ADFEST 2017 REPORT #01

広く告げない広告の考え方

  • Higashi pr
    東 成樹
    株式会社電通 CDC コピーライター

 

ADFEST、20年の歴史

初めまして、電通CDCコピーライターの東です。アートマーケティングのプロジェクト「美術回路」の事務局長として、アートの仕事をしています。

3月22~25日に行われたアジア最大規模の広告祭の一つ、ADFEST(アドフェスト)に行ってきました。フランスのカンヌで行われるカンヌライオンズで記者をした経験を生かし、フレッシュな情報を得てきました。特に今年のADFESTは20周年で、創設者の一人Jimmy Lamさんが、誕生までのストーリーをプレゼンしました。

さかのぼること1994年。始まりは、カンヌでの二人の審査員の会話でした。その二人とはJimmy LamさんとVinit Suraphongchaiさん。フィルムの審査員だった二人は、チーズやフランスパンに飽き飽きして審査3日目に会場を抜け出しました。そしてお気に入りのベトナムヌードルを食べながらこんな話しをしました。「フランスまで来るにはお金がかかり過ぎる」「カンヌのビーチも、パタヤ(タイ)のビーチも同じようなものじゃないの?」。二人は意気投合。これがきっかけとなって1998年、タイのチェンマイでADFESTが始まりました。

初めは500点に満たなかったエントリーは今年、3011点へ拡大。500人に満たなかった来場者は72カ国からの1342人(このプレゼン時点で)にまで成長しました。

会場入り口
ランチはバイキング。席は自由で、交流の場になる
 

ADFESTはカンヌライオンズと比べスピーカーやジャッジとの距離が近く、話しやすいと思いました。4日間の会期中、全てランチの提供がありました。また1日を除いて毎日パーティーが開かれ、肩書を気にせずに交流できました。

タイ料理を片手に、クリエーティブの最前線を走る審査員、編集長、デザイン会社の創業者などと話す中で「広告が世の中にあふれている。人間の注意は8秒だ」という話が複数名から出てきました。そこで、どうすれば情報に埋もれない、心引かれる広告がつくれるのかを尋ねました。

 

広く告げない広告の考え方

1.Creative Un-Branding

初めに紹介するのは、米ワシントンのデザイン会社、DESIGN ARMYの共同創業者、Pum Lefebureさんのお話です。

ブランドを魅惑的にするには? Pum Lefebureさんによる“Master the art of seduction”
 

マイクロソフトの調査によると、人が気を紛らわされずに一つのことに注意を向けられる時間は8秒。これは金魚よりも短く、2000年の12秒から下がっているそうです。

広告へ注意を払う時間が限られる中、商品機能や企業ロゴを発信するよりも人々が欲しがる体験を提供し、その体験が商品のおかげだと後から分かるようにしてはどうだろう? Pumさんはこれを“Creative Un-Branding”と名付けて事例を紹介しました。

例えば、家具屋さんのRH Chicago。Pumさんは、家具屋で落ち着いて商品を探しているときに、店員さんが販売トークをしてくるのが気になっていました。

そこで、RH Chicagoは家具を売るのに家具屋ではなく、カフェ(http://3artsclubcafe.com/)をつくりました。カフェのテーブルやソファに自社商品を使うことで、商品を体感してもらう仕組みです。Pumさんは「誰が家具屋さんで2~3時間も過ごすかしら?」と言います。カフェならこれが可能です。先にサービスを提供し、後で商品のことが分かるという“Creative Un-Branding”の仕組みができています。Pumさんに、「あなたの紹介する事例を『広告』と呼ばないなら何と呼ぶでしょうか?」と聞きました。答えは「デザイン」でした。

Pum Lefebureさん
ワシントンのデザイン会社、DESIGN ARMYの共同創業者。
 

2.Don’t beg.

ADFESTの一番偉い審査員(Grand Jury President)、Ted Royerさんによる“The party you can’t go to and the universe in your head
 

MailChimpという社名を聞いたことがありますか? メルマガを中心に、オンラインでのマーケティングをお手伝いする会社です。さてこの会社、なんという名前か発音できますか? 「メールチンプ」です。ただ「メールキンプ」と間違われるなど、間違えて覚えられることも多いようです。

そこでDroga5のチーフクリエーティブオフィサーのTed Royerさんは、間違えた名前をタイトルにした動画やポスターをつくりました。

・バーガーに挟まれたエビが、郵便局で歌う「MailShrimp(メールシュリンプ)
・体中が、野菜のケールで覆われた犬が身をふるわせる「KaleLimp(ケールリンプ)」(ぐにゃっとしたケール、という意味)

などなど、およそブランドを想起させない表現が9種類展開されました。
動画を見てください。クライアントの名前を見つけられますか? 答えを言うと、動画の最後に一瞬だけクレジットが出ているのです。ですが、そのロゴも「小さくしてくれ」と指示されたそうです。ロゴを小さくして、という会社があるでしょうか?

