ろーかる・ぐるぐる #94

「認知が足りません」ってホントですか?

紅葉の蓼科(王滝)
しばらく前に会社を早期退職し、長野県の蓼科高原にこもって悠々自適な生活を送っているJ先輩。先日お伺いしたときは紅葉も美しく、空気も澄んでいて、食材も最高。東京の喧騒から離れ、とても贅沢な時間を過ごせました。

特に地元の野菜をたっぷり食べると、身も心もリフレッシュできます。

ところが天候不順で、とにかく品薄、割高。いつもはひと株100円やそこらでまとめ買いする白菜も3倍近くしたし、信州の伝統野菜・王滝かぶは見つけることすらできなかったので、今年しばらく自宅での漬物は断念ですかね。比較的豊作らしい松茸には手も足も出ないし。仕方がないです。それでも初めて買った人工栽培ができない希少なキノコ「シモフリシメジ」は味がしっかりして美味。名前は知られていなくても個性的で、だからこそ魅力的な出会いもありました。

閑話休題。先日とあるチェーンレストランのマーケティング担当者と話をしていたとき、既存店の伸び悩みが話題になりました。「なぜ前年比100%をクリアできないんだろう?」「最大の課題は何だろう?」と議論していたら、こんなことを言われました。

「認知が足りないんです」

う~む。ローカルの食品メーカー社長も、NPOの事務局長も、某市役所の農林担当者も同じことを言っていました。正直、この手の話をするとき、業種を問わず、かなりの確率で登場する常套句です。

そして残念なことにこの言葉は、なかなか厄介です。というのも「知ってもらえさえすれば、売れますか?」と尋ねると「別にそういうわけじゃないですけど、知らないより知られた方がいいですよね?」みたいなことになっちゃうからです。「近隣に一軒しかない歯医者さん」とか「ある程度メジャーでないと選択肢にも入れてもらえない洗濯洗剤」とか、認知の獲得こそが重要なこともあります。でもターゲットと商品の関係性を十分に吟味することなく、安易にこの答えに飛びついちゃっているケースが多いようです。

コミュニケーション軸
コミュニケーション軸

ある商品が売れない真の理由=課題を見つける作業は、なかなか骨が折れます。そのためには、その商品が「誰に」「どんな価値」を提供しようとしているのか、その意図をハッキリさせることが前提となります。たとえば「ワルのりスナック」の場合でも「海苔」(スペックレベル)、「ビールのお供」(機能的ベネフィットレベル)など、さまざまな価値が想定できました。ぼくたちはその中から「広島弁遊び」という価値こそが「広島愛にあふれる人々」に有効だろうと選択したのです。単に「認知」でなく、商品がターゲットにどんなふうに理解されれば買ってもらえるのか?を徹底的に考え抜かなければなりません。(拙著の整理でいえば「コミュニケーション軸」の行ったり来たりです)

okonomiyaki
お好み焼き味
lemon
瀬戸内レモン味

もうひとつ「認知が足りない」と聞くと「うへっ!」となる理由は、その言葉遣いにあります。「認知」のような専門用語というか、ビジネス用語はとても便利です。この連載にもずいぶん出てきます。でも「認知」って、どういう意味なのか? 「記憶」とは何が違うのか? ブランド認知だとすれば、いま必要なのは「再生」か「再認」か…。その定義も曖昧に、なんとなくもっともらしい言葉を使うと、思考にブラックボックスが入り込み、本質の追求ができなくなります。

ビジネスの場でも、一見もっともらしい用語を並べるのではなく、できるだけ平たい実感のある平易な言葉を使いたいものです。

たぶん広告会社の人間は「認知が足りない」という課題設定が好きでしょう。広く知らしめるのは、広告の得意技だからです。でもそこで思考停止していては、いつまでたっても「商品が売れない」根本が解決しません。粘り強く考えるために「認知が足りないんです」と口にする前に、それがホントに大きな悩みなのか一回振り返ってみることをおススメします。

どうぞ、召し上がれ!

プロフィール

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    山田 壮夫
    株式会社電通 第1CRプランニング局

    1969年生まれ。アイデアを核として広告キャンペーンはもちろん、店舗開発からテレビ番組の製作まで手掛ける。特に最近は全国の地方新聞社厳選お取り寄せサイト「47CLUB」と連携してローカルにおける商品開発作業にチャレンジしている。2009年カンヌ国際広告祭(メディア部門)審査員。慶應義塾大学(メディア・コミュニケーション)、明治学院大学(経営学)非常勤講師。著書に『〈アイデア〉の教科書 電通式ぐるぐる思考』(朝日新聞出版)。

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