ワカモンのすべて #02

古市憲寿×西井美保子:前編

「不安はデフォルト?つながり時代の若者考」

  • Furuichi 1
    古市 憲寿
    社会学者
  • Profile nishii 1
    西井 美保子
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター チーフプランナー

10~20代の若者の「今とこれから」をリサーチする社内横断プランニングチーム・ワカモンの研究部員が、新しい生き方を模索する著名人と対談していきます。
今回は、ワカモンのリサーチャー古市憲寿さんが、ご自身も若者でありながら現代社会の歪みと彼らの生き方を鋭くえぐる社会学者・古市憲寿さんとセッション。建前なし(?)のリアルな若者論で盛り上がりました。

 

社会的地位を得た「若者」はどこへ向かうのか?

西井:古市さんは、特に働くということに対して課題意識をお持ちだと思うので、今回は新しいつながり方とか、新しい働き方とか、そのへんを教えていただきたいなと考えています。

古市:よろしくお願いします。

西井:新年なので、ちょっと時事ネタから。弊社では2014年の消費キーワードを「動き始めた未来」としていて、アベノミクスだとか東京オリンピック決定だとか諸々あって前向きになってきたよねという見方なのですが、20代を中心とした若年層にとってはどんな一年になりそうですか?

古市:アベノミクスはよく株価とかで語られますけど、株買えるくらいストックがある若い人ってあんまりいないじゃないですか? だから実際、そこまでの好況感は受けてないと思っていて、急に若年層の消費マインドが変わるかは疑問です。むしろ個人的には、30歳前後になってもまだ若者気分が抜けず、抜ける必要も感じてない人たちがどうなっていくんだろうっていうところに興味があります。

西井:なるほど。我々の研究の中でもよく、20代でも30代でも40代でも、女性はずっと○○女子とか言って、ジェンダーもエイジもレス化が進んでいることは感じています。

古市:世代を分断するような社会的な大きな事件、たとえば戦争の前後では全然マインドが違うし、高度成長期の前後でも変わっただろうけど、バブル崩壊以降に青春期を過ごした今の20代と30代でそこまで大きな価値観の差があるかっていったら実際ない気もします。

西井:そうやって世代で切る意味合いが薄くなった今、何で切ると一番分かりやすいのかと考えだすと、悩ましいですよね。男女、階層、地域なんかの変数もある中で、若者の区切りがむずかしくなっている。

古市:もう「一億総中流」とは素朴に言えない時代ですからね。一方で、カッコ付きの若者、若者でいたい人、いなきゃならない人が今すごく増えてきていると思うんです。つまり、昔で言う大人になれない人。そこではまだ「若者」っていう切り口も意味を成すわけで。

西井:確かに。家族の中の立ち位置も、たとえば、昔は20代後半男性が「世帯主」や「父」としてファミリーカーを所有したのが、今では世帯の中の子どもとしてのファミリーカーがあったりと、ずっと子どもでいることで消費にも変化があると思います。

古市:でも年齢が上がっていけば収入や職業は変わってくるわけで、ちょっとお金を持って社会的地位ができ始めたアラサーの「若者」たちの動向には個人的に関心を寄せてます。

みんな欲しいモノがない? 理由づけ消費がトレンドに

古市:実は僕最近、毎日セブン-イレブンのサラダチキンばっかり食べているんです。やせるもので身体によさそうなものばっかり探してると、サラダチキンしかないんですよ、買うものが。コンビニ行ってもスーパー行っても、基本的にサラダチキン的なものばっかり最近買って食べていて。

西井:買うものがない、かぁ。たとえばここ5年くらいずっと若年層は「嫌消費」だとか言われてきたと思うんですけど、古市さんのご著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社、2011年)には、本当は買わないんじゃなくて、買っているものが見えてないか、買っていることが見えていないかだと書かれていて、そうそうと思いました。

古市:そう、僕も別にサラダチキンが食べたいわけじゃないんです。やせたいとかそういう理想があって、それを埋めてくれるものを求めた結果としてそれを買っている。小説家の朝井リョウくんに最近買ったものを聞いたら、実家のリフォーム費を出したくらいで、自分で買ったものはほんとに何もないって言うわけです。

