企業の未来のためにできること #06

【阿久津聡×朝岡崇史 対談】

これからのブランドマーケティング 

(第2回)

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    阿久津 聡
    一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授
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    朝岡 崇史
    株式会社電通デジタル エグゼクティブ・コンサルティング・ディレクター

第2回 顧客の自発的行動で生み出されるブランドのフローの価値

ウェブを使ったサーチ、情報のシェア、ブランドに対する期待の発信など、顧客の自発的な行動が生まれる背景。そこで形成されるブランドのフロー価値について。また、そうした自発的行動を利用し、企業が自社ブランドの拡大再生産のマーケティングサイクルを導くにはどうすればいいのか。

 

 

ストック価値とフロー価値。両方の接点に大きな意味がある

 

朝岡:前回に引き続き、ブランドマーケティングの変化についてお話を伺いたいと思いますが、今回は「顧客の自発的行動で生み出されるブランドのフロー価値」について議論を深めていきたいと思います。

阿久津:ブラント価値のストック/フローという概念は、以前からありました。顧客の心のなかに蓄積されているモノ、ブランドが培ってきた歴史、ひと言でいえばそうしたものがストック。今、どれだけ活性化しているかという、活動レベルのようなもので量れるのがフロー。身近なところでいうと、「口コミ」はフローに当たります。

朝岡:私の体験ですが、以前、ある外資系ブランドを担当していたとき、アメリカ本社との間で「ブランドモーメンタム」という言葉が飛び交っていました。そのブランドには熱烈なファンがいて、メーカーから頼まれたわけでもないのに、彼らは自分の体験を周りに語り、困っている顧客がいればカスタマーサポートのように助けていた。顧客の自発的行動に後押しされ、そのブランドはあっという間にシェアを伸ばしましたが、それが「ブランドモーメンタム」の意味するところでした。つまり、顧客が自発的に、他人に「推奨する」「伝える」という行動を起こし、それが購買につながっていったのです。現在はソーシャルメディアがあるので、顧客の「口コミ」は可視化・計量化でき、企業としてはフローの価値としてより積極的に活用できるかもしれません。

阿久津:そうした顧客の行動はフローの価値を生み出しますが、何が彼らを突き動かすのかといえば、それはストックの価値。以前は、モノや情報を得るためにサーチを行い、価値があると思ったものはシェアする、という流れがありましたが、今は「話題になっているけど、どうなっているの?」という、曖昧なサーチが増えています。サーチがサーチを呼び、「みんなは何をサーチしているの?」ということ自体が話題になる。「みんなで共有している情報」そのものをシェアするという意味で、SNSがこれだけ普及した現代社会においては、サーチやシェアの意味が以前とは変わってきているのは確かです。

朝岡:1回目のテーマでもあった「ブランド体験価値」で、顧客がブランドを体験したとき、それが非常に素晴らしく、ブランドとの関係性の中でストーリーをつくるというところまでいくと、「誰かに伝えたい」という強いモチベーションが働くのではないでしょうか。すると、ブランド体験、体験価値はストックの価値であると同時にフローの出入り口、ともいえます。

阿久津:ストックとフローの接点。とても大事な観点ですね。接点が分かれば、ストックをレバレッジしてフローをもっと生み出せる。逆に、今これだけあるフローをストックに変え、蓄積できれば、将来にわたって長く価値を享受できる。これは、今後のブランドマネジメントの重要な論点であり、顧客の動機、社会的なダイナミズムは何かという部分を含め、研究を深めなくてはいけないテーマだと思います。

朝岡:直観的に思いついたのですが、フローとストックが8の字のように回り、接点として交わるところにブランド体験があり、右がストックで左がフローと考える。あるいは同心円状に渦巻きを描き、中心がストック、その周りをフローという考え方もできますね。

阿久津:それは「スパイラルイン」と「スパイラルアウト」と捉えたらどうでしょうか。同心円を描きますが、中心から外に向かうスパイラルアウトが、ストックを活用しながらフローにもっていく活動。一方で、外から中心に向かうスパイラルインが、今ある素晴らしいフローをストックに転換する活動。そんなふうに説明すると、よりスッキリするように思います。新しいモデルができましたね。

「インとアウト」。ブランドマーケティングの新しいモデル

朝岡:両方向、いわゆるインとアウトの両方あるというのは、非常に参考になるご指摘です。そこには、顧客の自発的・内発的な行動が前提としてあるのでしょうか。

阿久津:内発的なものは確かにあるでしょうね。ただ、それをさらに呼び起こし、活性化し、横に広げ、複数の人が参加できるようにするのは、企業のマネジメント次第ではないかと思います。例えば、どこかのレストランへ行って、その経験をブログやSNSに上げるという行為も、実は単一の動機だけではありません。「良い経験をしたので、ぜひ他の人にも知ってもらいたい」という意味で書いている人もいれば、自分の経験を記録として残したり、追体験したりするために書いている人もいる。消費者行動の背景にどんな動機があるのかをきちんと分析すれば、それをどうやって促すことができるか、どう手助けすべきかということがよりよく見えてくるはずです。