名前が気になって検索した人は「もしかしてMailChimp?」という検索の提案に導かれて、会社を知らせるページにたどりつきます。「社名で遊んでしまうなんておちゃめな会社だな」と思う人もいるかもしれません。MailChimpはそのようなブランドでありたい、とこのページには書かれています。

Tedさんのこの広告づくりの姿勢は“Don’t beg.”(乞うな)だといいます。社名や情報を伝えようと一生懸命になるよりは、ちょっと力を抜いて間違った名前でさえ知らせてしまうという、包容力のある考え方です。

Ted Royerさん
Droga5のChief Creative Officer。
 

3.まずは自分が感動すること

CONTAGIOUSの編集長、Paul Kemp-Robertsonさんによる“How to build a CONTAGIOUS brand”

 

見る人の心を動かすために、新しい技術は有効です。一方で最先端の技術はクライアントも触ったことがなく、理解なしには予算をとりつけるのが難しいでしょう。どうすれば、新しい技術への理解が得られるでしょうか? テクノロジーをはじめとした、クリエーティブの最先端情報を伝える“CONTAGIOUS”の共同創業者、Paul Kemp-Robertsonさんに話を聞きました。「まずはCONTAGIOUSを読むことだね」とPaulさんは軽口をたたき、話し始めました。

“一番の方法は、テクノロジーを体感させること。クライアントをSXSW(サウスバイサウスウエスト)などのイベントに連れていくんだ。あるいはスタートアップの集まる場をセッティングし、企業を呼んで体感してもらうこともできる。ここで、クライアントという立場を忘れて一人の人間として技術に触れ、心を動かしてもらうことが効果的だ。クライアントは、先端技術を先んじて体験できる。”

技術を使うには、まずは自分で感動することが鍵ということ。ちなみにPaulさんは雑誌、“CONTAGIOUS”の編集長でもあります。どうやって情報を集めるのでしょうか? 

“僕たちにはリサーチ部門がある。たくさんのニュースを仕入れたり、イベントに参加し、自分たちも開いている。企業が組織的にリサーチを行うなら「5%クラブ」のような、自分たちの利益の数%を使って新技術の研究に投資する部門をつくることができるだろう。”

早速、雑誌版の“CONTAGIOUS”を手に入れました。「顧客がブランドをのりかえるタイミングはいつか?」「2017年に迎える最も大きな困難は何か?」などの質問を核に取材、調査を行っています。

Paul Kemp-Robertsonさん
 

ここまで、広く告げない広告の考え方を紹介しました。

 

広告賞をとることは、社会にどんなインパクトを与えますか?

タイに着く前から、用意していた質問がありました。「広告賞をとることは、社会にどんなインパクトを与えますか?」という質問です。賞をとることは個人や広告会社には意味があると思う一方、社会に意味はあるのでしょうか? 

 まずは、Matt Noonanさんがセミナーの終わりに「何か質問がある人?」と言われたので、質問をぶつけてみました。

“世界中でばらばらになっていた制作物が集まり、日頃は競い合っている者たちが互いの仕事の成功を認め合うことができる。より良いものをつくろうという刺激になる。”

最も素直な回答だと思いました。社会の一部である、広告業界の刺激になるということです。

Matt Noonanさん
映画のプロデューサーであり、プロダクションCuriousの創業者でもあります。
 

30人程度のクラスでMike Edmondsさんによるワークショップが開かれました。自分が真にしたいことを心に問い、答えることが大事だ。そうすれば、クライアントのマーケティング部に数字で判断されるのではなく、上層部に真に響く提案ができると学びました。広告賞の社会的インパクトについて聞くと、「この質問には熱意をもって答えたい」と丁寧な回答が返ってきました。