西井:ライフラインですか?(笑)でもそうなんです。きっとみんなモノが欲しいっていうより、こういうことをしたいという方が先にあって。主従が逆転し始めています。

古市:あと最近は、一緒にご飯食べようっていう場に、なんか簡易に名前付けますよね。「肉会」とか。

西井:女子でもそういうの付けますね。「たこ焼きを食べに行く会」とか「ウイスキーを飲みに行く会」とか。何かの理由に紐づけるというのは、我々も消費トレンドの一つだと思っています。

古市:それこそコミュニティ内のネタですよね。たとえばFacebookで何か買ったとかご飯に行ったとかを仲間に紹介するためには、理由、説明語が必要になるじゃないですか。買っただけでは誰にも伝わらないわけで、それだと意味がない。

西井:やっぱりそこも根幹にあるのは、今の人たちの幸せを左右するものが「つながり」であるっていう部分なんですね。

新しいつながり方で社会をもっと面白く

古市:自分のためじゃなくてみんなのためっていうのは、消費だけじゃなく結婚とかも同じような気がします。僕自身、いつ結婚するだろうって考えたら、たぶん今一緒に遊んでる子たちがみんな結婚するタイミングかなと思ったんです。同じタイミングで結婚、子育て…とか考えたらすごく楽しいんだけど、逆に一人だけ先に結婚しちゃってもみんなとリズムがずれちゃうし。随分前から言われてることですけど「所有」じゃなくて「共有」。みんなで一緒の村で暮らして、その村の寄合費的なものにはどんどんお金を払うよ、みたいな感覚です。

西井:コスパ、コスパ言われてきた中で、最近はお金より時間の方に価値観がシフトしてきて、その時間の価値っていうのが今一番みんなが共有したい価値なんじゃないかと個人的に思っています。「共有」「シェア」といっても結構いろんな意味合いが含まれてくると思うんですけど、古市さんの言う「共有」はどこに向けていますか?

古市:たとえば人間にとって一番素朴な楽しみって、友だちとそのコミュニティ内の話をすることだと思うんです。井戸端会議って言い換えてもいいですけど、たぶん身内の噂話が一番楽しいというのは、古今東西で結構普遍的にあてはまる。それがもはやLINEとかでできてしまうようになり、それに打ち勝つエンタメがなかなか探せないのが今の消費社会ですよね。だから「共有」っていうのは、それ自体が目的で消費行動はあくまでもそれを下支えしているにすぎない。どこかに旅行に行くとか、ご飯を食べるとかも全部、そのためのネタなんです。

西井:時間を共有するために付いてきた、たまたまそこにあったみたいなことで結果としてお金を使っている感覚ですよね。そうすると、若者のつながり方が多分ここ2、3年でも大きく変わってるように思うんですが、新しいつながり方、理想のつながり方でもいいんですけど、古市さん自身は今どうですか?

古市:僕は友だちと会社をやっているんですけど、やってていいなと思うのが、ちゃんと生産して自分たちが食べてくための拠点になっていることです。今いくらつながりだ、コミュニティだといっても、多くの人が結局会社に給料をもらいながらそれを作ってるじゃないですか。なので僕は恵まれてると思う一方で、自分たちで生産手段まで持つことが多くの若者の憧れになってきている気もすごくするんです。たとえば「SEKAI NO OWARI」というバンドもメンバー4人がもともとシェアハウスに一緒に住んでいて、そこをライブハウスにして歌っていた。ただつながってるだけじゃなくて、自分たちの作品を作って発信する生産拠点なんですよ。こういうことがどんどん増えていけば、もっと社会が面白くなる気がします。

西井:ということは、働くっていうことと住むっていうことが結構近くなってきている感じですか?

