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「人生100年時代」の可能性を拓くシニアの“兆し”No.3

“手と心”を動かすものづくりで、シニアと社会のつながり支援

2023/11/29

シニアの意識や意向を定量・定性調査で探り、その結果から見えてきたリアルなニーズやトレンド、今後のビジネスの可能性について、電通でシニアを研究する古賀珠実氏が紹介する本連載。

電通が実施した「シニアの兆し調査」(調査概要はこちら)によるとシニアが今一番関心を持っているのは“脳の健康”に対する対策です。

今回は、それにもかかわらず、十分な対策ができていないこのテーマについて、電通とオールアバウトライフワークスが進めている「テココロ」プロジェクトを紹介します。

オールアバウトライフワークスとは
「好きを仕事に」を企業理念として、手芸やフラワーなど「ものづくり」の講師育成を行い、認定された講師が地域に根差して学ぶ楽しさを提供する事業を推進する企業です。数年前からものづくりを通して認知症の方との共生、認知機能への介入、認知症の予防を実現する生涯学習プログラムの構築を目指し、東京都健康長寿医療センターと共同で実証研究を実施しています。

https://corp.allabout.co.jp/corporate/press/2022/230130_01.html
https://about.allabout.co.jp/hito/leaders/220311_01

増える認知症・高まる対策ニーズ

厚生労働省の推計によると、2025年には認知症有病者数が約700万人まで増加する見込みで、認知症の予防および、認知症の方との共生は社会課題となっています。

2022年7月に実施した「シニアの兆し調査」では、「関心があり行いたいこと」という質問に対して、60~70代の81.3%「認知症にならないように脳の健康を保つこと」を選択し、これから行いたい17項目のうち第1位となりました。ここから、高齢者自身の対策ニーズも大きいことがわかります。

一方で、その対策として何をすればよいかと考えると、食事や運動など以外、知的活動など認知的なアプローチでは、効果的なエビデンスを持つソリューションは少ないのが現状です。同調査の「いま対策を行っていること」という質問でも「脳の健康を保つために取り組みを行っている」と回答した人は54.9%にとどまります。

これからさらに高齢者人口が増え、生活者の身近に認知症を発症する人が増加することを考えると、対策ニーズはますます高まることが予想されます。

シニアの兆し#3_図表01
シニアの「これから行いたいこと」「行っていること」比較

「ものづくり」が認知機能に寄与する5つのポイント

こうした状況の中、認知症対策としての「ものづくり」の効果検証に取り組む企業が現れています。

これまでも手芸は指先を使うので脳にいい、などといわれていましたが、明確なエビデンスはありませんでした。長年ものづくりの講師育成を事業としてきたオールアバウトライフワークス代表取締役副社長の三宅学氏によると、東京都健康長寿医療センターと共同で行ってきた実証研究では、次のような効果が検証されたといいます。
                     
【MCI(軽度認知障害)・認知症対応型趣味講座】

  • 検証方法:隔週1回3カ月 計6回の趣味講座への参加
  • 対象:MCIもしくは軽度認知症の男女44人
  • 実証成果:自己効力感(失敗に対する不安)の軽減において有意な差が見られ、本人のQOL維持によい影響を与えている。

【認知機能低下抑制効果検証】

  • 検証方法:週1回3カ月 計12回の趣味講座への参加
  • 対象:健康な65歳以上の男女49人
  • 実証成果:認知機能への寄与(TMT-B※1実行機能への介入効果)
         QOL向上への寄与
シニアの兆し#3_図表02
東京都健康長寿医療センターと行った「MCI(軽度認知障害)・認知症対応型趣味講座」の様子
※1 = TMT-B:トレイル・メイキング・テストPart Bは、神経認知機能を測定する検査です。数字とひらがなを交互に線でつなぐ時間を測定します。
 

これらの実証成果をみると、ものづくりには次のような5つの特長があるといいます。

  1. 【脳動】適度な作業負荷と新しい学習による満足感
    手指と目を適度に動かし、手順を考えながら作業すること。また、新しいことを学ぶことで「できた!」感がもたらす満足感を得られること。
  2. 【承認】作る時間の楽しさと承認される喜び
    作ることに没頭でき、講師や仲間と会話を楽しみ、認め合えること。
  3. 【賞賛】作った後の楽しみ
    作品を飾ったり、プレゼントしたり、家族から賞賛されるなど後々まで楽しめること。
  4. 【達成】多様性への対応による達成感
    健康状態や経験値などに合った難易度の教材を選ぶことで、誰でも達成感を得られること。
  5. 【仲間】好きでつながるコミュニティ
    趣味の合う仲間ができ会話する楽しみな予定、出掛ける場所ができることが生きがいになること。

