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「男性育休」の本当のところNo.1

法改正で、男性版産休も!
男性育休のこと、1600人に聞いてみた。

2022/03/25

2022年、改正「育児・介護休業法」の施行により、「男性版産休制度」の創設や、対象従業員への個別の周知・意向確認が義務化されるなど、男性がより育休を取得しやすい環境が整備されます。社会やステークホルダーからの関心も高く、すでに男性の育休取得推進に注力する企業も増えています。2022年はまさに、「男性育休ブレークイヤー」といっても過言ではありません。

電通パブリック・アカウント・センター「かぞくのみらいプロジェクト」では、男性育休が本人や家族、企業、社会に与える影響を探るべく、2021年に調査を実施しました。未就学児の子どもがいる男女1600人(育休取得経験男性500人を含む)にアンケート。その調査結果から見えてきた男性育休のさまざまなメリットについて、電通の伊藤奈々絵氏と「男コピーライター、育休をとる。」の著者である魚返洋平氏が語り合いました。

魚返氏、伊藤氏
魚返氏:会社員の妻 、4歳の娘と3人暮らし。2017年に約半年間の育休を取得した。電通パパラボ所属。
伊藤氏:共働き家庭。4歳の男の子と2歳の女の子の育児中。
<目次>
育休ゲートをくぐることで、その先の道が変わる!?
育休で得られる「幸せ」って、要するになんなのか?
男性の育休推進は、企業にとってもチャンスになる


 

育休ゲートをくぐることで、その先の道が変わる!?

伊藤:はじめに、「かぞくのみらいプロジェクト」の調査から見えてきた男性育休のメリットを紹介します。調査結果では、男性育休取得経験者の91%が「育休を取得してよかった」と回答しています。そして、具体的にどのような変化があったのかを聞いてみると、「子どもへの愛情が高まった」「父親としての意識が強まった」「妻との関係性が良くなった」などの項目をはじめとした、家族への良い変化に関する回答がいずれも高い数値を示しています。

それに加え、仕事への意欲が高まったり、地域コミュニティとのつながりができたという回答も一定数ありました。さらに、45.5%の人が「子どもがもう一人欲しくなった」と答えており、育休促進は少子化対策にも効果があるのかも?と感じました。実際に育休を取得された魚返さんはこの調査結果についてどう感じますか?

育児休業を取得したことによる変化

魚返:どの回答にもすごく共感できますね。メリットはいろいろありますが、僕は育休期間に夫婦で「共通言語」を作れることがとても大切だと思うんです。子どもが生まれて間もない頃にパートナーと一緒に体験したこととか、同じ景色を一緒に見た記憶って、その先も夫婦のコミュニケーションの基盤になるような気がしていて。子どもが生まれて家族のカタチが劇的に変化したら、それまでと違う共通言語を改めて手に入れる必要があるんじゃないかと。

伊藤:なるほど、育休期間中だけの話ではなく、長期的に家族の絆を育むことにつながるわけですね。

魚返:育休は目的でもゴールでもなく、あくまでも家族が幸せになるための手段の一つですからね。ただ、育休というゲートをくぐるかくぐらないかで、その先の道が変わり得るというぐらい、その人自身の価値観や家族のあり方に大きな変化をもたらすものだと思います。

伊藤:価値観の変化は大きいですよね。調査結果でも、家族との関係性はもちろん、「ワークライフバランスについて深く考えるようになった」など仕事に対する向き合い方が変わった人も少なくありません。

魚返:単純に「前よりも会社が好きになった」ということもありますね。育児に集中することを前向きに捉えてくれる人が会社にいるんだ、ということが分かって。

あと、「地域の行事への参加が増えた」、これは僕も本当にそうで、育休中に自分の住んでいる町やコミュニティに接する機会が劇的に増えて、地元のNPO法人の方々や区の職員の知り合いもできました。育休の後も保育園の送り迎えを毎日しているうちに、保護者の方々とも仲良くなれたり。僕は“町友”と呼んでいるんですが、自分が住んでいる町にゆるやかなつながりがどんどん増えてくるんです。それは僕の場合、ずっと仕事だけをしていた頃には接することのできなかった「社会」で、育児を通してようやくそこに参加できた実感があります。

伊藤:先日、小児精神科医の先生にヒアリングを行ったところ、男性育休のメリットの一つに「アイデンティティの分散」が挙げられていました。つまり、これまでは職場にしか所属コミュニティがなかった男性が、子育てを通じて地域社会とのつながりが持てるようになると。まさに魚返さんがおっしゃったことですよね。

育休で得られる「幸せ」って、要するになんなのか? 

