DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~ #05

『グロースハッカー』

  • Take 02 6559 hirota
    廣田 周作
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

グロースハッカーという言葉を知っていますか?
広告業界の人には聞き慣れない言葉かもしれません。
どうせまた、現れてはすぐに消えていく、
数あるバズワードのうちの一つでしょ?くらいに思われるかもしれません。

しかし、今、このグロースハッカーという新しい肩書を持った人たちが、既存のマーケティングの手法を根本から変えようとしているとことは、知っておいて損はないと思います。

グロースハッカーとは、英語で Growth+Hacker つまり、直訳すれば、「成長を促すハッカー」という意味になります。「ハッカー」というと、中にはセキュリティを突破するちょっと怖い人達のイメージを持っている人もいるかもしれませんが、本来の意味は、主にコンピュータや電気回路一般について常人より深い技術的知識を持ち、その知識を利用して技術的な課題をクリアする人々のことを指します(wikipedia)。悪い意味で使われているわけではないのです。(ちなみに、ライフハックという言葉も流行りましたが、これも、技術を上手に生活や仕事に取り入れて、生活の質を上げていく方法という意味で使われています)。グロースハッカーとは、「技術に長けた、ブランドの成長請負人」と言っていいかもしれません。

本書は、このグロースハッカーなる職種の人のことを「新世代のマーケティング担当幹部である」と評しています。既存のマーケティングチームは「淘汰される」とまで書かれています。これは、私たち「既存の」マーケターにとっては聞き捨てならない非常に強い表現です。実際、著者のライアン・ホリデイ(アメリカンアパレルのマーケティング責任者)自身が、グロースハッカーという存在に対して、衝撃を受けたと述べています。

 

「『グロースハッカー』という新しい職種は、シリコンバレーの文化と融合している。そして彼らの存在は、優秀なマーケターにとって、コーディング能力と技術的な知識が重要になってきていることを示している。グロースハッカーはマーケターとエンジニアのハイブリッドで、「うちの製品の顧客をどうやって獲得するか」という旧来の課題に、A/Bテスト、ランディングページ、バイラル係数、メール到達品質、オープングラフなどを駆使して答える。(中略)これまでのマーケティングチームは淘汰される。マーケティング担当幹部率いる非テクニカル系マーケターのチームに代わるグロースハッカーとは、エンジニアが率いるエンジニアのチームなのだ」

 

グロースハッカーたちは、広告業界で長らく使われてきた「マインドシェア」や「シェアオブボイス」といった指標にはほとんど目もくれません。ビッグデータによって可視化された膨大なユーザの情報を元に、メッセージやサービスの改善を繰り返すことで、顧客を増やすアプローチを徹底的に検証しながら最適な方法を突き詰めていくところに特徴があります。

したがって、彼らはコミュニケーションを広告ありきで考えません。

 

「製品の立ち上げに当たっては、これまでマーケターに期待されてきたような、無からでっちあげる派手なキャンペーンは必要ないのだ」

 

グロースハッカーは、サービスそれ自体に深くコミットして、サービスが自然に拡散性を持つようなアプローチを考えます。製品開発とマーケティングを同じプロセスの中で考え、相互作用させていくのが彼らのやり方です。

エバーノートや、ドロップボックス、インスタグラムといったサービスがほとんど広告を打たずにユーザ数を獲得してきたことを考えれば、その驚異の拡散性は理解出来るでしょう。

「グロースハッカーの目標は、製品自体を数百万人の顧客にリーチする自己永続マーケティングマシンにすること」と言います。

つまり、グロースハッカーとは、サービスデザインとマーケティングデザインの垣根を取っ払い、サービスそのものが提供する「ブランド経験」が、同時に、他の顧客への「コミュニケーション(マーケティング)」にもなるような仕組みを設計出来る人達のことなのです。クチコミが自然に発生するような仕掛けや、ユーザがユーザを連れてくるような仕組みを考えながら、効率を最大化するのが彼らの仕事です。

グロースハックを行うための具体的な手法や、事例などは、是非、本書を読んで頂ければと思うのですが、この本の中の主張で非常に大事なのは、「グロースハッカーになれるか? それはマインドセット=考え方を変えられるかどうかに尽きる」と述べられていることではないかと僕は思います。テクノロジーが苦手だからといって、グロースハッカーになれないわけではないのです。そもそも、サービスとプロモーションを分ける発想や、まずは、「広告ありき」でついつい考えてしまう発想をやめて、サービス自体が人を引き付けるにはどのような改善が必要か? どこに顧客がいて、何を欲しているのか? 本質的な発想に立ち返ることがまずは重要なのだと思います。(もちろん、技術を使いこなせることも重要なので、習得していく努力は必要なのですが)

マーケターとして、僕らもブランドやサービスの本質からまず考えられるように、マインドセットを変えていく(あるいは、忘れがちになっている重要なことを再度思いだす)ことが重要なんだと思い知らされる一冊です。

【電通モダンコミュニケーションラボ】

 

 

 

 

 

 

プロフィール

  • Take 02 6559 hirota
    廣田 周作
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

    2009年に電通入社。企業のソーシャルメディアの戦略的活用コンサルティングから、デジタル領域における戦略策定、キャンペーン実施、デジタルプロモーション企画、効果検証を担当。社内横断組織「電通ソーシャルメディアラボ」「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」などに所属。著書に『SHARED VISION』(宣伝会議)。

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