予防と共生社会の実現に向けて
 


ものづくりで社会とのつながり支援「テココロ」プロジェクト始動

2023年8月に電通はオールアバウトライフワークスと協業し、手と心を動かし、ものづくりで社会とのつながりを支援する「テココロ」プロジェクトを開始しました。

社会的つながりの乏しさと認知症の発症数との関係を示唆する研究がされ始め、電通が行った別の調査でも、社会参加に後ろ向きになることが引き金となって、体力や気力の低下・孤独感を募らせるネガティブ・スパイラルに陥ることが分かってきています。

「テココロ」プロジェクトでは、「ものづくり」の楽しみを通じて社会とのつながりを保つことで、シニアの方々に楽しみながら社会での役割・やりがいを見いだしてもらうことを目的としています。

シニアの兆し#3_図表03
「テココロ」プロジェクト ロゴマーク

プロジェクトの核となる「テココロ」プログラムには次のような特長があります。

  1. エビデンスに基づき開発したキット
    使用する「ものづくり」キットは、前述の実証研究に参画した認知症専門の作業療法士を含む審議委員会を通して作業工数や難易度を点数化、個々に合ったキットを使用し、継続しても飽きない工夫がされています。
  2. ニーズに合わせて開発可能なプログラム
    脳の健康維持、MCI高齢者のアクティビティ、ひきこもり対策など、目的やサービスを提供したいお客さまの特性に合わせて、キットの選定やプログラムを設計できます。
  3. 認知症の方への対応含めたスキルを有する講師
    健常な高齢者はもちろん、MCIや認知症の方への対応スキルを有する講師を「ものづくりアカンパニスト」として育成し、紹介しています。アカンパニストとは「伴走者」という意味で、教え学ぶという関係ではなく、横で支え、共に時間を楽しむスペシャリストでありたい、という願いをこめた名称です。また、開催する企業・施設、地域の方が講師として参加していただけるように支援することもできます。
シニアの兆し#3_図表04
「テココロ」プログラムを活用した講座の様子

「テココロ」プロジェクトで認知症予防と、認知症の方との共生社会の実現を目指す活動を開始

「テココロ」プロジェクトでは、今後、ものづくりを通して高齢者の社会とのつながり支援、認知症予防と認知症の方との共生に取り組む皆さまと連携しながら、以下の活動を通して社会に貢献していきたいと考えています。

  1. 病院や介護事業所の皆さまとの連携
    健常高齢者も軽度認知症高齢者も共に参加できるものづくり講座の開催をきっかけとして、楽しみ集う場づくりに協力
  2. 地域コミュニティを運営する皆さまとの連携
    ものづくり講座の開催をきっかけとして、ひきこもり対策や認知症共生活動を支援
  3. 生涯学習を提供する皆さまとの連携
    趣味・学びを提供する場での、健常高齢者からMCI高齢者への生涯学習サービス拡張を支援

図表5は、病院・介護事業所等との連携案で検討している「早期発見」モデルです。このモデルでは、元気なうちから趣味講座を定期的に楽しみ、脳の元気チェックを任意で行うことで、認知症の早期発見につなげ、発症リスクを低減させることを目指します。

シニアの兆し#3_図版05

図表6は、地域密着コミュニティでの展開・活動支援モデルです。ここでは下記の2点を目指した取り組みを目指します。

  • ものづくりコミュニティでの活動量アップやメンタルヘルスケアへの寄与
  • MCIや認知症高齢者の就労支援や、地域でのエコシステム構築
シニアラボ#3_図版06

現在、東京都健康長寿医療センターを中核として、地方自治体等と協働しながらPoC(Proof of Concept=概念実証)を始めています。
具体的な取り組みの内容につきましては、下記までお気軽にお問合せください。

【問い合わせ先】
電通:senior-lab@dentsu.co.jp 担当:小磯・古賀
 
【調査概要】
「シニアの兆し調査2022」
対象者とサンプル数:全国60~70代男女 スクリーニング9,825ss、本調査800ss
対象条件:スマホ・パソコン・タブレットのいずれかを所有し毎日1回以上使用する人
調査手法:インターネット調査
調査時期:2022年7月
調査実施管理:電通
 

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