伊藤:続いて、男性育休がもたらす家族の幸福度と絆形成に関する調査結果を紹介します。現在の幸福度について、「とても幸せだと思う」と回答した割合が、一般の子持ち男性が16.0%なのに対し、育休取得男性は20.2%でした。また、幸福の構成要素をブレークダウンした質問でも、育休取得男性や夫が育休を取得した女性は全項目において高い結果が出ています。特に大きな差が出たのが、「誰かに援助を与えることがある」「誰かからの援助を受けることがある」という項目でした。この結果について、魚返さんの実感値はどうですか?

魚返:幸福って個人的な感覚で、育休を取得した人とそうでない人という「別人格」を単純に比較しても、本当の意味ではよく分からないというのが正直なところです。ただ、伊藤さんがおっしゃったように、頼れる人が増えたことや、他人に対して優しくなれたことなんかは、育休後の実感としてあります。

伊藤:そうですね。私も子どもが生まれて仕事に制約が出るようになったことで、みんなそれぞれ事情を抱えて仕事をしているんだということを改めて認識しました。子育てだけではなくて、例えば介護や通院などをされている方もいると思うので、そういう同僚に対しても配慮できるようになりたいですね。

魚返:全く同じ立場でなくても、類推できるようになりますよね。「もしかして、こういうことで困っているのかな?」と少し想像できるだけでも人との接し方はだいぶ変わる。もちろん、育児でしか得られない経験ではないと思いますが、育児がきっかけの一つになり得ることは間違いありません。

伊藤:続いて、家族の絆形成について。調査では「自分と子どもの関係が良い」「子どもから悩みを相談されている」「子どもからよく頼られている」「子どもから尊敬されている」と答えた割合が、いずれも育児休業を取った男性のほうが高い数値を示しました。

家族との絆形成

魚返:これは完全に同意ですね。育児に専念する機会を通して子どもに対する愛情が深まるだけでなく、むしろ自分のほうが子どもからの無償の愛を感じてしまって胸がいっぱいになることがあります(笑)。

伊藤:父と子の関係がより深くなるということでしょうね。

魚返:僕は自分の実家に子どもと二人で1、2泊する“父子帰省”をしています。その間、妻は一人で自由に過ごせるし、僕の親が子どもの面倒を見てくれる間は僕自身もラクになるので、メリットだらけなんです。でもこれが成立するのも、父と子だけで過ごすことに慣れているという関係性があるからだと思います。

伊藤:魚返さんの家庭は、「お父さんだから」「お母さんだから」という性別による役割分担があまりなさそうですね。

魚返:ゼロではないと思いますが、わりとそうかもしれません。出産すること、母乳を与えること、この二つだけが生物学的に母親にしかできないことで、それ以外は性別に支配されるものは何もないのだと、育休期間中にすごく感じました。社会的な性差、つまりジェンダーの影響であたかも生物学的な性差であるかのように誤解していたことがたくさんあったんだなと。

そういえば、保育園の提出書類で保護者の第一連絡先に僕の名前を載せていたのに、最初に妻に電話がかかってきてしまうこともありました。それって、いわゆるアンコンシャスバイアスが働いているのかもしれない。そういう一つ一つの小さな思い込みが、男性育休の普及とともに変わっていくといいなと思います。

男性の育休推進は、企業にとってもチャンスになる

伊藤:最後に視点を変えて、男性育休を推進する企業側のメリットを議論したいと思います。調査結果で興味深かったのが、育休取得者が所属する企業はフレックス制度や副業、ダイバーシティなど、育休以外にも新しい取り組みを推進する傾向にあるということ。もしかすると、育休推進が企業文化の刷新というか、企業の活性化につながる可能性があるのではないかと感じたのですが、そのあたりはいかがでしょうか?

