンスしてくれるメーカーもあります。勝手に大会を開くのではなく、事前に各所とすり合わせるという「契約的発想」をもって動かしていくと、企画が実現しやすいですし、内容も全体の利益にかなうものになります。実際、実務上の論点は整理されつつあり、日本でもたくさんの大会が実現しています。運営資金や賞金をどう集めるかについてのビジネス上の問題は残りますが、法規制の大きなハードルはありません。

筧:問題は解消しているわけですね。日本でも観客が2000人も集まるようなリーグオブレジェンドのジャパンリーグが開催されるようになりましたし、その大会のサマーシーズンのチケットは争奪戦で、あっという間に完売したそうです。飲料やパソコンのメーカーがスポンサーについていますし、日本でもeスポーツが浸透してきているのは間違いなさそうです。

続いては、プロプレーヤーの実態と、eスポーツの未来について聞いていきたいと思います。

※後編につづく
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企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