対談「2013年 日本の広告費」を読み解く

上智大・音好宏教授×電通総研・奥律哉研究主席

  • Oto yoshihiro profile
    音 好宏
    上智大文学部 新聞学科教授
  • 奥 律哉
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーションラボ統括責任者

  先頃、公表された「2013年 日本の広告費」。
今回、集計された数字からはどんな意味と課題が読み解けるのか。
そしてこれからの企業戦略、コミュニケーションビジネスに与える示唆とは何か。
取りまとめを担当した電通総研の 奥 律哉 氏と、
メディア論・情報社会論が専門の上智大教授・音 好宏 氏が語り合った。
 
   
 
 

■ アベノミクスへの期待感が数字に如実に表れた

まず、広告費全体のですが、2013年で5兆9762億円、前年比101.4%。リーマンショック以降マイナス傾向だったのが、12年、13年と2年連続の前年比増で少し回復基調になってきたという印象です。

 

アベノミクスへの期待感が広告費の数字にも表れています。それと、消費税増税前の駆け込み需要を想定しての広告出稿量の増加ですね。地上デジタル放送の開始でテレビ受像機が売れましたが、それから10年、その買い替え需要のサイクルとも重なったのではないかと思います。テレビ以外の耐久消費財でも購買意欲の高まりが見られ、今後の広告費増につながりそうです。

 

では、媒体ごとにご意見を伺いたいのですが、まずマス4媒体。全体で2兆7825億円、前年比100.1%でした。内訳でいうと、新聞が6170億円で同98.8%、雑誌が2499億円で同98.0%、ラジオが1243億円で同99.8%、そしてテレビが1兆7913億円で同100.9%。この数字の背後にある着目点や、音先生の実感のようなものがありましたら、お聞かせください。

 

新聞は、通年では前年を少し下回りましたが、年の後半は持ち直してきていますね。地方紙を含め、各社ともラッピングや号外に広告を入れるなど多様な取り組みをして、その創意工夫が奏功している印象を受けます。中央紙は電子版にも力を入れていますが、広告メディアとしては入り口に立ったあたりでしょうか。ただ、学生たちを見ていると、就活を控えて、紙ではなく電子版を購読する層も増えています。そういったデジタルネイティブの増加を念頭に、今後どう展開していくかですね。

 

雑誌も前年比をわずかに下回りましたが、ビジネス誌の健闘が目立ちました。

 

ビジネス誌はやはり、アベノミクス効果が大きいのではないかと思います。それと、経済問題に限らず多様なテーマを取り上げて、関心層の幅を広げています。

 

ラジオは首都圏ではほぼ横ばいですが、ローカル局では回復の兆しが出ています。

 

ラジオは厳しいといわれて久しいのですが、その中で、複数のスポンサーとコラボをして番組づくりをするなど、各局ともさまざまなトライアルをしています。首都圏より地方の方がむしろ積極的ですね。

 

注目されているのが、ネットでラジオを聴ける「ラジコ(radiko.jp)」。現在69局が参加しています。

 

ラジオが新しいフェーズに来たという印象です。多チャンネルを進めるなど、リスナーのセグメントが進めば、広告主を開拓しやすい時代に入ってきたといえます。

 

テレビは年の後半になって、伸びが加速しました。特にスポット広告の調子が良かった。

 

景況感と一番連動するテレビ広告の特性が出ていますね。ただ、景気が良くなったと喜ぶのではなく、次のコミュニケーション設計にどうつなげていくかが大きな課題だと思います。
 

■ メディアプランニングの力が問われる時代に

テレビ関連では衛星メディアが1110億円で前年比109.6%。相変わらず大きな伸びを示しています。

 

BSは番組の特色が定着してきて、そのグレード感が反映しているのだと思います。ただ最近、普及率の伸びが鈍化しているので、これからが正念場。視聴率調査も含めて、地上波とは異なる媒体価値をどう打ち出していくかでしょう。

 

BSに関しては、来春から接触率調査を機械化する予定が発表されました。問題は、それをどうビジネスの拡大やサービスの向上につなげていくか。うまくかじ取りをしていけば、さらに伸びていく可能性は十分にあると思います。

 

CSにも共通する課題ですが、データ整備が必要です。スタンダードなデータが出ること自体が、広告媒体価値を高めていくことにつながるはずです。

 

インターネット広告費は、一時の伸びはなくなったとはいえ、それでも前年比108.1%、9381億円。中でも、検索連動広告に代表される運用型広告の伸びが注目されます。