朝岡:ブランドにはストックの価値、フローの価値があり、スパイラルインとスパイラルアウトの両方向で、ブランドの成長ストーリーを描くことが可能というのは分かりました。では、フローの価値を経済活動に結び付けるには、どんなマネジメントが必要なのか。経営に携わる人にとっては、それも大きな課題です。

阿久津:人が「モノ」に興味を持ち、「サーチ」し、購買経験を「シェア」する行為は、今後も続くでしょう。ただ、購買が関わらない「サーチ」や「シェア」もあります。赤ちゃんの「おむつ」を例に挙げてみましょう。企業のファンサイトで、自社のおむつの情報提供をしているだけでは、場の広がりは見込めません。そこで子育てサイトにしてみる。子育て全体の情報を提供すれば、いろんな人がそれを「サーチ」してくる。すると、「サーチ」で得た情報を実践したらうまくいったなど、「シェア」が始まる。これが購買とは直接は関係のない「サーチ」「シェア」といった「アクション」であり、最近ではこういう流れが実際の購買に結び付いたという事例も多数報告されています。

朝岡:フローの価値をマネジメントし、経済効果に結び付けようという動きは、戦術としては大いに「あり」だと思います。以前は、そのブランドが良いおむつをつくり、お客さまに利便性を提供するということがブランドのミッションなり、ビジョンであったとします。しかし、フローの価値をコントロールして自社を変えていこうと思った瞬間に、ブランドのビジョンやミッションも変わるということですよね。

阿久津:変わるというか、進化すると言った方が的確な表現かも知れません。また、顧客からのフィードバックをどんどんもらうようになると、いいモノをつくらざるを得なくなります。価格を抑えながら、顧客のニーズを最大限満たしていくという意味で、ベストを尽くすことになる。ある企業では、お客さまから商品のアイデアを募り、投票によって商品を開発しました。投票したことは、最終的には「オーダー」へとつながるわけです。予約注文を以って投票とすれば、得票数の一番多かったものを発売すれば通常売り上げはあがります。ある意味、絶対に失敗しないモデルです。もちろん、そうした仕組みを確立するには大変な試行錯誤やノウハウの蓄積が必要となるでしょう。しかし、一度モデルをつくれば、理論上は今までとは比べ物にならないくらい、失敗の少ないビジネスになる可能性が高いのです。

朝岡:それがスパイラルインという考え方ですね。また、購入する/しないをゴールにしないのであれば、スパイラルアウトの考え方で顧客の「ファン層」を増やすことはできます。そうすると、将来的に商品やサービスを買ってくれる潜在的な顧客層が増えていくという構造です。どちらも、ブランドマーケティングの有効な考え方になるのではないでしょうか。

 

次回最終回は2月12日更新予定です。

プロフィール

  • Akutsusatoshi1
    阿久津 聡
    一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授

    一橋大学商学部卒業、同大学院商学研究科修士課程修了。カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院にてMS(経営工学修士)とPh.D.(経営学博士)を取得。同校研究員、一橋大学商学部専任講師等を経て、現職。専門はマーケティング、消費者行動論、ブランド論の他、知識経営論、実験経済学、文化心理学。主な著書・訳書に、『ソーシャルエコノミー』(共著、翔泳社、2012)、『カテゴリー・イノベーション』(共訳書、日本経済新聞出版社、2011)、『ドラゴンフライエフェクト』(監訳書、翔泳社、2011)、『ブランド戦略シナリオ』(共著、ダイヤモンド社、2002)等がある。

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    朝岡 崇史
    株式会社電通デジタル エグゼクティブ・コンサルティング・ディレクター

    エクスペリエンス・デザインを専門とするコンサルタント。
    大学生時代は東大野球部で選手・主務として活躍。
    1985年、電通入社。クライアント企業の経営層と向き合い、電通らしい右脳型のアイデアを武器に事業やブランドのコンサルティングを提供するソリューション型サービスを実践。ブランドコンサルティングを行うコンサルティング室長を経て現職。日本マーケティング協会(JMA)のマーケティング・マスターコース・マイスター(2011年~)。
    著書に「拝啓 総理大臣殿 これが日本を元気にする処方箋です」(東洋経済新報社 共著 2008年)「エクスペリエンス・ドリブン・マーケティング」(ファーストプレス 2014年)、「IoT時代のエクスペリエンス・デザイン」(ファーストプレス 2016年)がある。

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