ワカモンのすべて #03

古市憲寿×西井美保子:後編

「若者よ、会社のオジサンたちを恐れるな」

  • Furuichi 1
    古市 憲寿
    社会学者
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    西井 美保子
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター チーフプランナー

前回に続き、ワカモンのリサーチャー西井美保子さんが、ご自身も若者でありながら現代社会の歪みと彼らの生き方を鋭くえぐる社会学者・古市憲寿さんとのセッション後編をお送りします。前編はこちらから。

 

 

就職活動と20代のキャリアデザイン

西井:工業社会からパラダイムシフトして、表層では幸せの基準が変わったようにも言われる一方で、目指す職業を聞いたときに「サラリーマンになりたい」って答える高校生がまだ出てくるんですよ。

古市:結局今ってサラリーマンになるかフリーターになるかっていう、極端な選択肢しかない気がするんですね。それ以外の生き方のロールモデルがない。実際日本でも起こっているグレーゾーンの働き方がもっと見えるようになればいいと思います。

西井:ちなみにグレーゾーンって、どんなことが起きてるんですか?

古市:それこそ、週末起業でもいいし、週末作家でもいいし、半農半Xでもいいし、できることって今たくさんあると思うんですね。特に企業も最近は副業規定を緩めてきていて、いくつかの拠点で働くことがそこまで特別なことでもなくなってきている。携帯端末の進化でインフラ面のハードルも明らかに下がったはずだし。

西井:今回も古市さんに最初はFacebookで連絡させてもらったと思うんですが、SNSだけじゃないですけど、会いたい人に会うとか、やりたいことをやるとかの門戸ってものすごく広がりましたよね。私はサラリーマンですけど、今は世の中的に社内キャリアみたいなことよりも転職も含めた人生キャリアを考えてる人が多くなってるようにも感じていて…。

古市:そもそも40年以上ずっと一つの会社に居続けるほうが不自然ですよね。だって、22歳の判断力もない時にたまたまのチャンスとか縁とかいろんな状況が重なって入っただけの会社じゃないですか?

西井:そうなると、「就職すること」が目的化してしまっている就職活動のあり方もこれから変わってくるべきなのかなとか。そういうルートを全否定するわけじゃないんですけど、古市さんは就活についてはどう捉えられてますか?

古市:ああいうみんなで一緒にっていう制度は、ちょっとできない人も救われるいい制度だとは思います。その時点でスキルや経験がない人も1年間就活すれば結構な割合でどこかの会社に入れてしまう。ある種、福祉的な制度だと思います。一方で、それにやっぱり限界が来ていることは、企業側も学生側も感じ始めているわけで。

西井:アメリカなんかはインターン制度があって、20代の間はフリーで会社を選べるっていうのがありますが、18、22で決めてしまうのではなくもうちょっと幅を持たせる仕組みはあってもいいのかも。ただこの門戸の広げ方が、アメリカのように20代っていうのがいいのか、もっとロングスパンで考えるべきなのか…。

古市:だから高校とか大学が今の時代に本当に意味があるのかあやしいと思うんです。日本の場合ほとんどの高校が普通科なわけですし。たいていの親って子どもの宿題を多分小5までくらいしか見られない気がするんですけど、これって言い換えれば、小6以上って知識としては必要ないということじゃないですか?

西井:確かに(笑)。たとえばドイツでは高校から専門科目に進んで、そこから大学も自ずと決まって…と最短距離でいく形ですけど、人生を早くに決めること、20代は何でもやっていいということは相反するとは思いつつ、結局のところどうなんでしょうね。

古市:今の日本は労働市場と教育機関がすっぱり分かれているけど、もっとその中間があってもいいと思うんですね。それこそITであるとかいくつかの技能って別に高校生であっても秀でることは可能なわけで、能力のある人は高校時代から電通が採用してもいいかもしれない。もちろん既存の就職活動のルートもあっていい。でもそうじゃないルートを増やした方が、社会にダイナミズムが生まれる気がします。

「格差は広がっても、自分は幸せと思う人が増えた方がいい」

西井:ご著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社、2011年)の中でも、今の若者のマインドを捉えて「不満はないけど、不安はある」と表現されてますけど、これからもっと先には、不安だけじゃなくて不満も増えてくる可能性もありますよね?

古市:あると思います。ただ、社会的な分断はこれからどんどん深刻になると思う一方で、中国とかを見ていると、意外と人間ってそんな高位な欲求が満たされなくても満足して暮らせちゃうんだなと思うことがあるんです。たとえばスマートフォンさえあって友だちとチャットができて、会話ができて、ゲームができれば…。

西井:なるほど。今の日本の状況でいくと、不安だけが増大していってバランスをとらなきゃって思いつつ、まあいっかって考えなくなってしまっている若い人がすごく多い気がするんです。イマジネーションが欠けてきているというか。

古市:昔はイマジネーションなんてなくても普通に人生送れたんですけど、今は必要ですよね。もしイマジネーションがないとするならば、多分それはさっきもしゃべったロールモデルがないことも一因で、身近にイマジネーションの種になるような人がいないからだと思うんです。だから高校とか週休4日にしたらいいのにって本当に思います、あとは自分で考えてって。

西井:あー(笑)。一方でゆとり教育みたいなことは、制度としてやったら歪みが出ちゃったみたいな事例として語られてしまってますけど…。

古市:でも、自由になるということは格差は広がるっていうことなんです。それぞれが多様に自分の豊かさを見つけられるような社会があるとすれば、格差は広がっても自分が豊かだ、幸せだと思える人が増えた方がいいと思うんですね。ゆとり教育ももともとはそういう発想だったはずで、すっかり世間では失敗扱いになってるけど実はまだどう結果が出るかは分からない。