 

その運用型広告が典型例ですが、今、日本の広告は、メディア同士の連携が重要になってきています。つまり、メディアプランニングの力が問われる。今の若者が私たちの世代と違うのは、メディアを通じての共感性が、テレビやラジオからネットメディアに移っていることです。その共感性を、マス4媒体にもうまくつなげるモデルができれば、広告媒体の価値もより強化されます。

 

プロモーションメディアも前年超えで、2兆1446億円。2年連続の増加です。特に良かったのは、屋外広告、交通広告、POP、展示といった分野でした。

 

交通広告や屋外広告は、デジタルサイネージの普及で成熟してきましたね。以前、地方出張の際に、地元の人から「山手線の車内ビジョンはすごい」と言われて、「あ、そうか。あれは大都市の風景の象徴なんだ」と再認識したことがあります。

 

若い人たちにグループインタビューをしてみると、思っている以上に中吊りなどの車内広告を見ているんですね。車内ビジョンもその一つですが、ことに新しいメディアなので、非常に引きが強いのではないかと思います。
 

■ マス媒体とネットメディアの連携がますます重要

さて、14年以降の展望をお伺いしたいのですが、無視できないのがスマートデバイスの急速な普及です。首都圏の調査では、20歳代前半のスマートフォンの所有率は、一昨年の60%台から一気に80%超えになっています。一方、従来型携帯電話の所有率は反比例するように減ってきています。このメディアシフトが進む中で、先ほど音先生がおっしゃったように、マス4媒体とネットメディアとの連携もますます重要になってくると思うのですが。

 

従来はパソコン用とケータイ用の広告ぐらいしかなかったのが、デバイスの多様化で、広告主もコミュニケーション戦略を再構築せざるを得ない状況ですね。一方、メディア側にも、一気通貫で広告を展開できる体制づくりの動きがある。メディア同士の連携や、資本統合も視野に入れたような動きですね。

 

メディア側は、同一コンテンツでも複数の情報ルートから出さなきゃいけない時代になってきました。またスポンサー側も、ユーザー側の変化を見て広告の出し方や組み合わせ方を考えていく必要がある。景気回復の兆候が見えている今こそ、さまざまな工夫やトライアルをするチャンスなのかもしれません。

 

総務省で今、スマートテレビ時代の字幕の在り方を検討していますが、一部の大手広告主ではすでに字幕入りCMをつくっています。それを実践している消費財メーカーの担当者に聞くと、非常に危機感を持っている。「新しいことをやらないと生き残れない」とまで言っています。あるいは、日本国内のコミュニケーションが海外でどれだけ通用するのかといったことも、トライアルして実証を積み重ねるしかありません。今こそ、恐れずに前に進んでいくべき時期だと思います。

 

新しいトライアルをやっている企業は非常に積極的なのですが、意外とユーザーが知らなかったりする。そのギャップを埋めていくことで、次のメディアやサービスが育つ空気が生まれてくるのかなと思います。

 

景気の本質は「気」だと思うんですね。一番分かりやすい例でいうと、もう10年以上も前から日本より中国の方が経済力があるような印象がありました。しかし、GDPで抜かれたのはつい近年の話じゃないですか。それは何かというと、ベクトルがどっちを向いているかという話ですよね。つまり、ベクトルが上向きになっていることで、未来への期待感も見えてくる。今回の「日本の広告費」の数字は、その期待感を抱かせるものです。昨年に比べて何%とつぶさに見ていく意味や面白さも、そこにあるわけです。

 

貴重なお話、ありがとうございました。


プロフィール

  • Oto yoshihiro profile
    音 好宏
    上智大文学部 新聞学科教授

    上智大大学院博士課程修了後、1990年から日本民間放送連盟研究所勤務。上智大助教授、コロンビア大客員研究員などを経て、2007年から現職。専門はメディア論、情報社会論。著書に『放送メディアの現代的展開』(ニューメディア)など。地上デジタル放送の移行時には、共聴施設デジタル化推進会議の座長を務めた。

  • 奥 律哉
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーションラボ統括責任者

    1982年電通入社。主に情報通信分野について、ビジネス・オーディエンス・テクノロジー視点から研究開発を行う。著書に『ネオ・デジタルネイティブの誕生~日本独自の進化を遂げるネット世代~』(共著、ダイヤモンド社)、『情報メディア白書2016』(共著、同)などがある。

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