古市:もっと近づくような方策があってもいいですよね。たとえば起業っていう言葉はなんか、大富豪を目指さないといけないみたいに感じてしまうけど、もっと「小商い」的なものが増えてもいいと思うんです。実際、日本は戦前、自営業者と農業者の国だったわけで、そんなにあり得ないことじゃない。言い換えれば、僕たちがいかに戦後続いた工業社会時代のマインドに支配されているかということなんです。

西井:ゆるやかにですけどパラダイムがシフトしてきて、物余りの時代になった。モノじゃなくてコトだよねとか、さらにもう一歩進んでヒトだよねとか言われつつも、まだやっぱりそういうマインドは根強かったりしますね。

古市:製造業や建設業が勃興して大企業がたくさんできた、前時代の安定社会のイメージに縛られているから、そこから外れることが不幸せだと感じてしまう。そこのマインドさえ変われば幸せの基準も変わるし、若い人たちももっと生きやすくなるのになって思うんです。

不安であることがデフォルトとして生きていく

西井:とはいえ、制度とかも含めてだと思うんですけど、そのマインドを変えることってそんなにたやすくないと感じます。じゃあ若者の生き方として、不安を乗り越えるために何ができるのかなって。

古市:不安を解消させてくれるものは、今はやっぱり仲間しかないんでしょうね。昔だったら家庭とか地域とか会社とかいろいろあったと思うんですけど、もはやそれらが自分の一生を預けられる存在には思えない。でも仲間って実はもろいものだったりもするじゃないですか? だから結局不安が消えることはないんですよ。本当は逆に、不安であることはデフォルトで不安とともに生きていける人が増えていくともっといい。

西井:なるほど。不安との新しい付き合い方みたいな?

古市:社会が安定するなんてことはこれから先あり得ない。だとしたらもう、不安は当たり前で生きていくしかないと思うんですよ。

西井:よく「希望はあるのか」って聞かれるじゃないですか? そこの答えも「答えはない」とは言いつつも、希望の見いだし方がポイントになってきそうですね。

古市:希望があることが必ずしも良いとは僕には思えないんです。だって希望を持ってしまうと、自分の現在との落差に右往左往するじゃないですか。とくに要らないと思うのは、借り物の言葉で語られる「希望」。自分がその時点で持っている貧弱な語彙や、狭い世界観の中で「希望」を語ってしまっても、それはむしろ自分の可能性を狭めてしまうことになると思うんです。逆説的ですけど、「希望」語りが本当の希望を奪ってしまうんです。

※対談後編は1/22(水)に更新予定です。

【ワカモンプロフィール】

電通若者研究部(通称:ワカモン)は、高校生・大学生を中心にした若者のリアルな実態・マインドと 向き合い、彼らの“今”から、半歩先の未来を明るく活性化するヒントを探るプランニングチームです。彼らのインサイトからこれからの未来を予見し、若者と 社会がよりよい関係を築けるような新ビジネスを実現しています。現在プロジェクトメンバーは、東京本社・関西支社・中部支社に計14名所属しています。ワカモン Facebookページでも情報発信中(https://www.facebook.com/wakamon.dentsu)。

プロフィール

  • Furuichi 1
    古市 憲寿
    社会学者

    1985年東京都生まれ。東京大学大学院博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所訪問研究員(上席)。専攻は社会学。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)で注目される。大学院で若年起業家についての研究を進めるかたわら、マーケティングやIT戦略立案、執筆活動、メディア出演など、一見精力的に活動する。近著に『誰も戦争を教えてくれなかった』(講談社)。

  • Profile nishii 1
    西井 美保子
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター チーフプランナー

    人事、総務、店舗、オフィスなどの経営全般をアイデアで活性化する未来創造グループに所属し、数々の企業と協働プロジェクト多数。
    また、電通総研副主任研究員を兼任し、インサイトラボ「電通若者研究部(電通ワカモン)」「電通ギャルラボ」の立ち上げメンバーとして、主に10~20代の若年層を対象に消費心理・動向分析を研究。
    著書に、「パギャル消費~女子の7割が隠し持つ『ギャルマインド』研究~」(日経BP社)、「なぜ君たちは就活になるとみんな同じようなことばかりしゃべりだすのか。」(共著、宣伝会議)。

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