西井:そうなんです。我々もいわゆるゆとり世代の子たちにヒアリングをする中で、何か彼らのコミュニケーション能力が上がっている気もしていて。それは指標にはなってないけど、社会に出ると認められるべき能力じゃないですか? たとえば新入社員で、打ち合わせのアイスブレイクにってお菓子を持ってくる子がいたりする。そういう小さな気遣いができる人間が増えてきているのは、「新日本」のあり方として良いのかなと感じています。

会社に君臨するオジサンたちとどう向き合うか

古市:むしろ問題は、オジサンの方ですね。それこそイマジネーションも何もなく、ただ社会の潮流に乗って偉くなってしまったオジサンたちをどうするか。こっちの方が大問題ですよ。

西井:オジサンって会社でいうとどれくらいの年代のイメージですか?

古市:大体40~50代ですかね。バブル期入社のあの辺りの人たちは、あくまで僕の実感としてですけど、なんか違うなっていう気がします。

西井:40代も今バブル世代が45近くまで引き上がりましたけど、確かにあの辺の人たちって特異だと思われがちですよね。そこと若者がよく対比される中で、でも実はオジサンたちも若者だったと。結局、生きてきた時代が違うんだっていう捉え方になりますか?

古市:ずっと同じ会社に勤め続けて、前時代の仕組みでのし上がって来た人たちが偉くなって権力を持ってしまったんだけど、今の時代に対応できていない。一つ前のパラダイムでは多分すごい仕事もできる人だったんだろうけど、今別にそれは求められていないっていう。そういうオジサン問題は、いろんなところで感じます。

西井:そういう、ある意味前時代的なオジサンたちと一緒にやっていくための術として、若者が身に着けておくといい武器ってありますか?

古市:やっぱり、決定権を持った偉いオジサンを説得する力じゃないですか? 感性として絶対これが正しいということを、オジサンが分かる言葉で説明してあげられるかどうか。

西井:同感ですね。衝突してお互い「話が分からない」というふうに見放すとかじゃなく、双方の共通言語を見つけてくことは必要ですよね。あとは、グラデーションになっている中間の世代が常に翻訳し続けるっていうことも…。

古市:この先、まだまだオジサンは残りますからね(笑)。もし説得がむずかしいなら、自分と話の合うオジサンを見つけるといい。自分の話を分かってくれて味方になってくれる偉いオジサンを見つける力。これも強い武器になると思います。

得意なことを無理せずに、がこれからの働き方

西井:これから若い人がポジティブに働いていこうとするとき、その前に何かアドバイスできるとしたら、どんなことがありますか? 18、22歳で働き始める人もあれば、今はもう高校生で起業してる子もいっぱいいるとは思うんですけど。

古市:何が言えるだろう…。やっぱり、自分が得意なことと不得意なことを分かった方がいい。それをトライ&エラーで、できるだけ早い段階で気づいた方がいいなっていうのは思います。

西井:それはそうですよね。やりたいこととやれることの差を理解せずに始めちゃうのはすごく不幸な出会いだと思う。

古市:この先40年会社が持つか分からない以上、そこにしがみつくよりも、いかに自分がいてストレスのない場所を探せるかっていう方が大事だと思うんです。

西井:最後に、古市さんにとって理想の働き方ってどういう形ですか?

古市:僕の今の働き方が理想…、あ、でも違うな(笑)。今の働き方自体はすごい楽しいと思ってるんです。でも、家とか本当に汚いし、ちゃんと決まった時間に起きて、運動して、三食食べてみたいないわゆる人間らしい生き方はできていない。だから幸せかって言われたら分かんないですけど、でも無理は多分してないんですよね。だから、一人でも多くの人が無理をしないで、自分に合った働き方ができる状態が多分一番理想的で、幸せなんじゃないかと思います。

 

【ワカモンプロフィール】

電通若者研究部(通称:ワカモン)は、高校生・大学生を中心にした若者のリアルな実態・マインドと 向き合い、彼らの“今”から、半歩先の未来を明るく活性化するヒントを探るプランニングチームです。彼らのインサイトからこれからの未来を予見し、若者と 社会がよりよい関係を築けるような新ビジネスを実現しています。現在プロジェクトメンバーは、東京本社・関西支社・中部支社に計14名所属しています。ワカモン Facebookページでも情報発信中(https://www.facebook.com/wakamon.dentsu)。

プロフィール

  • Furuichi 1
    古市 憲寿
    社会学者

    1985年東京都生まれ。東京大学大学院博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所訪問研究員(上席)。専攻は社会学。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)で注目される。大学院で若年起業家についての研究を進めるかたわら、マーケティングやIT戦略立案、執筆活動、メディア出演など、一見精力的に活動する。近著に『誰も戦争を教えてくれなかった』(講談社)。

  • Profile nishii 1
    西井 美保子
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター チーフプランナー

    人事、総務、店舗、オフィスなどの経営全般をアイデアで活性化する未来創造グループに所属し、数々の企業と協働プロジェクト多数。
    また、電通総研副主任研究員を兼任し、インサイトラボ「電通若者研究部(電通ワカモン)」「電通ギャルラボ」の立ち上げメンバーとして、主に10~20代の若年層を対象に消費心理・動向分析を研究。
    著書に、「パギャル消費~女子の7割が隠し持つ『ギャルマインド』研究~」(日経BP社)、「なぜ君たちは就活になるとみんな同じようなことばかりしゃべりだすのか。」(共著、宣伝会議)。

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