“賞の利点は、クライアントに、自分の選んだ広告会社が価値あると確信を持ってもらえること。
一方で、賞を取った仕事が100%売り上げを伸ばしたものとは言い切れない。DDBのリーダーのBill Bernbachは、創造性にあふれた広告は、アートと同じ道を歩んでいるのではないか? と指摘した。

彫刻、絵画、写真。初めはパトロンや教会などのクライアントが発注し、商業的に売買されていた(東注:ナポレオンの肖像画や王族たちの宮殿を思い浮かべてください。まるでブランディング広告のように、自分たちの威厳を見せるために作品をつくらせています)。

だが彫刻が絵画に、絵画が写真に取って代わられると、古くなった手法は商業界を離れて、アートの世界へと向かった。

賞を取るような広告も、このきらいはないだろうか。人々はたくさんシェアし、ギャラリーやテレビでは面白い広告が飾られ、特集される。だが、これらの広告をシェアしながら「ねえ、あの広告見た? 買わなきゃ」と言う人はいるだろうか? もしも賞を取るような広告が売り上げと離れていったら、産業界から遠去かっていかないか心配だ。”

Mikeさんは広告会社のためだけに賞が使われることを懸念していました。「賞をとる広告は売り上げにも貢献していますよ」と質問すると、それはほとんどのケースで合っていると認めた上で、売り上げが上がっていないのに賞に出す広告会社もあると話します。そのような広告会社が受賞に喜ぶ姿を見て、クライアントが不信を抱いてしまうことを、Mikeさんは懸念していました。

Mike Edmondsさん
Meerkatsの共同創業者。ブランドの成功にはその企業が存在する真の意味を見つけるのが一番だと考え、クライアントがそのビジョンを満たせるように支援している。
 

また、ある審査員は「受賞した企画は来年も続くのか? 賞に応募するために企画をつくり、来年はもうやっていないんじゃないのか?」とシニカルに仕事を見ていました。アイデアの継続性については、次回の北さんの回で制作者の声とともに取り上げます。

自分がこの質問をしたのは、ヤングコンペで賞を取ることの意味を考えていたためです。土曜日の13時にオンラインで課題が出され、翌日の20時に提出です。ペアで「気候変動を自分ごと化せよ。クライアントは国連とする」などの課題を考えます。1部門につき100組程度、つまり200人のクリエーターが土日をささげて企画を出します。この企画は審査員の評価にかかわらず、世の中で実行はされません。

もしもこの200人の本気の土日をおのおのがつくりたい企画に注いだら、より大きく社会に影響が与えられると思います。審査員ではなく、実社会にジャッジされることで、仕事にも役立ちます。

私の考える広告賞の役割は、個人の広告の実力を磨き、業界で認知を得るための模擬試験だと思っています。良い仕事をする人に巡り合うために、賞を利用すればよいと思います。一方で、能力のある200人が社会を変えない企画に本気を出すのはCreative Waste of Timeだとも思います。

この話をMikeさんにしてみると、「その時間でしたいことがあるならぜひ賞に出さず、社会に役立つことを実行すればよい。受賞して自分の名前を知らせることにも意味がある。個人の選択だ」とのことでした。

広告賞を取ることは、社会にどんなインパクトを与えるか? 広告業界の制作物の質を高め、クリエーターのモチベーションを上げる効果があるでしょう。また今までにないアイデアを審査員がチェックすることで、広告業界が新しい企画を追求する仕組みができています。賞を取るのが目的になるのではなく、そこで得た技術を制作に生かすことが、賞の利用法だと私は思います。

この記事の前半では「広く告げない広告」についてお話ししました。これから広告アイデアを見るとき、企画者がブランドの名前をどこで出して、あるいは出さないでブランドの良さを伝えているのかに気を付けると、新しい見方ができると思います。
次回の北さんの記事では、審査員・制作者に聞いた受賞事例を紹介します。

参考)10分で読める世界の広告賞入門。世界中の広告祭の歴史が分かります。

 

プロフィール

  • Higashi pr
    東 成樹
    株式会社電通 CDC コピーライター

    2015年入社。年間100展ほど美術展を見ています。アートを仕事にする「美術回路」の事務局長。シリコンバレーで記者をしていた経験を生かし、世界中のクリエーティブ・テクノロジストへインタビューしてDentsu Lab Tokyoのウェブサイトに載せている。
    学生の時、飲み会の3000円を払えばごちそうが食べられると感じた。そこで「ごちそう+お食事に合う2杯」のごちそう会コースをお店につくっていただき、「ごち会」で予約できるようにした。

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