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動画による、これからの“地方創生”No.2

ムービーで伝える地域の財産。それぞれのやり方

2017/01/17

都道府県や市町村、さらには一般市民が中心となった動画プロジェクトがメディアやSNSで話題となっている。
それぞれの事例には、地元の抱える課題と、地元が誇る資産をマッチングさせた工夫が見てとれる。ここでは、滋賀県と三重県桑名市の事例を紹介する。


 

~脱悪役・石田三成が滋賀県の魅力をアピール~

おそらく世界初! 武将CMで地域活性化

 

琵琶湖を中心に据え、豊かな自然や数々の歴史遺産を持つ滋賀県。その多くの魅力を発信するため、2016年3月からPR動画が展開された。しかしその内容は、滋賀県自体のアピールではなく、同地出身である戦国武将・石田三成のCMだった。
第1弾は3月5日にウェブ上で公開。約40秒の動画では、「配下にするなら石田三成」「忠義心No.1宣言」など、三成の魅力を独特の演出で表現した。また、3月27日に公開された第2弾では、6本(+おまけ2本)の動画を詰め合わせた2分13秒の動画を「総集編」として発信。三成の知られざる人柄や功績を、いろいろなCMのパロディーを駆使しつつ、多面的に伝える構成となった。さらに、ポータルサイト「石田三成×滋賀県」を特設し、三成の人物像や他の武将との相関図、滋賀県各地に伝わる三成のエピソードをサイト内で紹介。力作コラム「秒速で1億円稼ぐ武将石田三成」も必見だ。

 

公開された動画は、第1弾が130万回以上、第2弾が60万回以上の視聴数を記録。20以上のテレビ番組にも取り上げられた。ウェブ発信が主となっているものの、実際のテレビCMとしても地元局・びわ湖放送でオンエアされた。
制作を担当した電通関西支社の藤井亮氏は「地域PR動画として、三成の生い立ちや生涯を見せても失敗するだろうなと思いました。それも大河ドラマでクオリティーの高いものをやっている真っ最中に。そこで、三成自身を広告対象として宣伝するCMはどうか。武将が出演者として出てくるCMは数あれど、武将そのものを広告するCMであれば、今まで見たことのないものができると考えました」と振り返る。

 

滋賀県総合政策部広報課の林純基氏は「都道府県魅力度ランキング43位(2015年)など、滋賀県のブランド力が低迷する中、県が有する魅力的な素材、戦国武将をテーマに、滋賀県の認知度・好感度向上を目的に実施しました。ゆかりの武将が多く存在する中、三成に関しては、マイナスイメージで語られることが多く、滋賀県との関係性もこれまであまり発信されていませんでした。しかし近年、ゲームコンテンツでの人気の高まり、官民協働による観光振興の取り組みなどの社会的潮流を好機と捉え、あえて三成だけにスポットを当て、その人物像と魅力を広く伝えることを目指しました」と三成の起用理由を説明。「“世界初の武将CM”の案をもらった瞬間、これはいける、と即決しました。怒濤(どとう)のバズ現象と三成ブームに乗りながらも、地元市の観光客誘致や民間の盛り上がりに注力しました。SNSと動画を活用したPRの拡散力、発信力を実感。滋賀県の露出度が高まったことで、三成ゆかりの地への観光客数は例年比の約2倍となっています」と成果を語る。


 

〜三重県桑名市の市民による映画「クハナ!」製作〜

市民とプロによるハイブリッドの「まちおこし映画」

動画をまちおこしにつなげる取り組みは「映画」の分野でも行われている。2016年9月3日に公開された「クハナ!」は、三重県桑名市の一般市民が中心となり、地域活性化の思いから作られた映画だ。企画したのは、桑名市民による有志グループ。20代から60代までさまざまな人が集まり、桑名市のまちおこしを話し合っていたところ、ヒットドラマ「アンフェア」の原作者であり、数々のドラマの脚本を手掛ける秦建日子氏と出会い、映画というアイデアが生まれ、製作の道を模索したという。
その結果、クハナ!の製作は、原作・脚本・監督は秦氏が務め、地域の活性化を目指す映画として動きだした。


ロケ地の住民がボランティアとして関わった映画作品は少なくないが、クハナ!では、発起グループのメンバーがストーリー段階から参画していった。作品公式サイトにも「クハナ!映画部」としてメンバーが紹介されている。
本作のエグゼクティブプロデューサーを務めた電通ビジネス・クリエーション・センターの中西康浩氏は「企画の段階から、市民と二人三脚で一緒に作りました。撮影もオール桑名ロケで、協賛についても地元企業から多くの理解・賛同を頂きました」と語る。また、同作は市民発の映画企画でありながら、全国規模のスケールで製作された。主要キャストには、朝ドラ「まれ」の子役として注目を集めた松本来夢さんや、加藤清史郎君を配し、首都圏の企業も協賛。一方で、地元・桑名からオーディションで子役を選出するなど、映画の中で全国と地方が共存する形となった。
中西氏は「まちおこしの映画だからこそ、地元だけの祭りにならず全国区のキャストで全国に発信したかった。と同時に地元の方と寄り添って、現地のスタッフやキャストも大切にする。そのハイブリッドが地方創生ムービーを育てるポイントでした」と背景を説明する。
桑名市では、公開前に製作前報告会イベントが行われ、1000人以上が来場。また、本作は文部科学省からの選定も受けた。


「公開前後も桑名市だけでなく、東海エリア内外のメディアでも本映画の取り組みを大きく取り上げていただきました。また、映画から派生した桑名市民発のイベントも開催され、すでに映画だけで終わらない市民自走の取り組みが実践されている」と中西氏。また、「この桑名市のモデルが注目され、うちの地方でもやりたいとさまざまなエリアの方々からリクエストがきています」とのことで、「まちおこし×映画」の事例は、今後も多くの地域で増えてくると考えられる。