男性育休 企業の特徴

魚返:このデータは、育休推進の影響でこうなったというより、そもそもこういうカルチャーの組織だから育休を取りやすいんじゃないか。そこはまあ、ニワトリとタマゴだと思いますが……。でもすべてに共通しているのは「柔軟性」だと思いますね。予測不可能な時代に企業が生き残っていくためには、鋼のような強さではなく、竹のようなしなやかさが必要だといわれています。何かが起きた時に柔軟に対応できる企業文化を育む上で、育児休業の推進は有効な戦略の一つだと思います。

例えば、育児休業で社員が抜けると残ったメンバーでその穴を埋めることになりますが、それは介護や病気による休暇でも同じことが起きますし、実際にコロナ禍で社員が突然抜けるという経験をした企業も少なくありません。組織に変化が生じた時も問題なく運営できることは、企業の強みになると思うんです。

伊藤:社内で育休を取得した男性の上司に話を伺った時、「後輩たちが成長するチャンス」と前向きに捉えたことで、後輩たちもその期待に応えようと頑張って乗り越えることができたとおっしゃっていました。そのような文化が根付いている組織は強いですよね。

もう少し視点を変えると、調査でも、20代の取得意向は高い傾向がみられましたが、Z世代をはじめとする若い世代は育休取得に対する意識が高いといわれています。来年には大企業の育児休業取得状況の公表が義務化されますし、実際に取得できるかどうかは、若者が企業を選択する時の重要な指標の一つになると思うんです。

魚返:そう思います。企業の採用ページで女性が出産・育児をしながら活躍できる環境をアピールする傾向がありますが、これから良い人材を集めるためには、男性も育児をしながら活躍できる環境を整備し、打ち出していく必要があります。本当に女性の社会進出を目指しているなら、まず男性の家庭進出を促進するべきだし、そのことを企業側が理解しているかどうかだけでも、だいぶ印象が違いますよね。

伊藤:確かにそうですね。企業は何に取り組めば変わっていけるのでしょうか?

魚返:その答えをひと言で示せると話は早いのですが、業種や企業ごとに環境も抱えている課題も異なるので、個別最適化が必要です。

例えば電通パパラボはいま、パタニティ・トランスフォーメーション、略して「PX」という取り組みを提唱しています。男性の育休をきっかけにして、戦略的に組織を強くしていこうというものです。その組織特有の課題を一緒にさぐることから始めて、具体的なアクションプランを提案したり、実施したり。持続可能な組織づくりまでワンストップでパパラボがお手伝いできたらと。

いろんな人の話を聞く中で、やはり組織ごとにボトルネックとなっているポイントはさまざまだと実感するので、われわれも企業の皆さんと対話して勉強しながら、より良い解決策を見つけていきたいと思っています。

伊藤:育休を、とらなきゃいけない・とらせなきゃいけないものと捉えるのではなく、個人にとっても企業や組織にとってもメリットがある制度として広げていけるといいですね。

パタニティ・トランスフォーメーション(PX)についてはこちら
https://www.d-sol.jp/solutions/paternity-transformation 
 
【調査概要】
調査対象:
■スクリーニング調査:全国20~49歳 一般男女個人
■本調査:
①一般:男女個人既婚子あり (子ども年齢は1歳~小学校入学前)
②育休を取った男性(育休を取った子ども年齢は1歳~小学校入学前)
③パートナーが育休を取った女性(育休を取った子ども年齢は1歳~小学校入学前)
サンプル数:
■スクリーニング回収数:90,000サンプル ⇒ 人口構成比抽出:「10,000人調査」として分析
■本調査回収数:1,600サンプル
調査手法:インターネット調査
実査期間:
■スクリーニング:2021年11月24日(水) ~ 2021年11月26日(金)
■本調査:2021年11月26日(金) ~ 2021年11月29日(月)
 
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